Japanese News: 亡き母の思い胸にW杯へラグビー日本代表李承信と家族の物語

ラグビー日本にっぽん代表だいひょうの李り承うけたまわ信しん選手せんしゅは、小学しょうがく6年生ねんせいのときに母ははをがんで亡なくした。ラグビーをしているとき、いつもそばで見守みまもってくれる母ははだった。

「『ワールドカップに出でてほしい』って、ずっと言いわれていました。だから、お母おかあさんのためにも出でたい思おもいが強つよいですね」

9月つきに開幕かいまくするワールドカップフランス大会たいかい。大だい舞台ぶたいを目指めざす日本にっぽん代表だいひょうの若わかき司令しれい塔とうと、その家族かぞくの物語ものがたりです。

（スポーツニュース部ぶ記者きしゃ小林こばやし達いたる記き）

【放送ほうそう予定よていはこちら】スポーツ×ヒューマン「ラグビー日本にっぽん代表だいひょう李り承うけたまわ信しん」

初回しょかい放送ほうそう日び: BS1 2023年ねん6月つき5日にち午後ごご9時じ～

ラグビーの熱狂ねっきょうが再ふたたびやってくる！秋あきに開催かいさいされるワールドカップフランス大会たいかい、日本にっぽんの新あらたな司令しれい塔とうとして活躍かつやくが期待きたいされる在日ざいにちコリアンの李り承うけたまわ信しん。道みちなき道みちに挑いどむ若武者わかむしゃの激闘げきとうの姿すがたを追おった。

がんと闘たたかった母はは

在日ざいにちコリアン3世せいの李り選手せんしゅは、3人にん兄弟きょうだいの末っ子すえっことして生うまれた。

父ちちや兄あに2人にんの影響えいきょうで4歳さいからラグビーを始はじめ、だ円だえんのボールを夢中むちゅうで追おいかけながらすくすく育そだった。

しかし、小学しょうがく6年生ねんせいのある日ひ。李り選手せんしゅたち兄弟きょうだいは父ちちに呼よばれた。

そこで告つげられた。

「オモニ（母はは）は、もうあと少すこしかもしれない」

闘病とうびょう中ちゅうだった母ははの容体ようだいが思おもわしくなかった。

李り選手せんしゅの母はは・永福えいふくさんは乳にゅうがんだった。

乳にゅうがんの中なかでも進行しんこうがはやい「炎症えんしょう性せい乳にゅうがん」。数すう年ねん前まえから入退院にゅうたいいんを繰り返くりかえし、闘病とうびょう生活せいかつを送おくっていた。

そばで見守みまもっていた李り選手せんしゅの父ちち・東あずま慶けいさんが当時とうじを振り返ふりかえる。

（李り選手せんしゅの父ちち・東あずま慶けいさん）

「手術しゅじゅつして再発さいはつして、余命よめい1年ねんと言いわれましてね。そこから東京とうきょうや京都きょうとなど、いろいろ有名ゆうめいな先生せんせいのところに行いきました。でもやっぱり、どの先生せんせいもあと1年ねんだと言いっていました。なかなか薬くすりも効きかず、本人ほんにんは本当ほんとうにつらい思おもいをしたなと思おもいます」

父ちち・東あずま慶けいさんは、闘病とうびょう中ちゅうの永福えいふくさんのことばが忘わすれられないという。

（母はは・永福えいふくさん）

「承うけたまわ信しんが高校こうこうを卒業そつぎょうするまでは生いきたいな」

しかし、その願ねがいはかなわなかった。

李り選手せんしゅが小学しょうがく6年生ねんせいのとき、母ははは44歳さいの若わかさでこの世このよを去さった。

（李り承うけたまわ信しん選手せんしゅ）

「入退院にゅうたいいんを繰り返くりかえしていて、病気びょうきだというのは子こどもながらに理解りかいしていましたが、亡なくなった当初とうしょは、あまり信しんじられなかったというか実感じっかんがなかったですね。死しなないだろうと思おもっていたので」

“ワールドカップに出でてほしい”母ははの願ねがい

李り選手せんしゅのラグビーを誰だれよりも応援おうえんしていたのが母ははだった。

ラグビークラブのマネージャーの経験けいけんもあるラグビー通どおり。息子むすこのプレーをときに厳きびしく、温あたたかく見守みまもってきた。

（李り承うけたまわ信しん選手せんしゅ）

「ラグビーをしているとき、常つねにそばにいてくれたのが、お母おかあさんでした。自分じぶんはけっこう調子ちょうしに乗のるタイプだったんですけど、その鼻はなを折おってくれるというか『常つねに謙虚けんきょに』と教おしえてくれたのは、お母おかあさんでした。お父おとうさんじゃなくて、お母おかあさんからよく『練習れんしゅうしなさい』と言いわれましたね」

生前せいぜん、母ははは、李り選手せんしゅが小学生しょうがくせいのころからワールドカップで活躍かつやくする姿すがたを思い描おもいえがいていたという。

そんな母ははとの思い出おもいでを話はなしてくれた。

（母はは・永福えいふくさん）

「2019年ねんのワールドカップに絶対ぜったい出でてな」

（李り承うけたまわ信しん選手せんしゅ）

「それは、まだ無理むりやろ」

2019年ねんのワールドカップ日本にっぽん大会たいかい。

出でようとすれば李り選手せんしゅは、まだ18歳さい。

日本にっぽんのトップ選手せんしゅに交まじって代表だいひょう入いりするのは現実げんじつ的てきではなかった。

それでも母ははは、繰り返くりかえし、わが子わがこに思おもいを伝つたえていた。

（李り承うけたまわ信しん選手せんしゅ）

「ワールドカップは憧あこがれではあったんですけど、正直しょうじき、現実げんじつ的てきに行いけるとは思おもっていませんでした。でも、お母おかあさんは、それを信しんじて願ねがってくれていました」

母ははが言いっていた2019年ねん大会たいかいの出場しゅつじょうはかなわなかった。

それでも4年ねん後ごの今いま、手てが届とどくところに憧あこがれのワールドカップがある。

どん底どんぞこの入院にゅういん生活せいかつ “支ささえとなった父ちち”

最愛さいあいの母ははを亡なくしたおよそ1か月かげつ後ご。

李り少年しょうねんを再ふたたび試練しれんが襲おそった。

腎臓じんぞうの病気びょうきにかかり長期ちょうきの入院にゅういん生活せいかつを余儀よぎなくされたのだ。

軽かるい運動うんどうも許ゆるされず、大好だいすきなラグビーもできない。

医師いしからは「何なん年ねんかはスポーツができなくなるかもしれない」と宣告せんこくされた。

母ははを亡なくしショックを受うけていた時期じき。

悲かなしさと不安ふあんにさいなまれ、李り少年しょうねんは病院びょういんのベッドで泣ないた。

（父ちち・東あずま慶けいさん）

「ダブルパンチだったと思おもいます。あの時ときだけはだいぶ落ち込おちこんでいましたね。あれ以来いらい、承うけたまわ信しんの泣ないた顔かおは見みたことないので、かなり大おおきなことだったんだと思おもいます」

父ちちは、苦くるしむ息子むすこにかけることばを考かんがえ、伝つたえた。

（父ちち・東あずま慶けいさん）

「大丈夫だいじょうぶ。心配しんぱいすんな。これ以上いじょう、悪わるいことはない」

幸さいわいにもその後そのご、病気びょうきは回復かいふくに向むかった。

父ちちは「亡なくなったオモニ（母はは）が助たすけてくれたんちゃうかな」と語かたった。

“必死ひっしに生いきるしかない”

母ははを亡なくした兄弟きょうだい3人にん。

自分じぶんたちのために必死ひっしに働はたらく父ちちの姿すがたを見みて、迷惑めいわくをかけられないと、それぞれがラグビーを頑張がんばった。

その姿すがたを親戚しんせきやラグビースクールの保護ほご者しゃたちが支ささえてくれた。

（李り承うけたまわ信しん選手せんしゅ）

「必死ひっしに生いきるしかなかったですね。いくら悲かなしんでも、お母おかあさんは戻もどってこないので。どれだけお父おとうさんに迷惑めいわくかけずに家族かぞくのために頑張がんばれるか。お母おかあさんが亡なくなってからは自分じぶん自身じしん、本当ほんとうにひとりの人間にんげんとして強つよくなったと思おもいます」

李り選手せんしゅはその後そのご、ラグビースクールの兵庫ひょうご県けん選抜せんばつのキャプテンとしてジュニアの大会たいかいで全国ぜんこく優勝ゆうしょうを果はたす。

そして、進学しんがくした大阪おおさか朝鮮ちょうせん高級こうきゅう学校がっこうでは2年生ねんせいで高校こうこう日本にっぽん代表だいひょうに選出せんしゅつされ、将来しょうらいを嘱望しょくぼうされる期待きたいの選手せんしゅとして階段かいだんを駆かけ上あがった。

ワールドカップイヤーに

そして2022年ねん6月つき、ウルグアイ代表だいひょうとのテストマッチ。

ついに日本にっぽん代表だいひょうとしてデビュー。

李り選手せんしゅの寮りょうの部屋へやには、初はつキャップを獲得かくとくしたときの赤あかい帽子ぼうしが置おかれていた。

朝鮮ちょうせん学校がっこう出身しゅっしん者しゃとして初はじめての日本にっぽん代表だいひょう。

李り選手せんしゅが新あらたな道みちを切り開きりひらいた。

「日本にっぽん代表だいひょうになってほしい」という母ははの願ねがいをかなえることができた。

その後そのご、フランス戦せんなどでも活躍かつやく。

ワールドカップに向むけて視界しかいは良好りょうこうだった。

しかし、うまくいくことばかりではなかった。

2月つきのリーグワン。

李り選手せんしゅは、コベルコ神戸こうべスティーラーズの司令しれい塔とうとして、首位しゅい・埼玉さいたまパナソニックワイルドナイツと対戦たいせんした。

前半ぜんはん16分ふん、密集みっしゅうの中なかで味方みかたのひざが顔面がんめんを直撃ちょくげき。

あまりの痛いたさにうずくまる李り選手せんしゅ。

そのまま交代こうたいとなった。

衝撃しょうげきの痛いたみを「眼球がんきゅうが落おちた感かんじ」と表現ひょうげんした李り選手せんしゅ。

ロッカールームに引き上ひきあげ、うなだれるしかなかった。

ものが二に重じゅうに見みえたり、ゆがみが出でたりして、しばらくの間ま、痛いたみと気持きもち悪わるさが続つづいた。

診断しんだんの結果けっかは、右目みぎめの眼めか底そこ骨折こっせつ。

チームのために役割やくわりを果はたせなかった。

申し訳もうしわけなさとともに、ワールドカップへの不安ふあんが頭あたまをよぎった。

けがや不調ふちょうはアスリートには必かならずやってくる波なみ。

李り選手せんしゅは、その苦難くなんをどう乗り越のりこえたのか。

そこには亡なき母ははの存在そんざいがあった。

（李り承うけたまわ信しん選手せんしゅ）

「つらい時期じきがあると、お母おかあさんの闘病とうびょう生活せいかつを想像そうぞうして、常つねにお母おかあさんに置き換おきかえながら考かんがえています。自分じぶんが感かんじるプレッシャーやつらさは、お母おかあさんに比くらべたら全然ぜんぜんへっちゃらなんだって。そういうふうに置き換おきかえながら過すごしています。すごく強つよい存在そんざいでしたね、お母おかあさんは」