【詳くわしく】フランス大統領だいとうりょう選挙せんきょ マクロン大統領だいとうりょうは本当ほんとうに優勢ゆうせい？

最大さいだいの危機ききとも言いわれたのが、2018年ねん11月つきに始はじまった抗議こうぎデモです。マクロン政権せいけんが気候きこう変動へんどう対策たいさくの一環いっかんとして導入どうにゅうを目指めざした燃料ねんりょう税ぜいの引き上ひきあげをきっかけに、労働ろうどう者しゃなどが毎週まいしゅう土曜日どようび、全国ぜんこくで激はげしい抗議こうぎデモを繰り広くりひろげたのです。

デモの参加さんか者しゃが作業さぎょう用ようの黄色きいろい蛍光けいこう色しょくのベストを身みにつけたことから「黄色きいろいベスト運動うんどう」と呼よばれました。

多おおいときには全国ぜんこくで数すう十じゅう万まん人にんが参加さんか、一時いちじはパリの凱旋がいせん門もんまでデモ隊たいが占拠せんきょし、フランスのイメージも大おおきく傷きずつきました。政権せいけんは燃料ねんりょう税ぜいの引き上ひきあげを断念だんねんし、デモの最大さいだいの要因よういんだった地方ちほうの不満ふまんに耳みみを傾かたむけるとして、大統領だいとうりょう自身じしんや政権せいけん幹部かんぶが各地かくちに出向でむき人々ひとびとと対話たいわを重かさねました。

一方いっぽうで、経済けいざいや雇用こようへの影響えいきょうを最小さいしょう限げんにとどめようと、休業きゅうぎょうを余儀よぎなくされる飲食いんしょく店てんや商店しょうてんの従業じゅうぎょう員いんの賃金ちんぎんを、政府せいふが補償ほしょうするといった対策たいさくを矢継ぎ早やつぎばやに打うちだします。

さらに感染かんせん状況じょうきょうが安定あんていし、店舗てんぽが営業えいぎょうを再開さいかいしたあとは、経済けいざいと感染かんせん対策たいさくを両立りょうりつさせようと、レストランなどでワクチンの接種せっしゅ証明しょうめいの提示ていじを義務ぎむづけ、接種せっしゅを強つよく促うながしてきました。

ウクライナ情勢じょうせいが緊張きんちょうすると、マクロン大統領だいとうりょうはロシアのプーチン大統領だいとうりょうやウクライナのゼレンスキー大統領だいとうりょう、アメリカのバイデン大統領だいとうりょうなどとの首脳しゅのう会談かいだんを重かさね、積極せっきょく的てきな仲介ちゅうかい外交がいこうを展開てんかい。

ロシアが軍事ぐんじ侵攻しんこうに踏み切ふみきると、今度こんどはEUの議長ぎちょう国こくとして、ロシアに対にたいする制裁せいさいの議論ぎろんを主導しゅどうしていったのです。

その背景はいけいには、ルペン候補こうほが前回ぜんかいの選挙せんきょでの敗北はいぼくを教訓きょうくんに、過激かげきな言動げんどうを控ひかえ、その名なも「脱だつ悪魔あくま化か」と呼よばれる穏健おんけん化か路線ろせんに転てんじてきたことがあります。

私わたし（古山ふるやま）は先月せんげつ（3月つき）以降いこう、国内こくない各地かくちで行おこなわれたルペン候補こうほの集会しゅうかいを取材しゅざいしてきましたが、ルペン候補こうほがマクロン大統領だいとうりょうを手厳てきびしく批判ひはんしながらも、支持しじ者しゃには穏おだやかな口調くちょうで語かたりかけ、そのギャップに驚おどろかされました。

演説えんぜつのあとは壇上だんじょうから降おりて写真しゃしん撮影さつえいや握手あくしゅを求もとめる支持しじ者しゃ一いち人にん一いち人にんに丁寧ていねいに応おうじる姿すがたも印象いんしょう的てきです。

今回こんかいの選挙せんきょでは、中道ちゅうどう右派うはの共和党きょうわとうの候補こうほがマクロン大統領だいとうりょうとの公約こうやくの違ちがいをアピールできず、左派さはも分裂ぶんれつする中なかで、「こわもて」のイメージを刷新さっしんしたルペン候補こうほが、マクロン大統領だいとうりょうへの不満ふまんを抱かかえる有権者ゆうけんしゃの受け皿うけざらになっているという指摘してきもあります。

5年ねんぶりに相あいまみえた宿命しゅくめいの2人にんのライバルは、およそ3時間じかんにわたり激はげしい論争ろんそうを繰り広くりひろげました。

ウクライナ情勢じょうせいの緊張きんちょうを受うけ国内こくないでも燃料ねんりょう価格かかくを中心ちゅうしんに物価ぶっかが高騰こうとうする中なか、

▽マクロン大統領だいとうりょうはすでにガスや電気でんきの料金りょうきんを据え置すえおく臨時りんじの措置そちをとっているとしたのに対にたいし、

▽ルペン候補こうほは、燃料ねんりょうや電気でんき代だいなどにかかる付加ふか価値かち税ぜいを大幅おおはばに引き下ひきさげると主張しゅちょうし、国民こくみんの生活せいかつを支ささえる姿勢しせいを全面ぜんめんにアピールしました。

一方いっぽう、EUとの関係かんけいをめぐっては、

▽マクロン大統領だいとうりょうがウクライナの危機ききに直面ちょくめんするいまこそ、EUが結束けっそくして紛争ふんそうの収拾しゅうしゅうや安全あんぜんの維持いじにあたるべきだと主張しゅちょうしたのに対にたいし、

▽ルペン候補こうほはEUに主権しゅけんを奪うばわれ多おおくの国民こくみんが負担ふたんを強しいられているとして、EUを改革かいかくし関係かんけいを見直みなおすべきだと強つよく訴うったえたのです。

初はじめて投票とうひょうする大統領だいとうりょう選挙せんきょでなぜルペン候補こうほを支持しじするのか、詳くわしく聞ききたいと取材しゅざいを申し込もうしこむと、翌日よくじつ夕方ゆうがた、インターンシップ先さきの仕事しごとが終おわったところで時間じかんを作つくってくれました。

大学だいがくで法律ほうりつを学まなびながら、週末しゅうまつはスーパーマーケットでアルバイトし、得えられる収入しゅうにゅうで生計せいけいを立たてているロベールさん。

ウクライナ情勢じょうせいが緊迫きんぱく化かする中なか、フランスでも軽油けいゆなどの燃料ねんりょう価格かかくがおよそ25％上昇じょうしょうし、家計かけいに大おおきな負担ふたんとなっています。少すこしでも出費しゅっぴを抑おさえようと、いまではガソリンスタンドで毎回まいかい10ユーロ分ぶんずつ給油きゅうゆし、むだな移動いどうを控ひかえているといいます。

ロベールさんは、これまで学校がっこうの授業じゅぎょうで、EUの統合とうごうや国際こくさい協調きょうちょうについて繰り返くりかえし学まなび、その大切たいせつさを十分じゅうぶん理解りかいしているといいます。一方いっぽうで、先進せんしん国こくであるはずのフランスで、自分じぶんを含ふくめ一般いっぱん市民しみんが日々ひびの生活せいかつにも困こまるような生活せいかつを強しいられることに、強つよい違和感いわかんを覚おぼえてきました。

「国際こくさい的てきな問題もんだいに目めを向むけるのも大切たいせつだけれど、フランスの未来みらいは、フランス自身じしんが作り出つくりださなければなりません。農家のうかや企業きぎょうを支ささえなければならないのです。ルペン候補こうほこそがフランスの価値かちを守まもり、私わたしたちのよき代表だいひょうとなってくれるはずです」

初はじめての大統領だいとうりょう選挙せんきょでロベールさんはルペン候補こうほに一いち票ひょうを投とうじます。

EUが定さだめた食品しょくひんの厳きびしい品質ひんしつ基準きじゅんを守まもりながら、ほかの加盟かめい国こくで生産せいさんされるより安価あんかなワインとの熾烈しれつな競争きょうそうにさらされ、経営けいえいは年々ねんねん厳きびしくなっているといいます。

ブノワ・タリさん

「1993年ねんにEUが発足ほっそくしたころは、より大おおきなマーケットの中なかで、フランスの農業のうぎょうもさらに発展はってんしていけるのではないかと思おもっていました。しかし30年ねん近ちかくたったいま、状況じょうきょうはむしろ逆ぎゃくです。EUの規制きせいのもとで、ブドウの木きの丈たけ、実みの重おもさ、まるで重要じゅうようでないことまで、安全あんぜん基準きじゅんの名なのもとに管理かんりされるようになっています」

フランスの伝統でんとう産業さんぎょうともいえるワイン産業さんぎょうが、このままでは衰退すいたいしてしまうのではないかと危機きき感かんを強つよめ、農家のうかへの手厚てあつい支援しえん策さくを打ち出うちだしているルペン候補こうほを支持しじするようになりました。

「ルペン候補こうほはフランスが再ふたたび強つよい国くにになるためには、農家のうかを救すくわなければならないことをよく理解りかいしてくれています。マクロン大統領だいとうりょうのままでは、EUに新あたらしい国くにが加盟かめいするたびに、厳きびしい競争きょうそうにさらされ、若わかい世代せだいも農家のうかを継つぎたくなくなってしまう」

ブノワさんがルペン候補こうほを支持しじする背景はいけいには、そんな焦あせりがありました。

通とおりかかった人ひとから「マクロンには入いれない」とあしらわれても、ひるまず丁寧ていねいに政策せいさくを説明せつめいしていました。議論ぎろん好すきなフランス人じんだけに、意見いけんが違ちがっても立ち止たちどまって話はなしをする人ひとは少すくなくありません。

グラナテリさんがマクロン大統領だいとうりょうを支持しじする背景はいけいには、みずからのルーツがあります。両親りょうしんはイタリア出身しゅっしんで、グラナテリさんは両親りょうしんの移住いじゅう先さきの南米なんべいアルゼンチンで生うまれ育そだちました。

大学だいがく卒業そつぎょう後ご、フランスにわたり、6年ねん前まえに国籍こくせきを取得しゅとく。選挙せんきょ権けんを得えてすぐに、当時とうじ1期き目めを目指めざしていたマクロン氏しの選挙せんきょ活動かつどうに加くわわったといいます。

当時とうじは、イギリスで行おこなわれた国民こくみん投票とうひょうでEU＝ヨーロッパ連合れんごうからの離脱りだつが決きまり、アメリカでは自国じこく第だい一いち主義しゅぎを掲かかげるトランプ大統領だいとうりょうが誕生たんじょうするなど、世界せかいでポピュリズムや極右きょくうが台頭たいとうしていました。フランスでは、ルペン候補こうほ率ひきいる極右きょくう政党せいとうがEU離脱りだつや移民いみん排斥はいせきを掲かかげ、急速きゅうそくに支持しじを広ひろげていました。

しかしいま、グラナテリさんはマクロン大統領だいとうりょうが再選さいせんを果はたせるのか、不安ふあんを感かんじています。ルペン候補こうほが減税げんぜいという誰だれにも受け入うけいれられやすい公約こうやくを掲かかげ、急速きゅうそくに支持しじを集あつめているからです。

「EUに批判ひはん的てきで、ロシア寄よりと言いわれるルペン候補こうほが大統領だいとうりょうになれば、フランスがEUから離脱りだつし、ロシアに接近せっきんしてしまうのではないか」

そんな危機きき感かんから、街頭がいとうでマクロン大統領だいとうりょうへの支持しじを訴うったえていたのです。

ドイツとの国境こっきょうに面めんした東部とうぶストラスブールで暮くらすダニエル・トーブさん（55）も、その1人にん。前回ぜんかいに続つづき今回こんかいもマクロン大統領だいとうりょうに投票とうひょうするといいます。

「マクロン大統領だいとうりょうはずっとヨーロッパの結束けっそくを強つよめるために働はたらいてきました。ヨーロッパ市民しみんとしてマクロンを支持しじします」。

EUの機関きかんも集あつまり、ブリュッセルと並ならぶ「欧州おうしゅうの首都しゅと」と呼よばれています。

ロシアによるウクライナへの軍事ぐんじ侵攻しんこうを目の当まのあたりにし、各国かっこくが共存きょうぞんする平和へいわの重おもさを改あらためてかみしめているというトーブさん。

「EUは私わたしたちの家族かぞくです。ドイツもフランスの家族かぞくなんです。ウクライナに対にたいしても、どうして無む関心かんしんでいられるでしょうか」

フランスに極右きょくう政権せいけんが誕生たんじょうすれば、EUの分裂ぶんれつにつながるのではないか。そんな思おもいから、1人にんでも多おおくの有権者ゆうけんしゃにマクロン大統領だいとうりょうに投票とうひょうしてもらおうと、呼よびかけを続つづけています。

「ルペン候補こうほが当選とうせんする見込みこみがほとんどなかった前回ぜんかい・5年ねん前まえの選挙せんきょと比くらべ、今回こんかいは不ふ確定かくてい要因よういんが多おおく、当選とうせんする可能かのう性せいはあります。実際じっさいの公約こうやくは5年ねん前まえとほとんど変かわっていないのに、『脱だつ悪魔あくま化か』に成功せいこうしたのです。ルペン候補こうほが当選とうせんし、公約こうやく通どおりNATO＝北大ほくだい西洋せいよう条約じょうやく機構きこうの軍事ぐんじ部門ぶもんから脱退だったいすれば、フランスだけでなくヨーロッパにも大おおきな変化へんかを及およぼします」

フランスとヨーロッパを揺ゆるがしかねない、フランスの大統領だいとうりょう選挙せんきょ。決選けっせん投票とうひょうは日本にっぽん時間じかんの24日にち午後ごご始はじまり、25日にち未明みめいには大勢たいせいが判明はんめいする見通みとおしです。NHKでは、選挙せんきょの結果けっかをテレビやウェブで詳くわしくお伝おつたえします。