赤あかちゃん寝ねかしつけ “背中せなかスイッチ”覆くつがえる 科学かがくで導き出みちびきだすコツ

4人にんの男の子おとこのこの母親ははおやでもある黒田くろださん。

今回こんかいの研究けんきゅうテーマは、初はじめての子こどもを育そだてたときの苦労くろうが出発しゅっぱつ点てんになっているといいます。

初はじめての子こどもとなった長男ちょうなんの子育こそだて経験けいけんから、赤あかちゃんが泣なきやむのには「だっこ歩あるき」が効果こうか的てきではないかと漠然ばくぜんと感かんじていましたが、研究けんきゅう室しつでのふとしたことをきっかけに、謎なぞに迫せまる着想ちゃくそうを得えました。

野生やせい動物どうぶつの子こどもは外敵がいてきが迫せまっているときに親おやにくわえられるなどして運はこばれることが多おおくあるため、おとなしくして危険きけんを高たかめることがないように身みにつけた本能ほんのうではないかと黒田くろださんは考かんがえています。

「だっこ歩あるき」に効果こうかがあることがわかった黒田くろださん。

さらに、赤あかちゃんが泣なきやむには、どういう条件じょうけんのもとで行おこなえば効果こうか的てきなのか、状況じょうきょうや時間じかんを変かえて調しらべてみることにしました。

「輸送ゆそう反応はんのう」を調しらべる実験じっけんと並行へいこうして10年ねん余あまり前まえにスタートしました。

実験じっけんでは生後せいご7か月かげつ以下いかの赤あかちゃんとその母親ははおや21組くみに

▽「だっこして歩あるく」、

▽「ベビーカーに乗のせて動うごかす」、

▽「だっこして座すわる」、

▽「ベッドに寝ねかせる」という4種類しゅるいの動作どうさを組み合くみあわせて数すう十じゅう分間ふんかん行おこなってもらいます。

30秒びょう単位たんいで動作どうさを記録きろくし、泣ないているかどうかなどそのときの赤あかちゃんの状態じょうたいを観察かんさつして、それぞれの動作どうさが泣なくことや眠ねむることに与あたえる影響えいきょうを調しらべました。

「次男じなんを妊娠にんしんしていたときから赤あかちゃんの心電図しんでんずをとる機器ききを買かって使い方つかいかたを練習れんしゅうし、生うまれたらすぐに実験じっけんができるように準備じゅんびをしていました。研究けんきゅう成果せいかはわが子わがこの助たすけなくしては導き出みちびきだせなかったと思おもっています」。

三男さんなんははじめは泣ないていましたが、黒田くろださんが「だっこ歩あるき」を続つづけると、次第しだいに泣なきやみます。

黒田くろださんたちの実験じっけんの結果けっか、赤あかちゃんが泣なきやむのに効果こうかがあったのは、

▽「だっこして歩あるく」と

▽「ベビーカーに乗のせて動うごかす」という2つの動作どうさでした。

一方いっぽうで、

▽「だっこして座すわる」と

▽「ベッドに寝ねかせる」という2つの動作どうさでは、ほとんど効果こうかはみられなかったということです。

実験じっけんの結果けっか、黒田くろださんは、赤あかちゃんが泣なきやむのに効果こうかがあったのは「運はこばれていること」だと確信かくしんを強つよめました。

しかし、泣なきやんだとしても、親おやには「寝ねかしつけ」というもう一ひとつの壁かべが立たちはだかります。

せっかく泣なきやんだ赤あかちゃんは、どうすればスムーズに眠ねむるのでしょうか。

「背中せなかスイッチ」とも呼よばれているこの現象げんしょう。

まさに背中せなかにスイッチが付ついているかのようで、スイッチがオンになったら、寝ねかしつけは1からやり直やりなおさなければなりません。

今回こんかいの実験じっけんでも、いったん眠ねむった赤あかちゃんをベッドに寝ねかせると、およそ3分ぶんの1が起おきてしまいました。

ここで研究けんきゅうは終おわれない。

黒田くろださんたちは、起おきてしまった赤あかちゃんと、起おきなかった赤あかちゃんに、どのような違ちがいがあったかを調しらべました。

また、眠ねむり続つづけた赤あかちゃんのうち、ベッドに寝ねかされる前まえに眠ねむっていた時間じかんが5分ふんに満みたない赤あかちゃんは、途中とちゅうで目めを開あけるなど起おきそうになる様子ようすが確認かくにんされたということです。

ベッドに寝ねかされる前まえにどのくらいの時間じかん眠ねむっていたのかが、寝ねかしつけの成功せいこうに影響えいきょうを与あたえることがわかったのです。

黒田くろださんは、赤あかちゃんが「だっこ歩あるき」で眠ねむったあと、5分ふんから8分ふん程度ていどだっこを続つづけてからベッドに寝ねかせると、目めを覚さましにくくなるのではないかと考かんがえています。

「5分間ふんかんの『だっこ歩あるき』で赤あかちゃんが眠ねむってくれたら、すぐにベッドに寝ねかせたい気持きもちをグッとこらえてください。ベッドに寝ねかせる前まえにいすやベッドに座すわるなどして5分ふんから8分ふんを目安めやすに待まちましょう。そうすると、赤あかちゃんの眠ねむりがより深ふかい段階だんかいに入はいるので、寝ねかせたときに少すこし目覚めざめかけても、眠ねむりに戻もどってくれることが多おおくなります」。

赤あかちゃんの心拍しんぱく数すうが増ふえて目覚めざめやすくなるのは、背中せなかがベッドにつくときではなく、それより前まえの赤あかちゃんのおなかが親おやから離はなれ始はじめるときだったのです。

赤あかちゃんは寝ねているように見みえても、親おやの微妙びみょうな行動こうどうの変化へんかを常つねに敏感びんかんに感じ取かんじとっているといいます。

霊長れいちょう類るいの赤あかちゃんは常つねに親おやの体からだにしがみついているため、ヒトの赤あかちゃんもおなかが親おやから離はなれると、落下らっかの危険きけんを感かんじて目めが覚さめてしまうのではないかと黒田くろださんは考かんがえています。

「背中せなかスイッチ」の“通説つうせつ”は覆くつがえり、さらに赤あかちゃんを起おこしにくい寝ねかし方かたも科学かがくが明あきらかにしてくれました。

「『背中せなかスイッチ』を科学かがく的てきに調しらべたら、実じつはスイッチがあるのは親おやと接せっしているおなかで、赤あかちゃんは『分離ぶんりセンサー』を持もっていると言いえるのかもしれません。赤あかちゃんをベッドに寝ねかせるときは、この『分離ぶんりセンサー』が働はたらかないように、手てで下おろすのではなく、おなかを密着みっちゃくさせながら、自分じぶんの体からだごと下おろすようにするのがお勧すすめです」。

【1】同おなじペースで淡々たんたんと5分間ふんかんの「だっこ歩あるき」。

【2】眠ねむったと思おもっても、さらに座すわるなどして5分ふんから8分ふん程度ていどだっこを続つづける。

【3】ベッドに寝ねかせるときは、おなかを密着みっちゃくしながら自分じぶんの体からだごと下おろす。

スマートウォッチなどで赤あかちゃんの心拍しんぱくを測はかって、そのときの睡眠すいみんの状態じょうたいを予測よそくし、寝ねかしつけに最適さいてきな行動こうどうを親おやにアドバイスしようというのです。

黒田くろださんが見据みすえるのは、新あらたな科学かがくの技術ぎじゅつを使つかって育児いくじが楽たのしくなる未来みらいです。