日本新聞: 【震災13年】消防団員の減少が深刻化地域のつながりにも影響

地域ちいき防災ぼうさいを支ささえる消防しょうぼう団だん員いんが、高齢こうれい化かや人口じんこう減少げんしょうなどを理由りゆうに全国ぜんこくで減へっています。

特とくに13年ねん前まえの東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいの被災ひさい地ちで深刻しんこく化かしており、中なかには震災しんさい前まえと比くらべた減少げんしょう率りつが68％と、全国ぜんこく平均へいきん（13％）を大幅おおはばに上回うわまわる自治体じちたいもあります。

地域ちいきの要ようである消防しょうぼう団だん員いん。その減少げんしょうについて、被災ひさい地ちで取材しゅざいしました。

地域ちいきに密着みっちゃくし人命じんめい救助きゅうじょ・避難ひなん支援しえん

消防しょうぼう団だんは常勤じょうきんの消防しょうぼう職員しょくいんと異ことなり、災害さいがい時じには地域ちいきに密着みっちゃくして人命じんめい救助きゅうじょや避難ひなん支援しえんをします。

また火災かさいの時ときには、自宅じたくや職場しょくばから現場げんばへ向むかい初期しょき消火しょうかを行おこなってきました。その歴史れきしは江戸えど時代じだいの町まち火消ひけしまでさかのぼると言いわれています。

総務そうむ省しょう消防庁しょうぼうちょうによると、全国ぜんこくの消防しょうぼう団だん員いんの数かずは記録きろくの残のこるかぎりでは1954年ねんの約やく202万まん人にんがピークでした。

■全国ぜんこくの消防しょうぼう団だん員いんの人数にんずう

1954年ねん 202万まん3011人にん

2023年ねん 76万まん2670人にん

その後そのごは人口じんこう減少げんしょうや高齢こうれい化かで年々ねんねん減少げんしょう。去年きょねんは76万まん人にん余あまりで、地域ちいきの防災ぼうさいやつながりを維持いじするのが困難こんなんになっています。

こうした中なか、13年ねん前まえの東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいの津波つなみで大おおきな被害ひがいを受うけた岩手いわて県けん、宮城みやぎ県けん、福島ふくしま県けんの消防しょうぼう団だん員いんの人数にんずうについて取材しゅざいしました。

3県けんの消防しょうぼう団だん員いんの合計ごうけいは、震災しんさい前まえの2010年ねんは8万まん441人にんでしたが、2023年ねんは6万まん5389人にんに。減少げんしょう率りつは18.7％と全国ぜんこくの13.7％と比くらべて高たかくなっていることが分わかりました。

以下いか、各かく県けんで減少げんしょう率りつの高たかいおもな自治体じちたいをまとめました。

火事かじでポンプ車しゃが出だせない！

かつて、製鉄せいてつ工場こうじょうを中心ちゅうしんとした“鉄てつのまち”として栄さかえた岩手いわて県けん釜石かまいし市し。

市しによると、震災しんさいによる死者ししゃ、行方ゆくえ不明ふめい者しゃ、関連かんれん死しは合あわせて1064人にんとなっています。

現在げんざいの人口じんこうは、震災しんさい前まえから約やく1万まん人にん減へって約やく3万まん人にん。市内しないの消防しょうぼう団だん員いんは528人にん（去年きょねん4月つき）で、震災しんさい前まえの2010年ねんと比くらべると260人にん以上いじょう減へりました。

このうち第だい5分ふん団だんは、管轄かんかつする甲子きのえね地区ちくを6区域くいきに分わけていますが、動うごかすのに3人にんが必要ひつようとされるポンプ車しゃを動うごかせない区域くいきがあります。

この第だい5分ふん団だんにことし1月つき、消防しょうぼう本部ほんぶから出動しゅつどう要請ようせいが来きました。管轄かんかつ区域くいきに隣接りんせつする区域くいきで住宅じゅうたくから出火しゅっかしたのです。

ところが時刻じこくは午前ごぜん9時じ前まえ。分団ぶんだん員いんの多おおくが会社かいしゃ勤つとめで、職場しょくばを離はなれられない状況じょうきょうでした。

結局けっきょく、3人にん以上いじょうの団員だんいんを集あつめられず、ポンプ車しゃの出動しゅつどうを諦あきらめざるをえませんでした。

この火事かじでは消防しょうぼう士しの到着とうちゃくが早はやく、すぐ近ちかくに川かわも流ながれていたため消火しょうか活動かつどうへの影響えいきょうはなく、けが人けがにんもいませんでした。ただ、消防しょうぼう団だんの存在そんざい意義いぎが問とわれかねないケースとなりました。

第だい5分ふん団だん小久保こくぼ謙治けんじ分ぶん団長だんちょう

「以前いぜんは自営じえい業ぎょうとか専業せんぎょう農家のうかの団員だんいんが多おおかったんですが、そうしたかたが勇退ゆうたいして、今いまは会社かいしゃ員いんの団員だんいんがほとんどになってしまった」

釜石かまいし市し消防しょうぼう団だんは、東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいの津波つなみで、水門すいもんの管理かんりなどをしていた消防しょうぼう団だん員いん8人にんが逃にげ遅おくれるなどして亡なくなりました。

小久保こくぼさんはこうしたことが市民しみんに「消防しょうぼう団だんは危険きけんだ」という認識にんしきを与あたえてしまった側面そくめんもあると話はなします。

第だい5分ふん団だん小久保こくぼ謙治けんじ分ぶん団長だんちょう

「現実げんじつに犠牲ぎせいになられた消防しょうぼう団だん員いんもいますので、消防しょうぼう団だんは危険きけん、怖こわいというイメージを持もたれているところもあるのが正直しょうじきなところです」

気仙沼けせんぬま市し危機きき感かんを抱いだく住民じゅうみんも

消防しょうぼう団だん員いんの減少げんしょうで、地域ちいきのつながりに支障ししょうが出でかねないと危機きき感かんを抱いだき始はじめた住民じゅうみんもいます。

澤井さわい勉つとむさん（74）は宮城みやぎ県けん気仙沼けせんぬま市しで生うまれ育そだち、親戚しんせきも消防しょうぼう団だんに所属しょぞくしていたことから身近みぢかに感かんじてきました。

消防しょうぼう団だんの屯所とんしょの清掃せいそうや事務じむ作業さぎょうを行おこなって、20年ねん以上いじょうも消防しょうぼう団だんを支ささえてきました。

気仙沼けせんぬま市しは震災しんさいで関連かんれん死しを含ふくめて1220人にんが犠牲ぎせいになりました。消防しょうぼう団だん員いんは水門すいもんの閉鎖へいさや消火しょうか活動かつどう、それに避難ひなん誘導ゆうどうなどさまざまな活動かつどうにあたりました。

日頃ひごろから地域ちいきの住民じゅうみんと交流こうりゅうし、地域ちいきのことをよく知しっているからこそ、自衛隊じえいたいや消防しょうぼうより先さきに孤立こりつした地域ちいきの発見はっけんにつながりました。地域ちいきをまとめ住民じゅうみん同士どうしをつなげてきたからこそ、役割やくわりを果はたせました。

しかし、震災しんさいでまちは一変いっぺんしました。一部いちぶの住民じゅうみんは住すんでいた地域ちいきを離はなれざるをえない状況じょうきょうに。

海うみの近ちかくに住すんでいた澤井さわいさんも自宅じたくが浸水しんすいし、内陸ないりくに移り住うつりすみました。いま、団員だんいんと住民じゅうみんのつながりの薄うすさを感かんじています。

澤井さわい勉つとむさん

「なかなか被災ひさいしたところでは難むずかしいと思おもう。震災しんさいでみんな住すむ場所ばしょがばらばらになり、コミュニケーションが取とりにくくなってきたのが現状げんじょう。昔むかしと今いまでは違ちがう」

どうしたら若者わかものの入団にゅうだんが進すすむのか。ポスターやチラシを使つかった既存きそんの勧誘かんゆう方法ほうほうにとらわれないアイデアを出だそうと、去年きょねん11月つき、若手わかての団員だんいんを中心ちゅうしんに新あらたに会議かいぎを立たち上あげました。

参加さんか者しゃ

「若者わかものの中なかには休やすみが優先ゆうせんだという人ひともいると思おもう」

「報酬ほうしゅうが少すこしでも欲ほしいと思おもう人ひともいるのでは」

「消防しょうぼう団だんの活動かつどうの報酬ほうしゅう額がくを提示ていじするのはどうか」

「アンケートで聞きけば、入団にゅうだんへの糸口いとぐちが見みつかるのでは」

さまざまな意見いけんが出だされましたが、なかなか解決かいけつ策さくは見みつけられません。それでも何なにかできないかと必死ひっしです。

8町村ちょうそん消防しょうぼう団だん員いんの居住きょじゅう率りつ28％

13年ねん前まえに発生はっせいした東京とうきょう電力でんりょく福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつの事故じこのあと、国くにの避難ひなん指示しじを受うけた原発げんぱつ周辺しゅうへんの8町村ちょうそんでは一時いちじ、全ぜん住民じゅうみんが避難ひなんを余儀よぎなくされました。

8町村ちょうそんの消防しょうぼう団だん員いんは去年きょねん4月つきの時点じてんで合あわせて1200人にん余あまり。このうち何なん人にんが地元じもとに住すんでいるのか、NHKが各かく自治体じちたいに尋たずねたところ、実際じっさいに居住きょじゅうしているのは340人にん余あまり。3割わりに満みたないことが分わかりました。

自治体じちたいごとの団員だんいんの居住きょじゅう率りつを見みると、

▼双葉ふたば町まちが7％

▼浪江なみえ町まちが18％

▼大熊おおくま町まちが19％

▼飯舘いいたて村むらが26％

▼富岡とみおか町まちが27％

となっています。「帰還きかん困難こんなん区域くいき」が指定していされた自治体じちたいで特とくに低ひくく、避難ひなん先さきの地域ちいきに生活せいかつ基盤きばんを築きずく人ひとが増ふえたことが背景はいけいにあるとみられています。

この状況じょうきょうで安全あんぜん・安心あんしんを確保かくほするにはどうすればよいか。8町村ちょうそんのひとつ、福島ふくしま県けん富岡とみおか町まちではある取り組とりくみを進すすめています。

富岡とみおか町まち「とみおか守まもり隊たい」を組織そしき

ことし1月つき1日にちの時点じてんで町内ちょうないに住すんでいるのは2300人にんほど。このうち消防しょうぼう団だん員いんは36人にんです。

町まちの防火ぼうか・防犯ぼうはん事業じぎょうとして、震災しんさい後ごに組織そしきしたのが「とみおか守まもり隊たい」です。町まちが消防しょうぼう団だん員いんを臨時りんじ職員しょくいんとして雇用こようし、町内ちょうないをパトロールするもので、メンバー18人にんのうち14人にんは避難ひなん先さきから町まちへ通勤つうきんしています。

末永すえなが博幸ひろゆきさん（64）は富岡とみおか町まち消防しょうぼう団だんの団長だんちょうで「とみおか守まもり隊たい」の隊長たいちょうです。

かつて住すんでいた自宅じたくは帰還きかん困難こんなん区域くいきに指定していされ、取り壊とりこわしました。いまは60キロほど離はなれた郡山こおりやま市しに住すみ、「守もり隊たい」の活動かつどうのため、早はやい日ひは午前ごぜん4時じすぎに自宅じたくを出でます。

パトロールは午前ごぜんと午後ごごの2交代こうたい制せい。1日にち5時間じかんほど消防しょうぼう車しゃで巡回じゅんかいし、住人じゅうにんが避難ひなんして不在ふざいになっている家いえの様子ようすを確認かくにんしたり、自宅じたくに帰還きかんして暮くらす人ひとの様子ようすを見守みまもったりしています。

農地のうちの管理かんりのため避難ひなん先さきから通かよっている男性だんせいは、「地元じもとの人ひとがパトロールをしてくれると安心あんしんできるので、町まちに戻もどるかどうか判断はんだんする上うえでいい材料ざいりょうになる」と話はなしていました。

末永すえなが博幸ひろゆきさん

「たとえ避難ひなん先さきにいても、自分じぶんたちの町まちは自分じぶんたちで守まもっていきたいと思おもいます。しかし、有事ゆうじの際さいにどれだけのメンバーが集あつまれるか不安ふあんもあります」

飯舘いいたて村むら企業きぎょうに消防しょうぼう活動かつどうの協力きょうりょくをお願おねがい

富岡とみおか町まちと同おなじく、原発げんぱつ事故じこのあと一いち時じ全域ぜんいきに避難ひなん指示しじが出だされた飯舘いいたて村むらも、消防しょうぼう団だん員いんの大幅おおはばな減少げんしょうに悩なやまされています。

村むらの消防しょうぼう団だん員いんは145人にん（去年きょねん4月つき時点じてん）。このうち村むらに住すんでいるのは37人にんです。

そこで村むらは、地域ちいきの安全あんぜんを確保かくほするために、おととしから県内けんないでは初はじめての取り組とりくみを進すすめました。「企業きぎょう消防しょうぼう隊たい」です。

村むら内ないに工場こうじょうがある企業きぎょうと協定きょうていを結むすび、従業じゅうぎょう員いんによる「消防しょうぼう隊たい」を結成けっせいして火災かさいの初期しょき消火しょうかを担になってもらおうというのです。

協力きょうりょくしているのは、東京とうきょうに本社ほんしゃがあるプラスチック部品ぶひんなどのメーカーで、村内むらうちの工場こうじょうの従業じゅうぎょう員いん約やく150人にんのうち17人にんが「隊員たいいん」として参加さんかしています。

これまで出動しゅつどうする事態じたいは起おきていませんが、工場こうじょうの敷地しきちに消防しょうぼう車しゃも用意よういし、定期ていき的てきに訓練くんれんを行おこなって備そなえています。

企業きぎょう消防しょうぼう隊たい花井はない智弘ともひろさん

「工場こうじょうも以前いぜんは消防しょうぼう団だん員いんの方々かたがたに守まもられてきたので、企業きぎょうの若わかい力ちからでこの村むらを守まもっていきたいです」

飯舘いいたて村むら杉岡すぎおか誠まこと村長そんちょう

「消防しょうぼう団だん員いんを増ふやすというのは非常ひじょうに難むずかしい状況じょうきょうがあるので、村むらとして企業きぎょう誘致ゆうちを進すすめて取り組とりくみへの参加さんかにつなげていきたい」

村むらは、今後こんごも誘致ゆうち企業きぎょうへ協力きょうりょくを呼よびかけ、地域ちいきの安心あんしんの“新あらたな柱はしら”を確保かくほしたいと考かんがえています。

専門せんもん家か “震災しんさいの影響えいきょうが減少げんしょうに拍車はくしゃ”

被災ひさい地ちで深刻しんこくな減少げんしょうが進すすむ消防しょうぼう団だん。消防しょうぼう行政ぎょうせいの専門せんもん家かは、震災しんさいの影響えいきょうが減少げんしょうに拍車はくしゃをかけていると指摘してきしています。

関西かんさい大学だいがく永田ながた尚三しょうぞう教授きょうじゅ

「東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいの津波つなみで被害ひがいを受うけた沿岸えんがん地域ちいきは、長期ちょうきの避難ひなんを余儀よぎなくされてコミュニティーが破壊はかいされてしまった。それが消防しょうぼう団だんの団員だんいん数すうの減少げんしょうに大おおきな影響えいきょうを与あたえている。釜石かまいし市しのケースのように、火災かさいが起おきた時ときにすぐに出動しゅつどうできない事例じれいは非常ひじょうにショッキングだが、全国ぜんこくに起おこりうると考かんがえている。団員だんいん数すうの減少げんしょうが今後こんごも続つづくと、地域ちいきの防災ぼうさい力りょくや火災かさい対応たいおうの弱体じゃくたい化かにつながると懸念けねんしている」