アメリカのトランプ大統領は2月、国内に輸入される鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す文書にそれぞれ署名しました。
理由について、国内で製造業を復活させることや雇用を守るために不可欠な措置だとしています。
この文書に基づき、トランプ政権はアメリカ東部時間12日午前0時すぎ、日本時間の12日午後1時すぎに関税措置を発動しました。
すべての国が対象になるとしていて、日本から輸出される製品にも25%の関税がかけられることになります。
鉄鋼製品やアルミニウムへの関税措置はトランプ政権の1期目に導入されましたが、関税を免除する例外措置も多くの国に対して設けられていました。
EU 対抗措置講じると発表
EU=ヨーロッパ連合は12日、アメリカのトランプ政権が、輸入する鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す措置を発動したことを受けて対抗措置を講じると発表しました。
EUは、トランプ政権の1期目でアメリカ製の二輪車などへの関税を課していて、この措置を4月、再び課すほか、新たに農業製品などに対する措置も4月中旬までに導入する方針で報復関税の対象となる製品の規模はあわせて最大で260億ユーロ、日本円にしておよそ4兆2000億円相当にのぼるとしています。
《日本への影響は》
日本からの輸出はどうなる? 新たな追加関税の対象は290品目
日本からアメリカに輸出される鉄鋼製品については、これまで「関税割当」と呼ばれる制度で、年間125万トンまでは追加の関税が上乗せされていませんでした。
今回、トランプ政権が新たに発動する関税措置では、こうした特例は撤廃され、適用対象の鉄鋼製品に対しては、25%の追加関税が課されることになります。
一方、日本からのアルミニウムについては、これまでも10%の追加関税が課されていましたが、今回、これが25%に引き上げられます。
このほか、アメリカ政府の発表によりますと、今回の関税措置では、鉄鋼やアルミニウムの派生製品も新たに追加関税の対象になるとしています。
具体的には、いずれも鉄鋼製の▽チェーン▽くぎ▽ねじ▽配管部品▽橋の部品など167品目、いずれもアルミニウム製の▽半導体関連の部品▽自動車関連の部品▽台所用品など123品目のあわせて290品目です。
これらの派生製品に対する関税措置について、アメリカ政府は、12日から発動されるものと、別途、発動日が設けられるものがあるとしています。
日本のアメリカ向け鉄鋼製品 輸出の現状は
アメリカ向けの鉄鋼製品に関税が課された場合でも、日本の鉄鋼メーカーが生産する油田採掘用の製品などには、ほかでは代替できない製品もあることからメーカー各社は、アメリカ側のニーズに応じて製品を輸出していく考えです。
また、2024年1年間の日本からの鉄鋼製品の輸出量は3115万トンで、このうち、アメリカ向けは111万トンと全体の3%ほどにとどまるうえ、アメリカが輸入する鉄鋼製品に占める日本の割合も低くなっています。
第1次トランプ政権時代の2018年3月にアメリカに輸入される鉄鋼やアルミニウムに対して、高い関税を課す措置が発動され、日本の鉄鋼各社が現地生産を増やすなどの対応を進めてきたためです。
2024年のアメリカへの輸出量(111万トン)は、この輸入制限措置が行われる前、2017年の176万トンと比べるとおよそ37%の大幅な減少となっています。
アルミニウム アメリカへの輸出量は年間2万トン
また、アルミニウムについては日本では2024年1年間に板やサッシなど成形品を166万トン生産していますが、そのほとんどは日本国内で使用しています。
このうち、2024年1年間の日本からアメリカへの輸出量は2万トンで、生産量全体に占める割合は限定的です。
武藤経産相 除外申し入れも前向き回答得られず
武藤経済産業大臣は10日、ラトニック商務長官らと会談し、今回の措置でも日本を除外するよう申し入れましたが、前向きな回答は得られませんでした。
林官房長官 “日米や世界の経済に大きな影響”
林官房長官は午後の記者会見で「日本が除外されない形で追加関税の賦課が開始されたことは遺憾だ。アメリカ政府による広範な貿易制限措置は日米両国の経済関係、ひいては世界経済や多角的な貿易体制全体に大きな影響を及ぼしかねない」と述べました。
その上で「日本からの輸入がアメリカの安全保障に悪影響を与えることがないと武藤経済産業大臣がアメリカを訪問した際に説明し一定の理解を得られたと考えている。引き続き緊密に協議をしていくことになったと承知しており、協議の方法などを議論していきたい」と述べました。
アメリカの関税 次の焦点は自動車
日本からアメリカに輸出される鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税が課され、トランプ大統領が打ち出してきた関税政策では、日本が初めて対象になりました。
次の焦点は日本政府が最も重視する自動車に対する関税措置に移ります。
トランプ大統領は2月、アメリカに輸入される自動車に対して、4月にも25%前後の関税の発動を検討していることを明らかにしました。
2024年1年間に日本からアメリカに輸出した自動車の輸出額は6兆261億円と、アメリカへの輸出全体の28.3%を占め、最も多くなっています。
現在は、原則2.5%の関税が課されていますが、大幅に引き上げられることになれば、自動車メーカーだけでなく、部品や素材など幅広い産業の生産に深刻な影響が及ぶ可能性があります。
民間のシンクタンクのうち、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、アメリカが日本車に対して25%の関税を上乗せした場合、輸出が減少するなどとして日本のGDP=国内総生産が0.2%程度、押し下げられると試算しています。
日本政府としては自動車への関税を回避したい考えで、武藤経済産業大臣が今週行われたラトニック商務長官らとの会談で直接申し入れるなど、自動車の関税措置から日本を除外するようアメリカ政府に求めていく方針です。
《日本以外の国への影響は》
カナダへの税率方針は二転三転
トランプ大統領は11日、SNSに「私は商務長官にカナダから輸入されるすべての鉄鋼製品とアルミニウムに25%を追加し、50%の関税を課すよう指示した」と投稿しました。これは、カナダのオンタリオ州のフォード首相が前日10日にカナダに対する関税措置への報復としてアメリカ向けの電力に25%の追加料金を課すと明らかにしたことへの対抗措置だとしていました。
その後、フォード首相は追加料金を課すことを一時停止すると表明し、ラトニック商務長官らと今週、協議を行うと明らかにしました。
これを受けてトランプ大統領は記者団から「カナダへの関税について今とは別の決定をするのか。引き下げるのか」と問われたのに対し、「おそらくそうだ」と答え、見直す考えを示しました。
アメリカ向けアルミ輸出 東南アジア最多のタイでも懸念
アメリカ向けのアルミニウムの輸出が東南アジアで最も多いタイでは、関税引き上げによる販売の減少を懸念する声が広がっています。
タイ東部のラヨーン県にある日系企業の工場では
▽飲料用のアルミ缶や
▽自動車やエアコンの部品の原料となるアルミの板を年間32万トン生産しています。
アメリカには主に飲料缶向けのアルミの板を輸出し、南米とあわせて販売のおよそ2割にのぼるということです。ただ、関税の引き上げで販売が落ち込むおそれもあることから、東南アジアの近隣諸国やインド、中東など、新たな販路の開拓を検討することにしています。
一方、この会社ではアメリカと中国の間での関税の応酬で、タイ国内に流入する中国製品との競争がさらに激しくなることも懸念しています。中国のアルミ製品のメーカーがアメリカではなく東南アジアに販路を求める動きが増えていて、去年、中国から輸入されたアルミ製品は45万トンと、この5年で1.5倍に増えたということです。
日系企業のゼネラル・マネージャーで、タイのアルミ製品の業界団体で名誉会長も務めるティラパーン・ピムトンさんは「アメリカへの輸出は量が多いが25%の関税措置はあまりに短期間のうちに実施となり、すべてのタイ企業にとって対応は困難だ。中国製品が関税障壁のないタイにさらに流入するおそれもありタイ政府の迅速な対応が必要だ」と話しています。
タイ全体ではアメリカ向けのアルミニウムの輸出が2024年1年間で2億7000万ドルあまり、日本円にしておよそ400億円で東南アジアでは最も多くなっています。
《アメリカ国内でも影響が》
アルミ缶に影響 アメリカのビール業界で懸念広がる
トランプ政権による鉄鋼製品やアルミニウムへの関税措置について、アメリカのビール業界で懸念が広がっています。
中西部オハイオ州のコロンバスで2013年からビールをつくっている醸造所「セブンス・サン・ブルーイング」です。7種類のホップをブレンドしたエールタイプのビールが主力商品で、年間およそ75万本の缶ビールを生産・販売しています。アルミ缶はカナダから仕入れていますが、トランプ政権がアルミニウムへの関税を25%に引き上げた場合、大きな影響を受けるといいます。
アメリカ国内の業者はすでに大手メーカーと契約しているため、供給の余力がなく、アメリカ国内でアルミニウムを調達するのは難しいといいます。関税措置が発動されれば調達コストの増加を踏まえて6缶パックの代表的な商品を5%から10%ほど、値上げすることを検討しています。
さらに去年の夏以降、缶コーヒーやカクテルなどの販売もはじめ、ことしはさらに多くのアルミ缶が必要になる見込みだっただけに、経営にとって大きな痛手になるといいます。
共同オーナーのコリン・カストーレさんは「関税によるコストの増加は来年の事業計画や従業員を雇用する能力など、われわれに大きなダメージとなるだろう。アメリカの人々はビールの価格にとても敏感で、1ドルでも値上げすれば売り上げは落ちるので、われわれも神経質になっている。ビールはすべての人たちが飲むもので、多くの人の財布に影響することになる」と話しています。
さらに、ビールの醸造に使うステンレス製のタンクやその部品についてはアメリカの企業から仕入れていますが、原料は中国などから輸入しているということです。このため、鉄鋼製品への関税が引き上げられると、今後、タンクの増設や部品の交換が必要になった場合にコストの上昇につながると懸念しています。
カストーレさんは「われわれにとってこれ以上、悪い関税はないだろう。関税措置に対してどのように備えていいか誰も分からず、混乱がさらなる混乱を生み出すという典型的な例になっている」と述べました。
醸造所に併設されているバーを訪れていた客は「関税はジョークみたいなもので、アメリカの消費者にとってさらなる打撃となるだろう。ここでビールを買うのを考え直すことはないが、買うのを少し減らすことはあるかも知れない」と話していました。
鉄鋼・アルミニウムへの関税 経緯は
鉄鋼やアルミニウムへの関税措置はトランプ政権の1期目の2018年に導入されました。中国による過剰生産によって鉄鋼製品やアルミニウムが安く輸入され、安全保障上の脅威になっているとして、通商拡大法232条を使って多くの国から輸入される鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を一律に課しました。
その後、
▽メキシコやカナダなどからの鉄鋼製品やアルミニウムについては関税の適用が除外されたほか
▽日本に対してもバイデン政権時代の2022年、鉄鋼について「関税割当」と呼ばれる制度を導入して日本からの輸入のうち年間125万トンまでは関税を上乗せしない対応となっています。
ただ、アメリカでは中国製の鉄鋼とアルミニウムがメキシコを経由して流入することへの警戒が続き、2024年7月にはバイデン前政権のもとで
▽鉄鋼は生産工程の一部がアメリカ、メキシコ、カナダで行われていること
▽アルミについては製錬の工程が中国などで行われていないということを関税の適用除外の条件として課すなど対応を厳格にしていました。
今回はこれまでの例外措置を撤廃することで25%の関税が課されることになります。