日本新聞: パソコン「サポート詐欺」電話かけてみた 72分間の通話の全容

『お客様おきゃくさまのパソコンはウイルスに感染かんせんしました』

『あなたの責任せきにんになりますね。500万まんの罰金ばっきんかかります』

不ふ自然しぜんな日本語にほんごで私わたしに“脅おどし”をかける男性だんせい。

いま被害ひがいが後ごを絶たたない「サポート詐欺さぎ」と呼よばれるデジタル犯罪はんざいの一幕ひとまくです。

ウイルスに感染かんせんしたとうそをいって被害ひがい者しゃに電話でんわをかけさせ、「サポート料りょう」などといって金きんをだまし取だましとる、この手口てぐち。私わたしは「サポート窓口まどぐち」に電話でんわ取材しゅざいを試こころみました。

72分ふんにおよぶ通話つうわから見みえてきた彼かれらの『サポート』とは…

※これは専門せんもん家かの立ち会たちあいのもと行いっています。決けっしてまねはしないで下ください。

(デジタルでだまされない取材しゅざい班はん福田ふくだ陽平ようへい)

サポート詐欺さぎとは？

『セキュリティ上じょうの理由りゆうにより、このPCへのアクセスはブロックされています』

ネットを楽たのしんでいて、こんな警告けいこくが出でたら、誰だれしも驚おどろいてしまうと思おもいます。しかも、警告けいこく音おんまで。

よく見みると、サポート窓口まどぐちのような電話でんわ番号ばんごうが添そえられています。

「ウイルスに感染かんせんした」などと偽にせの画面がめんで慌あわてさせ、「サポートする」と優やさしいことばをかけて、電子でんしマネーカードなどをだまし取だましとる。こうした「サポート詐欺さぎ」がいま、増ふえています。

どんな手口てぐちで、私わたしたちをだますのか。

私わたしはセキュリティーの専門せんもん機関きかん「情報じょうほう処理しょり推進すいしん機構きこう＝IPA」の中島なかじま尚樹なおきさんに協力きょうりょくを依頼いらいし、中島なかじまさん立ち会たちあいのもと、実際じっさいに「サポート窓口まどぐち」に電話でんわをかけてみました。

※繰り返くりかえしますが、まねはしないでください。

外国がいこく人じん？謎なぞの男性だんせい

「はい。お電話でんわありがとうございます。はい。問題もんだいどうぞ」

電話でんわに出でたのは、男性だんせいの声こえ。日本語にほんごを話はなしますが、なまりが強つよく、ネイティブスピーカーではないようです。ここでは、A氏しとします。

A氏しは、いきなりドキッどきっとするようなことを言いってきました。

「お客様おきゃくさまのパソコンはウイルスに感染かんせんしました。お客様おきゃくさまの個人こじん情報じょうほうや銀行ぎんこうの残高ざんだかも盗ぬすまることができます。分わかりましたか？」

相あいづちを打うちながら聞きいていると、ソフトウェアをダウンロードするよう指示しじしてきました。中島なかじまさんに、何なにかあっても問題もんだいのないパソコンを用意よういしてもらい、指示しじに従したがってみます。

ソフトはパソコンを外部がいぶから遠隔えんかく操作そうさするためのもの。インストールを終おえると、すぐに遠隔えんかく操作そうさがはじまり、勝手かってにパソコンが動うごき始はじめました。

偽にせの身分みぶん証しょう

A氏しは、まず1枚まいの画像がぞうを見みせてきました。

白人はくじんの男性だんせいが写うつった社員しゃいん証しょうのようです。

「私わたしの名前なまえは、マイク・ミラーです。米国べいこく人じんです。でも、日本にっぽんのマイクロソフト会社かいしゃに8年ねん前まえからパソコンのエンジニアとして働はたらいています」

自分じぶんを大手おおてIT企業きぎょうの社員しゃいんだというのです。念ねんのため、日本にっぽんマイクロソフトに確認かくにんしましたが、社員しゃいん証しょうは全まったくの偽物にせものでした。

アダルトサイトにこだわる

そして、私わたしが何なにのサイトを見みていた時ときに警告けいこくが出でたのかをしつこく聞きいてきました。

「もう一度もういちど教おしえていただけませんか。どんな画面がめんを見みていたとき、この問題もんだいが出でてきましたか？」

今回こんかい、中島なかじまさんのアドバイスどおり、「アダルトサイトです」と答こたえました。A氏しはその後そのご、私わたしがアダルトサイトを見みたことが原因げんいんでトラブルが起おきたということを、ことあるごとに強調きょうちょうしてくるようになります。

「ウイルス」の解説かいせつ？

A氏しはあるサイトを立たち上あげ、そこに記載きさいされた解説かいせつ文ぶんを元もとに、私わたしのパソコンが感染かんせんしたというウイルスについて説明せつめいを始はじめました。

「一いち回かいよくわかるために、一いち回かい自分じぶんで声こえ出だして読よんでください」

解説かいせつ文ぶんの一部いちぶを、私わたしに読み上よみあげるように指示しじし、危険きけんなウイルスに感染かんせんしたことを分わからせようとしてきます。

続つづいて、大量たいりょうのファイルの一覧いちらんをみせてきました。

A氏し「開ひらいてみてください。この中なかのひとつを開ひらいてみて」

私わたしはひとつを開あけてみました。

出でてきたのは文字もじ化かけした文書ぶんしょ。

「泥棒どろぼうたちの秘密ひみつの犯罪はんざいなコードです。分わかりましたか？このコードのせいでこの泥棒どろぼうたちがお客様おきゃくさまの銀行ぎんこうからお金おかねも、盗ぬすむことができます。何なにか犯罪はんざい仕事しごとのため、お客おきゃくさまのパソコンを使つかうことができます。だからこのすべてのコードがね。いま削除さくじょしなければなりません。わかりましたか？」

中島なかじまさんによると、全まったくのでたらめだといいます。そもそもプログラムのコードにさえなっていない意味いみ不明ふめいの文字もじ列れつであることは、私わたしにもわかりました。

謎なぞの“生涯しょうがい契約けいやく9万まん円えん” 支払しはらい方法ほうほうは

ほかにも「スマホもすでに感染かんせんしている」といったり、攻撃こうげきを行おこなったハッカーたちのサイトだというページをみせたりして「恐怖きょうふ」をあおってきます。

私わたしの不安ふあんが高たかまったと思おもったのか、A氏しは修理しゅうり費ひとセキュリティー対策たいさくのサポートプランを提示ていじしてきました。

まず、パソコンの修理しゅうり代だいとして3万まん円えん。加くわえて、パソコンなどに導入どうにゅうできるセキュリティー製品せいひんやサポートサービスの契約けいやくも迫せまってきます。

▽5年ねん契約けいやくが3万まん円えん、▽7年ねん契約けいやくが5万まん円えん、さらに▽生涯しょうがい契約けいやくだと9万まん円えんだといいます。

私わたしが悩なやんでいると「9年ねん契約けいやくでは修理しゅうり代だいは無料むりょう」とか「契約けいやくしなければ、アダルトサイトを見みていたことをハッカーが人々ひとびとに送おくってしまう」などと追い立おいたててきます。

9年ねん契約けいやくに申し込もうしこむと言いってみました。

コンビニでの対応たいおうまで指示しじ

続つづいては、支払しはらい方法ほうほうの説明せつめいです。

実際じっさいにプリペイドカードの画像がぞうをみせられ、コンビニエンスストアで買かってくるように指示しじされました。

A氏しが強調きょうちょうしたのが店員てんいんに使用しよう目的もくてきを聞きかれたときの対応たいおうです。

「個人こじんのアプリのため」

そう答こたえるよう何なん度ども念ねん押おししてきます。コンビニエンスストアでは、高額こうがくなプリペイドカードの購入こうにゅうなど、不審ふしんな点てんがある場合ばあい、店みせ側がわから声こえをかける取り組とりくみが広ひろがっています。

A氏しは「ウイルス削除さくじょを目的もくてきにアプリを購入こうにゅうすると、特別とくべつに税金ぜいきんがかかってしまうので、絶対ぜったいに本当ほんとうのことを言いわないように」と強つよく求もとめてきました。

（※特別とくべつに税金ぜいきんがかかるというのは、もちろんA氏しのうそです）

最後さいごに、A氏しは買かいに行いく間まは、電話でんわを切きらないこと、パソコンもそのままにしておくことを指示しじしてきました。

支払しはらい渋しぶると「ひょう変ひょうへん」

「いってらっしゃい。気きをつけて」

私わたしはもちろん、カードを購入こうにゅうしません。すぐに電話でんわを切きってみました。すると、すぐに折り返おりかえしの電話でんわが…。

非ひ通知つうちです。

A氏し「もしもし？お客様おきゃくさま、どうして電話でんわ切きりましたか？私わたしが前まえに言いわれました。電話でんわ絶対ぜったい切きらないでください。どうして切きりましたか？」

記者きしゃ「電波でんぱが悪わるくて…」

A氏し「お客様おきゃくさまが変へんな動画どうがみていましたね。この変へんな動画どうがのサイトに危あぶないファイルに間違まちがいなくクリックしてからこの問題もんだいが出でてきましたね。今いまからお客様おきゃくさま、このパソコンの修理しゅうりしないと、この泥棒どろぼうたちがすべてのお客おきゃくさまのパソコンからすべてのこの変へんな動画どうががこの人々ひとびとに送おくります。よろしいですか。すべてのデータが盗ぬすまれてもいいですか。教おしえてください」

「500万まんの罰金ばっきんかかります」

支払しはらいを渋しぶる私わたしに別べつの男おとこが電話でんわに出でてきました。

A氏しの「先輩せんぱい」だというB氏し。B氏しは、突然とつぜんパソコンのカメラを動うごかし、こちらの様子ようすを撮影さつえいしようとしてきます。

バシャバシャとシャッター音おんが鳴なります。

B氏し「困こまってくださいね。間違まちがってるから。やったミスの責任せきにん取とってくださいね。あなたの写真しゃしんを撮とってるから、あなたの顔かおの写真しゃしんと一緒いっしょに、私わたしが新聞しんぶんで送おくりますね。新聞しんぶんで送おくっちゃいます。テレビでみせてさしあげます。みんな日本にっぽんが見みますね。この人ひとのせいで、われわれのパソコンが困こまってます、この人ひとは、おれおれの詐欺さぎやってますっていわれますから、あなたの生活せいかつ困こまります。500万まんの罰金ばっきんかかります」

私わたしがパソコンをウイルスに感染かんせんさせたことで、ほかの日本にっぽんの人ひとたちにも被害ひがいが及およんでいると迫せまってきたのです。

パソコンのボリュームを最大さいだいにして、大おおきなアラート音おんを鳴ならしてきました。日頃ひごろからサイバー犯罪はんざいの取材しゅざいをしている私わたしでさえ、この状況じょうきょうには正直しょうじき、戸惑とまどいました。

カメラが起動きどうされていたことに気きづいていた私わたしは、肩かたの部分ぶぶんだけが写うつるよう、体からだをずらしていました。

顔かおは撮とられていません。さらに、アダルトサイトとカメラの映像えいぞうを同時どうじに表示ひょうじさせて、圧力あつりょくをかけてきます。

問い詰といつめると…

私わたしは「サポート詐欺さぎを行おこなっているのではないか」とただすことにしました。

またA氏しが出でてきます。

A氏し「いいえ。詐欺さぎのためでないですよ」

記者きしゃ「さっき私わたしのことを脅迫きょうはくしたじゃないですか」

A氏し「いえいえそんなこと言いわないです」

さらに、私わたしの写真しゃしんを「警察けいさつ署しょ」に送おくったとも言いってきました。会話かいわはほとんど成立せいりつしません。またB氏しが出でてきます。

B氏し「ばかだろ。まぬけ」

記者きしゃ「何なにですか？」

B氏し「お客様おきゃくさまがね。まぬけのひとです。おまえです」

記者きしゃ「どうしてこんなことをしてるんですか？」

A氏し「時間じかんの無駄むだしないでください。電話でんわ切きってください」

記者きしゃ「そっちが切きればいいんじゃないですか」

A氏し「いえいえ、お客様おきゃくさまが切きります。お客様おきゃくさまがばかですから、お客様おきゃくさまが切きります。まぬけ人じんです。お客様おきゃくさまが、おまえです。おまえ」

ほかにも「犯罪はんざいの認識にんしきがあるのか」とか「誰だれかに指示しじされているのか」などと質問しつもんしましたが、答こたえることはありませんでした。

これ以上いじょうの取材しゅざいは見込みこめないと判断はんだんし、私わたしは電話でんわを切きりました。

過去かこ最多さいたの相談そうだん件数けんすう

この「サポート詐欺さぎ」。いま、被害ひがいが拡大かくだいしています。

IPAでは、「サポート詐欺さぎ」に関にかんする相談そうだんが2015年ねんから寄よせられていて、去年きょねん1年間ねんかんは2365件けんと、過去かこ最多さいたです。さらに、ことし1月つきにはひとつきとしては最もっとも多おおい401件けんの相談そうだんがあったということです。

取材しゅざい環境かんきょうを整ととのえ、立ち会たちあいをしてくれた中島なかじまさんは、巧たくみに練ねられた台本だいほんのもと、被害ひがい者しゃの心理しんりをつく手法しゅほうをとっていると指摘してきしています。

「偽にせの社員しゃいん証しょうを見みせたり、コンビニでプリペイドカードを買かう際さいに、店員てんいんに怪あやしまれないために『個人こじんのアプリ購入こうにゅうのため』と説明せつめいさせようとしたりと手口てぐちは巧妙こうみょうです。知識ちしきのないユーザーをウイルス感染かんせんしているとだまして、焦あせらせることが狙ねらいだと思おもいます」

対策たいさくは「かけないこと」

対策たいさくは、何なにより電話でんわをかけないことです。

中島なかじまさんによると、正規せいきのセキュリティー製品せいひんを提供ていきょうする会社かいしゃが、一方いっぽう的てきに警告けいこくを出だして、サポート窓口まどぐちに連絡れんらくをとるよう呼よびかけることは、原則げんそくないといいます。

また、日本にっぽんマイクロソフトも警告けいこくを表示ひょうじさせた上うえ、電話でんわをかけるよう誘導ゆうどうすることはしないとしています。

警告けいこくが出でたら…どう対処たいしょ

偽にせの警告けいこくは、さまざまな種類しゅるいがありますが、一見いっけん、どこを押おしても表示ひょうじが消きえないように見みせかける手口てぐちもあります。

そうした際さいは

▽キーボードのエスケープキー（Esc）を押おして全ぜん画面がめん表示ひょうじを終了しゅうりょうさせれば、警告けいこくを消けすボタンが出でてくるほか、

▽ブラウザのソフトやパソコン自体じたいを強制きょうせい終了しゅうりょう・再さい起動きどうさせるのもひとつです。ただ、強制きょうせい終了しゅうりょうさせると、直前ちょくぜんに見みていたサイトを再さい表示ひょうじさせる機能きのうがあることがありますので、再ふたたび開ひらいてしまわないよう注意ちゅういしてください。