日本新聞: プロ野球選手引退後「会社経営者」希望 3年連続トップなぜ？

「やりがいは、すごくあります。人ひとのため、周まわりが喜よろこんでくれるなら、と思おもうようになりました」

取材しゅざいにこう答こたえてくれたのは、会社かいしゃ経営けいえい者しゃとして、プロ野球やきゅうとは違ちがうフィールドに活躍かつやくの場ばを移うつした、元もとプロ野球やきゅう選手せんしゅです。

プロ野球やきゅうの若手わかて選手せんしゅが、引退いんたい後ごにつきたい職業しょくぎょうは「会社かいしゃ経営けいえい者しゃ」で、3年ねん連続れんぞくでトップ。そんな調査ちょうさ結果けっかがまとまりました。

なぜなのでしょうか。

「会社かいしゃ経営けいえい者しゃ」3年ねん連続れんぞくトップ

プロ野球やきゅうで昨さくシーズン、戦力せんりょく外がいとなったり現役げんえきを引退いんたいしたりした選手せんしゅのうち、およそ75％が野球やきゅうに関係かんけいする仕事しごとに就ついた一方いっぽう、若手わかて選手せんしゅが引退いんたい後ごにつきたい職業しょくぎょうは「会社かいしゃ経営けいえい者しゃ」が3年ねん連続れんぞくで最もっとも多おおくなったことが、NPB＝日本にっぽん野球やきゅう機構きこうの調査ちょうさでわかりました。

実際じっさいは野球やきゅう関係かんけいに約やく75％

NPBは毎年まいとし、12球団きゅうだんから戦力せんりょく外がいとなった選手せんしゅや、現役げんえきを引退いんたいした選手せんしゅの調査ちょうさ結果けっかを発表はっぴょうしています。

それによりますと、昨さくシーズンは143人にんが対象たいしょうで、平均へいきん年齢ねんれいは27.8歳さい、プロ野球やきゅうの球団きゅうだんに在籍ざいせきした年数ねんすうの平均へいきんは、7.3年ねんでした。

このうち、74.8％にあたる107人にんが、球団きゅうだんの職員しょくいんやスタッフや、育成いくせい選手せんしゅとして現役げんえきを続つづけるなど、野球やきゅうに関係かんけいする仕事しごとに就つきました。

引退いんたい後ごの進路しんろ「不安ふあん」も66％

一方いっぽう、NPBが引退いんたい後ごの進路しんろについて若手わかて選手せんしゅを対象たいしょうに去年きょねん10月つきから11月つきにかけてアンケート調査ちょうさを行おこなった結果けっか、引退いんたい後ごにつきたい職業しょくぎょうで最もっとも多おおかったのは「会社かいしゃ経営けいえい者しゃ」で19.9％と3年ねん連続れんぞくで最もっとも多おおくなりました。

次ついで、

「高校こうこう野球やきゅうの指導しどう者しゃ」が18.3％、

「一般いっぱん企業きぎょうに就職しゅうしょく」が16.7％と続つづき、

企業きぎょうへの就職しゅうしょくは前回ぜんかいに比くらべて9ポイント高たかくなりました。

また、引退いんたい後ごの進路しんろについて、「不安ふあんがある」と回答かいとうしたのは66％でした。

NPBの担当たんとう者しゃ

「仕事しごとが多様たよう化かする中なか、一般いっぱん企業きぎょうで働はたらきたいという堅実けんじつ指向しこうも出でてきている。選手せんしゅとして活躍かつやくしてほしいのが第だい一いちだが、独立どくりつリーグやクラブチームなどでは数すう年ねん後ごに再ふたたび進路しんろの問題もんだいがきてしまい、野球やきゅう以外いがいの外そとの世界せかいに目めを向むけてもらうことも必要ひつようだ。選手せんしゅへの研修けんしゅう会かいなどで引退いんたい後ごのキャリアについて考かんがえる機会きかいを増ふやしたい」

会社かいしゃ経営けいえい者しゃに転身てんしん山下やました峻たかしさんの場合ばあい

会社かいしゃ経営けいえい者しゃとして、プロ野球やきゅうとは全まったく違ちがうフィールドに活躍かつやくの場ばを移うつしたのは、プロ野球やきゅう、DeNAの元もとピッチャー、山下やました峻たかしさん（30）です。

山下やましたさんは、2014年ねんにドラフト6位いでDeNAに入団にゅうだん。140キロを超こえるストレートと鋭するどいスライダーが持ち味もちあじで注目ちゅうもくされましたが、肩かたやひじのけがに悩なやまされ、2016年ねんに戦力せんりょく外がい通告つうこくを受うけました。

思おもうようなプレーができなくなるうちに、引退いんたい後ご、自分じぶんが何なにをしたいのか考かんがえるようになったといいます。

闘病とうびょうの経験けいけん

その時とき、頭あたまに浮うかんだのは中学ちゅうがく1年生ねんせいの時ときに急性きゅうせいリンパ性せい白血病はっけつびょうを発症はっしょうした経験けいけんです。

およそ2年ねんの長ながい闘病とうびょう生活せいかつでした。

山下やました峻たかしさん

「入院にゅういんして両親りょうしんが共働ともばたらきになったり、親おやが病室びょうしつで毎日まいにち泊とまったり、すごい迷惑めいわくをかけたと思おもったので、病気びょうきになったときに困こまらないよう伝つたえたいというのがきっかけでした。保険ほけんの営業えいぎょうの仕事しごとをしたいなと」

プロ野球やきゅう選手せんしゅを引退いんたい後ご、知人ちじんのつてを頼たよって保険ほけん代理だいり店てんで、営業えいぎょうの仕事しごとに就ついた山下やましたさん。新あたらしい生活せいかつに徐々じょじょに慣なれてきた頃ころ、出身しゅっしん地ちの広島ひろしま県けんでタクシー会社かいしゃの創業そうぎょう者しゃが亡なくなり、あとを継つがないかと知人ちじんから持もちかけられました。

山下やました峻たかしさん

「『若わかい方ほうの力ちからでタクシーのイメージを変かえてほしい』と。社員しゃいんからは『この若造わかぞうが』と言いわれることも覚悟かくごしたが、一いち人にん一いち人にんと話はなしをさせてもらって、会社かいしゃに対にたいする思おもいを聞きき、一緒いっしょに頑張がんばりたいと思おもった」

いろいろな選択肢せんたくしあること知しって

とまどいながらも、背中せなかを押おされ、広島ひろしま県けんに戻もどることを決断けつだんし、去年きょねん3月つき、広島ひろしま県けん竹原たけはら市しのタクシー会社かいしゃの社長しゃちょうに就任しゅうにん。

およそ20人にんの乗務じょうむ員いんとの対話たいわを大事だいじにしながら、営業えいぎょうの経験けいけんを生いかして積極せっきょく的てきに顧客こきゃくの開拓かいたくにあたり、旅行りょこう客きゃく向むけのプランを企画きかくするなど事業じぎょうの拡大かくだいに力ちからを注そそいでいます。

山下やました峻たかしさん

「やりがいはすごくあります。頑張がんばれる時ときはどんな時ときかと考かんがえた時とき、人ひとのため、周まわりが喜よろこんでくれるならと思おもうようになりました。竹原たけはら市しを盛り上もりあげるために貢献こうけんしたいと思おもっています」

山下やましたさんに選手せんしゅへのアドバイスを聞きくと、こんな答こたえが返かえってきました。

「引退いんたいして、改あらためて外そとから見みると、野球やきゅう選手せんしゅってやっぱりむちゃくちゃかっこいいんですよね。今いま、野球やきゅう選手せんしゅでいられるのって、俺おれから見みたらすごいことです。あくまで個人こじん的てきな意見いけんですが、プロ野球やきゅうでいられる間まは、選手せんしゅとしての人生じんせいをしっかり全まっとうして、選手せんしゅを終おえてから何なにをしたいのか、考かんがえてもいいと思おもっています。それでももし引退いんたい後ごへの不安ふあんがある選手せんしゅがいたら、再さい就職しゅうしょくに成功せいこうした元もと選手せんしゅに話はなしを聞きいて欲ほしいです。そして、いろいろな選択せんたく肢しがあることを知しって欲ほしい。プロ野球やきゅう選手せんしゅ会かいの勉強べんきょう会かいやサポート体制たいせいを活用かつようしている選手せんしゅもいますし、そうした話はなしを聞きけば不安ふあん材料ざいりょうを減へらすことができるのではないでしょうか」

「自営じえい・起業きぎょう」わずか3.5％

会社かいしゃ経営けいえい者しゃとして成功せいこうするケースがある一方いっぽう、NPBの調査ちょうさでは昨さくシーズン、戦力せんりょく外がいとなったり引退いんたいしたりした選手せんしゅのうち、自営じえい・起業きぎょうした人ひとは3.5％にとどまっています。

NPBによりますと、引退いんたい後ご、野球やきゅうに関係かんけいする仕事しごとに就つくのが多おおくを占しめる傾向けいこうは、調査ちょうさ開始かいしの2007年ねん以降いこう、変かわっていないということです。

野球やきゅう関係かんけい以外いがいへの再さい就職しゅうしょくが進すすまない理由りゆうについて、東京とうきょう・港みなと区くに本社ほんしゃがある人材じんざい紹介しょうかい会社かいしゃ、「ソフトバンクヒューマンキャピタル」の木崎きざき秀夫ひでお社長しゃちょうは、こう指摘してきしています。

木崎きざき秀夫ひでお社長しゃちょう

「スポーツを一生いっしょう懸命けんめいやってきたので、社会しゃかいや世間せけんのことをよく知しらない。日本にっぽんプロ野球やきゅう選手せんしゅ会かいから面談めんだんの希望きぼうがありますが、毎年まいとし10人にん程度ていどにとどまっています。企業きぎょうと面談めんだんし、背中せなかを押おすが、なかなか一いち歩ほを踏み出ふみだしきれないところは思おもった以上いじょうに不安ふあん感かんは大おおきいんだろうと感かんじます」

プロで競争きょうそう勝ち抜かちぬいた力ちから金きんの卵たまご

2014年ねんから引退いんたいしたアスリートの再さい就職しゅうしょくを支援しえんするサービスにあたっているこの会社かいしゃ。およそ1000の企業きぎょうが登録とうろくし、元もとアスリートの社員しゃいんがカウンセリングなどをして就職しゅうしょく活動かつどうをサポートしていて、これまでにおよそ90人にんのプロ野球やきゅう選手せんしゅの再さい就職しゅうしょくにつなげています。

木崎きざき秀夫ひでお社長しゃちょう

「競争きょうそうを勝ち抜かちぬいてプロになった人ひとの力ちからは、社会しゃかいから評価ひょうかされる金きんの卵たまごであることは間違まちがいないと思おもっています。セカンドキャリアにはいろいろな可能かのう性せいがあるのに、引退いんたいすると狭せまい世界せかいの中なかで自分じぶん自身じしんの進路しんろを決きめてしまう。実じつは世の中よのなか、もっと可能かのう性せいを評価ひょうかする会社かいしゃや経営けいえい者しゃはたくさんいます」

自分じぶんの意思いしで次つぎの一いち歩ほをキャリア教育きょういくも肝心かんじん

一方いっぽうで、サポート体制たいせいが整ととのったとしても、選手せんしゅ自身じしんが自分じぶんの意思いしで次つぎの一いち歩ほを踏み出ふみだすこと、それに現役げんえきからのキャリア教育きょういくが肝心かんじんだといいます。

木崎きざき秀夫ひでお社長しゃちょう

「パソコンのエクセルやワードが触ふれなくても、『うちが全部ぜんぶ教おしえますよ』という企業きぎょうは多おおい。受け入うけいれてくれる体制たいせいは整ととのいつつあるが、選手せんしゅはふんぎりがつかない。日本にっぽんプロ野球やきゅう選手せんしゅ会かいでは選手せんしゅに勉強べんきょう会かいを開ひらいて、引退いんたい後ごの生活せいかつを考かんがえる機会きかいを設もうけていますが、こうした機会きかいをさらに活用かつようするなどして、セカンドキャリアを考かんがえる機会きかいを増ふやすべきではないか」