“旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほう下かで不妊ふにん手術しゅじゅつ強制きょうせい“ 最高裁さいこうさい大だい法廷ほうていで29日にち弁論べんろん

弁論べんろんが開ひらかれるのは、旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうをめぐって全国ぜんこく各地かくちで起おこされた裁判さいばんのうち、札幌さっぽろ、仙台せんだい、東京とうきょう、大阪おおさかの高等こうとう裁判所さいばんしょで判決はんけつが出だされ、上告じょうこくされている5件けんです。

いずれの原告げんこくも旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうのもとで障害しょうがいなどを理由りゆうに不妊ふにん手術しゅじゅつを強制きょうせいされ、「差別さべつ的てきな取り扱とりあつかいで憲法けんぽうに違反いはんしていた」と主張しゅちょうして国くにに賠償ばいしょうを求もとめています。

大だい法廷ほうていでは原告げんこく本人ほんにんが意見いけんを述のべます。

何なにも知しらされずに不妊ふにん手術しゅじゅつを受うけさせられ、その後そのご、結婚けっこん相手あいてにも打ち明うちあけられずにいた原告げんこくもいて、子こどもを産うみ育そだてる自由じゆうを奪うばわれたとして長年ながねん苦くるしんできた思おもいを語かたります。

原告げんこくや傍聴ぼうちょうする人ひとなど多おおくの障害しょうがい者しゃに配慮はいりょし、最高裁さいこうさいは敷地しきち内ないに案内あんない役やくの手話しゅわ通訳つうやく者しゃを配置はいちし、ふりがなが付ついた案内あんない表示ひょうじを作つくるなどの初はじめての対応たいおうを行おこなうことにしています。

5件けんの裁判さいばんで高等こうとう裁判所さいばんしょはいずれも「旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうが憲法けんぽうに違反いはんしていた」と認みとめましたが、4件けんが国くにに賠償ばいしょうを命めいじたのに対にたいし、1件けんは手術しゅじゅつから20年ねん以上いじょうたっていて賠償ばいしょうを求もとめられる「除じょ斥期間きかん」が過すぎたとして訴うったえを退しりぞけました。

最高裁さいこうさいはことしの夏なつにも判決はんけつを言い渡いいわたし、統一とういつ判断はんだんを示しめす見通みとおしです。

旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうとは

「旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほう」は戦後せんごの出産しゅっさんブームによる急激きゅうげきな人口じんこう増加ぞうかなどを背景はいけいに1948年ねんに施行しこうされた法律ほうりつです。

法律ほうりつでは精神せいしん障害しょうがいや知的ちてき障害しょうがいなどを理由りゆうに本人ほんにんの同意どういがなくても強制きょうせい的てきに不妊ふにん手術しゅじゅつを行おこなうことを認みとめていました。

当時とうじは親おやの障害しょうがいや疾患しっかんがそのまま子こどもに遺伝いでんすると考かんがえられていたことが背景はいけいにあり、条文じょうぶんには「不良ふりょうな子孫しそんの出生しゅっしょうを防止ぼうしする」と明記めいきされていました。

旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうは1996年ねんに母体ぼたい保護ほご法ほうに改正かいせいされるまで48年間ねんかんにわたって存続そんぞくし、この間このかんに本人ほんにんの同意どういなしに不妊ふにん手術しゅじゅつが行おこなわれた人ひとはおよそ1万まん6500人にんに、本人ほんにんが同意どういしたケースを含ふくめると不妊ふにん手術しゅじゅつを受うけた人ひとはあわせて2万まん5000人にんにのぼるとされています。

国くには「当時とうじは合法ごうほうだった」として謝罪しゃざいや補償ほしょうを行おこなってきませんでしたが、不妊ふにん手術しゅじゅつを受うけさせられた女性じょせいが国くにに損害そんがい賠償ばいしょうを求もとめる裁判さいばんを起おこしたことなどを受うけて、2019年ねんに旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうのもとで不妊ふにん手術しゅじゅつを受うけた人ひとたちを救済きゅうさいするための法律ほうりつが議員ぎいん立法りっぽうで施行しこうされました。

救済きゅうさい法ほうでは旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうを制定せいていした国会こっかいや政府せいふを意味いみする「我々われわれ」が「真摯しんしに反省はんせいし、心こころから深ふかくおわびする」としています。

そのうえで本人ほんにんが同意どういしたケースも含ふくめ不妊ふにん手術しゅじゅつを受うけたことが認みとめられれば、一時いちじ金きんとして一律いちりつ320万まん円えんを支給しきゅうするとしています。

国くにのまとめによりますと、4月つき末まつまでに1102人にんに一時いちじ金きんの支給しきゅうが認みとめられたということです。

一方いっぽう、これまで1審しんと2審しんで原告げんこくが勝訴しょうそした11件けんの判決はんけつでは一時いちじ金きんを大おおきく上回うわまわる、1人にんあたり最大さいだいで1650万まん円えんの賠償ばいしょうを国くにに命めいじています。

「子こどもを産うみたかった」何なにも知しらされずに不妊ふにん手術しゅじゅつ

大阪おおさかの原告げんこくで、ともに聴覚ちょうかく障害しょうがいがある高齢こうれいの夫婦ふうふは、「今いまでも怒いかりは収おさまらない」として長年ながねんの苦くるしみや悔くやしさを最高さいこう裁判所さいばんしょで訴うったえたいといいます。

70代だいの妻つまは50年ねん前まえ、帝王ていおう切開せっかいで出産しゅっさんしましたが、この手術しゅじゅつの時ときに何なにも知しらされずに不妊ふにん手術しゅじゅつを受うけさせられたということです。

生うまれた子こどももまもなく亡なくなりました。

妻つまは「不妊ふにん手術しゅじゅつをされているとは夢ゆめにも思おもっていなかったので後ごから知しったときは本当ほんとうにショックで、どこに怒いかりをぶつければいいのかわかりませんでした。子こどもを産うみたかったです」と手話しゅわで話はなしていました。

夫婦ふうふは旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうの存在そんざいを知しらないまま長年ながねん、苦くるしみ続つづけてきましたが、同おなじように手術しゅじゅつを強制きょうせいされた人ひとたちが国くにを相手あいてに裁判さいばんを起おこしたことをきっかけに自身じしんの被害ひがいを認識にんしきし、5年ねん前まえに訴うったえを起おこしました。

1審しんでは訴うったえを退しりぞけられたものの2審しんの大阪おおさか高等こうとう裁判所さいばんしょが国くにに賠償ばいしょうを命めいじる初はじめての判決はんけつを言い渡いいわたし、そしてきょう、最高さいこう裁判所さいばんしょ大だい法廷ほうていの弁論べんろんを迎むかえます。

夫婦ふうふは、国くにの政策せいさくによって子こどもを産うみ育そだてることができなかった苦くるしみや悔くやしさを訴うったえたいといいます。

妻つまは「子こどもがいたら一緒いっしょに裁縫さいほうしたり、旅行りょこうに行いったりしたかったです。みんな同おなじように子こどもを産うんで育そだてられるような社会しゃかいにしてほしい。障害しょうがいがあるからといって差別さべつをしないでほしいと訴うったえたいです」と話はなしていました。

80代だいの夫おっとは「聴覚ちょうかくに障害しょうがいがあっても子こどもは育そだてられます。旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうのもとで行おこなわれた不妊ふにん手術しゅじゅつは聴覚ちょうかく障害しょうがい者しゃに対にたいする差別さべつで、今いまでも怒いかりは収おさまりません。国くにには、これは悪わるいことだったと認みとめてもらいたいと思おもっています」と話はなしていました。

29日にちの弁論べんろん 障害しょうがい者しゃが参加さんかしやすいように初はつの取り組とりくみも

29日にちの弁論べんろんで最高さいこう裁判所さいばんしょは、原告げんこく側がわの要望ようぼうを受うけ、障害しょうがいがある人ひとが裁判さいばんに参加さんかしやすいように、さまざまな初はじめての取り組とりくみを行おこないます。

裁判所さいばんしょの敷地しきち内ないには手話しゅわ通訳つうやく者しゃを配置はいちし、所持しょじ品ひん検査けんさなどの手続てつづきで聴覚ちょうかく障害しょうがい者しゃをサポートします。

裁判所さいばんしょが傍聴ぼうちょうを希望きぼうする人ひとのため手話しゅわ通訳つうやく者しゃを手配てはいするのは全国ぜんこくの裁判所さいばんしょで初はじめてだということです。

知的ちてき障害しょうがい者しゃや視覚しかく障害しょうがい者しゃを想定そうていし、傍聴ぼうちょうを希望きぼうする人ひと向むけに配くばられる説明せつめい文ぶんなどには漢字かんじにふりがなをつけたり、点字てんじ版ばんも用意よういしたりします。

こちらも最高裁さいこうさいとしては初はじめての取り組とりくみだということです。

法廷ほうてい内ないでも、聴覚ちょうかく障害しょうがいがある人ひとなどのため最高裁さいこうさいでは初はじめて、原告げんこくが話はなした内容ないようを伝つたえるモニターが6台だい設もうけられるほか、原告げんこくの負担ふたんで手話しゅわ通訳つうやく者しゃが配置はいちされます。

こうした取り組とりくみについて弁護べんご団だんの関せき哉直人ただびと弁護士べんごしは、「障害しょうがい者しゃができるだけ傍聴ぼうちょうできるように最高裁さいこうさいが試行しこう錯誤さくごしながら対応たいおうしてくれたと評価ひょうかしている」とした一方いっぽう、「法廷ほうていでの手話しゅわ通訳つうやくは裁判所さいばんしょが費用ひようを負担ふたんすべきだと主張しゅちょうしたが採用さいようされなかったので、非常ひじょうに遺憾いかんだ。改善かいぜんしてほしい」と話はなしていました。

これまでの裁判さいばんは

旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうのもとで不妊ふにん手術しゅじゅつを強制きょうせいされた人ひとたちが国くにに賠償ばいしょうをもとめる裁判さいばんは、2018年ねんに知的ちてき障害しょうがいがある宮城みやぎ県けんの女性じょせいが仙台せんだい地方ちほう裁判所さいばんしょに初はじめて起おこし、その後そのご、全国ぜんこくに広ひろがりました。

弁護べんご団だんによりますと、これまでに39人にんが12の地方ちほう裁判所さいばんしょや支部しぶに訴うったえを起おこし、1審しんと2審しんであわせて20件けんの判決はんけつが言い渡いいわたされ、原告げんこくの勝訴しょうそが11件けん、敗訴はいそが9件けんとなっています。

これまでの判決はんけつでは多おおくの裁判所さいばんしょが旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうについて憲法けんぽう違反いはんと判断はんだんしたものの、不法ふほう行為こういを受うけて20年ねんが過すぎると賠償ばいしょうを求もとめる権利けんりがなくなるという「除じょ斥期間きかん」がそのまま適用てきようされるかどうかについて判断はんだんが分わかれました。

最初さいしょの判決はんけつとなった2019年ねんの仙台せんだい地裁ちさいの判決はんけつでは旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうは憲法けんぽうに違反いはんしていたという判断はんだんが示しめされましたが、賠償ばいしょうについては国くにの主張しゅちょうを認みとめ、手術しゅじゅつから20年ねん以上いじょうたっていて「除じょ斥期間きかん」が過すぎているとして訴うったえが退しりぞけられました。

その後そのご、全国ぜんこくの裁判所さいばんしょでも時間じかんの経過けいかを理由りゆうに原告げんこくの敗訴はいそが続つづきました。

おととし2月つき、大阪おおさか高裁こうさいが「除じょ斥期間きかんの適用てきようをそのまま認みとめることは著いちじるしく正義まさよし・公平こうへいの理念りねんに反はんする」と指摘してきして初はじめて国くにに賠償ばいしょうを命めいじる判決はんけつを言い渡いいわたすと、その翌月よくげつにも東京とうきょう高裁こうさいが「原告げんこくが国くにの施策しさくによる被害ひがいだと認識にんしきするより前まえに賠償ばいしょうを求もとめる権利けんりが失うしなわれるのは極きわめて酷こくだ」として「除じょ斥期間きかん」を適用てきようせず、国くにに賠償ばいしょうを命めいじました。

これ以降いこう、全国ぜんこくで原告げんこくの訴うったえを認みとめる判決はんけつが次々つぎつぎと出だされるようになり、去年きょねん3月つきには札幌さっぽろ高裁こうさいと大阪おおさか高裁こうさいが「除じょ斥期間きかん」をそのまま適用てきようせず国くにに賠償ばいしょうを命めいじました。

一方いっぽう、全国ぜんこくで初はじめて提訴ていそされ1審しんで原告げんこくの敗訴はいそとなった裁判さいばんについては去年きょねん6月つき、仙台せんだい高裁こうさいが「除じょ斥期間きかん」を理由りゆうに再ふたたび訴うったえを退しりぞけ、原告げんこく側がわが上告じょうこくしました。

最高さいこう裁判所さいばんしょ大だい法廷ほうていでは、札幌さっぽろ、仙台せんだい、東京とうきょう、大阪おおさかの高裁こうさいで判決はんけつがあったこれらの5件けんについてまとめて審理しんりされています。