日本新聞: それって応援？中傷？アスリートへのSNSひぼう中傷やまず

「あなたの家族かぞく全員ぜんいんが事故死じこしで死しんでほしい」

プロ野球やきゅう選手せんしゅに実際じっさいにSNSで届とどいたメッセージです。

こうしたネット上じょうのひぼう中傷ちゅうしょうや、根拠こんきょのない情報じょうほうは絶たえることがなく社会しゃかい問題もんだい化かしています。組織そしきが選手せんしゅを守まもる動うごきが出でてきていて、AIを使つかった監視かんしシステムも活用かつようされています。気付きづかないうちに加担かたんしてしまっていることもあるひぼう中傷ちゅうしょうを防ふせぐために。SNSを使つかう私わたしたちが注意ちゅういすることは。

スポーツ選手せんしゅに繰り返くりかえされるひぼう中傷ちゅうしょう

プロ野球やきゅう・DeNAの関根せきね大気たいき選手せんしゅは、SNSで繰り返くりかえされるひぼう中傷ちゅうしょうの実態じったいを明あきらかにした1人にんです。

4月つき26日にち、DeNA対たい巨人きょじん戦せん。

8回かいに関根せきね選手せんしゅの打席だせきで、きわどい判定はんていがありました。

結局けっきょく、デッドボールと判定はんていされ塁るいに出でましたが、SNSでは「デッドボールじゃねぇだろ」などと判定はんていに不満ふまんを示しめす投稿とうこうが相次あいつぎました。

試合しあい後ご、関根せきね選手せんしゅはこのプレーをめぐりSNSに投稿とうこうし、試合しあいでデッドボールをアピールしたことに理解りかいを求もとめました。

「今後こんごも際きわどいプレイなどがあるかと思おもいますが、嘘うそ偽いつわりなくその時とき自身じしんが感かんじた、思おもった事実じじつに対にたいしてアピールプレーをしていきます」

(関根せきね選手せんしゅの投稿とうこう Xより)

同時どうじにこの投稿とうこうで「誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうに関にかんしてはよく来きます」と記しるし、「あなたの家族かぞく全員ぜんいんが事故死じこしで死しんでほしい」などと、家族かぞくへの危害きがいを望のぞんだり、自殺じさつを促うながしたりするメッセージが繰り返くりかえし寄よせられた画像がぞうを添付てんぷして、ひぼう中傷ちゅうしょうの実態じったいを明あきらかにしました。

選手せんしゅへのひぼう中傷ちゅうしょうで投稿とうこう者しゃが…

また、中日ちゅうにちの福ふく敬けい登とう投手とうしゅは、試合しあいに負まけた後のちなどに個人こじんのアカウントのSNSに、中傷ちゅうしょうするものや、自身じしんや家族かぞくの身みの安全あんぜんを脅おびやかされるような悪質あくしつな書き込かきこみが続つづいていたとして、2021年ねん、警察けいさつに被害ひがい届とどけを提出ていしゅつしました。

警察けいさつが捜査そうさを進すすめた結果けっか、「死しね」などと書き込かきこみをした人ひとを特定とくていし、こうした書き込かきこみが侮辱ぶじょく罪ざいにあたるとして書類しょるい送検そうけんしました。

その後そのご、示談じだんが成立せいりつし不ふ起訴きそになっています。

この際さい福ふく投手とうしゅは、NHKの取材しゅざいに対にたいしこうコメントしていました。

福ふく敬けい登とう投手とうしゅ

「これをきっかけに投稿とうこうする際さいに行いきすぎた表現ひょうげんになっていないか、ボーダーラインを意識いしきしモラルが守まもられるようになってくれればと思おもっています」

サッカー界かいもひぼう中傷ちゅうしょうに声明せいめい“法的ほうてき措置そちも”

こうしたひぼう中傷ちゅうしょうの投稿とうこうは野球やきゅうに限かぎらず、他たのスポーツでも見みられます。

5月つきにはサッカーJ2のザスパ群ぐん馬ばが、所属しょぞく選手せんしゅやスタッフに相次あいついでひぼう中傷ちゅうしょうのメッセージが送おくられたとして「所轄しょかつの警察けいさつ署しょへ相談そうだんをし、特定とくていした当該とうがい者しゃ等とうへの法的ほうてき処置しょちをはじめとした適切てきせつな対応たいおうをとってまいります」と発表はっぴょうし、悪質あくしつな行為こういを見逃みのがすことはできないとしています。

J1の浦和レッズうらわれっずやガンバ大阪がんばおおさかも、ひぼう中傷ちゅうしょうに断固だんことして対応たいおうすると発表はっぴょうし、ことしに入はいって、ひぼう中傷ちゅうしょうに反対はんたいする声明せいめいを出だしたスポーツチームや団体だんたいは20を超こえています。

“ひぼう中傷ちゅうしょう”線引せんひきは？

ソーシャルメディアに詳くわしい国際こくさい大学だいがくの山口やまぐち真一しんいち准じゅん教授きょうじゅは、スポーツ選手せんしゅは特とくにひぼう中傷ちゅうしょうの対象たいしょうになりやすいと指摘してきします。

国際こくさい大学だいがく山口やまぐち真一しんいち准じゅん教授きょうじゅ

「アスリートは勝ち負かちまけがある世界せかいで、敵てきのファンから攻撃こうげきを受うけるということもあるし、自分じぶんのファンからも『自分じぶんだったらこうしたのに』と自分じぶんの価値かち観かんを押し付おしつける、いわゆる『俺おれ理論りろん』が起おこりやすい。今いままでは居酒屋いざかやとかで消きえていた言葉ことばが、誰だれもがSNSで自由じゆうに発信はっしんできる時代じだいになって、目めに見みえる形かたちで相手あいてに届とどいてしまう。投稿とうこう者しゃは、それが大だいごとだと気付きづいていないケースがほとんどで、批判ひはんだけしてるつもりであって、ひぼう中傷ちゅうしょうだと思おもっていないことが非常ひじょうに多おおい」

プロ野球やきゅう発信はっしん者しゃの特定とくていに向むけ対応たいおう強化きょうか

日本にっぽんプロ野球やきゅう選手せんしゅ会かいは去年きょねん9月つき、被害ひがいを受うけた選手せんしゅの窓口まどぐちとなる、弁護士べんごしによる対策たいさくチームを発足ほっそくさせ、投稿とうこうの発信はっしん者しゃが誰だれなのか、情報じょうほうの開示かいじを求もとめる申し立もうしたてを速すみやかに行おこなえるようにしました。

これまで、プロバイダー側がわへの複数ふくすうの開示かいじ請求せいきゅうが裁判所さいばんしょに認みとめられ、投稿とうこう者しゃが損害そんがい賠償ばいしょうを支払しはらう示談じだんが成立せいりつしています。

しかし、今こんシーズンに入はいってからもひぼう中傷ちゅうしょうが相次あいついでいることから、5月つきにもひぼう中傷ちゅうしょうを行おこなった複数ふくすうの発信はっしん者しゃ情報じょうほうの開示かいじ請求せいきゅうを新あらたに行おこない、対応たいおうを続つづけています。

日本にっぽんプロ野球やきゅう選手せんしゅ会かい森もり忠仁ただひと事務じむ局長きょくちょう

「昔むかしはSNSがなかったので、球場きゅうじょうでのヤジだけで済すんでいましたが、ここ最近さいきん、ネット上じょうのひぼう中傷ちゅうしょうが急きゅうに増ふえたという感覚かんかくはあります。ひぼう中傷ちゅうしょうする人ひともファンの1人にんであることには変かわりないと思おもうのですが、それがちょっと行き過いきすぎてしまうところがあるのではないでしょうか。ひぼう中傷ちゅうしょうを受うける選手せんしゅの影響えいきょうは大おおきく、メンタルとプレーの両方りょうほうに影響えいきょうがあると思おもうので、選手せんしゅ会かいでも窓口まどぐちを設もうけて対応たいおうするようにしています」

AIで検知けんちひぼう中傷ちゅうしょうを防ふせげ！

AI技術ぎじゅつでひぼう中傷ちゅうしょうを防ふせごうという取り組とりくみも進すすめられています。

東京とうきょう・品川しながわ区くに本社ほんしゃがあるIT企業きぎょう「アディッシュ」はAIを活用かつようして、ひぼう中傷ちゅうしょうの可能かのう性せいのある投稿とうこうを未然みぜんに防ふせぐシステムを、口コミくちこみサイトの運営うんえい会社かいしゃなどに提供ていきょうしています。

ひぼう中傷ちゅうしょうと判断はんだんされた言葉ことばを投稿とうこうしようとするとシステムが検知けんちし「ほかの人ひとが不快ふかいな表現ひょうげんになっていませんか」と、確認かくにんを促うながす画面がめんが表示ひょうじされます。

さらに、ひぼう中傷ちゅうしょうを連続れんぞくして投稿とうこうしているユーザーを「要よう注意ちゅういユーザー」として認識にんしきし「アカウント制限せいげんの可能かのう性せいがあります」と、より踏み込ふみこんだ警告けいこくを行おこないます。

会社かいしゃによると、こうしたシステムで3割わり以上いじょうのひぼう中傷ちゅうしょうの削減さくげんにつながっているといいます。

「アディッシュ」江戸えど浩樹ひろき社長しゃちょう

「人間にんげんだと“一瞬いっしゅんの怒いかり”もあると思おもうので、数すう秒びょうあれば、かなり投稿とうこうの内容ないようを見直みなおせます。ただ、投稿とうこうの量りょうが膨大ぼうだいなので、システムの力ちからも借かりながら全体ぜんたいとして健全けんぜん性せいをどう作つくっていくのかを日々ひび格闘かくとうしているのが実態じったいです」

パリ五輪ごりん AI監視かんしシステムで選手せんしゅを守まもる

7月つき26日にちに開幕かいまくするパリオリンピックでは、AIを使つかった大だい規模きぼなソーシャルメディア監視かんしシステムの導入どうにゅうが発表はっぴょうされています。

オリンピックでは初はじめての試こころみで、IOC＝国際こくさいオリンピック委員いいん会かいによりますと、このシステムは、オリンピックとパラリンピックに参加さんかする関係かんけい者しゃを対象たいしょうにしていて、主要しゅようなソーシャルメディアのアカウントを35以上いじょうの言語げんごでリアルタイムに監視かんしするということです。

ひぼう中傷ちゅうしょうと識別しきべつされた場合ばあいには、迅速じんそくに対応たいおうし、アスリートの目めに触ふれないようにするとしています。

IOCは「オンラインのひぼう中傷ちゅうしょうに気きを散ちらすべきではなく、選手せんしゅたちがメダルを獲得かくとくしようとすることに集中しゅうちゅうできる」としています。

送おくる前まえに「読み返よみかえして」

ソーシャルメディアに詳くわしい山口やまぐち准じゅん教授きょうじゅは、ひぼう中傷ちゅうしょうは内容ないようによって類型るいけいがあるとして、こうした内容ないようを発信はっしんしないよう、事前じぜんに理解りかいすることが大切たいせつだとしています。

その類型るいけいです。

(中傷ちゅうしょうの類型るいけい)　　　　　　　　　(例れい)

1. 脅迫きょうはく・恐喝きょうかつ　　　　　　「殺ころす」「死しね」

2. 侮辱ぶじょく的てき・攻撃こうげき的てき　　　　「バカ」「消きえろ」

3. 容姿ようし・人格じんかく否定ひてい　　　　「顔かおが気持きもち悪わるい」

4. 親族しんぞく・組織そしきへの悪口わるぐち　　「おまえの親おやはクズだ」

5. 差別さべつ的てきな内容ないよう　　　　　「男おとこ・女おんなのくせに」

6. 不幸ふこうを望のぞむ・呪のろう　　　「車くるまにひかれろ」

7. 排除はいじょ　　　　　　　　　「あなたの話はなしは聞きかない」

8. 嘘うその情報じょうほう　　　　　　　「反はん社会しゃかい的てき勢力せいりょくとつながっている」

9. 性的せいてき表現ひょうげん　　　　　　　「裸はだかを見みせろ」

※山口やまぐち准じゅん教授きょうじゅをはじめとする国際こくさい大学だいがくGLOCOMによるひぼう中傷ちゅうしょうの定義ていぎ

そして、山口やまぐち准じゅん教授きょうじゅは投稿とうこうする側がわの、ひぼう中傷ちゅうしょうに対にたいする意識いしきを高たかめていくことも欠かかせないと言いいます。

国際こくさい大学だいがく山口やまぐち真一しんいち准じゅん教授きょうじゅ

「私わたしが初歩しょほの初歩しょほで言いっているのは『読み返よみかえしてください』ということです。アスリートに対にたいしてテレビを見みながら5秒びょうでメッセージを送おくれるというのは異常いじょうで、十分じゅうぶん考かんがえて、誰だれかを傷きずつけるような内容ないようになってないかしっかり考かんがえてほしい。高度こうど情報じょうほう社会しゃかいで、誰だれもが自由じゆうに発信はっしんできる今いまこの時代じだいだからこそ、アナログの当たり前あたりまえの道徳どうとく心しんというのがもう1番ばん大事だいじなんですよ」