不正ふせい選挙せんきょ？ 選挙せんきょに関にかんする“偽にせ情報じょうほう”を調しらべてみると…

「期日きじつ前ぜん投票とうひょうは書き換かきかえられる」

「開票かいひょう所しょで使つかうムサシの機械きかいで票ひょうが操作そうさされている」

選挙せんきょがあるたび、こうした偽にせ情報じょうほうがSNSで広ひろがります。

不正ふせい選挙せんきょは本当ほんとうにないのか。そして、こうした偽にせ情報じょうほうが広ひろがるとどのようなことが懸念けねんされるのか。

選挙せんきょ事務じむのプロなどに取材しゅざいして調しらべました。

「当確とうかく早はやすぎ」は不正ふせいではありません

「開票かいひょうも始はじまっていないのに当選とうせん確実かくじつ、不正ふせい発覚はっかくの瞬間しゅんかんだ」

3月つきに行おこなわれた熊本くまもと県知事けんちじ選挙せんきょで出だされた偽にせ情報じょうほうです。

旧きゅうツイッターのXやTikTokで、候補こうほ者しゃの当選とうせん確実かくじつを伝つたえる地元じもとテレビ局てれびきょくの映像えいぞうとともに拡散かくさんしました。

NHKが確認かくにんしたところ、選挙せんきょ結果けっかに疑問ぎもんを持もった人々ひとびとや、ロシアを支援しえんするような投稿とうこうを繰り返くりかえしているまとめサイトなどが拡散かくさんさせ、投稿とうこうは26日にち正午しょうごまでに合あわせて3000万まん回かい以上いじょう、閲覧えつらんされていました。

この選挙せんきょでは、午後ごご8時じの投票とうひょう終了しゅうりょうとほぼ同時どうじに、報道ほうどう各社かくしゃが「当選とうせん確実かくじつ」を報道ほうどうしました。

この時点じてんでは、選挙せんきょ管理かんり委員いいん会かいがまだ票ひょうの発表はっぴょうをしておらず、このことが不正ふせいの証拠しょうこだと主張しゅちょうしているのです。

しかし、これは偽にせ情報じょうほうです。

「当選とうせん確実かくじつ」の仕組しくみって？

では、いったいなぜ「当選とうせん確実かくじつ」と報道ほうどうすることが可能かのうなのか。NHKのケースで紹介しょうかいします。

当選とうせん確実かくじつとする根拠こんきょになっているのが「出口いでぐち調査ちょうさ」です。

投票とうひょう所しょで投票とうひょうを終おえた人ひとに「誰だれに投票とうひょうしたか」を聞きくもので、熊本くまもと県知事けんちじ選挙せんきょでNHKは32の投票とうひょう所しょで3830人にんを対象たいしょうに行おこない、73.3％にあたる2807人にんから回答かいとうを得えました。

この結果けっかを分析ぶんせきすると、統計とうけい学がく的てきに有意ゆういな差さが付ついていることが確認かくにんでき、事前じぜんの情勢じょうせい取材しゅざいも踏ふまえ、「当選とうせん確実かくじつ」を出だすことが可能かのうになりました。

いちはやく選挙せんきょ結果けっかを伝つたえるために、報道ほうどう各社かくしゃが選挙せんきょ管理かんり委員いいん会かいの発表はっぴょうとは別べつに判断はんだんしています。

「期日きじつ前ぜん投票とうひょうの書き換かきかえ」もありません

投票とうひょうや開票かいひょうの作業さぎょうに関にかんする偽にせ情報じょうほうもしょっちゅう広ひろがります。

「票ひょうが差し替さしかえられる」「鉛筆えんぴつで書かくと書き換かきかえられる」などとしており、今回こんかいの衆議院しゅうぎいん補欠ほけつ選挙せんきょでも出回でまわっています。

そんなことが本当ほんとうに可能かのうなのか。

川崎かわさき市し選挙せんきょ管理かんり委員いいん会かいで40年ねん以上いじょう選挙せんきょ事務じむに加くわわり、今いまは国内外こくないがいの選挙せんきょ事務じむに助言じょげんを行おこなっているプロは…

選挙せんきょ制度せいど実務じつむ研究けんきゅう会かい 小島こじま勇人はやと理事りじ長ちょう

「途中とちゅうで改かいざんしたり、途中とちゅうで何なにかを入いれたりすることはできない、そういう仕組しくみになっています」

小島こじまさんによると、投開票とうかいひょう日びの一般いっぱん的てきな事務じむの流ながれは以下いかのとおりとなっていて、不正ふせいが入はいりこむ余地よちはないといいます。

投票とうひょう箱ばこに票ひょうが入はいっていないことを確認かくにんする「ゼロ票ひょう確認かくにん」をしてから開票かいひょう作業さぎょうが始はじまるまで、誰だれも投票とうひょう箱ばこに入はいった票ひょうに触ふれることはできません。

開票かいひょう作業さぎょうは衆人しゅうじん環視かんしのもとで、繰り返くりかえし票ひょうの確認かくにんが行おこなわれます。

小島こじま理事りじ長ちょう

「期日きじつ前まえであっても、そうでなくても、不正ふせいの入り込はいりこむ余地よちはないんです。それは断言だんげんしてもいい」

「投票とうひょう用紙ようしが水増みずましされている」「別べつのものとすり替すりかえられる」という偽にせ情報じょうほうについても。

小島こじま理事りじ長ちょう

「投票とうひょう用紙ようしの印刷いんさつには高度こうどな技術ぎじゅつが必要ひつようです。セキュリティも厳きびしく、試ためし刷ずりした用紙ようしも厳重げんじゅうに保管ほかんされていて、選挙せんきょ後ごには選挙せんきょ管理かんり委員いいん会かい立ち会たちあいのもと、原版げんばんとともに処分しょぶんしています。投票とうひょう用紙ようしは選挙せんきょごとに違ちがいがあり、過去かこのものや偽造ぎぞうしたものを使つかっても当然とうぜんすぐにバレて無効むこうになります」

小島こじまさんによると、これまで自治体じちたい職員しょくいんが票数ひょうすうが合あわないミスを隠蔽いんぺいする「不正ふせい」はありましたが、懲戒ちょうかい処分しょぶんや刑事けいじ罰ばつの対象たいしょうとなっているとしています。

小島こじま理事りじ長ちょう

「選挙せんきょ事務じむの仕事しごとやって50年ねんになりますが、特定とくていの候補こうほ者しゃを当選とうせんさせる、させないという不正ふせい行為こういについて見聞みききしたことはありません。日本にっぽんの選挙せんきょ制度せいどの正確せいかく性せい、厳格げんかく性せい、これは世界せかいに冠かんたるもの。そういう風かぜに言いって過言かごんはない」

「機械きかいが票ひょうを操作そうさ」はありません

もう1つ、日本にっぽんの選挙せんきょに関にかんする偽にせ情報じょうほうで何なん度ども名指なざしにされているのが「ムサシ」という会社かいしゃです。

開票かいひょうの際さい、票ひょうを仕分しわける「分類ぶんるい機き」や、票ひょうを数かぞえる「計けい数すう機き」の大手おおてで、多おおくの自治体じちたいが選挙せんきょ事務じむに導入どうにゅうしています。

SNSなどでは「ムサシのシステムが一定いっていの政治せいじ勢力せいりょくの影響えいきょうを受うけて操作そうさされている」とか「票ひょうが書き換かきかえられる」とする偽にせ情報じょうほうが10年ねん以上いじょう前まえから広ひろがっています。

選挙せんきょなどのたびに関連かんれんする投稿とうこうが拡散かくさん、多おおいときには3万まん件けん近ちかくみられます。

実際じっさいに操作そうさは可能かのうなのか、会社かいしゃに取材しゅざいしました。

機械きかいに投票とうひょう用紙ようしをセットすると、スキャナーが記入きにゅうされた文字もじを読み取よみとり、読み取よみとった文字もじをパソコンで識別しきべつ、候補こうほ者しゃごとの箱はこに票ひょうが振り分ふりわけられていきます。

1分間ふんかんに660票ひょうというスピードで票ひょうを分わけていますが、票ひょうを書き換かきかえたり、差し替さしかえたりするような機能きのうはありません。

広報こうほう担当たんとう者しゃ

「票ひょうが隠かくれてしまうとそこで何なにか行おこなわれているという疑念ぎねんもあったりするもので、当社とうしゃの選挙せんきょの機械きかいのうち開票かいひょう所しょで使つかわれるものは、票ひょうの流ながれが見みえる形かたちを設計せっけいの方向ほうこう性せいとして考かんがえております」

「現在げんざいも正確せいかく性せいを高たかめるための努力どりょくを企業きぎょうとしてやっています。こちらの機械きかいを通とおったものを選挙せんきょ管理かんり委員いいん会かいの方ほう、選挙せんきょの従事じゅうじ者しゃの方々かたがたに人ひとの目めで2回かい確認かくにんいただいて、正確せいかく性せいを保たもっていられるのではないかとも考かんがえております」

また、特定とくていの政治せいじ家かの意図いとをくんでシステム開発かいはつをしていることはあるか問といましたが、「全まったくございません」と明確めいかくに否定ひていしました。

「終盤しゅうばんに逆転ぎゃくてんは不正ふせい」ではありません

このほかにもたびたび飛び交とびかう偽にせ情報じょうほうが「開票かいひょうの最終さいしゅう盤ばんで逆転ぎゃくてんするのは不正ふせいが行おこなわれたからだ」というものです。

選挙せんきょの開票かいひょうは人口じんこうが少すくない町村ちょうそん部ぶでは早はやく終おわり、人口じんこうの多おおい都市とし部ぶでは時間じかんかかります。

激はげしく競り合せりあう選挙せんきょ戦せんでは、序盤じょばんに町村ちょうそん部ぶでリードしていた候補こうほが終盤しゅうばんになって票数ひょうすうの多おおい都市とし部ぶの票ひょうが合算がっさんされた際さい、逆転ぎゃくてんされることがあります。

また、珍めずらしい形かたちで不正ふせいだという偽にせ情報じょうほうが広ひろがったケースも。

去年きょねん4月つきの衆議院しゅうぎいん千葉ちば5区くの補欠ほけつ選挙せんきょでは、「ラスト1分ふんで6000票ひょう、不正ふせい選挙せんきょだ」とする偽にせ情報じょうほうが広ひろがりました。

この選挙せんきょでは午後ごご11時じの時点じてんで、英利ひでとしアルフィヤさんと矢崎やさき堅太郎けんたろうさんが1000票ひょう差さという激はげしい争あらそいとなりました。

ところが、終盤しゅうばんに英利ひでとしさんにだけ6000票ひょうが入はいり、不正ふせいを疑うたがう声こえが相次あいつぎました。

取材しゅざいすると、この6000票ひょうの中なかに、投票とうひょう先さきがはっきりわからないと判断はんだんされる「疑問ぎもん票ひょう」が多おおく含ふくまれていることがわかりました。

英利ひでとしさんの名前なまえは「アルフィヤ」が正ただしいのですが、「アルフェア」や「アリフィア」などと間違まちがえて書かく人ひともいて、取り扱とりあつかいをどうするか、現場げんばで1票ひょうずつ確認かくにんがされていました。この作業さぎょうに時間じかんがかかり、終盤しゅうばんになって英利ひでとしさんの票ひょうが増ふえることになりました。

疑うたがいを持もった一部いちぶの人ひとたちが裁判さいばんを起おこしましたが、東京とうきょう高等こうとう裁判所さいばんしょで訴うったえは退しりぞけられ、その後そのご、原告げんこくの敗訴はいそが確定かくていしました。

海外かいがいでは社会しゃかいに深刻しんこくな影響えいきょうが

選挙せんきょに関にかんする偽にせ情報じょうほうは各国かっこくでも見みられ、社会しゃかいに深刻しんこくな影響えいきょうを与あたえています。

アメリカでは前回ぜんかい、2020年ねんの大統領だいとうりょう選挙せんきょで、トランプ氏しが「選挙せんきょ結果けっかが盗ぬすまれた」と発言はつげん。選挙せんきょの結果けっかが「不正ふせい」だと主張しゅちょうしました。

この際さいは、「バイデン氏しの票ひょうが終盤しゅうばん、短時間たんじかんに急増きゅうぞうした」「郵便ゆうびん投票とうひょうでトランプ氏しの票ひょうが大量たいりょうに捨すてられた」「ドミニオン社しゃの投票とうひょう集計しゅうけい機きに不正ふせいがある」などという偽にせ情報じょうほうが大量たいりょうにSNSで拡散かくさんしました。

トランプ氏し自身じしんもこうした情報じょうほうを発信はっしん。

そして2か月かげつ後ご。トランプ氏しの支持しじ者しゃらが連邦れんぽう議会ぎかい議事堂ぎじどうに乱入らんにゅうし、警察官けいさつかんなど5人にんが死亡しぼうする事態じたいに発展はってんしました。

選挙せんきょ結果けっかの無効むこうなどを求もとめトランプ陣営じんえいなどが起おこした裁判さいばんは、連邦れんぽう最高さいこう裁判所さいばんしょで退しりぞけられています。

選挙せんきょに関にかんする偽にせ情報じょうほうの影響えいきょうはアメリカ以外いがいでも。

ブラジル

ブラジルでも去年きょねん、選挙せんきょで不正ふせいが行おこなわれたと主張しゅちょうしていたボルソナロ前ぜん大統領だいとうりょうの支持しじ者しゃらが議会ぎかいなどを襲撃しゅうげきし、1300人にん以上いじょうが起訴きそされました。

インドネシア

インドネシアでも過去かこの大統領だいとうりょう選挙せんきょで「選挙せんきょ管理かんり委員いいん会かいがコンピューターをセットした」などとする偽にせ情報じょうほうが広ひろがり、選挙せんきょに対にたいする不信ふしん感かんが高たかまることにもつながったとされています。

専門せんもん家か “日本にっぽんでも油断ゆだんできない”

専門せんもん家かは偽にせ情報じょうほうによって民主みんしゅ主義しゅぎの根幹こんかんが揺ゆらいでいると指摘してきします。

慶応けいおう大学だいがく法学部ほうがくぶ 烏からす谷たに昌幸まさゆき教授きょうじゅ

「アメリカの大統領だいとうりょう選挙せんきょでは、一ひとつ一ひとつの偽にせ情報じょうほうは完成かんせい度どが高たかくなくても、大量たいりょうに次つぎから次つぎへと出でてくることで、支持しじ者しゃらが“選挙せんきょには不正ふせいがある”という揺ゆるぎない確信かくしんを持もつようになった。世論せろん調査ちょうさを見みてみると共和党きょうわとう支持しじ者しゃの6割わりから7割わりが一貫いっかんして選挙せんきょに不正ふせいがあったと考かんがえ続つづけています」

「多おおくの人ひとが選挙せんきょ制度せいどに対にたいし、相当そうとう強つよい不信ふしんを持もち続つづけているという状態じょうたいがいまなお続つづいている。民主みんしゅ主義しゅぎの制度せいどの根幹こんかんが揺ゆらいでいるのです。こうした陰謀いんぼう論ろんを政治せいじ的てきなリソースとして使つかおうとする権力けんりょく者しゃが出でてきた時ときは1番ばん危あぶない。今後こんごの選挙せんきょで何なにか不利ふりなことがあったとき、より大だい規模きぼな実力じつりょく行使こうしに進すすんでしまう可能かのう性せいさえある」

「日本にっぽんでも不正ふせい選挙せんきょ陰謀いんぼう論ろんのようなものを心こころから信じ込しんじこんでいる人ひとが増ふえている。静しずかに着実ちゃくじつに広ひろまっているので、注視ちゅうししていく必要ひつようがある。油断ゆだんはできないと思おもいます」

偽にせ情報じょうほう 注意ちゅういすべきポイントは？

選挙せんきょの際さいには、「仕組しくみ」に関にかんする偽にせ情報じょうほうだけではなく、各党かくとうの掲かかげる政策せいさくや候補こうほ者しゃ本人ほんにんに関にかんする誤あやま情報じょうほうや不ふ正確せいかくな情報じょうほうが広ひろがりやすくなります。

烏からす谷たに教授きょうじゅは、以下いかのようなことに気きを付つけてほしいと呼よびかけています。

1 選挙せんきょ期間きかん中ちゅうは真偽しんぎ不明ふめいの怪あやしい情報じょうほうが多おおく出でることを知しっておく

2 嘘うそだと簡単かんたんに見抜みぬけないものもある。見極みきわめられると過信かしんしない

3 自分じぶんが共感きょうかんする内容ないようでも正ただしいのか疑うたがう。複数ふくすうの情報じょうほう源げんを確認かくにん

4 真偽しんぎがわからない情報じょうほうを拡散かくさんしない。静観せいかんすることも大事だいじ