逮捕されたのは、水戸京成百貨店の元社長、齋藤貢 容疑者(66)です。
警察によりますと、元社長は在職中だった2020年4月から5月にかけて実際は従業員が出勤していたのに休業扱いにするよう勤務データの改ざんを指示して、新型コロナの影響を受けた企業などに支給される国の「雇用調整助成金」1億3000万円余りをだまし取った詐欺の疑いが持たれています。
警察は捜査に支障があるとして認否を明らかにしていません。
水戸京成百貨店は去年1月、「雇用調整助成金」など合わせて3億600万円余りを、おととし8月までの2年4か月にわたり不正に受給していたことを会見を開いて明らかにしました。
警察は、去年3月に百貨店を捜索するなどして捜査を進めた結果、元社長の指示で不正受給が行われた疑いがあることがわかったとして、18日に逮捕しました。
警察は事件の詳しいいきさつについて調べることにしています。
水戸京成百貨店社長 “元社長の逮捕は極めて重大”
元社長の逮捕を受けて、水戸京成百貨店の谷田部亮社長は「元社長が逮捕された事実は極めて重大なことと受け止めています。お客様をはじめ、当社に関わる皆様にご迷惑とご心配をおかけしていることを改めて深くおわび申し上げます。2度とこのような事態を引き起こさないよう、コンプライアンス体制の強化に努め、皆様からの信頼回復に向け、真摯(しんし)に取り組んでまいります」というコメントを発表しました。
元総務部長が証言 “不正受給は元社長の指示”
水戸京成百貨店の元総務部長はNHKの取材に対して「不正受給は今回逮捕された元社長の指示で行われた」と証言しました。
元総務部長は、百貨店側の内部調査で勤務データの改ざんを指示したとされていましたが、自身も関与していたことを認めたうえで「元社長から指示を受けて改ざんした」と主張しています。
改ざんのきっかけについては「元社長から『休んだ日数に応じて雇用調整助成金がいくらもらえるのかシミュレーションを作成してほしい』という指示があった」としています。
シミュレーションを元に適正な勤務データで助成金を受け取るよう提案したところ、元社長は「従業員への賃金の支払いを遅らせるしかない」と返答したということです。
元総務部長は「従業員の賃金が払えなくなる事態を避けるために不正をするよう持ちかけられていると暗に受け止めた。会社のためにやったことだった」などと主張しています。
また、新型コロナの感染拡大の影響で売り上げが減少したため、黒字を維持するため不正をせざるをえなかったとも話しています。
元総務部長の説明について元社長は去年7月、取材に応じ「シミュレーションを作らせた記憶はあり、雇用調整助成金をしっかり受け取れという指示は出したが、不正を働いてまで助成金をもらえという指示は出していない」などと否定していました。
茨城県内唯一の百貨店 コロナ影響で赤字に
「京成百貨店」は茨城県内で唯一の百貨店です。国の「雇用調整助成金」などの不正受給が明らかになったのは、おととし11月、退職した社員からの連絡を受け茨城労働局が査察を行ったことがきっかけでした。
百貨店の運営会社「水戸京成百貨店」は去年1月、3億円余りを不正に受給していたと発表しました。
「水戸京成百貨店」の2019年度の決算の最終的な損益は2億1100万円の黒字でしたが新型コロナの影響で翌年度の2020年度は1500万円の黒字と大幅に落ち込みました。
会社では一部の役員が過度な黒字確保の意識を持っていたことなどが不正受給の原因だとしています。
今回の問題を受けて、会社は去年2月に労働局から助成金の返還命令を受け、ペナルティーなども含めて13億4000万円余りを全額返還しました。
助成金の返還などで費用が増加した影響で、昨年度・2022年度の決算の最終的な損益は35億1600万円の赤字と大きく落ち込みました。赤字は2016年度以来だということです。
元社長の逮捕を受けて「水戸京成百貨店」の谷田部亮 社長は「現在、本人の認否は明らかになっておりませんが、元社長が逮捕された事実は極めて重大なことと受け止めております。当社といたしましては引き続き、捜査に全面的に協力してまいります。お客様をはじめ、当社に関わる全ての皆様には度重なるご迷惑とご心配をおかけしていることを改めて深くおわび申し上げます。本件の発覚以降、二度とこのような事態を引き起こさないよう、コンプライアンス体制の強化に努めております。引き続き、皆様からの信頼回復に向け、役職員一丸となって真摯(しんし)に社業に取り組んでまいります」というコメントを発表しました。
百貨店を訪れた人 誠実な経営を求める声
店では18日午後、元社長が逮捕されたことを受けて、出入り口におわびと再発防止について文書を掲示しました。一方、百貨店を訪れた人たちからは誠実な経営を求める声が聞かれました。
水戸市の55歳の女性は「苦しい中でも皆がんばっているので、不正はよくないことだと思います。商いは信頼で成り立つので、今からでも客が納得できるような仕事をしてほしいです」と話していました。
小美玉市の55歳の男性は「事件を知って驚きました。経営上、難しい部分もあったと思いますが、襟を正してほしいです」と話していました。
水戸市長 “信頼回復のため最大限の努力を”
水戸京成百貨店の元社長が詐欺の疑いで逮捕されたことについて、水戸市の高橋靖市長は「信頼回復のため最大限の努力をしてもらわないと、市街地活性化のパートナーとなりえない」と苦言を呈しました。
水戸市は去年7月に開館した市民会館と水戸芸術館、それに百貨店の3つの施設をにぎわいづくりの拠点と位置づけ、市民会館と百貨店を結ぶ通路も整備しました。
百貨店の元社長が逮捕されたことを受けて、高橋市長は「大変遺憾で驚いている。残っている社長はじめ社員は厳粛に受け止めていただきたい。引き続き連携していきたいが、信頼回復のために最大限の努力をしてもらわないとパートナーとなりえない。そこはしっかり注視させていただく」と苦言を呈しました。
一方で、「県内唯一の百貨店で品質の良い消費文化をつくり上げてくれていて、誰もなくなってほしいとは思っていないし、必要な機能と思っている。そういった意味からも信頼回復に努めていただきたい」と述べました。