この期限を過ぎても県が承認しなければ、国が県に代わって工事を承認する「代執行」を行うことが可能となり、今後、改良工事が進む見通しになりました。
普天間基地の移設先となっている名護市辺野古沖では、区域全体の7割ほどを占める埋め立て予定地の北側で軟弱地盤が見つかり、国は地盤の改良工事を進めようと設計の変更を申請しましたが、移設に反対する沖縄県が「不承認」としたため工事が進んでいません。
この工事をめぐり、ことし9月、最高裁判所で県の敗訴が確定しましたが、県が申請を承認しないため、国は、県に代わって承認する「代執行」に向けて訴えを起こしました。
裁判長「承認せず放置 公共利益侵害」「対話重ね抜本的解決を」
20日の判決で、福岡高等裁判所那覇支部の三浦隆志裁判長は「普天間基地の危険性が人の生命や身体に大きく関わるものであることに加え、設計変更の申請からおよそ3年半がすでに経過していることなども踏まえると承認せずに放置することは社会公共の利益を侵害する」などとして国の主張を認め、県に対し判決文を受け取った翌日から土日を除く3日以内に工事を承認するよう命じました。
一方、三浦裁判長は「沖縄県側が指摘する歴史的経緯などを踏まえれば埋め立て事業に対する県民の心情は十分に理解できる。国としても県民の心情に寄り添った政策実現が求められ、国と県とが相互理解に向けて対話を重ねることを通じて抜本的解決が図られることが強く望まれている」と指摘しました。
裁判所が定めた期限の今月25日を過ぎても県が承認しなければ、国は「代執行」を行うことが可能となります。
一方、県は判決から1週間を期限に最高裁判所に上告できますが、最高裁で県側が勝訴するまで「代執行」を止める効力はありません。国が、自治体の事務を「代執行」したケースは過去になく、判決によって今後、改良工事が進む見通しになりました。
傍聴席の倍率は約5.4倍
判決の言い渡しを傍聴しようと大勢の人が福岡高等裁判所那覇支部に集まりました。
裁判所によりますと傍聴席32席に対して希望した人は172人で、倍率はおよそ5.4倍でした。
判決が言い渡されると、傍聴席からは「不当判決だ」という声が発せられましたが、裁判長は中断することなく判決理由を述べていました。
その間も廷内には落胆の声やため息が漏れていました。
沖縄県西原町の60代の男性は「沖縄にとって大きな裁判で、今まで国は『代執行』を行ったことはないし、国が権力を持ってやるわけでそれは絶対に許されないことだと思う」と話していました。
また、移設計画に反対する活動を続けている市民グループのメンバー、北上田毅さんは「われわれが辺野古に座り込んだりしながら、10数年がたってしまった。きょうの判決内容によっては国が『代執行』を行うことができるということで、いよいよ最終局面というか、正念場に入ったのだと思う。裁判所には法の番人として踏み込んだ意見を判決の中に入れてほしい」と話していました。
辺野古周辺の住民からは
判決について、普天間基地の移設先になっている辺野古からおよそ3キロ離れた大浦湾に面する名護市大浦地区に暮らし、移設計画を条件付きで容認する立場の友利玄考さん(76)は「防衛と外交は国の専管事項だと思っていて、防衛力の整備や普天間基地の負担軽減のため早く移設してほしいです。そのうえで国には地域に対して負担の補償もしてほしいです」と話していました。
一方、辺野古からおよそ4キロ離れた大浦湾に面する名護市安部地区に暮らし、移設計画に反対の立場の比嘉敏光さん(72)は「基地がつくられて軍用機の爆音などの影響が出ることを考えると、この地域には住めなくなるのではないかと思ってしまう。別の場所に暮らす子どもや孫に『いい所だから戻って来い』と言えなくなります」と話していました。
宜野湾市民 基地返還を求める一方で県内移設には反対の意見も
判決を受けて、アメリカ軍普天間基地のある沖縄県宜野湾市の住民からは、基地の返還を求める一方で県内への移設には反対だという意見が聞かれました。
宜野湾市に65年近く住んでいる80代の女性は「基地は撤去するべきだと思うが、新しい基地を造る必要はない。みんなで力を出し合って基地はいらない、そして戦争を2度と起こさせないという意気込みをみせないといけない」と話していました。
家族3人で市内に住んでいる30代の男性は「宜野湾から基地がなくなるということだけがプラスの点だと思います。ただ、移設先が県内一択というところが沖縄の人たちにとっては納得できない部分だと思います」と話していました。
また、市内に住む70代の男性は「県民の意思は無視されていて不公平なやり方はやめてほしい。宜野湾は普天間基地の影響でずっとうるさくてしょうがないし、基地は県外に持って行ってほしい。なぜ県内なのでしょうか」と話していました。
林官房長官「県は判決に沿った判決を」
林官房長官は20日午後の記者会見で「沖縄県により今回の判決に沿った対応が速やかになされるべきと考えている。政府としては今後も地元への丁寧な説明を行いながら普天間飛行場の1日も早い全面返還を実現し、基地負担の軽減を図るため全力で取り組んでいく」と述べました。
また、沖縄県が工事を承認しない場合、国が代わって承認する「代執行」を行うか問われましたが「沖縄県知事の今後の対応に関して予断をもって答えることは差し控えたい」と述べるにとどめました。
知事が承認しない場合 代執行までの手続きは
地方自治法では裁判所が判決で示した期限までに知事が承認しない場合、国土交通大臣は知事の代わりに承認する「代執行」をすることが出来る、としています。
代執行の前に、国は県に日時や場所、方法を伝える必要があります。
今後、県の承認がないまま期限をすぎた場合、国は県に対して代執行の日時などを通知したうえで、代執行する方針です。
防衛省 改良工事の着手に向け準備
防衛省は、改良工事の着手に向けて準備を進めていて、今月5日には工事業者と契約を結びました。
今後、資機材の搬入などを行い、年明け以降、工事に着手することにしています。
改良工事は、埋め立て予定海域で見つかった軟弱地盤を強化するため、66ヘクタールの海域でおよそ7万1000本の杭を海底に打ち込みます。
軟弱地盤は、最も深いところで、およそ90メートルにおよび、そこでは70メートルの深さまで杭を打ち込む予定ですが、この深さの工事はこれまで国内では実施されたことがないとしています。
工事にはおよそ4年かかるとしていますが、軟弱地盤の深さや地質が場所によって違うことなどから、工事が終わってからも定期的な補修が必要になるとしています。
改良工事や埋め立てなど、すべての工事や手続きが終わり、移設が可能になるまでには12年ほどかかるとしています。