Báo tiếng Nhật: 力士がいっぱいで飛行機が重量オーバー! 急きょ臨時便の舞台裏

ことし10月つき。

あるニュースが航空こうくう業界ぎょうかいをにぎわせました。

大勢たいせいの力士りきしが同おなじ飛行機ひこうきに乗り合のりあわせることになり、重量じゅうりょうオーバーに。

急きゅうきょ、臨時りんじ便びんが運航うんこうされたというのです。

航空こうくう関係かんけい者しゃがそろって「聞きいたことがない」という珍めずらしいトラブルで、海外かいがいメディアでも取り上とりあげられました。

当時とうじ、何なにが起おきていたのでしょうか。

（大阪おおさか放送ほうそう局きょく関西かんさい空港くうこう支局しきょく記者きしゃ高橋たかはし広行ひろゆき）

“おさまりません無理むりです”

当時とうじの状況じょうきょうを説明せつめいしてくれたのは、日本にっぽん航空こうくうオペレーションコントロール部ぶの奥津おくつ俊幸としゆきマネージャー。

問題もんだいがわかったのは10月つき11日にちの夜よる。

この航空こうくう会社かいしゃでは午後ごご6時半じはんごろから、翌日よくじつ運航うんこうする便びんの準備じゅんび作業さぎょうに入はいります。いつどのようなルートで、どのくらいの燃料ねんりょうを積つんで飛とぶかなどを管制かんせい官かんに伝つたえ、社内しゃないでも共有きょうゆうする「フライトプラン（飛行ひこう計画けいかく書しょ）」を作成さくせいするためです。

ここで重要じゅうようなのが「ウエイト（重量じゅうりょう）」と「バランス（重心じゅうしん）」。

略りゃくして“ウエバラ”と呼よばれ、安全あんぜんな運航うんこうのために、客きゃくや貨物かもつ、燃料ねんりょうを積つんだ機体きたいの重おもさと重心じゅうしんが基準きじゅん内ないにおさまっているかを1便びん1便びん確認かくにんします。安全あんぜんに離着陸りちゃくりくできる重おもさが機種きしゅなどによって決きまっているためです。重おもさが基準きじゅん内ないにおさまっていても、前まえや後うしろに偏かたよりがあれば、飛行機ひこうきはバランスを崩くずしてしまいます。

このとき、東京とうきょうの本社ほんしゃにいる担当たんとう者しゃが「羽田はた発はつ奄美あまみ行いき」と「大阪おおさか発はつ奄美あまみ行いき」の2便びんがかなり重おもいことに気付きづきました。

どちらも団体だんたいの予約よやくがいくつも入はいっていて、その予約よやく名めいが、奄美あまみ大島おおしまで行おこなわれる国体こくたいに参加さんかする相撲すもう団体だんたいのものだったのです。

通常つうじょう、乗客じょうきゃくは1人にんあたり70キロで計算けいさんしますが、力士りきしやラグビー選手せんしゅなどのスポーツ選手せんしゅは120キロで計算けいさんします。乗客じょうきゃくや燃料ねんりょうの重おもさも加味かみしたところ、2便びんとも、すでに安全あんぜんに離陸りりくできる「最大さいだい離陸りりく重量じゅうりょう」を超こえ、重量じゅうりょうオーバーとなっていました。

奥津おくつ俊幸としゆきさん

「重おもいこと自体じたいはよくあることなんです。最初さいしょは、貨物かもつと燃料ねんりょうを減へらせばいけると思おもって、『調整ちょうせいしてみてよ』と担当たんとうには言いいました。ところが、時間じかんがたって返かえってきたのは『おさまりません、無理むりです』と。貨物かもつを全まったく載のせなかったとしても、異常いじょうな数字すうじだったので、これはまずいなと。運航うんこうに関かかわって30年ねん以上いじょうになりますが、初はじめての経験けいけんでした」

珍めずらしいことが重かさなり…

なぜこんなことが起おきてしまったのでしょうか。

●島しま開催かいさいの国体こくたい

ひとつは国体こくたいが奄美あまみ大島おおしまという「島しま」での開催かいさいだったこと。国体こくたいに出場しゅつじょう経験けいけんのある複数ふくすうの選手せんしゅによると、試合しあい会場かいじょうへの移動いどうは、車くるまやバスが使つかわれることも多おおいそうです。しかし、今回こんかいは飛行機ひこうきが主おもな移動いどう手段しゅだんとなり、羽田はたと大阪おおさかから奄美あまみに向むかう便びんは1日にち1便びんだけでした。

●社内しゃないルールの盲点もうてん

社内しゃないルールと予約よやくの経緯けいいにも理由りゆうがありました。この会社かいしゃの場合ばあい、席せき数すうが100人にんを下回したまわる機体きたいの場合ばあいは、営業えいぎょう・販売はんばい部門ぶもんからスポーツ競技きょうぎの団体だんたい予約よやくが入はいった場合ばあい、運航うんこう部門ぶもんに事前じぜんに連絡れんらくをする社内しゃない規定きていがありました。小ちいさい機体きたいのほうが、より重量じゅうりょうや重心じゅうしんの制限せいげんが厳きびしく、運航うんこうへの影響えいきょうが大おおきいからです。

ところが、今回こんかいの機体きたいは、およそ160席せきあるボーイング737型がた機き。737型がた機き以上いじょうの大おおきな機体きたいは、重量じゅうりょうなどの制限せいげんの基準きじゅんまで比較ひかく的てき余裕よゆうがあり、貨物かもつで調整ちょうせいできる量りょうも大おおきいことから、事前じぜんに連絡れんらくを入いれるというルールは設もうけられていなかったのです。（今回こんかいの事態じたいを受うけてルール変更へんこうを検討けんとう）

●団体だんたい予約よやくの詳細しょうさい把握はあくも難むずかしく

しかも、1つの団体だんたい予約よやくの規模きぼは10人にん前後ぜんご。全国ぜんこくの都道とどう府県ふけんの相撲すもう連盟れんめいなどがそれぞれ違ちがうタイミングで、違ちがう店舗てんぽで予約よやくします。いざフライトプランをつくるまで全体ぜんたい像ぞうを把握はあくしづらい状況じょうきょうにありました。

もちろん、奄美あまみ大島おおしまで相撲すもうの国体こくたいがあることは、調しらべればすぐわかること。なぜ事前じぜんに把握はあくできなかったのかは今後こんごの課題かだいですが、当時とうじの現場げんばにはそんな反省はんせいをしている余裕よゆうはありませんでした。

奥津おくつ幸みゆき俊しゅんさん

「すべてのお客様おきゃくさまを、安全あんぜんに確実かくじつに目的もくてき地ちにお届とどけしなければならないのは大だい前提ぜんていですが、今回こんかいは国体こくたいの大会たいかいに出場しゅつじょうしなければならない相撲すもう選手せんしゅたちです。試合しあいに出でられないということはあってはならない。『みんなやるぞ』と声こえをかけました」

“超ちょう緊急きんきゅう”の検討けんとう会議かいぎ

すぐに対応たいおう策さくを考かんがえるための会議かいぎが開ひらかれました。

大おおきな機体きたいに差し替さしかえれないか？

重量じゅうりょうの制限せいげんに余裕よゆうがある、より大型おおがたの機体きたいに変更へんこうすることも検討けんとうしましたが、奄美あまみ空港くうこうは大型おおがたの機体きたいの運航うんこう実績じっせきがありません。そもそも、貨物かもつを取り出とりだす特殊とくしゅな車両しゃりょうや必要ひつような整備せいびを行おこなう「受け入うけいれ体制たいせい」もありませんでした。

定期ていき便びんを活用かつようできないか？

2便びんとも、奄美あまみ行いきの便びんが多おおい鹿児島かごしまを経由けいゆし、分散ぶんさんして奄美あまみへ向むかってもらうことも考かんがえました。しかし、このときはどちらも満席まんせき。

燃料ねんりょうを減へらして機体きたいを軽かるくできないか？

最大さいだい離陸りりく重量じゅうりょうにおさまるよう燃料ねんりょうを少すくなく積つみ、羽田はた発はつの便びんは関西かんさい空港くうこうに降おりて給油きゅうゆをしてから、再ふたたび奄美あまみを目指めざすプランも検討けんとうされました。しかし、こちらも安全あんぜんを最さい優先ゆうせんして実施じっししないことに。

臨時りんじ便びんしかない！

大阪おおさか空港くうこうでは周辺しゅうへん住民じゅうみんへの騒音そうおんに配慮はいりょして、臨時りんじ便びんを出だすには国くにや空港くうこう会社かいしゃとの協議きょうぎが必要ひつようなため、断念だんねんしましたが、羽田はた空港くうこうは臨時りんじ便びんの発着はっちゃく枠わくを確保かくほすることができました。

飛行機ひこうきがない！

この日ひは、不運ふうんにも737型がた機きの「予備よびの機体きたい」がない日ひでした。ほかの路線ろせんの機体きたいを大型おおがたのものに変更へんこうするなど、なんとかやりくりして1機きを確保かくほ。パイロットやキャビンアテンダント、地上ちじょうスタッフも手配てはいしました。

奥津おくつ俊幸としゆきさん

「天気てんきもよく機材きざいトラブルでもないのに、急きゅうきょ、機体きたいを変かえてくれとか、現場げんばでお客様おきゃくさまに案内あんないをしてほしいとか、無理むりなお願おねがいを各所かくしょにする訳わけですから、どこも『なんで？どうしたの？』と返かえされます。説明せつめいは何なん度どもしました。まずいとなってから、臨時りんじ便びんの体制たいせいを固かためるまでは1時間じかんぐらいだったと思おもいますが、チームの緊張きんちょう感かんは高たかかったですね」

そして、夜よるの9時半じはんごろまでに、羽田はたで乗り切のりきれない選手せんしゅはそのまま後続こうぞくの臨時りんじ便びんに、大阪おおさかで乗り切のりきれない選手せんしゅには、まず定期ていき便びんで羽田はたへ向むかってもらい、臨時りんじ便びんに合流ごうりゅうしてもらうという態勢たいせいが整ととのいました。

これは大だいごとだ！

しかし、この話はなしにはまだまだ続つづきがありました。

フライト当日とうじつの手てに汗あせ握にぎる状況じょうきょうを語かたってくれたのが、大阪おおさかオペレーションコントロール室しつの石田いしだ淳史あつしさん。大阪おおさか空港くうこうの“ウエバラ”担当たんとうです。

実じつは、ウエバラ担当たんとうの業務ぎょうむは、ここからが本番ほんばんなのです。

というのは、重おもさと重心じゅうしんの計算けいさん自体じたいはコンビューターが自動じどうで行おこなってくれるものの、パイロットが「天候てんこう不良ふりょうで上空じょうくうで待機たいきする時間じかんが長ながくなるかもしれない。もっと燃料ねんりょうが必要ひつようだ」と判断はんだんすれば計算けいさんのやり直やりなおしが必要ひつようです。基準きじゅんをオーバーしそうなら、どの貨物かもつを積み替つみかえるかを考かんがえるなど、最終さいしゅう調整ちょうせいを行おこなうことが仕事しごとだからです。

石田いしださんは「早番はやばん」で午前ごぜん5時じに出勤しゅっきんしましたが、本社ほんしゃから引き継ひきつぎを受うけて仰天ぎょうてんしました。

“大阪おおさか発はつ奄美あまみ行いきの便びんについては、15人にん程度ていどの乗り換のりかえが必要ひつようになる”

大阪おおさか空港くうこうの“ウエバラ担当たんとう” 石田いしだ淳史あつしさん

「とにかく、これは大だいごとだと。こんなに多おおくのお客様おきゃくさまに乗り換のりかえをお願おねがいしなければならない事態じたいは、もちろん経験けいけんがありませんでした。しかも一般いっぱんのお客様おきゃくさまでは軽かるくてダメで、大柄おおがらな選手せんしゅや関係かんけい者しゃの方ほうに15人にんも降おりてもらわなければならない。同時どうじ並行へいこうで担当たんとうしなければならない便びんは30便びん近ちかくあったのですが、この便びんに最大限さいだいげんの意識いしきを注そそいでいました」

チェックインが始はじまると

問題もんだいの便びんの出発しゅっぱつ時間じかんは午前ごぜん9時じ15分ふん。午前ごぜん7時じごろから、徐々じょじょにチェックインが始はじまりました。

実際じっさいに、相撲すもう選手せんしゅたちに乗り換のりかえをお願おねがいするのは、カウンターにいる旅客りょかく担当たんとうの社員しゃいんです。

石田いしださんは、社員しゃいんたちと連絡れんらくを取とりつつ、祈いのるような気持きもちでパソコンの画面がめんを凝視ぎょうししていました。相撲すもう選手せんしゅであっても、個人こじんで予約よやくした人ひとは、カウンターに来くるまで実際じっさいにどのくらい“重おもい”かどうかがわからないほか、機内きないに預あづける荷物にもつについても、チェックインの手続てつづきを終おえなければ重おもさがわからないからです。

そして、チェックインが進すすむにつれ、雲行くもゆきがあやしくなってきたのです。

石田いしだ淳史あつしさん

「お客様おきゃくさまの荷物にもつについては、あらかじめ余裕よゆうを持もって入力にゅうりょくしていたのですが、実際じっさいの荷物にもつはそれよりもずっと重おもかったんです。出発しゅっぱつ1時間じかん前まえの時点じてんで10人にんほどのお客様おきゃくさまが乗り換のりかえについて承諾しょうだくしていただいていたのですが、計算けいさんし直なおすと、さらに10人にん以上いじょうの人ひとに降おりてもらわなければならない数字すうじになっていました。『下回したまわれ、下回したまわれ』と心こころの中なかで唱となえていました」

荷物にもつも重おもかった…

実際じっさい、選手せんしゅたちの荷物にもつは想定そうていよりも重おもいものでした。

選手せんしゅたちに取材しゅざいすると、ビッグサイズの服ふくに、汗あせを拭ふくためのバスタオルも多おおく持参じさんしていました。

そして何なにより重おもいのが、まわしです。選手せんしゅによっては7キロ前後ぜんごもあるそうです。

出発しゅっぱつの間際まぎわになって、ようやく旅客りょかく担当たんとうから現場げんばで聞き取ききとった選手せんしゅたち全員ぜんいんの体重たいじゅうが記しるされたリストが届とどきました。それをすべてパソコンに打ち込うちこんだ結果けっかは…

まだ4人にん分ぶん（480キロ分ぶん）、重量じゅうりょう制限せいげんをオーバーしていました。

現場げんばでは、乗のる間際まぎわとなっている選手せんしゅらに、もう一度もういちど、乗り換のりかえをお願おねがいした上うえで、積つみ終おえてしまったその人ひとたちの荷物にもつを機内きないから運び出はこびだす対応たいおうに追おわれました。

出発しゅっぱつできたのは、定刻ていこくから38分ふん遅おくれた9時じ53分ふん。

結局けっきょく、当初とうしょの見込みこみに近ちかい14人にんが乗り切のりきれずに羽田はたへ。そして、ほぼ同おなじ対応たいおうが取とられた羽田はたの便びんでは13人にんが協力きょうりょくを申し出もうしでて、あわせて27人にんの選手せんしゅらが午後ごご1時じ25分ふん発はつの臨時りんじ便びんで奄美あまみ大島おおしまに向むかいました。

力士りきしたちは…

当とうの選手せんしゅたちは、今回こんかいの事態じたいをどう受け止うけとめたのか。

大阪おおさか発はつ・羽田はた経由けいゆ・奄美あまみ行いきと、かなりの遠回とおまわりをすることになった、岐阜ぎふ県けん代表だいひょうで大垣おおがき市しの職員しょくいんである田畑たばた奨すすむ治郎じろうさん（115キロ）に話はなしを聞ききました。

岐阜ぎふ県けん代表だいひょう田畑たばた奨すすむ治郎じろうさん

「はじめはびっくりしました。羽田はたに向むかっているときも『俺おれ、なんで羽田はたに向むかっているんだろう』と、ざわざわした気持きもちでした。ただ、羽田はたで相撲すもう仲間なかまと出会であって『なんでいるの？』と盛り上もりあがりましたし、臨時りんじ便びんに乗り合のりあわせた人ひとたちも、怒おこっている人ひとはいなくて、『こんなこともあるんだね』とその場ばの状況じょうきょうを楽たのしんでいました。夕方ゆうがたの会議かいぎには間に合まにあいましたし、むしろ、アマチュア相撲すもうが思おもわぬ形かたちで注目ちゅうもくされたと感かんじています」

こうした声こえを、石田いしださんに伝つたえると「お客様おきゃくさまには大変たいへんなご不便ふべんをおかけしましたが、寛容かんような声こえが多おおく、とてもありがたいと感かんじています。私わたし自身じしんもやるべきことはやれたと思おもっていますが、二度にどとこうしたことは起おきないようにしなければと感かんじています」と答こたえていました。