トランプ大統領は1月20日の政権発足以降、貿易赤字の削減や国内への製造業回帰を目指し、各国からの輸入品に対する関税措置を次々と発動しています。
今月5日にはすべての国や地域を対象に一律で10%の関税を課す措置を発動しました。
また、貿易赤字が大きい国や地域を対象にした「相互関税」を9日に発動し、日本には24%の関税が課されましたが、その後、問題解決に向け、協議を要請してきている国々に対しては90日間、措置を停止し、交渉が始まっています。
さらに中国に対しては追加関税を繰り返し引き上げ、これまでに合わせて145%となっています。
トランプ大統領はこれらの関税措置がアメリカに利益や雇用の創出をもたらすとして、繰り返し必要性を強調しています。
一方、アメリカ国内では関税措置の影響で物価が上昇しインフレが再び加速することへの懸念が出ているほか、各国から商品を輸入しているアメリカ企業からはコストの増加などビジネスへの悪影響を不安視する声が上がっています。
トランプ大統領の支持率は各種世論調査の平均で、政権発足以降のこの3か月間を見ると、徐々に低下する傾向にあり、関税措置に対する懸念が一定の影響を与えているという見方も出ています。
アメリカの事業者は翻弄
トランプ大統領が各国に対する関税措置を発動する中、ほかの国から商品を輸入しているアメリカの事業者は翻弄されています。
ペンシルベニア州フィラデルフィアのバッグデザイナーのシェリル・モージーさんは、自身でデザインしたバッグを中国で製造し、アメリカに輸入してきました。
トランプ大統領が選挙期間中から中国からの輸入品に追加関税を課す考えを示してきたため、モージーさんはことし1月はじめに取材した際「これから何が起こるのか本当におそろしい」と話し、ビジネスへの影響を不安視していました。
その後、発足したトランプ政権は、この3か月間で中国からの輸入品への追加関税を繰り返し引き上げ、これまでに合わせて145%にたっしました。
モージーさんにとっては想定を大きく上回る高い関税率だったといいます。
関税は輸入する国の企業や人が払う仕組みのため、モージーさんが支払う必要がありますが、145%の追加関税によってコストはこれまでの倍以上となり自分で負担するのは不可能だといいます。
関税をめぐって状況が目まぐるしく動いているため、モージーさんは、現在、中国での製造を停止していますが「関税を支払うのは中国ではなく、私だ。とても払えない額で、輸入を続けることができない。利益が出ないし、客に転嫁できるような額ではない。関税を下げてもらいたい」と訴えていました。
トランプ大統領の評価に賛否の声
トランプ政権発足から3か月となるのを前に、今月10日首都ワシントンのホワイトハウスの前でトランプ大統領に対する評価を聞きました。
このうちトランプ大統領を支持しているという男性は「トランプ政権は動いており、よい方向に進んでいる。ものごとを成し遂げている。バイデン前政権ではそのような動きは見られず、非常に遅かった」と話し、多くの政策を次々と実行に移しているとして評価しました。
またトランプ大統領が各国に対する関税措置を発動していることについて「単純明快だ。『あなたたちがわれわれに課税するのだからわれわれも課税する』という当たり前の対応だ」と話し、支持しました。
一方、トランプ大統領を支持できないという女性は「彼は大きな変化を起こしている。変化はある程度、必要だと思うが、一度にすべてを変えるのではなく、適切なタイミングでやるべきで彼のやり方は賛成できない。恐い」と話していました。
またこの女性の夫はトランプ大統領の関税措置について「トランプ大統領が何度も方針を変えるため、彼が向かっている方向を理解するのが難しい。将来を計画するのは不確実性が高い状況では困難だ。私たちの老後の資産や貯蓄に影響を与えていて非常に懸念している」と批判しました。
トランプ大統領の支持率 徐々に低下の傾向
アメリカの政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によりますと、各種世論調査の平均値で、トランプ大統領の支持率は政権発足以降のこの3か月間を見ると、徐々に低下する傾向にあります。
政権発足直後の1月27日時点で、トランプ大統領の政権運営を「支持する」と答えた人は50.5%だったのに対し、「支持しない」と答えた人は44.3%でした。
その後、「支持する」と答えた人の割合は徐々に低下し、3月13日時点で「支持しない」と答えた人の割合が上回り、今月18日時点では「支持する」が46.5%、「支持しない」が50.7%になりました。
また、キニピアック大学は今月3日から7日にかけてアメリカの有権者、1407人を対象にトランプ大統領の政権運営や関税措置などについて世論調査を行いました。
それによりますと、トランプ大統領の関税措置が短期的にアメリカ経済に与える影響について「よい影響を与える」と答えた人は22%、「悪い影響を与える」と答えた人は72%でした。
支持政党別に見ると、「悪い影響を与える」と答えた人は、共和党支持層で44%、民主党支持層で97%、無党派層で77%でした。
また、トランプ大統領の貿易政策について「支持する」と答えた人は39%、
「支持しない」と答えた人は55%でした。
専門家 支持率の低下 分析
アメリカの保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所のカーリン・ボウマン名誉上級研究員はトランプ大統領の支持率の低下について、「アメリカ人は経済について最も懸念している。トランプ大統領は就任初日にインフレ対策に取り組むと述べたが、インフレを抑制するという点で成功していない」と述べ、国内経済が低下の主な要因になっていると分析しています。
ただ、1期目の同じ時期と比べて支持率はなお高い水準にあり、「大幅な低下ではない」としています。
そしてトランプ大統領の関税政策について「関税は経済についてのより広範な懸念の一部としてトランプ大統領の支持率に影響を与えている。一般の市民は、関税が物価の上昇を引き起こすと考えていて非常に懸念している」と述べて支持率の低下に一定の影響を与えているという考えを示しました。
またトランプ大統領が、関税措置をめぐり、発動直後に停止するなど、一貫性のない対応が見られると指摘し「すべてが非常に混乱している。アメリカ人は混乱と不確実性を好まず、それが支持率の低下に反映されている。支持率は大きな低下ではないが実際に起こっており、ホワイトハウスが注意を払うべき問題だ」と述べました。