“災害さいがい関連かんれん死し防ふせぎたい” 被災ひさい地ち通かよう医師いしの日記にっきから見みえた教訓きょうくん

「災害さいがい関連かんれん死しを防ふせぎたい」と被災ひさい地ちに通かよい、活動かつどうを日記にっきにつけてきた医師いしは、「次つぎの災害さいがいに備そなえて、エコノミークラス症候しょうこう群ぐんを防ふせぐために、避難ひなん環境かんきょうの改善かいぜんが必要ひつようだ」と指摘してきしています。

被災ひさい地ちに通かよう医師いしの日記にっき

「様々さまざまな葛藤かっとうと共とともに行動こうどうをした。もう起おきてはほしくないが、“その時とき”の準備じゅんび・対策たいさくに役立やくだてていただきたく、今回こんかいの顛末てんまつをここに記しるす」（日記にっき冒頭ぼうとう）

こう記しるしたのは、金沢かなざわ医科いか大学だいがく氷見ひみ市民しみん病院びょういんの医師いしで、血管けっかん外科げかが専門せんもんの小畑おばた貴司たかしさんです（54）。小畑おばたさんは地震じしん直後ちょくごは、富山とやま県けん氷見ひみ市しの避難ひなん所しょで住民じゅうみんの検診けんしんにあたりました。

県内けんないの避難ひなん所しょが2月つき上旬じょうじゅんに解消かいしょうされて以降いこうは、石川いしかわ県けん輪島わじま市しや穴水あなみず町まちなどをほぼ毎月まいつき訪おとずれ、検診けんしんにあたってきました。

原点げんてんは阪神はんしん・淡路あわじ大震災だいしんさい

活動かつどうの原点げんてんは29年ねん前まえ、医学いがく生せいの時ときに発生はっせいした「阪神はんしん・淡路あわじ大震災だいしんさい」で、地元じもとの淡路あわじ島とうも被災ひさいして知人ちじんが犠牲ぎせいとなりました。

震災しんさいでは地震じしんで助たすかったものの、その後そのごの避難ひなん生活せいかつによる体調たいちょうの悪化あっかなどが原因げんいんで亡なくなる「災害さいがい関連かんれん死し」が注目ちゅうもくされるきっかけとなりました。

小畑おばた貴司たかしさん

「災害さいがい関連かんれん死しは防ふせぐことができるんですよね。あの時ときに予防よぼうしておけば、（症状しょうじょうを）見みつけてあげられれば、ひょっとしたら災害さいがい関連かんれん死しにならなかったんじゃないかなっていう思おもいはあります」

“エコノミークラス症候しょうこう群ぐん”を防ふせげ

小畑おばたさんが取り組とりくんだのは、「エコノミークラス症候しょうこう群ぐん」を防ふせぐことです。

「エコノミークラス症候しょうこう群ぐん」は、避難ひなん所しょなどで脱水だっすい症状しょうじょうになったり、同おなじ姿勢しせいを続つづけたりすることで足あしに血ちのかたまり＝血栓けっせんができて肺はいの血管けっかんが詰つまる病気びょうきで、災害さいがい関連かんれん死しの要因よういんの1つです。

「エコノミークラス症候しょうこう群ぐんの早期そうき発見はっけんと予防よぼう」（3月つき18日にちの日記にっき）

「氷見ひみ市しのエコノミークラス症候しょうこう群ぐん予防よぼう対策たいさくを重点的じゅうてんてきに行おこなうことにした」（1月つき3日にちの日記にっき）

「感染かんせん症しょうの対策たいさくをしなければエコノミークラス症候しょうこう群ぐんの対策たいさくが困難こんなん」（1月つき7日にちの日記にっき）

避難ひなん所しょでの理解りかいや対策たいさくが不十分ふじゅうぶん

しかし、小畑おばたさんが避難ひなん所しょで感かんじたのは、「エコノミークラス症候しょうこう群ぐんへの理解りかいや対策たいさくが不十分ふじゅうぶん」だということでした。

エコノミークラス症候しょうこう群ぐんを知しらない避難ひなん者しゃも少すくなくなく、小畑おばたさんは住民じゅうみんに、

▽足首あしくびの運動うんどうをして

▽水分すいぶんを十分じゅうぶんにとることや、

▽予防よぼうのためのストッキングをはくことなどを呼よびかけて回まわりました。

「保健ほけん師しより『エコノミークラス症候しょうこう群ぐん、当初とうしょは頭あたまになかった。声こえをかけてくれてよかった』（と言いわれた）」（1月つき18日にちの日記にっき）

小畑おばた貴司たかしさん

「僕ぼくたちはエコノミークラス症候しょうこう群ぐんの話はなしをさせてもらっていたんですけど、被災ひさい者しゃの人ひとたちは何なにそれという感かんじだったんですね」

能登のとの深刻しんこくな避難ひなん環境かんきょう

その後そのご、能登のとへ活動かつどうを移うつした小畑おばたさんが痛感つうかんしたのは、「避難ひなん環境かんきょうの過酷かこくさ」です。

避難ひなん所しょでは、住民じゅうみんは雑魚寝ざこねで、断水だんすいが続つづいて仮設かせつトイレなどの衛生えいせい状況じょうきょうも良よくなく、トイレをためらって水みずを飲のむことを控ひかえる人ひともいるなど、エコノミークラス症候しょうこう群ぐんのリスクが高たかい環境かんきょうでした。

小畑おばた貴司たかしさん

「（4月の輪つきのわ島とう）想像そうぞうを絶ぜっする風景ふうけい。避難ひなん所しょ生活せいかつしている人ひと、ちょっとすごいなと。

（テレビで見みた）東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいの避難ひなん所しょの風景ふうけいそのもの。もう全まったくあのころと変かわらない避難ひなん所しょの風景ふうけいにはちょっと驚おどろきました。ショックでした」

「隣となりの家いえは押おしつぶされていた。なんて光景こうけいだ・・・これが現実げんじつか・・・」「・・・言葉ことばが出でない」「車中しゃちゅう泊はくを続つづけている方ほうがいた！」（6月つき30日にちの日記にっき）

「今いまだに劣悪れつあくな環境かんきょうで避難ひなん所しょ生活せいかつしている方ほうが多おおい」（6月つき18日にちの日記にっき）

住民じゅうみん検診けんしんで足あしに血栓けっせん 一いち定数ていすう確認かくにん

住民じゅうみんの検診けんしんを進すすめたところ、足あしに血栓けっせんのある人ひとが一いち定数ていすう、確認かくにんされたといいます。

「（輪島わじま）128名めいの検査けんさをして、10名めい（7.8％）にDVT（深部しんぶ静脈じょうみゃく血栓けっせん症しょう）を認みとめた」（4月つき29日にちの日記にっき）

「総計そうけいで120名めい、9％にDVTを認みとめた」（10月つき6日にちの日記にっき）

「25名めい受診じゅしんされて7名めいでDVT」（9月つき29日にちの日記にっき）

「21名めいの検診けんしんを行おこなうことが出来できた2名めいのDVT」（10月つき6日にちの日記にっき）

小畑おばた貴司たかしさん

「古ふるい血栓けっせんが結構けっこう見みつかるんですよね。おそらく1月つきの災害さいがいで被災ひさいした時ときに、避難ひなんしたときにできたものがまだ残のこっている。エコノミークラス症候しょうこう群ぐんに関にかんしてなんですけれども、われわれの調しらべた限かぎりでは、今いまのところは8％を超こえているんですね。ふだんでも3から4％ぐらいは発生はっせいするので、倍ばいぐらいの人数にんずうに起おこっていますね」

教訓きょうくん1 避難ひなん環境かんきょうの改善かいぜんを

小畑おばたさんは能登のと半島はんとう地震じしんの教訓きょうくんとして、トイレや寝ねる場所ばしょなど「避難ひなん環境かんきょうの改善かいぜん」が必要ひつようだと強つよく感かんじています。

「避難ひなん所しょの環境かんきょうが良よくないのか？ダンボールベッドやトイレなどの環境かんきょうを早はやく整ととのえるべきだったのか？」（4月つき24日にちの日記にっき）

小畑おばた貴司たかしさん

「何なにか僕ぼくらができたんじゃないか。1人にんでもいいから、そういったことから助たすけてあげられたのかもしれないなっていうのは思おもった。トイレの環境かんきょうを整ととのえてあげる、もちろん、水分すいぶんがとれるような環境かんきょうを早はやく作り上つくりあげてあげるべきだったんじゃないかなと思おもっています」

教訓きょうくん2 精神せいしん的てきなケアを

あわせて小畑おばたさんが訴うったえるのは「精神せいしん的てきなケア」の重要じゅうよう性せいです。

小畑おばたさんの日記にっきには、9月つきの豪雨ごうう災害さいがいで二に重じゅう被災ひさいした人ひとたちから聞きいた切実せつじつなことばが記しるされていました。

「せっかく仮設かせつ住宅じゅうたくに入居にゅうきょできたのに、そこに床上ゆかうえ浸水しんすいとは・・・二に重じゅう被害ひがい・・・仮設かせつ住宅じゅうたくから避難ひなん所しょに・・・これでまたエコノミークラス症候しょうこう群ぐんが増ふえるようなことがあってはいけない」（9月つき29日にちの日記にっき）

「『もう良よいことないよ』とか『これからなのに、心こころ折おれたわ』などという声こえが聞きかれた」（10月つき6日にちの日記にっき）

「今回こんかいは笑顔えがおで検診けんしんを受うけてくれたけれども・・・ 物的ぶってき・精神せいしん的てきなケアが重要じゅうよう」

こうしたストレスに加くわえ、冬ふゆの寒さむさで血圧けつあつが上昇じょうしょうすれば、災害さいがい関連かんれん死しのリスクが高たかまる恐おそれもあるとして、今後こんごは「精神せいしん的てきなケア」が重要じゅうようだと指摘してきします。

小畑おばたさんは先月せんげつも石川いしかわ県けん珠洲すず市しの仮設かせつ住宅じゅうたくを訪おとずれて、住民じゅうみんの検診けんしんにあたっていました。

小畑おばた貴司たかしさん

「1人にんでも災害さいがい関連かんれん死しを少すくなく、これから起おこるかもしれない疾患しっかんを1人にんでも少すくなくしたい」

来きたる災害さいがいへの備そなえを

能登のと半島はんとう地震じしんのあと、小畑おばたさんがさらに危機きき意識いしきを高たかめた出来事できごとがあります。

ことし8月つきに気象庁きしょうちょうが発表はっぴょうした「南海なんかいトラフ地震じしん臨時りんじ情報じょうほう（巨大きょだい地震じしん注意ちゅうい）」です。

次つぎの災害さいがいへの備そなえが出来できているのか、医師いしとして焦あせりを感かんじたといいます。

「（気象庁きしょうちょうは）“南海なんかいトラフ地震じしん臨時りんじ情報じょうほう「巨大きょだい地震じしん注意ちゅうい」”を発表はっぴょうした」「想定そうていされているような南海なんかいトラフ地震じしんが発生はっせいした場合ばあい、我々われわれはどこまで活動かつどうが出来できるのだろうか？『その時とき』の準備じゅんびはできているのだろうか？今いま一いち度ど『備そなえる』こと『動うごける』ことを考かんがえておきたい」（8月つき8日にちの日記にっき）

教訓きょうくんを伝つたえる

小畑おばたさんは来月らいげつには再ふたたび穴水あなみず町まちの仮設かせつ住宅じゅうたくに向むかう予定よていです。

また、今回こんかいの教訓きょうくんを伝つたえたいと、来年らいねんの2月つきには市民しみん向むけの健康けんこう講座こうざで、これまでつけてきた日記にっきを活用かつようしてエコノミークラス症候しょうこう群ぐんについて講演こうえんをすることにしています。

小畑おばた貴司たかしさん

「次つぎ、本当ほんとうは起おこってほしくないけれども、起おこるかもしれない大おおきな災害さいがい、いろんな災害さいがいがありますよね。避難ひなん所しょ生活せいかつを余儀よぎなくされる人ひとたちのために、われわれエコノミークラス症候しょうこう群ぐんに対にたいして、どういうふうに立ち向たちむかっていくのかというのを情報じょうほう共有きょうゆうをして次つぎに備そなえる」