優勝へのマジックナンバーを「1」としていた首位のソフトバンクは23日夜、勝つか引き分けるか、または2位の日本ハムが負けか引き分けると優勝が決まる中、京セラドーム大阪でオリックスと対戦しました。
試合は1点を追う4回に9番・川村友斗選手のタイムリー内野安打で追いつくと、続くチャンスで1番・周東佑京選手がタイムリースリーベースヒットを打って4対2と勝ち越しました。
ソフトバンクは続く5回にも2本のタイムリーツーベースヒットで3点を追加し、8回にも2点を加えて試合を優位に進め、9対4とリードして9回に入りました。
一方、同じ時間に行われていたベルーナドームでの西武対日本ハムの試合で2位の日本ハムが4対6で先に敗れたため、その時点でソフトバンクの4年ぶりのリーグ優勝が決まりました。
ソフトバンクはその直後にベルーナドームの試合とほとんど時間差もない中、9回からマウンドに上がったヘルナンデス投手が代打のセデーニョ選手から見逃し三振を奪って試合を締めくくりソフトバンクが9対4で勝利しました。
ソフトバンクのリーグ優勝は前身の南海、ダイエー時代を含めて20回目です。
小久保裕紀監督を胴上げ
4年ぶり20回目のリーグ優勝を果たしたソフトバンクの選手たちは、一斉にベンチを飛び出してマウンドで抱き合い、その後、一人一人が笑顔でハイタッチを交わしました。
けがで離脱している近藤健介選手も松葉づえをついて姿を現し、歓喜の輪に加わりました。
そして、小久保裕紀監督を8回胴上げして、集まったファンと優勝の喜びを分かち合いました。
小久保監督「胴上げしてもらえ本当に最高」
就任1年目でリーグ優勝を果たしたソフトバンクの小久保裕紀監督は試合直後の優勝インタビューで、「2月のキャンプからこの日のためにチーム全員でやってきたので、懸命に戦ってきた選手たちに胴上げしてもらえて本当に最高だ」と、少し目を潤ませながら話しました。
そして、「開幕当初、選手たちには『かえのきかない選手になることが本当のプロフェッショナルだ』と伝えていたが、実際に1人1人がかえのきかない選手になり、集大成の9月を迎えることができた。連敗もあったがそれを跳ね返すことができたのは選手たちがプロフェッショナルとしてやった結果だと思う」とシーズンを通して強さを発揮した選手たちをたたえました。
そのうえで、ファンに向けて、「きょうは優勝の余韻に浸ってください。我々も余韻に浸ります。しかし、あす以降はクライマックスシリーズの戦術に切り替えていきます。きょうは楽しんでください!」と晴れやかな笑顔で呼びかけていました。
オリックス 中嶋監督「完全に力負け」
プロ野球、パ・リーグで昨シーズンまでリーグ3連覇していたオリックスの中嶋聡監督は優勝したソフトバンクについて「打線も強いし、ピッチャーもしっかりそろっていて、そこに対抗しようと思ったが完全に力負けという感じがした。うちが大きく負け越したことがソフトバンクを走らせた原因の1つだと思う」と振り返っていました。
クライマックスシリーズのファイナルステージへ
プロ野球、パ・リーグで4年ぶりの優勝を果たしたソフトバンクは、日本シリーズの出場をかけて10月16日からクライマックスシリーズのファイナルステージに臨みます。
クライマックスシリーズはまず2位と3位のチームによるファーストステージが行われ、ソフトバンクは、その勝者と本拠地の福岡市のみずほPayPayドームでファイナルステージを戦います。
ファイナルステージは先に4勝した方が日本シリーズに進みますが、リーグ優勝のソフトバンクにはあらかじめ1勝がアドバンテージとして与えられます。
クライマックスシリーズはファーストステージが来月12日から行われ、ソフトバンクが出場するファイナルステージは16日から始まります。
リーグ優勝への軌跡
ソフトバンクは4年ぶりのリーグ優勝を目指し、今シーズンから現役時代5回のリーグ優勝、3回の日本一を経験している小久保裕紀監督(52)がチームの指揮をとりました。
リーグ3連覇中のオリックスとの開幕戦に勝利すると、そこから3カード連続で勝ち越すさい先のいいスタートを切ります。
スタートダッシュの勢いそのままに、打線の中軸、柳田悠岐選手(35)や西武からフリーエージェントで移籍した山川穂高選手(32)の活躍で4月4日から首位を走り続けました。
特に、4月13日の西武戦では山川選手が古巣を相手に2打席連続で満塁ホームランを打って勝利に貢献したほか、4月下旬の西武との3連戦では柳田選手のサヨナラスリーランなどで劇的なサヨナラ勝利を3試合連続で飾り、“小久保ホークス”の圧倒的な強さを感じさせました。
しかし、好調なチームをピンチが襲います。柳田選手が右足の太ももの裏をけがし、全治4か月の診断を受けて6月1日に1軍の出場選手登録を抹消されたのです。
柳田選手のシーズン中の復帰が困難となり、得点力不足が懸念される中でチームを救ったのが昨シーズン、ホームラン王や打点王のタイトルを獲得し、今シーズンは5番を任されていた近藤健介選手(31)でした。
「柳田選手がまた暴れてもらえるような舞台を整えて待っていたい」と意気込んだ近藤選手は6月はいずれもリーグトップの打率4割1分3厘、ホームラン7本、23打点の成績をマークし、中軸としての役目を十分に果たしました。
一方で昨シーズン12球団で唯一、規定投球回に到達した投手がおらず、小久保監督が課題としていた投手陣もチームの好調を支えました。
昨シーズン、チームトップの10勝をあげ開幕投手を任された有原航平投手(32)は抜群の安定感で開幕から先発ローテーションを守り続け、リーグトップに並ぶ13勝をあげています。
また、モイネロ投手(28)も先発転向1年目ながらローテーションを守り、防御率はリーグトップの1.94、11勝の好成績をマークし、2人はいずれも規定投球回に到達して先発投手陣の柱となっています。
先発投手ではほかにもスチュワート投手(24)と大関友久投手(26)がいずれも自己最多の8勝をあげ、大津亮介投手(25)が先発転向1年目ながら6勝をあげるなど若手の台頭も見られました。
投打がかみ合い、4月から1度も首位を譲らなかったソフトバンクは8月6日にマジックナンバー「36」を点灯させます。
シーズンも後半に入り、疲れが見えてくる夏場に活躍が目立ったのが4番の山川選手でした。
6月から7月にかけて不振にあえいでいましたが、8月は打率2割9分3厘、23打点、ホームランは11本を打ち、ホームラン王3回の実力を発揮して、チームをけん引しました。
9月上旬には今シーズン初めて4連敗して足踏みする時期もありましたが、その後は7連勝でマジックナンバーを一気に減らして優勝をたぐりよせました。
優勝の要因
【小久保監督が目指す “常勝軍団” 再建の道】
4年ぶりのリーグ優勝を目指し、今シーズンから“ミスターホークス”と呼ばれる小久保裕紀監督が指揮を執りました。
現役時代、「弱い」ダイエーから「常勝軍団」へ飛躍を遂げるホークスの中心にいた小久保監督は当時、監督を務めていた王貞治球団会長のもと、強いリーダーシップでチームを引っ張り続けました。
去年10月の就任会見で「王監督時代に築かれたイズムを継承しながら、今一度チームに浸透させられるよう努めていきたい」と力強く語った小久保監督が目指したのは主力がチームの先頭に立って引っ張る、“王イズム”を継承したチームの再建でした。
【固定し続けた打線の中軸】
今シーズンを戦う上で重要視したのは打線の中心となるクリーンアップを固定することでした。
3番には野手最年長、35歳の柳田悠岐選手、5番には昨シーズン、ホームラン王と打点王のタイトルを獲得した近藤健介選手を配置しました。
そして、自身も現役時代に長年務め、強いこだわりを持つ4番を任せたのが、今シーズン西武から加入した山川穂高選手でした。
山川選手は5月末時点でホームラン12本、45打点の好成績を残し、スタートダッシュに成功しましたが、6月に入ると一転、急激に調子を落とし、23試合に出場して打率は1割8分2厘、4打点、ホームランは1本も打てませんでした。
しかし、小久保監督は打順を変えたり、ベンチに下げたりすることはせず、4番で先発起用を続け、山川選手は試行錯誤を繰り返します。実は小久保監督も現役時代、同じような経験をしていました。
ダイエーが初優勝を果たした1999年、小久保監督は当時の王監督から4番を任されていました。ただ7月には打率が1割台まで落ち込むなど不調が続き、みずから王監督に打順の変更を申し出るまで追い込まれましたが、王監督は打順を変えず、4番に固定し続けました。
小久保監督にとっては苦しいシーズンとなりましたが、不振を乗り越えて最終的には24本のホームランを打ってダイエー初のリーグ優勝に貢献したのです。こうした経験から「主力は試合に出て当たり前」を信条とする小久保監督は山川選手を起用し続けると、山川選手は7月最初の試合で1か月ぶりにホームランを打ちました。
試合後には「一生ホームランを打てないかと思った」と率直な思いを語った山川選手でしたが、その後は徐々に調子を上げ、8月は月間でホームラン11本、23打点をマークしました。そして、9月上旬には両リーグ最速で30号に到達すると、打点もリーグトップを快走し、監督からの期待に応える活躍を見せました。
【開幕投手に託した思い】
昨シーズン、12球団で唯一、規定投球回に到達した先発投手がおらず、課題となっていた投手陣でも小久保監督はシーズンを通して中心に据える選手を決めていました。
春のキャンプも終盤にさしかかった2月下旬、小久保監督は昨シーズン、チームトップの10勝をあげた有原航平投手に開幕投手を任せることを伝えるとともに、1通の手紙を手渡しました。手紙には大役を託した指揮官の思いとともに「前後裁断」ということばがつづられていました。
「過去や未来を断ち切り、今に集中する」という意味で、小久保監督が現役時代、帽子に書き大事にしていたことばです。監督からのことばを胸にリーグ3連覇中のオリックスとの開幕戦に勝利した有原投手は、シーズンを通して、投手陣の主力として先発ローテーションを守り続けました。
そして、優勝争いが佳境を迎えた今月20日のオリックス戦、小久保監督が「落とせない試合」とした重要な一戦を任された有原投手は、8回無失点の好投でリーグトップに並ぶ13勝目をあげました。プレッシャーのかかる試合でも指揮官の期待に十分に応えてチームを勝利に導き、リーグ優勝をたぐり寄せる1勝となりました。
【「あと1勝」を逃さないために】
去年10月、自身の監督就任会見を終えて1軍の全体練習に合流した小久保監督は選手やスタッフたちに「勝利の女神は細部に宿る」と訓示しました。2年続けて「あと1勝」に泣いたチームを変えようと、「隙を与えない」チーム作りに取り組む覚悟を示したのです。
小久保監督はウォーミングアップや試合中の走塁についてチームとしての決めごとを明文化するなど細かい部分まで選手に徹底をさせました。そしてその徹底ぶりは自身のふるまいにも及びました。
1軍の試合がなかった5月上旬、小久保監督の姿は本拠地からおよそ50キロ離れた福岡県筑後市のファーム施設にありました。小久保監督が話しかけたのは昨シーズンまで外野のレギュラーを務めていた5年目の柳町達選手でした。
今シーズンの外野は主力の柳田選手や近藤選手を固定させると開幕前から決めていたため、出場機会が大幅に減ると見込んだ首脳陣が柳町選手を2軍で待機させていました。2軍では打率3割超えの十分な成績を残していましたが、昇格のチャンスがない日々が続いていた柳町選手のモチベーションの低下を心配した小久保監督が直接、ことばを送ったのです。
柳町選手は当時について「監督がわざわざ見に来てくれたことでモチベーションが高まった」と話し、1軍昇格を諦めずに2軍戦に出場し続けた結果、5月末に1軍昇格を勝ち取りました。すると、2軍で取り組んできた長打力アップの成果がすぐに現れ、4年間で1本しか打てていなかったホームランをわずか2か月で4本打つなど、勝負強い打撃でチームに貢献しました。
そしてシーズン最終盤、優勝へのマジックナンバーを「4」としていた今月21日の楽天戦では1点を追う9回に代打で出場すると、逆転サヨナラとなる2点タイムリースリーベースを打ちました。小久保監督も「ことし1番興奮した。逆転サヨナラヒットなんて簡単に打つことができない」と褒めたたえました。
ぶれることなく、強い信念を持ってチームを作り上げてきた小久保監督。4月4日から1日も首位を譲らずに果たした4年ぶりのリーグ優勝は“常勝軍団”復活への幕開けとなりそうです。
プロ野球 榊原コミッショナー「心よりお祝い」
ソフトバンクの優勝を受けてプロ野球の榊原定征コミッショナーは「4年ぶり20回目のリーグ優勝に輝いたソフトバンクならびにファンの皆様に心よりお祝いを申し上げます。シーズン序盤から、盤石の投手陣とリーグ屈指の強力打線の力を遺憾なく発揮し、他球団の追随を許さない見事な戦いぶりでした。圧倒的な強さでペナントレースを駆け抜けた選手、それを支えた、コーチをはじめとするチームスタッフ、そして小久保監督の見事なリーダーシップに心から賛辞をお送りいたします。クライマックスシリーズにおいても多くのファンを魅了する熱戦が繰り広げられることを期待しております」とコメントしました。