日本新聞: 「自賠責保険」保険料事故で重い障害残った被害者の支援に

自動車じどうしゃユーザーが支払しはらう「自賠責しばいせき保険ほけん」の保険ほけん料りょうが、介護かいごの必要ひつような重おもい障害しょうがいが残のこった事故じこの被害ひがい者しゃを支援しえんする事業じぎょうの財源ざいげんに充あてられることになり、関連かんれんする法律ほうりつの改正かいせい案あんが25日にちにも閣議かくぎ決定けっていされる見通みとおしです。成立せいりつすれば、車くるま社会しゃかいの影かげで被害ひがいに遭あう人ひとたちをユーザーが支ささえる仕組しくみが整ととのうことになります。

国土こくど交通こうつう省しょうによりますと、交通こうつう事故じこの死亡しぼう者しゃ数すうはこの10年間ねんかんで4割わり減へるなど減少げんしょう傾向けいこうが続つづく一方いっぽう、介護かいごの必要ひつような重おもい障害しょうがいが残のこった被害ひがい者しゃは毎年まいとし1200人にん前後ぜんごと横よこばいで推移すいいしています。

重度じゅうど障害しょうがいの被害ひがい者しゃについて、国土こくど交通こうつう省しょうは治療ちりょうにあたる専門せんもん病院びょういんを整備せいびするなどの支援しえん事業じぎょうを行おこなっていますが、主おもな財源ざいげんとなる特別とくべつ会計かいけいの積立つみたて金きんが今後こんご十じゅう数すう年ねんで枯渇こかつすると試算しさんされています。

25日にちにも閣議かくぎ決定けっていされる見通みとおしの法律ほうりつの改正かいせい案あんでは、保険ほけん料りょうのうち「賦課ふか金きん」と呼よばれる部分ぶぶんを被害ひがい者しゃ支援しえんの事業じぎょうなどの財源ざいげんに充あてるよう自賠責しばいせき保険ほけんの制度せいどを改あらためることが盛り込もりこまれています。

「賦課ふか金きん」は現在げんざい、ひき逃ひきにげや無む保険ほけんの車くるまによる事故じこに遭あい保険ほけん金きんが請求せいきゅうできない被害ひがい者しゃに対にたいし、国くにが保険ほけん金きんと同等どうとうの額がくを支払しはらう事業じぎょうに充あてられていますが、その使途しとを広ひろげる形かたちです。

政府せいふは法律ほうりつの改正かいせい案あんを今いまの通常つうじょう国会こっかいに提出ていしゅつし成立せいりつを目指めざすことにしています。

支援しえん事業じぎょうの積立つみたて金きん枯渇こかつの試算しさん保険ほけん料りょうで工面くめんへ

自賠責しばいせき保険ほけん（自動車じどうしゃ損害そんがい賠償ばいしょう責任せきにん保険ほけん）は、ユーザーが保険ほけん会社かいしゃに保険ほけん料りょうを支払しはらい、事故じこを起おこした場合ばあい、被害ひがい者しゃに保険ほけん金きんが支払しはらわれます。

すべての事故じこの被害ひがい者しゃが泣き寝入なきねいりすることなく保険ほけん金きんを得えられるよう法律ほうりつでユーザーに契約けいやくが義務ぎむづけられている、昭和しょうわ30年ねんから始はじまった歴史れきしの古ふるい制度せいどです。

ただ、被害ひがい者しゃに介護かいごが必要ひつような重おもい障害しょうがいが残のこった場合ばあい、保険ほけん金きんだけでは生活せいかつが立ち行たちゆかないとして、国土こくど交通こうつう省しょうは介護かいご料りょうの支給しきゅうや専門せんもん病院びょういんの整備せいびなどの支援しえんを中心ちゅうしんとした事業じぎょうを行おこなっています。

事業じぎょうにかかる費用ひようは毎年まいとしおよそ150億おく円えんで、国くにの特別とくべつ会計かいけいの積立つみたて金きんが主要しゅような財源ざいげんになっていますが、この積立つみたて金きんの残高ざんだかは来年らいねん度ど末まつに1441億おく円えんとなる見込みこみで、国くには令りょう和わ20年度ねんどに枯渇こかつすると試算しさんしています。

積立つみたて金きんが枯渇こかつすれば、支援しえん事業じぎょうの継続けいぞくが困難こんなんになるうえ、現在げんざいの事業じぎょう規模きぼでは行き届いきとどいていない支援しえんもあるなどとして、国土こくど交通こうつう省しょうは自賠責しばいせき保険ほけんの保険ほけん料りょうからその費用ひようを工面くめんすることを決きめました。

具体ぐたい的てきには、自賠責しばいせき保険ほけんのうち「賦課ふか金きん」と呼よばれる、保険ほけん料りょうの一部いちぶとして徴収ちょうしゅうされている部分ぶぶんを支援しえん事業じぎょうに充あてる方針ほうしんで、再来さいらい年度ねんど以降いこうの賦課ふか金きんの増額ぞうがくも検討けんとうしています。

自賠責しばいせき保険ほけん料りょうはすべてのユーザーに支払しはらいが義務ぎむづけられているだけに、増額ぞうがくについては国くにの検討けんとう会かいで慎重しんちょうな議論ぎろんが続つづけられていて、国土こくど交通こうつう省しょうは「ユーザーの負担ふたんにも配慮はいりょしたうえで、事業じぎょうを安定あんてい的てきに実施じっしできる仕組しくみへの転換てんかんを図はかりたい」と話はなしています。

専門せんもん病院びょういんを整備せいびも病床びょうしょう数すうなど課題かだい

国土こくど交通こうつう省しょうは、交通こうつう事故じこに遭あい自力じりきで動うごいたり食事しょくじをしたりすることができなくなった「遷延せんえん性せい意識いしき障害しょうがい」の被害ひがい者しゃを治療ちりょうする専門せんもん病院びょういんを全国ぜんこくで4か所かしょ整備せいびしています。

このうち最もっとも早はやい昭和しょうわ59年ねんに開設かいせつされた千葉ちば市しの千葉ちば療護りょうごセンターには現在げんざい、10代だいから80代だいのおよそ70人にんが入院にゅういんしています。

入院にゅういん患者かんじゃは事故じこの後遺こうい障害しょうがいで意思いしの疎通そつうが難むずかしく、体調たいちょうの変化へんかを訴うったえることができないため、施設しせつでは看護かんごスタッフの人数にんずうを一般いっぱんの病院びょういんの急性きゅうせい期き病棟びょうとうと同等どうとうにして、わずかな変化へんかも確認かくにんできる体制たいせいを取とっています。

また全身ぜんしんのCT画像がぞうを撮影さつえいする頻度ひんどを増ふやし、脳のう機能きのうの回復かいふく度合どあいや、がんなどの病気びょうきがないかをこまめに確認かくにんするなど患者かんじゃそれぞれに合あった治療ちりょうやリハビリを実施じっししています。

こうした医療いりょうサービスを提供ていきょうするためには通常つうじょうの診療しんりょう報酬ほうしゅうでは経営けいえいが成り立なりたたないため、民間みんかんの病院びょういんだけに任まかせることが難むずかしいということです。

また、この施設しせつは開設かいせつから40年ねん近ちかくがたち老朽ろうきゅう化かが進すすんでいるうえ、リハビリ室しつの広ひろさが現在げんざいの医療いりょうニーズに合あっていないほか、常つねに入院にゅういん待まちの被害ひがい者しゃがいる状態じょうたいだということです。

国くには全国ぜんこくの民間みんかん病院びょういん7か所かしょを委託いたく病床びょうしょうとして4か所かしょの専門せんもん病院びょういんに準じゅんじた治療ちりょうを受うけられるようにしていますが、病床びょうしょう数すうの地域ちいき的てきな偏かたよりも課題かだいだとしています。

千葉ちば療護りょうごセンターの小林こばやし繁樹しげきセンター長ちょうは「被害ひがい者しゃのニーズに応こたえていくには、建て替たてかえも含ふくめて大おおきく構造こうぞう改革かいかくをしていかなければならない。どうしても経済けいざい的てきなバックアップが必要ひつようになるが、私わたしたちが受うけている車くるま社会しゃかいの恩恵おんけいの影かげで被害ひがいを受うけた方ほうたちに対にたいして、皆みなで支援しえんする仕組しくみは必要ひつようだと思おもう」と話はなしていました。

重おもい障害しょうがいが残のこった被害ひがい者しゃ介護かいごを担になう親おやは

交通こうつう事故じこで介護かいごが必要ひつような重おもい障害しょうがいが残のこった被害ひがい者しゃや介護かいごを担になう親おやからは、リハビリ施設しせつの不足ふそくや「介護かいご者しゃなき後のち」を不安ふあん視しする声こえが聞きかれます。

広島ひろしま県けん廿日市はつかいち市しの徳政とくせい宏一ひろかずさん（54）は18年ねん前まえ、高速こうそく道路どうろの事故じこで脊髄せきずいを損傷そんしょうし、胸むねから下したを動うごかせなくなったほか手てにしびれが残のこり、車くるまいすでの生活せいかつを送おくっています。

病院びょういんを退院たいいんしたあと自宅じたくでリハビリを続つづけ、今いまでは時間じかんをかければベッドから車くるまいすへ移うつることも1人にんでできるようになりましたが、専門せんもんの病院びょういんや施設しせつが少すくなく十分じゅうぶんな治療ちりょうを受うけられないため、自宅じたく中心ちゅうしんのリハビリに頼たよらざるをえないといいます。

国土こくど交通こうつう省しょうの専門せんもん病院びょういんも脳外科のうげかに特とく化かしていて、徳政とくせいさんは「脊髄せきずい損傷そんしょうは障害しょうがいの程度ていどが軽かるいと思おもわれがちだが、何なん年ねんもリハビリを行おこなって自立じりつ生活せいかつに戻もどることができる。環境かんきょう面めんは整ととのっておらず、今後こんご、国くにには自立じりつ生活せいかつへの推進すいしんに力ちからを尽つくしてほしい」と話はなしていました。

また大阪おおさか府ふ交野かたの市しに住すむ桑山くわやま雄次ゆうじさん（65）は、次男じなんの敦あつし至いたるさん（34）が小学しょうがく2年生ねんせいの時ときに道路どうろを横断おうだん中ちゅう、車くるまにはねられ、自力じりきで動うごくことができない遷延せんえん性せい意識いしき障害しょうがいになりました。

敦あつし至いたるさんが訪問ほうもん介護かいごやデイサービスを利用りようしている時間じかんを除のぞき、1日にちの大半たいはんの時間じかんは妻つまの晶子あきこさん（61）と2人にんでたんの吸引きゅういんやストレッチなどを担になっていて、在宅ざいたくでの介護かいごはことしで26年ねん目めになりました。

年齢ねんれいを重かさねる中なか、将来しょうらい、介護かいごが担になえなくなった時ときのことを考かんがえ始はじめていますが、敦あつし至いたるさんのように医療いりょう的てきなケアが必要ひつような人ひとを受け入うけいれることができるグループホームなどの施設しせつは数かずも環境かんきょう面めんも十分じゅうぶんでなく、「介護かいご者しゃなき後のち」をどう支ささえていくのか、大おおきな課題かだいになっています。