こうした中、中東を歴訪中のアメリカのペンス副大統領は21日夜、専用機でイスラエルに到着しました。空港があるテルアビブとエルサレムの間の幹線道路は一時的に閉鎖されるなど、厳重な警戒態勢が敷かれました。
ペンス副大統領は22日にネタニヤフ首相と会談するほか、議会で演説を行う予定で、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めたうえで、アメリカ大使館をエルサレムに移転する方針を示したことについてどのような発言をするのか注目されます。
ペンス副大統領は敬けんなキリスト教徒で、保守派の1つ、キリスト教福音派として知られ、イスラエル寄りの立場を鮮明にしていて、エルサレムをイスラエルの首都と認めるトランプ大統領の決定を後押ししたとも言われています。
そのペンス副大統領がイスラエルを訪れたことに対し、パレスチナ側は23日には大規模な抗議デモを呼びかけていて、イスラエル軍との間で衝突が拡大することも予想されます。
パレスチナで抗議集会
アメリカのペンス副大統領がイスラエルに到着した21日夜、パレスチナ暫定自治区のベツレヘムでは、ペンス氏の訪問に抗議する集会が行われました。
集まった人たちはペンス副大統領の顔写真とともに「ペンス、お前はわれわれの土地を冒とくしている。帰れ」などと書かれたポスターを掲げ、「アメリカは出て行け」と気勢をあげました。そして、顔写真を踏みつけたり、ポスターに火をつけて燃やしたりして、抗議の意志を示していました。
集会に参加した男性は「ペンスの訪問には反対だ。トランプはエルサレムはユダヤ人のものだと言ったが、彼はエルサレムがイスラム教徒にとっても、キリスト教徒にとっても、聖地なのだということがわかっていない」と話していました。
パレスチナ側はペンス副大統領がエルサレムにあるユダヤ教の聖地「嘆きの壁」を訪れる23日に大規模な抗議デモを呼びかけていて、デモ隊とイスラエル軍との衝突の激化も予想されます。
アメリカとイスラエルの関係
アメリカは1948年にイスラエルが建国された際、最初に国家として承認し、対立するアラブ諸国に囲まれたイスラエルを一貫して支援してきました。
アメリカでは、「イスラエル・ロビー」と呼ばれるユダヤ系の団体が、政財界に強い影響力を持ち「特別な関係の国」として、イスラエルに多額の軍事援助を続けています。
しかし、前のオバマ政権がイスラエルが安全保障上最大の脅威と捉えるイランとの距離を縮め、ヨーロッパなどの関係国とともに核合意を妥結したことから、イスラエルはこれを公然と批判し関係が冷え込みました。
一方、トランプ大統領はおととしの大統領選挙期間中、エルサレムにアメリカ大使館を移転すると発言し、イスラエル寄りの姿勢を打ち出しました。
大統領に就任したあともパレスチナに対して強硬な姿勢の人物をイスラエル大使に起用したほか、イスラエルと将来的なパレスチナ国家が共存する「2国家共存」には必ずしもこだわらない考えを示しました。
そして、先月にはエルサレムをイスラエルの首都と認めると宣言したうえで、アメリカ大使館をエルサレムに移転する方針を明らかにし、イスラエル寄りの姿勢を国際社会に鮮明に印象づけました。
トランプ大統領の政策決定に影響力を持つとされる娘婿のクシュナー上級顧問は敬けんなユダヤ教徒で、娘のイバンカ氏も結婚を機にユダヤ教に改宗したことで知られています。
また、アメリカ国内で最大の宗教勢力と呼ばれるキリスト教福音派は、イスラエルを支援することが重要だと信仰しており、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認める判断をしたのは、キリスト教福音派の支持をつなぎとめたい狙いがあったと見られています。
ペンス副大統領 中東外交のカギ握るとの見方も
マイク・ペンス氏は第48代のアメリカ副大統領で58歳。中西部インディアナ州出身で、2000年の選挙で下院議員に初当選し、6期12年務める間、共和党指導部のポストを務めた経験もあり、党主流派の議員に幅広い人脈を持っていることから、政治経験がないトランプ大統領と党主流派との橋渡し役を果たしてきました。
2013年にはインディアナ州の知事に就任し、おととしの大統領選挙でトランプ氏が勝利したあとは政権移行チームのトップを務め、閣僚人事などでトランプ氏を支えました。
敬けんなキリスト教徒で保守派の1つキリスト教福音派で、イスラエル寄りの立場をとっていることでも知られています。
先月、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認める決定を演説で発表した際には、トランプ大統領のすぐ後ろにはペンス副大統領の姿がありました。この決定をめぐっては政権内でも反対する意見がありましたが、ペンス副大統領は賛成したと言われています。
ティラーソン国務長官がトランプ大統領との意見の違いが伝えられ、中東和平交渉を担当するクシュナー上級顧問がロシア疑惑への関与が取り沙汰される中、ペンス副大統領が今後の中東外交のカギを握るとの見方も出ています。
専門家 中東和平実現は極めて困難
ペンス副大統領の中東訪問について、アメリカとイスラエルの関係に詳しいジョージタウン大学のロバート・リーバー教授はNHKの取材に対し、「今回の訪問の最大の目的は、アメリカが中東で関わりが深いエジプトやヨルダン、イスラエルなどとの結びつきを強めることだ。それは地域の混乱要因になっているイランに対抗するためだ」と述べ、アメリカとしては今回の訪問を通じて、対イランを強調して各国に結束を呼びかけるのが狙いだとの見方を示しました。
また、ペンス副大統領が派遣されたことについて、「ペンス副大統領は政治家としてのキャリアの中で親イスラエルの立場を常に貫いてきたほか、キリスト教福音派という宗教的な信仰心からも強くイスラエルを支持している。国務省の高官らの不在が続く中で、ペンス副大統領は実質的にも象徴的にも派遣するには理想的だと言える」と指摘しています。
そして、中東和平交渉については「各国の指導者たちによるさまざまな外交努力が行われるかもしれないが、あくまで表面的なものだ。パレスチナ側が反発の姿勢を崩すとは思えず、和平合意という実質的な成果には至らないだろう」と述べ、トランプ政権のもとでは中東和平の実現は極めて難しいとの見方を示しました。