今後、成立すれば、財政規律が厳しいドイツでも安全保障の強化に向けた動きが加速するとみられます。
ドイツの連邦議会では18日、基本法の改正法案の審議が行われました。
法案は2月の総選挙で勝利した「キリスト教民主・社会同盟」と連立協議を進める「社会民主党」が共同で提出し、国防費などの増額ができるよう、基本法に定められた財政規律を緩和するとしています。
次の首相に就任する見通しの「キリスト教民主・社会同盟」のメルツ氏は「10年以上、私たちは誤った安心感を享受してきた。いま、防衛能力を一から立て直さなければならない」と支持を訴えました。
一方、極右だとされる右派政党「ドイツのための選択肢」は反対を表明しました。
採決の結果、賛成が513反対が207で議席の3分の2以上の賛成で可決され、今後、上院にあたる連邦参議院での審議をへて決定する見通しです。
基本法では政府の債務をGDP=国内総生産の0.35%未満に抑える「債務ブレーキ」と呼ばれる厳格なルールが定められています。
法案が成立すれば国防費の一部の支出は「債務ブレーキ」の対象から外れ、ドイツにとって大きな政策の転換となり、安全保障の強化に向けた動きが加速するとみられます。
「債務ブレーキ」とは
「債務ブレーキ」は、財政規律を守るためのドイツ独自の厳格なルールです。
憲法にあたる基本法に定められていて、政府の債務はGDP=国内総生産の0.35%未満に抑えなければなりません。
このルールは、2009年のヨーロッパの信用不安を受けて、当時のメルケル政権によって取り入れられました。
ドイツでは、第1次世界大戦後のハイパーインフレーションがナチスの台頭につながったとされ財政規律を重視してきました。
財政規律は政治において重要なテーマで、2024年11月にショルツ政権が崩壊した原因は、財政支出を増やすために「債務ブレーキ」の適用を一時的に停止するかどうかをめぐる連立与党内の対立でした。
ただ、ロシアによるウクライナ侵攻でヨーロッパの安全保障環境が大きく変化する中、「債務ブレーキ」を維持したままでは、国防費を大幅に増額することは難しい状況となっていました。
このため、ことし2月の総選挙で勝利した「キリスト教民主・社会同盟」は連立協議を進める「社会民主党」と、国防費のうちGDPの1%を超える項目の支出については「債務ブレーキ」の対象から外す基本法の改正を行うことで合意しました。
イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズは「第2次世界大戦後から続く軍備への抑制からの脱却になる」として、イギリスやフランスよりも低い水準にあったドイツの国防費の増加につながる重要な改革だと報じています。