日本新聞: 株価8連騰は本物か投資の神様? インバウンド?【経済コラム】

18日にち、日経にっけい平均へいきん株価かぶかは8営業えいぎょう日び連続れんぞくで値上ねあがりし、終値おわりねでことしの最さい高値たかねを更新こうしんしました。インバウンド効果こうかか“低ていPBR改革かいかく”の影響えいきょうか、はたまた“投資とうしの神様かみさま”と呼よばれるウォーレン・バフェット氏しが来日らいにちした余波よはか。市場しじょうではポジティブな要因よういんが次々つぎつぎにあげられ、さらなる上昇じょうしょうへの期待きたいも高たかまりましたが、一方いっぽうでその持続じぞく性せいを疑問ぎもん視しする声こえもあがっています。さまざまな見方みかたが交錯こうさくするマーケットの現状げんじょうを取材しゅざいしました。（経済けいざい部ぶ記者きしゃ西園にしぞの興起こうき）

株価かぶか上昇じょうしょうを引っ張ひっぱったセクターは？

18日にちの東京とうきょう株式かぶしき市場しじょうで日経にっけい平均へいきん株価かぶかは2万まん8658円えん83銭せんまで上昇じょうしょう。4月つき7日にち以降いこう、8営業えいぎょう日び連続れんぞくの値上ねあがりです。

株価かぶかはことしに入はいって上昇じょうしょうを続つづけますが、3月つき10日にち以降いこう、欧米おうべいの金融きんゆう不安ふあんが広ひろがったことで大おおきく値下ねさがり。

しかし1か月かげつ前まえの3月つき20日にちを底そこに再ふたたび上昇じょうしょう傾向けいこうが続つづき、4月つき20日にちまでの1か月かげつの日経にっけい平均へいきん株価かぶかの上昇じょうしょう幅はばは1700円えんにのぼりました。

この間このかんの株価かぶか上昇じょうしょうを主導しゅどうしたのはどのセクターだったのか。

4月つき20日にちまでの1か月かげつ間かんで、TOPIX＝東証とうしょう株価かぶか指数しすうの上昇じょうしょう率りつは5.7％でしたが、業種ぎょうしゅごとに分類ぶんるいした指数しすうでは、「卸売おろしうり」が9.9％、「銀行ぎんこう」が9％、「保険ほけん」が7.7％、「証券しょうけん」が7％と大おおきく伸のびていることがわかります。

それではなぜこれらの銘柄めいがらが買かわれたのか。

まず「卸売おろしうり」。ポイントはこのセクターに含ふくまれる商社しょうしゃ株かぶです。4月つきに来日らいにちしたアメリカの投資とうし家か、バフェット氏しが、日本にっぽんの総合そうごう商社しょうしゃの株式かぶしきに積極せっきょく的てきに投資とうしする姿勢しせいを示しめしたと伝つたわったことで、大手おおて商社しょうしゃの株価かぶかは軒並のきなみ大おおきく値上ねあがりしました。

そして「銀行ぎんこう」や「保険ほけん」「証券しょうけん」。これら金融きんゆう株かぶの株価かぶか上昇じょうしょうの要因よういんは、金融きんゆう不安ふあんへの懸念けねんが後退こうたいしたことで金融きんゆう株かぶに買い戻かいもどしの動うごきが出でたためだと見みられています。

株価かぶか上昇じょうしょうの背景はいけいにはさまざまな要因よういんが

とはいってもこれ以外いがいの銘柄めいがらにもまんべんなく買かいが入はいったというのが最近さいきんの株かぶ高だかの特徴とくちょうです。その要因よういんとともに見みていきます。

1.インバウンド効果こうか

この1か月かげつで鉄道てつどうなどの「陸運りくうん」が7.9％、「小売こうり」が7.2％、「サービス」が5.9％、それぞれ上昇じょうしょうしました。

背景はいけいには、外国がいこく人じん旅行りょこう者しゃの急増きゅうぞうに伴ともない、インバウンド効果こうかへの期待きたいが高たかまっていることがあります。

2.円えん安やす効果こうか

円えん安やすが進すすんだことも株価かぶかの押し上おしあげにつながっていると指摘してきされています。

輸出ゆしゅつ関連かんれんの銘柄めいがらに買かい注文ちゅうもんが入はいり、自動車じどうしゃなどの「輸送ゆそう」と「電気でんき機器きき」がいずれも4.4％上昇じょうしょうしました。

3.低ていPBRの改善かいぜんに期待きたい

そして、もう1つが東京とうきょう証券しょうけん取引とりひき所しょの低ていPBR改革かいかく。

東証とうしょうは、1株かぶ当あたりの純資産じゅんしさんと比較ひかくして株価かぶかが1倍ばいを下回したまわっているいわゆる“低ていPBR”の企業きぎょうが多おおいことから、こうした市場しじょうでの評価ひょうかが低ひくい企業きぎょうに改善かいぜんを促うながしています。このためこの低ていPBRの企業きぎょうの改革かいかくに期待きたいする買かい注文ちゅうもんが入はいっています。

では、誰だれが株式かぶしきを買かったのか。このところ株式かぶしき購入こうにゅうの動うごきが目立めだつのが外国がいこく人じん投資とうし家かです。

東京とうきょう証券しょうけん取引とりひき所しょの発表はっぴょうによりますと14日にちまでの5営業えいぎょう日びの間まに、プライム市場しじょうで、外国がいこく人じん投資とうし家かが日本にっぽん株かぶを買い越かいこした額がくは1兆ちょう円えんを超こえました。1週間しゅうかんの買い越かいこし額がくが1兆ちょう円えんを超こえたのは、去年きょねん4月つきに東証とうしょうが再編さいへんされてから初はじめてです。

なぜ取り引とりひきは低調ていちょうなのか

ただ、気きになるデータもあります。株かぶ高だかの要因よういんがこれだけあるにしては、売買ばいばいの規模きぼをあらわすデータに勢いきおいがないということです。

東証とうしょうプライム市場しじょうで4月つきに入はいって20日にちまでの14日間にちかんのうち、出来でき高だかが10億おく株かぶを下回したまわった日数にっすうは7日にちと半分はんぶんにのぼっています。出来でき高だかが10億おく株かぶを下回したまわった日数にっすうが1月つきは4日にち、2月つきと3月つきが1日にちだったことを考かんがえると、4月つきの低調ていちょうぶりが際立きわだつ形かたちとなっています。

市場しじょう関係かんけい者しゃからは、出来でき高だかだけでなく、売買ばいばい代金だいきんが低調ていちょうなことが気きがかりだという声こえもあがっています。このうちの1人にんは、次つぎのように話はなしていました。

「今回こんかいのように株価かぶか上昇じょうしょうが何なん日にちも続つづき年初来ねんしょらい高値たかねをつけるような局面きょくめんでは、一いち日にちの売買ばいばい代金だいきんが3兆ちょう円えんを超こえるというのが経験けいけん則そくのようなものだが、4月つきに入はいってから、3兆ちょう円えんのラインを一いち度ども超こえておらず、2兆ちょう円えんに満みたない日ひも二に日間にちかんあるという状況じょうきょうだ。取引とりひき額がくが低調ていちょうなことは心配しんぱいだが、慎重しんちょうな姿勢しせいで投資とうしに臨のぞむ投資とうし家かが多おおいという今いまの市場しじょうの姿すがたをあらわしているのではないか」

それでは、取り引とりひきのボリュームがそれほど大おおきくない中なかで、なぜ株価かぶかが上昇じょうしょうを続つづけたのでしょうか。

「途中とちゅうのフロアで止とまらない高層こうそう階かいへのエレベーターのような株価かぶかの動うごき。これは、海外かいがいのヘッジファンドが株価かぶか急落きゅうらく後ごに買い戻かいもどすときの上あがり方かたの特徴とくちょうだ」

こうした見方みかたを示しめしているのは、三菱みつびしUFJモルガン・スタンレー証券しょうけんの藤戸ふじと則のり弘ひろチーフ投資とうしストラテジストです。

三菱みつびしUFJモルガン・スタンレー証券しょうけん藤戸ふじと則のり弘ひろチーフ投資とうしストラテジスト

ここで藤戸ふじとさんが注目ちゅうもくするのは、ヨーロッパの主おもな金融きんゆう機関きかんに関連かんれんしたCDS＝クレジット・デフォルト・スワップのスプレッド。

CDSは、企業きぎょうが債務さいむ不履行ふりこうとなるときに備そなえる保険ほけんのような金融きんゆう商品しょうひんです。企業きぎょうの経営けいえい破綻はたんのリスクが高たかまると、保険ほけん料りょうにあたるスプレッドが上昇じょうしょうします。

ヨーロッパの主おもな金融きんゆう機関きかんに関連かんれんしたこのスプレッドの指数しすうは、欧米おうべいの金融きんゆう不安ふあんへの懸念けねんが高たかまる中なかで大おおきく上昇じょうしょう。

しかし3月つき15日にちから20日にちにかけてピークをつけたあとに反転はんてんし、足元あしもとでは、混乱こんらんが起おきる前まえの水準すいじゅんまで低下ていかしています。

藤戸ふじとさんは、アメリカの銀行ぎんこうが相次あいついで経営けいえい破綻はたんしたことで、海外かいがいのヘッジファンドの一部いちぶが慌あわてて金融きんゆう株かぶなどを手放てばなし、一方いっぽうでリスクに備そなえてCDSを購入こうにゅうしたとみています。

その後そのご、金融きんゆう不安ふあんへの懸念けねんが後退こうたいしたことで、CDSを売うって、株かぶを買い戻かいもどした可能かのう性せいが高たかいと指摘してきします。

こうした動うごきは、リーマンショックやコロナショックのあとに何なん度ども見みられた現象げんしょうだそうで、出来でき高だかが少すくない中なかでも価格かかくだけがつり上つりあがっていく傾向けいこうがあるということです。

三菱みつびしUFJモルガン・スタンレー証券しょうけん藤戸ふじと則のり弘ひろチーフ投資とうしストラテジスト

「株価かぶかが急落きゅうらくしたあとの上昇じょうしょう局面きょくめんで、海外かいがいのヘッジファンドは、先物さきもの取引とりひきを通をつうじて株式かぶしきを買い戻かいもどしていく。現物げんぶつの株価かぶかはこれに連動れんどうして動うごく形かたちとなるが、こうした状況じょうきょうでは現物げんぶつの出来でき高だかが少すくない中なかでも価格かかくが一気いっきに上あがるという形かたちをとることが多おおい」

株価かぶか上昇じょうしょうを“本物ほんもの”とするには

藤戸ふじとさんは、「金融きんゆう不安ふあんへの懸念けねんがなお市場しじょうにくすぶる中なかで、現状げんじょうでは投資とうし家かが自信じしんをもって株式かぶしき市場しじょうに資金しきんを投とうじる環境かんきょうではない。今後こんご、企業きぎょうの決算けっさん発表はっぴょうが本格ほんかく化かし、最近さいきんの株価かぶか上昇じょうしょうに見合みあった期待きたいどおりの業績ぎょうせきとなっているかを見極みきわめる局面きょくめんに入はいる。そうでないと判断はんだんされると期待きたいはすぐにはげ落はげおちてしまうだろう」と指摘してきします。

一方いっぽう、みずほ証券しょうけんの小林こばやし俊介しゅんすけチーフエコノミストは、欧米おうべいの景気けいき減速げんそくというリスクについても引き続ひきつづき考慮こうりょしておくべきだと指摘してきします。

「日本にっぽん株かぶの雲行くもゆきが完全かんぜんに好転こうてんしたとは言いい切きれない。市場しじょうが見積みつもる欧米おうべいの景気けいき減速げんそくリスクが十分じゅうぶんで無ない可能かのう性せいもある。この先さき、金融きんゆう引き締ひきしめが長期ちょうき化かし、欧米おうべいの景気けいき減速げんそくが現実げんじつのものとして意識いしきされるようなことになると、投資とうし家かが再ふたたびリスク回避かいひの姿勢しせいを強つよめることもありうる」

世の中よのなかの森羅万象しんらばんしょうが反映はんえいされ、複合ふくごう的てきな要因よういんが絡み合からみあいながら形成けいせいされる株価かぶか。最近さいきんの株価かぶか上昇じょうしょうのポジティブな要因よういんがいくつも語かたられる中なかで、今後こんご考かんがえられるリスクについてもしっかり把握はあくしておく必要ひつようがあると思おもいました。

注目ちゅうもく予定よてい

来週らいしゅう27日にち、28日にちは、日銀にちぎんが新しん体制たいせいになってから初はじめての金融きんゆう政策せいさく決定けってい会合かいごうが開ひらかれます。植田うえだ新しん総裁そうさいが金融きんゆう政策せいさくについてどのような考え方かんがえかたを示しめすのか。会合かいごうの結果けっかと記者きしゃ会見かいけんでの発言はつげんに市場しじょうの関心かんしんが集あつまっています。

さらに、会合かいごう後ごには「展望てんぼうレポート」も公表こうひょうされます。2025年度ねんどまでの物価ぶっかの見通みとおしが示しめされることになり、こちらも注目ちゅうもくです。