アメリカの主要メディアは、当局者の話として、シリアに展開するおよそ2000人の兵士を完全かつ速やかに撤退させる方針だと伝えています。
一方、アメリカ政府の決定について、シリア国営通信は「シリア政府は、領内に不法に展開した外国の部隊に対しては、一貫して撤退を要求してきた」と伝え、アサド政権の要求に沿うものだと主張し、アサド政権を支援してきたロシアの外務省も歓迎する意向を示しました。
こうした中、アメリカ議会では、与野党から「軍の撤退は時期尚早だ」などと批判の声が相次ぎ、共和党の重鎮、グラム上院議員は「ISやイラン、さらにシリアのアサド大統領、ロシアにとって大きな勝利を意味する。アメリカ、中東、そして世界全体にとって破滅的な結果につながることが心配だ」とする声明を出しました。
中東でアメリカの存在感がさらに低下すれば、ISが勢いを取り戻したり、イランやロシアが影響力を増したりするなどして混乱の拡大につながるという懸念が広がっています。
与野党議員から疑問の声
シリアに展開しているアメリカ軍の兵士を撤退させるというトランプ政権の決定に対して野党・民主党だけでなく与党・共和党の議員からも疑問視する声が相次いでいます。
このうち議会上院の軍事委員会の委員で、民主党のシャヒーン上院議員は19日、声明を出し、「決定は危険で、時期尚早だ。シリアで起きている事実やわれわれの軍の助言とも完全に食い違っている」として非難しています。
また、共和党のルビオ上院議員は声明を出し、「ISが大幅に弱体化したのは事実だがISを打倒したとまで言うのは賢明ではない。この決定は十分に考慮されたものとは思えず、重大な間違いだ」と批判しています。
さらに共和党の重鎮、グラム上院議員は「この時点でアメリカが撤退することはISやイラン、さらにシリアのアサド大統領、ロシアにとって大きな勝利を意味する。アメリカ、中東、そして世界全体にとって破滅的な結果につながることが心配だ」として強い懸念を示しています。
シリア国営通信 速報で伝える
アメリカ軍がシリアから撤退を始めたことについてシリア国営通信は速報で伝えました。
シリアのアサド政権は公式な反応を出していませんが、シリア国営通信は19日、アメリカのホワイトハウスがアメリカ軍のシリアからの帰還開始を発表したと伝えました。
そのうえでアメリカ軍は過激派組織IS=イスラミックステートと戦うという口実のもと、国連安全保障理事会の決定なしに不法な連合軍を率いたが、ほとんどの攻撃が市民に向けられ虐殺したと非難しました。
そしてシリア政府は、領内に不法に展開した外国の部隊に対しては、一貫して撤退を要求してきたとし、今回のアメリカの決定は、シリアの要求に沿うものだと主張しています。
米軍 クルド人勢力に通告か
シリア内戦の情報を集めている「シリア人権監視団」は、信頼できる複数の関係者の話として、アメリカの高官が協力関係にあるシリア北部のクルド人勢力主体の部隊に対し、アメリカ軍の撤退の決定を知らせたと伝えました。
撤退する地域は、シリア北部のユーフラテス川の東側の一帯と西側の町マンビジだとしています。
シリア北部のクルド人勢力をめぐっては、アメリカが過激派組織IS=イスラミックステートと戦うため協力関係を築いてきましたが、トルコは自国のクルド人武装組織とつながりがあるテロ組織だとして強く反発し、アメリカとの対立の主な要因となってきました。
トルコは、シリア北部のクルド人勢力に対して近く大規模な軍事作戦を始める構えで、こうした中でのアメリカ軍撤退の情報に、シリア人権監視団は「クルド人勢力の指導部はISとの戦いで死亡した戦士への裏切りと考えている」と伝えています。
ロシアは撤退を歓迎
アメリカ軍がシリアからの撤退を開始したことについて、アサド政権を支援するロシア外務省のザハロワ報道官は19日、「今回の決定によって、非常に重要な歴史が生まれようとしている。政治的かつ平和的な解決に向けて、現実的な展望が開けた」とコメントし、アメリカ軍の撤退を歓迎する意向を示しました。
ロシア政府はこれまで、アメリカ軍がアサド政権の許可を得ないままシリアに駐留していることが、和平の障害になっていると主張してきました。
一方、ザハロワ報道官は「アメリカは、次の段階に移行すると言っているが、何を意味するのかは不明だ」と述べ、アメリカ軍がシリアから完全に撤退するのかどうか、慎重に見極める姿勢を示しています。