初はつの意識いしき調査ちょうさ “偏見へんけん 差別さべつは依然いぜんとして深刻しんこく” 厚あつ労ろう省しょう

6割わり以上いじょうの人ひとが「ハンセン病はんせんびょうへの差別さべつ意識いしきを持もっていない」と答こたえましたが、2割わり近ちかくの人ひとが身体しんたいに触ふれることに抵抗ていこうを感かんじると答こたえたほか、元もと患者かんじゃの家族かぞくと自分じぶんの家族かぞくが結婚けっこんすることに抵抗ていこうを感かんじると答こたえた人ひとも2割わり以上いじょうにのぼったことがわかりました。

厚生こうせい労働ろうどう省しょうの検討けんとう会かいは、「ハンセン病はんせんびょうへの偏見へんけん差別さべつは現存げんそんし、依然いぜんとして深刻しんこくな状況じょうきょうにあることがうかがえた」と結論けつろん付つけています。

（社会しゃかい部ぶ 勝又かつまた千重子ちえこ 記者きしゃ）

差別さべつや偏見へんけんの実態じったいについて意識いしき調査ちょうさ 一般いっぱんの人ひと2万まん人にん余あまりから回答かいとう

ハンセン病はんせんびょうをめぐっては、かつての国くにの誤あやまった隔離かくり政策せいさくで元もと患者かんじゃや家族かぞくが差別さべつを受うけてきていて、去年きょねん、元もと患者かんじゃや人権じんけんの専門せんもん家かなどでつくる検討けんとう会かいは、差別さべつや偏見へんけんの実態じったいを把握はあくするよう求もとめる報告ほうこく書しょをまとめました。

これを受うけ、厚生こうせい労働ろうどう省しょうは去年きょねん12月つき、一般いっぱんの人ひとを対象たいしょうにインターネットを通をつうじて初はじめての意識いしき調査ちょうさを実施じっしし、2万まん人にんあまりから回答かいとうを得えました。

調査ちょうさでは、ハンセン病はんせんびょうについて自分じぶんが偏見へんけんや差別さべつの意識いしきを持もっているかどうかを尋たずねたところ、

▼「持もっていると思おもう」が35.4％、

▼「持もっていないと思おもう」が64.6％でした。

また、ハンセン病はんせんびょうの元もと患者かんじゃや家族かぞくに対にたいしてどのような場面ばめんで抵抗ていこうを感かんじるかを尋たずねました。

「とても感かんじる」と「やや感かんじる」を合あわせた抵抗ていこうを感かんじる人ひとは、

▼「近所きんじょに住すむこと」で9.3％、

▼「同おなじ医療いりょう機関きかん・福祉ふくし施設しせつに通かようこと」では7.5％でした。

さらに、

▼「ホテルなどで同おなじ浴場よくじょうを利用りようすること」は19.8％、

▼「手てをつなぐなど身体しんたいに触ふれること」には18.5％、

▼「ハンセン病はんせんびょう元もと患者かんじゃの家族かぞくとあなたの家族かぞくが結婚けっこんすること」については21.8％が抵抗ていこうを感かんじると回答かいとうしています。

厚生こうせい労働ろうどう省しょうの検討けんとう会かいは、「ハンセン病はんせんびょうへの偏見へんけん差別さべつは現存げんそんし、依然いぜんとして深刻しんこくな状態じょうたいにあることがうかがえた」と結論けつろんづけました。

平成へいせい8年ねんまで隔離かくり政策せいさく 元もと患者かんじゃや家族かぞくの救済きゅうさい策さく設もうける

ハンセン病はんせんびょうは「らい菌きん」による慢性まんせいの感染かんせん症しょうです。

衛生えいせい状態じょうたいのよい今いまの日本にっぽんでは、感染かんせんしても発症はっしょうすることはほぼないものの、有効ゆうこうな治療ちりょう薬やくが無なかった時ときは、進行しんこうすると手足てあしや顔かおが変形へんけいするなどの後遺症こういしょうが残のこりました。

国くには感染かんせんの拡大かくだいを防ふせぐ目的もくてきで、昭和しょうわ28年ねんに「らい予防よぼう法ほう」を定さだめ、患者かんじゃの隔離かくり政策せいさくを進すすめました。

その後そのご、感染かんせん力りょくが極きわめて弱よわいことが知しられるようになり、治療ちりょう法ほうが確立かくりつされましたが、国くには患者かんじゃを強制きょうせい的てきに療養りょうよう所しょに隔離かくりする政策せいさくを続つづけ、平成へいせい8年ねんに法律ほうりつが廃止はいしされるまで続つづきました。

ハンセン病はんせんびょうの元もと患者かんじゃたちは、「国くにの誤あやまった隔離かくり政策せいさくで人権じんけんを侵害しんがいされた」として、各地かくちで国くにに賠償ばいしょうを求もとめた裁判さいばんを起おこし、平成へいせい13年ねん5月つきに熊本くまもと地方ちほう裁判所さいばんしょが「国くには必要ひつようがなくなったあとも、患者かんじゃの強制きょうせい的てきな隔離かくりを続つづけ、差別さべつや偏見へんけんを助長じょちょうした」などとして、国くにに賠償ばいしょうを命めいじる判決はんけつを言い渡いいわたしました。

国くにと国会こっかいはその年としに隔離かくり政策せいさくの誤あやまりを認みとめて謝罪しゃざいし、元もと患者かんじゃや遺族いぞくが申請しんせいをすれば補償ほしょう金きんを支払しはらう救済きゅうさい策さくを設もうけました。

また、令りょう和わ元年がんねんには患者かんじゃだけではなく、家族かぞくも偏見へんけんや差別さべつの被害ひがいを受うけたとして、国くにが家族かぞくに対にたいし、補償ほしょう金きんを支払しはらう制度せいどができました。

家族かぞくへの補償ほしょう金きんの申請しんせいは、ことし11月つき21日にちまでで、あと半年はんとしあまりに迫せまっています。

「うつるから戻もどったらいかん」治なおっても親族しんぞくに拒こばまれ帰郷ききょうできず

報告ほうこく書しょに記載きさいされた現存げんそんするハンセン病はんせんびょうへの偏見へんけんや差別さべつとはどのようなものなのか、元もと患者かんじゃの女性じょせいが自分じぶんの体験たいけんを聞きかせてくれました。

岡山おかやま県けんの療養りょうよう所しょで暮くらす、87歳さいの女性じょせいは、中学ちゅうがく3年生ねんせいのころにハンセン病はんせんびょうを発症はっしょうして療養りょうよう所しょに入所にゅうしょしました。

元もと患者かんじゃの中なかには、病気びょうきが治なおっても、差別さべつを恐おそれた家族かぞくから帰宅きたくを拒こばまれる人ひとが多おおくいたということですが、女性じょせいは、兄あにから「自分じぶんの家いえなのだから帰かえっておいで」と言いってもらい、三重みえ県けんの母ははと兄あにが住すむ実家じっかに年としに1回かい程度ていど帰省きせいしていたということです。

しかし、母親ははおやが亡なくなり、兄あにも介護かいごが必要ひつようになった10年ねんほど前まえからは、兄あにの妻つまから帰省きせいを拒こばまれるようになったといいます。

女性じょせいは、「ちょっと帰かえるねと言いうと『その時ときはだめ』と。『病気びょうきがうつるから戻もどってきたらいかん』とはっきり言いうんです。病気びょうきは治なおっているとどれだけ説明せつめいしてもだめだった」と話はなしていました。

その後そのごも、兄あにに電話でんわをしてもつないでもらえない状態じょうたいが続つづき、去年きょねん12月つきに兄あにが亡なくなったと連絡れんらくがありました。

兄あにの葬式そうしきへの出席しゅっせきも断ことわられたということで、現在げんざいまで墓参はかまいりができない状態じょうたいが続つづいているということです。

女性じょせいは、墓参はかまいりの代かわりに自室じしつの仏壇ぶつだんに母親ははおやと兄あにの昔むかしの写真しゃしんを飾かざり、毎日まいにち、手てを合あわせています。

女性じょせいは、「私わたしにとってはお父おとうさんみたいな兄あにでした。3つしか年としが離はなれていなかったけれど、何なにもかも分わかってくれた。いまだに会あいたい気持きもちは出でてくるが、諦あきらめないと私わたしの気持きもちが持もたない。ハンセン病はんせんびょうの正確せいかくな知識ちしきはまだ世の中よのなかには理解りかいされていないと感かんじます」と話はなしていました。

亡なくなっても本名ほんみょう 名乗なのれず 療養りょうよう所しょの納骨のうこつ堂どうに眠ねむる

女性じょせいのように今いまも療養りょうよう所しょで暮くらす元もと患者かんじゃは、厚生こうせい労働ろうどう省しょうのまとめで、去年きょねん5月つき時点じてんで全国ぜんこくでおよそ810人にんにのぼっています。

亡なくなったあとも、ふるさとの墓はかに入はいることなく、療養りょうよう所しょの納骨のうこつ堂どうに入はいる人ひとも多おおくいます。

岡山おかやま県けんにあるハンセン病はんせんびょうの療養りょうよう所しょ「邑久光明園おくこうみょうえん」で、20年ねん以上いじょう働はたらいてきたソーシャルワーカー、坂手さかて悦子えつこさん（53）は、入所にゅうしょ者しゃの葬儀そうぎや納骨のうこつに関かかわってきました。

療養りょうよう所しょの納骨のうこつ堂どうにある1797人にんの遺骨いこつをおさめた骨こつつぼの半数はんすう以上いじょうには、仮名かめいが記しるされているということです。

坂さか手しゅさんは、「ことし2月つきにも当とう園えんでは3人にんが亡なくなったが、1人にんは仮名かめいのままで納骨のうこつ堂どうで眠ねむっています。入所にゅうしょ者しゃは、家族かぞくをハンセン病はんせんびょうの差別さべつから守まもりたいという思おもいがあって仮名かめいを貫き通つらぬきとおしていて、ハンセン病はんせんびょうの差別さべつは自分じぶんで断ち切たちきる、自分じぶんさえ我慢がまんすればいいんだという思おもいがある」と説明せつめいしました。

そのうえで坂さか手しゅさんは、「園えんでも本名ほんみょうを知しっている職員しょくいんは限かぎられているし、私わたしたちも本名ほんみょうを隠かくす手伝てつだいをしている。ふと我わがに返かえったときに本当ほんとうにおかしなことだと思おもいます。外そとの人ひとたちからは隠かくしているから差別さべつが無なくならないのではないかと言いっていただくこともあるが、それでも必死ひっしで隠かくさざるをえない状況じょうきょうにあるということの背景はいけいにあるものを忘わすれてはいけないと思おもいます」と話はなしていました。

家族かぞくにも差別さべつ 姉あねの縁談えんだんが破談はだんに

ハンセン病はんせんびょうでは、元もと患者かんじゃだけではなく、家族かぞくたちも差別さべつを受うけてきました。

兵庫ひょうご県けん出身しゅっしんの、浜本はまもとしのぶさん（仮名かめい・87歳さい）は、11歳さいの時ときにハンセン病はんせんびょうを発症はっしょうしました。

今いまも、岡山おかやま県けんの療養りょうよう所しょで仮名かめいを名乗なのって暮くらしています。

家族かぞくではじめにハンセン病はんせんびょうにかかったのは、浜本はまもとさんの父親ちちおやでした。

近所きんじょに病気びょうきのことを知しられた時ときのことについて、浜本はまもとさんは、「あそこの家いえはうつる、汚きたないとか言いわれて私わたしも頭あたまから白しろい消毒しょうどくの粉こなをかけられて、それを近所きんじょの人ひとが人ひとだかりになって見みていました。これまで一緒いっしょに遊あそんでいた男の子おとこのこに石いしを投なげられて頭あたまをけがしました」と語かたりました。

中なかでも浜本はまもとさんが忘わすれられないのが、手紙てがみや面会めんかいで励はげましてくれた、2歳さい上じょうの姉あねへの差別さべつです。

姉あねは、20代だいのころ、公務員こうむいんの男性だんせいと結婚けっこんの話はなしが持ち上もちあがりましたが、浜本はまもとさんのハンセン病はんせんびょうの病歴びょうれきが分わかると破談はだんになったということです。

浜本はまもとさんは、「姉あねへの差別さべつは、生いきていた中なかで一番いちばんつらかった。自分じぶんの病気びょうきのせいで姉あねにも迷惑めいわくをかけてしまう。死しのうかと思おもいました」と話はなしていました。

その後そのご、姉あねは別べつの男性だんせいと、浜本はまもとさんのハンセン病はんせんびょうのことを伝つたえた上うえで結婚けっこんしましたが、親戚しんせきの中なかには、いまだ妹いもうとの存在そんざいを伝つたえることができていない人ひともいるということです。

ハンセン病はんせんびょうをめぐり、国くには誤あやまった隔離かくり政策せいさくで元もと患者かんじゃだけでなく家族かぞくも差別さべつの被害ひがいを受うけたとして、令りょう和わ元年がんねん（2019年ねん）、最大さいだいで180万まん円えんの補償ほしょう金きんを支払しはらう制度せいどを設もうけました。

当初とうしょ、国くには補償ほしょうの対象たいしょうとなる元もと患者かんじゃの家族かぞくをおよそ2万まん4000人にんと見込みこんでいましたが、3月つき中旬ちゅうじゅん時点じてんで請求せいきゅうがあったのは8300件けんあまりと、想定そうていの3割わりあまりにとどまっています。

補償ほしょう金きんの申請しんせいの期限きげんは、ことし11月つき21日にちに迫せまっていますが、浜本はまもとさんの姉あねは、まとまった金額きんがくを受け取うけとることで周まわりに妹いもうとの病歴びょうれきを知しられることを恐おそれて、補償ほしょう金きんの申請しんせいができていないといいます。

浜本はまもとさんは、「子こどものお嫁よめさんはぜんぜん私わたしのことを知しらないから、姉あねには私わたしの存在そんざいを絶対ぜったい言いったらあかんと口止くちどめしました。これまでハンセン病はんせんびょうのことで差別さべつされてきたので。ばれるようなことをして姉あねが悲かなしまないといけないことになったら、私わたしも生いきているのがつらい」と話はなしていました。

補償ほしょう金きんの申請しんせい 多おおくが断念だんねん

浜本はまもとさんが暮くらす、岡山おかやま県けんにあるハンセン病はんせんびょうの療養りょうよう所しょ「邑久光明園おくこうみょうえん」で、ソーシャルワーカーの坂手さかて悦子えつこさん（53）は、補償ほしょう金きんの申請しんせいにつながらないケースに数多かずおおく立ち会たちあってきました。

申請しんせいをする上うえで大おおきな壁かべとなっているのは、家族かぞく自身じしんが周囲しゅういに元もと患者かんじゃの存在そんざいを隠かくしているケースが多おおいということです。

補償ほしょう金きんの申請しんせいには、戸籍こせき謄本とうほんなどのほかにも療養りょうよう所しょに入所にゅうしょしていた証明しょうめい書しょが必要ひつようなため、療養りょうよう所しょには家族かぞくから連絡れんらくがくるということですが、申請しんせいのための戸籍こせき謄本とうほんを取とる際さいに役所やくしょで使用しよう理由りゆうを聞きかれ、周囲しゅういに知しられると思おもったとか、ほかの家族かぞくにハンセン病はんせんびょうの家族かぞくのことを隠かくしていて知しられる恐おそれがあるなどの理由りゆうで申請しんせいを断念だんねんするケースがあったということです。

中なかには、「180万まん円えんごときで今いままで大切たいせつにしてきた生活せいかつを壊こわすわけにはいかない」と話はなした人ひともいたということです。

坂さか手しゅさんは、「請求せいきゅうしたくても怖こわい、ハンセン病はんせんびょうの家族かぞくがいたことがばれるかもしれないと思おもってできない状況じょうきょうが今いまも続つづいている。隠かくさざるをえない状況じょうきょう自体じたいが今いまも続つづいていることが差別さべつだと思おもっています。根深ねぶかいものがあると思おもう」と話はなしていました。

そのうえで、「世間せけんでハンセン病はんせんびょうへの目めに見みえる差別さべつは少すくなくなっていると思おもうが、コロナがあって、感染かんせんした人ひとの家いえに落書らくがきがあったり、県けん外がいナンバーの車くるまに嫌いやがらせがあったり、そういうのを見みると、ハンセン病はんせんびょうの元もと患者かんじゃのご家族かぞくたちはやっぱり今いまも同おなじじゃないかと思おもってしまう。家族かぞく補償ほしょうを請求せいきゅうできない人ひとが多おおいことは、社会しゃかいが変かわっていないことのあらわれなのだと気きづいてほしい」と話はなしました。