Actualités japonaises: バブル?ブーム?日本企業のPBRが注目されるワケ【経済コラム】

最近さいきんマーケットで話題わだいのことば「PBR」って知しっていますか？日本にっぽん語ごでは「株価かぶか純資産じゅんしさん倍率ばいりつ」と言いいます。株価かぶかが割安わりやすか割高わりだかかを判断はんだんするための指標しひょうで、株価かぶかが1株かぶ当あたりの純資産じゅんしさん（総そう資産しさんから負債ふさいを引ひいた金額きんがく、企業きぎょうの“清算せいさん価値かち”と同おなじ）の何なん倍ばいになっているのかを表あらわしています。PBRが1倍ばいを割われると、企業きぎょうの清算せいさん価値かちを下回したまわっているということになり、割安わりやす、あるいは市場しじょうで評価ひょうかされていないということになります。日本にっぽんでは主要しゅよう企業きぎょうの半分はんぶん以上いじょうが「PBR1倍ばい割われ」に陥おちいっていて、その割合わりあいは欧米おうべいと比くらべても突出とっしゅつしています。ところが今いま、長年ながねん見放みはなされていた「低ていPBR」の銘柄めいがらに投資とうし家かの注目ちゅうもくが集あつまり、バブルではないかという声こえまであがっています。いったい何なにが起おきているのか取材しゅざいしました。（経済けいざい部ぶ記者きしゃ仲沢なかざわ啓あきら）

底堅そこがたい日本にっぽん株かぶ

まず、先月せんげつ・2月つきのマーケットを振り返ふりかえります。

アメリカのダウ平均へいきん株価かぶかは、FRBの利上りあげ長期ちょうき化かへの懸念けねんを背景はいけいにこの間このかん1429ドル、率りつにして4.1％下落げらくした一方いっぽう、日経にっけい平均へいきん株価かぶかは118円えん、率りつにして0.4％の上昇じょうしょうとなりました。

日本にっぽん株かぶの底堅そこがたさの要因よういんとして、円えん安やす傾向けいこうが続つづいたことや、日銀にちぎん総裁そうさい候補こうほの植田うえだ和男かずお氏しの発言はつげんで金融きんゆう緩和かんわの継続けいぞくが意識いしきされたことがあげられますが、「PBR」に注目ちゅうもくが集あつまった1か月かげつだったと振り返ふりかえる市場しじょう関係かんけい者しゃもいました。

突出とっしゅつする日本にっぽんの“低ていPBR”

なぜPBRに注目ちゅうもくが集あつまったのか？

その前まえに日本にっぽん株かぶのPBRの現状げんじょうをざっと見みておきましょう。実じつは日本にっぽん株かぶは、欧米おうべいと比くらべて「PBR1倍ばい割われ」の銘柄めいがらが突出とっしゅつして多おおいのです。

日本にっぽんとアメリカ、ヨーロッパの代表だいひょう的てきな株価かぶか指数しすう（東証とうしょう株価かぶか指数しすう・TOPIX、S＆P500、ストックス600）を構成こうせいする銘柄めいがらについて、PBRの状況じょうきょうを見みるとその違ちがいは一目いちもく瞭然りょうぜんです。

日本にっぽん企業きぎょうのPBRが低ひくい状態じょうたいは今いまに始はじまったことではありません。1990年代ねんだい後半こうはん以降いこうの金融きんゆう不安ふあんや景気けいきの落ち込おちこみによって日本にっぽんでは株価かぶかの低迷ていめいが続つづき、PBRが1倍ばいを割われる企業きぎょうが続出ぞくしゅつしました。

その後そのご、株価かぶかの動うごきに伴ともなってPBRも変動へんどうしましたが、「PBR1倍ばい割われ」の企業きぎょうが半分はんぶんを占しめるという状況じょうきょうが続つづいています。

なぜ日本にっぽん企業きぎょうのPBRは低ひくいのか？さまざまな要因よういんが指摘してきされています。

企業きぎょうの内部ないぶ留保りゅうほや政策せいさく保有ほゆう株かぶが多おおいこと、株主かぶぬしへの還元かんげんが欧米おうべいと比くらべて少すくないことなどがあげられますが、やはり大おおきな問題もんだいは、資本しほんを効率こうりつ的てきに使つかって利益りえきをあげることができていない点てんです。

経済けいざい産業さんぎょう省しょうの経済けいざい産業さんぎょう政策せいさく新しん機軸きじく部会ぶかいは去年きょねん6月つきに中間ちゅうかん整理せいりをまとめ、現状げんじょうについて「日本にっぽん企業きぎょうの国際こくさい競争きょうそう力りょく・価値かち創造そうぞう力りょくが低下ていかしている」と総括そうかつしました。

そして、「PBRが1倍ばい以上いじょうの企業きぎょうの割合わりあいを2030年ねんに8割わりに高たかめることを目指めざす」「PBRが1を下回したまわる企業きぎょうには、1を超こえるために一定いってい期間きかんの合理ごうり的てきな計画けいかくを立案りつあんし、公表こうひょうすることを求もとめる」などという目標もくひょうや具体ぐたい策さくを示しめしました。

ただ、このときの市場しじょうの反応はんのうは限定げんてい的てきでした。

動うごいた東証とうしょう

前置まえおきが長ながくなりましたが、再ふたたび、なぜここにきて日本にっぽん株かぶのPBRに注目ちゅうもくが集あつまったのかという問題もんだいを考かんがえます。

きっかけとなったのは、ことし1月つき25日にち。

東京とうきょう証券しょうけん取引とりひき所しょの「市場しじょう区分くぶんの見直みなおしに関にかんするフォローアップ会議かいぎ」が取とりまとめた「資本しほんコストや株価かぶかへの意識いしき改革かいかく」のための対応たいおう策さく。

この中なかで、プライム市場しじょうとスタンダード市場しじょうを対象たいしょうに、ことし春はるから、「継続けいぞく的てきにPBRが1倍ばいを割われている会社かいしゃには、改善かいぜんに向むけた方針ほうしんや具体ぐたい的てきな取り組とりくみ、その進捗しんちょく状況じょうきょうなどを開示かいじすることを強つよく要請ようせいする」という方針ほうしんが掲かかげられました。

PBR1倍ばい割われ企業きぎょうも動き出うごきだす

東証とうしょうに呼応こおうするように動き出うごきだしたのが、まもなく創業そうぎょう150年ねんを迎むかえる大だい日本にっぽん印刷いんさつです。

2月つき9日にちに発表はっぴょうした経営けいえい基本きほん方針ほうしんの中なかで、資本しほん効率こうりつを改善かいぜんするため、過去かこ最大さいだいの自己じこ株式かぶしきの取得しゅとくを計画けいかくしていることを明あきらかにし、「PBR1倍ばい超ちょうの早期そうき実現じつげんを目指めざす」ことを明言めいげんしました。

PBRの水準すいじゅんを目標もくひょうに掲かかげる企業きぎょうは珍めずらしく、そのねらいについて幹部かんぶに聞きくと、「新あたらしい中期ちゅうき経営けいえい計画けいかくの策定さくていに向むけて機関きかん投資とうし家かなどと議論ぎろんしたが、『効率こうりつ的てきに利益りえきを上あげていない』などと厳きびしい指摘してきをいただいた。企業きぎょうとして存続そんぞくするには、こうした目標もくひょうを目指めざさなければならないという強つよい危機きき感かんがあった」と話はなしていました。

大だい日本にっぽん印刷いんさつは過去かこ10年ねん以上いじょう「PBR1倍ばい割われ」が続つづいていますが、この方針ほうしんが発表はっぴょうされると株価かぶかは急きゅう上昇じょうしょう。発表はっぴょう前まえは0.78倍ばいだったPBRは、今週こんしゅう、0.9倍ばいを超こえる水準すいじゅんまで上昇じょうしょうしました。

さらに2月つき13日にちには、シチズン時計しちずんとけいが決算けっさん発表はっぴょうに合あわせて、発行はっこう済ずみ株式かぶしき総数そうすうの25％余あまりに当にあたる7500万まん株かぶ（400億おく円えん）を上限じょうげんに自社じしゃ株かぶ買かいを行おこなうと発表はっぴょう。

質疑しつぎの中なかで会社かいしゃは、「金額きんがくは企業きぎょう価値かち向上こうじょうに関にかんする東証とうしょうの方針ほうしんなども考慮こうりょしながら決きめた。事業じぎょうの成長せいちょうや合理ごうり化かのための投資とうしも続つづけていく」と説明せつめい。こちらも株価かぶかは大おおきく上昇じょうしょうし、発表はっぴょう前まえに0.73倍ばいだったPBRは、発表はっぴょうの翌週よくしゅうには1倍ばいを超こえました。

株価かぶか上昇じょうしょうの流ながれは他たの低ていPBR銘柄めいがらにも波及はきゅうし、TOPIX構成こうせい銘柄めいがらのうち、時価じか総額そうがくが相対そうたい的てきに小ちいさく、低ていPBRの銘柄めいがらを集あつめた「TOPIX Smallバリュー指数しすう」は、今週こんしゅう、2018年ねん2月つき以来いらいおよそ5年ねんぶりの水準すいじゅんまで上昇じょうしょうしました。

市場しじょう関係かんけい者しゃからは「低ていPBRバブルだ」という声こえも聞きかれます。

企業きぎょうは市場しじょうとどう向き合むきあうか

一方いっぽうで、こうした状況じょうきょうを懸念けねんする声こえもあります。

市場しじょう関係かんけい者しゃの中なかには、「余剰よじょう資金しきんを自社じしゃ株かぶ買かいに振ふり向こうれば、短期たんき的てきにPBRを上昇じょうしょうさせることができる。業績ぎょうせきが改善かいぜんしていないにもかかわらず、安易あんいな自社じしゃ株かぶ買かいに頼たよるようでは本質ほんしつ的てきな企業きぎょう価値かちの向上こうじょうにつながらない」と指摘してきする人ひともいました。

割安わりやす株かぶへの長期ちょうき投資とうしを手てがけるイギリス領りょうバミューダ諸島しょとうの投資とうし会社かいしゃ、オービス・インベストメンツ日本にっぽん法人ほうじんの時とき国司こくし社長しゃちょうにも話はなしを聞ききました。

「日本にっぽんの割安わりやす株かぶに投資とうしする動うごきが広ひろがっているが、これは歴史れきし的てきな転換てんかん点てんになるかもしれない。ただ、PBRは表面ひょうめん的てきな指標しひょうであくまで1つの参考さんこう指標しひょうにすぎないということも知しっておかねばならない。企業きぎょうは、常つねに成長せいちょうを模索もさくし、いいタイミングで積極せっきょく的てきな投資とうしを行おこなうべきだ。もちろん自社じしゃ株かぶ買かいによる株主かぶぬし還元かんげんが必要ひつようなときもある。こうしたタイミングをとらえた企業きぎょうの取り組とりくみが本質ほんしつ的てきな価値かちの向上こうじょうにつながるのではないか」

「PBR1倍ばい割われ」を解消かいしょうしようとする動うごきが企業きぎょう価値かちを向上こうじょうさせ、投資とうし先さきとしての魅力みりょくを本当ほんとうの意味いみで高たかめているのか。

活況かっきょうに沸わく「低ていPBRブーム」の中なかで、企業きぎょうが市場しじょうとどう向き合むきあうのかが問とわれています。

注目ちゅうもく予定よてい

来週らいしゅう9日にちから10日にちにかけて、今いまの黒田くろだ総裁そうさいのもとでは最後さいごとなる日銀にちぎんの金融きんゆう政策せいさく決定けってい会合かいごうが開ひらかれます。再ふたたび政策せいさく修正しゅうせいに踏み切ふみきるのではないかという観測かんそくもあって会合かいごうの結果けっかと黒田くろだ総裁そうさいの会見かいけんでの発言はつげんが注目ちゅうもくされています。

また、アメリカでは全米ぜんべいの12の地区ちく連銀れんぎんがまとめた最新さいしんの経済けいざい報告ほうこく「ベージュブック」の公表こうひょうや、雇用こよう統計とうけいの発表はっぴょうがあります。