旧通産省の幹部だった飯塚幸三受刑者(93)は、5年前、東京 池袋で車を暴走させ、松永真菜さん(31)と長女の莉子ちゃん(3)を死亡させたほか、9人に重軽傷を負わせたとして、過失運転致死傷の罪で禁錮5年の実刑判決を受けました。
関係者によりますと、飯塚受刑者は、先月26日に収容先の刑務所で老衰のため死亡したということです。93歳でした。
松永拓也さん“社会がすべきは悲劇繰り返さない道考えること”
事故で妻と娘を亡くした松永拓也さんはSNSでコメントを出し、「心よりご冥福をお祈り申し上げます。妻と娘は本当に無念だったと思います。ただ、飯塚さんにとっても、大きな責任を負いながら刑務所で最期を迎えたことは、とても無念だったことでしょう。私たち社会がすべきことは、彼を非難し続けることではなく、彼の経験から学び、同じような悲劇を繰り返さないための道をともに考えることだと思います」としています。
高齢ドライバーの事故が社会問題として注目されるきっかけに
この事故は、高齢ドライバーによる交通事故が社会問題として注目されるきっかけのひとつとなりました。
ことし、遺族と受刑者が面会した際、受刑者は「高齢ドライバーに早く免許を返すよう伝えてほしい」ということばを残していました。
これまでの経緯をまとめました。
事故とその影響
事故は、5年前の2019年4月19日の昼過ぎ、東京 豊島区東池袋で発生しました。
当時87歳だった飯塚受刑者が運転する乗用車が暴走し、横断歩道を自転車で渡っていた松永真菜さんと長女の莉子ちゃんが死亡したほか、9人が重軽傷を負いました。
事故の直後から、妻と娘を亡くした松永拓也さんが最愛の家族を亡くした気持ちや、交通事故による犠牲者をなくしてほしいという願いを会見で訴え、共感が広がりました。
この年、運転免許証の返納件数が過去最多となるなど、高齢ドライバーによる交通事故が社会問題として注目されるきっかけのひとつとなりました。
裁判
飯塚受刑者は過失運転致死傷の罪に問われ、裁判は事故から1年半後の2020年10月、東京地方裁判所で始まりました。
飯塚受刑者は裁判のなかで「車に何らかの異常があったと考えられる」として無罪を主張しました。
しかし、東京地裁は「ブレーキとの踏み間違いに気付かないまま、アクセルを最大限踏み続けた」と判断し、2021年9月、禁錮5年の実刑判決が確定し、飯塚受刑者は刑務所に収容されました。
飯塚受刑者の謝罪の手紙
遺族の松永拓也さんは「2人の命をむだにしたくない」「もうこんな思いを誰にもしてほしくない」という思いから、近年は交通安全を呼びかける講演を全国各地で続けています。
みずからも被害を受けたSNS上のひぼう中傷の問題にも取り組んできました。
松永さんと飯塚受刑者をめぐっては、事故から5年となることし、新たな動きがありました。
ことしに入って松永さんは飯塚受刑者からの謝罪の手紙を受け取りました。
手紙は刑事裁判のあとに書かれたものとみられ、事故の原因については、アクセルとブレーキの踏み間違いの記憶がなかったため裁判で無罪主張をしたこと、提出された証拠や判決文を読み、自身の勘違いで車が暴走してしまったと理解していることが記されていました。
そして「もっと早くに車の運転を止めていれば今回の事故を起こさないで済んだと思いますので、運転を続けていたことについては今も後悔し反省しております。本当に申し訳ございませんでした」と、謝罪のことばで結ばれていました。
飯塚受刑者「高齢ドライバーに早く免許を返すよう伝えてほしい」
松永さんは飯塚受刑者と面会したいという思いを強め、ことし5月に真菜さんの父親の上原義教さんと、受刑者が収容されている刑務所を訪れ、面会が実現しました。
刑務官に車いすを押されながら面会室に入ってきた飯塚受刑者は、松永さんや上原さんが想像していた以上に衰え、ことばを発するのも難しい様子だったということです。
このなかで、松永さんが「どのようにすれば事故を防げたと思うか」などと尋ねたところ、飯塚受刑者は「高齢ドライバーに早く免許を返すよう伝えてほしい」と答えたということです。
面会を終えた松永さんは「2人の命は戻ってこないという事実に5年間向き合い続け、今回の面会が再発防止につなげるための集大成だと感じている。彼を糾弾するのではなく、彼のことばをヒントにして、同じような加害者や被害者、遺族を生まないために一人ひとりに何ができるのか考えてほしい」と話していました。