子どもの頃、自分が大好きな誰かに宛ててファンレターを書いたことを覚えているだろうか(私が1999年にディズニーランドで渡した手紙を、まだミッキーマウスが持っていてくれるといいのだが)。
米グーグルのCMによると、今は人工知能(AI)がそうした子どものファンレターを代筆してくれるという。だが評判は芳しくなかった。
問題のテレビCMは、米国でオリンピック中継の合間に放送された。女子陸上の米代表、シドニー・マクラフリン選手に憧れる娘の姿を父親が紹介する内容。少女はグーグルのAI検索を活用してハードル走のこつを覚え、マクラフリン選手を目標にトレーニングを重ねる。父親は、娘が同選手に憧れの気持ちを伝えたがっていると言い、娘からのファンレターをグーグルの生成AI「ジェミニ」に書かせる。娘が「いつか同選手の世界記録を破る」という一節を含めて。
このCMには、人間味のある文章を生成できるグーグルAIの能力をアピールする狙いがあった。AIツールは仕事用の電子メール作成から旅行の計画に至るまで、あらゆることに利用できるとグーグルは宣伝する。しかしSNSで批判を展開した多数のユーザーに言わせると、このCMはグーグルが現実からかけ離れている実態を改めて見せつけた。スレッズ、X、リンクトインといった主要SNSでは疑問をぶつける声が噴出している。子どもの創造性や真摯(しんし)な表現を、なぜコンピューターで書かせた言葉に入れ替えようと思うのか。
IT超大手のグーグルに見えていないのはそれだった。同社はジェミニをオープンAIの「チャットGPT」に対抗する製品と位置付け、グーグル検索からGメールに至るまで、幅広い製品にAI技術を取り入れようとしている。
「娘が憧れの選手に伝えたいことを手紙に書くよう促すのではなく、AIを使って手紙を作成させる父親のグーグルCMは、見るたびに心がいたむ」。ライターでスポーツブログ開設者のウィル・リーチさんがXにそう書き込んだ投稿は、3000回以上リポストされた。
