約やく80年ねんに1度どの天体てんたいショー「新星しんせい」爆発ばくはつ現象げんしょう起おきるか注目ちゅうもく高たかまる

「かんむり座ざT星ぼし」は、地球ちきゅうからおよそ3000光年こうねん離はなれたかんむり座ざの方向ほうこうにある、2つの星ほしが連つらなった肉眼にくがんでは見みえない暗くらい星ほしです。

この星ほしでは、これまでに「新星しんせい」と呼よばれる爆発ばくはつ現象げんしょうが1866年ねんと1946年ねんの2回かい、観測かんそくされています。

この現象げんしょうの周期しゅうきは、およそ80年ねんとみられることや、爆発ばくはつ前まえの兆候ちょうこうとして、暗くらくなり始はじめたといった指摘してきがあり、専門せんもん家かや愛好あいこう者しゃの間までは、近ちかいうちに再ふたたび「新星しんせい」が起おきるのではないかと注目ちゅうもくが高たかまっています。

「新星しんせい」について詳くわしい、徳島とくしま県けん阿南あなん市しの科学かがくセンターの職員しょくいん、今村いまむら和義かずよしさんによりますと、「新星しんせい」は、天の川あまのがわ銀河ぎんがの中なかだけでも、年としに数すう件けんから10件けん程度ていど見みつかるということですが、今回こんかいのように、時期じきがある程度あるていど予測よそくでき、肉眼にくがんでも見みえるほど明あかるくなるケースは珍めずらしいということです。

「かんむり座ざT星ぼし」の爆発ばくはつ現象げんしょうは、半日はんにちほどで明あかるさのピークを迎むかえ、数すう日にちの間まは肉眼にくがんで見みることができる見込みこみだということで、今村いまむらさんは「80年ねんに1度どしか見みられない貴重きちょうな天体てんたいショーで、肉眼にくがんでも見みることができます。ぜひ夜空よぞらを眺ながめて“新星しんせい”を探さがしてみてほしい」と話はなしていました。

「かんむり座ざT星ぼし」夏なつの夜空よぞらでの見みつけ方かた

かんむり座ざT星ぼしを夜空よぞらで探さがすには、「夏なつの大だい三角さんかく」など、ひときわ明あかるい星ほしが目印めじるしとなります。

国立こくりつ天文台てんもんだいによりますと、8月つき中旬ちゅうじゅんの夜よる9時じごろの東京とうきょうの夜空よぞらでは、頭上ずじょうにある「夏なつの大だい三角さんかく」の1つ、こと座ざのベガよりも西側にしがわに、半円はんえんの形かたちに星ほしが並ならび、王冠おうかんのように見みえるかんむり座ざがあります。

かんむり座ざT星ぼしは、この王冠おうかんの左下ひだりしたに位置いちしています。

また、西にしの夜空よぞらにはオレンジ色しょくのアークトゥルスと呼よばれる、うしかい座ざの明あかるい星ほしがあり、この星ほしと比くらべるとやや東ひがし寄よりに、かんむり座ざと、かんむり座ざT星ぼしがあります。

かんむり座ざT星ぼしが「新星しんせい」と呼よばれる爆発ばくはつ現象げんしょうを起おこした場合ばあい、北極ほっきょく星ぼしと同どう程度ていどまで明あかるくなり、数すう日にちほどは、都市とし部ぶでも肉眼にくがんで見みられる可能かのう性せいがあるということですが、望遠鏡ぼうえんきょうや双眼そうがん鏡きょうを使つかえば、より見みつけやすくなるということです。

国立こくりつ天文台てんもんだいの広報こうほう室長しつちょう、山岡やまおか均ひとしさんは「明あかるくなったら、ほぼ80年ねんぶりということで、とても注目ちゅうもくされます。皆みなさんもぜひ目撃もくげきしてはいかがでしょうか」と話はなしていました。

「新星しんせい」なぜ爆発ばくはつ繰り返くりかえす？

そもそも「新星しんせい」と呼よばれる爆発ばくはつ現象げんしょうを起おこす天体てんたいは、1つの星ほしではなく

▽太陽たいようのように輝かがやく「恒星こうせい」と

▽「白色はくしょくわい星ほし」という小ちいさい星ほしの

2つが連つらなったものです。

「恒星こうせい」の水素すいそガスが、「白色はくしょくわい星ほし」に引き寄ひきよせられて降り積ふりつもり、一定いっていの量りょうに達たっすると核かく融合ゆうごうが生しょうじて爆発ばくはつが起おきるとされ、遠とおく離はなれた私わたしたちからは、新あたらしい星ほしが突然とつぜん、夜空よぞらに現あらわれたように見みえます。

爆発ばくはつは一時いちじ的てきで、2つの星ほし自体じたいが無なくなるわけではないので、ガスが降り積ふりつもって一定いっていの量りょうに達たっすると、再ふたたび「新星しんせい」として爆発ばくはつを繰り返くりかえします。

かんむり座ざT星ぼしのような一部いちぶの例外れいがいを除のぞき、注目ちゅうもくされることが少すくないものの、天の川あまのがわ銀河ぎんがの中なかも含ふくめて、宇宙うちゅうで普遍ふへん的てきに起おきている天文てんもん現象げんしょうの1つです。

「新星しんせい」生命せいめいに必須ひっすの元素げんそリンを月つきの10倍ばいも生成せいせい

最新さいしんの研究けんきゅうからは、この「新星しんせい」は、生命せいめいの誕生たんじょうにとって重要じゅうような意味いみがあることが分わかってきています。

国立こくりつ天文台てんもんだいの辻本つじもと拓司たくじ助じょ教きょうによりますと、一定いっていの条件じょうけんを満みたした新星しんせいでは、大量たいりょうのリンが作り出つくりだされますが、リンは遺伝子いでんしや歯は、骨ほねなどに含ふくまれ生命せいめいに必須ひっすの元素げんそです。

かんむり座ざT星ぼしの爆発ばくはつについて試算しさんしたところ、地球ちきゅうを周回しゅうかいする月つきの質量しつりょうの10倍ばいものリンが生み出うみだされ、宇宙うちゅう空間くうかんに放出ほうしゅつされる可能かのう性せいがあるといいます。

宇宙うちゅうの謎なぞだった「リン」供給きょうきゅう源げんが新星しんせい爆発ばくはつか？

生命せいめいに必須ひっすの元素げんそについては、

▽水素すいそは138億おく年ねん前まえに起おきたビッグバンで宇宙うちゅうが誕生たんじょうした直後ちょくごに生しょうじたほか

▽酸素さんそや炭素たんそなどは、星ほしの内部ないぶの核かく融合ゆうごうで作り出つくりだされ、星ほしが一生いっしょうを終おえた際さいなどに起おきる大だい爆発ばくはつ「超新星ちょうしんせい爆発ばくはつ」によって宇宙うちゅうにもたらされると考かんがえられています。

ところが、リンについては、こうしたメカニズムでは宇宙うちゅうに存在そんざいする量りょうの一部いちぶしか説明せつめいできず、主おもな供給きょうきゅう源げんが何なになのか謎なぞが残のこされていたと言いいます。

辻本つじもとさんは、新星しんせいを起おこす天体てんたいは、10億おく年ねんから20億おく年ねんをかけて1万まん回かいもの爆発ばくはつを繰り返くりかえすことを考慮こうりょした理論りろんモデルを構築こうちくして分析ぶんせきしたところ、宇宙うちゅうに存在そんざいするリンの量りょうの大だい部分ぶぶんが説明せつめいできると論文ろんぶんで発表はっぴょうし、新星しんせいが宇宙うちゅうに存在そんざいするリンの主要しゅような供給きょうきゅう源げんだと突き止つきとめました。

辻本つじもとさんは「新星しんせいによって宇宙うちゅうに大量たいりょうのリンがもたらされた結果けっか、生命せいめいが存在そんざいする現在げんざいの宇宙うちゅうの姿すがたになった。かんむり座ざT星ぼしで爆発ばくはつ現象げんしょうが起おきれば、まだ分わからないことが多おおい新星しんせいについて、1つずつ解明かいめいしていくきっかけになると思おもう」と話はなしていました。

戦後せんごまもない日本にっぽんで目撃もくげきした少年しょうねん

およそ80年ねんごとに周期しゅうき的てきに爆発ばくはつを繰り返くりかえしているかんむり座ざT星ぼしは、前回ぜんかいは78年ねん前まえの1946年ねん2月つきに急激きゅうげきに明あかるくなり、世界せかい各地かくちで観測かんそくされました。

この中なかに、敗戦はいせんの痛手いたでからまだ立ち直たちなおっていない日本にっぽんの17歳さいの天文てんもん愛好あいこう者しゃの少年しょうねんがいました。

吉原よしはら正廣まさひろさんです。

吉原よしはらさんは、空腹くうふくのため夜中やちゅうに目めが覚さめ、気きを紛まぎらわせようとバラックの自宅じたくを出でて、真冬まふゆの澄すんだ夜空よぞらを見上みあげたところ、決きまった星ほしの並ならびの中なかに見みたことのない明あかるい星ほしが輝かがやいていることに気が付きがついたといいます。

最初さいしょは目めを疑うたがったものの、すぐに「新星しんせい」だと直感ちょっかんし、厚紙あつがみで作つくった筒つつに、欠かけたレンズを組み合くみあわせた自作じさくの望遠鏡ぼうえんきょうで確認かくにんしました。

吉原よしはらさんは、このことをハガキで専門せんもん家かに知しらせました。

新星しんせいの発見はっけんは“生いきる糧かて”に

世界せかいで最初さいしょの発見はっけんとはなりませんでしたが、このことが、のちに認みとめられて日本にっぽん天文てんもん学会がっかいから賞しょうが贈おくられました。

吉原よしはらさんは、2021年ねん5月つきに92歳さいで亡なくなりましたが、長女ちょうじょによりますと、晩年ばんねんになっても当時とうじの記録きろくを大切たいせつに保管ほかんしていたほか、家族かぞくに思い出おもいで話ばなしを語かたるなど、発見はっけんしたことを誇ほこりにしていたということです。

長女ちょうじょの高野たかのひろ子ひろこさんは「実じつは戦争せんそう中ちゅうよりも戦後せんごのほうが生活せいかつは厳きびしく、食たべるものが本当ほんとうになくなり、これからどうやって生いきるか分わからなかったと父ちちは話はなしていました。かんむり座ざT星ぼしの新星しんせいを発見はっけんできたことについて、父ちちになりかわって想像そうぞうすると、ものすごいエネルギーを宇宙うちゅうからもらったというか、絶対ぜったいに生いきる糧かてになったのだと思おもいます」と話はなしています。

再ふたたび明あかるくなると注目ちゅうもくされていることについては、「1つの天体てんたいショーとしてだけではなく、輝かがやきを見みることができれば、『おーお-い、おとうさーん』と思おもわず呼よびかけてみたくなるような、父ちちの残像ざんぞうがそこに見みえる気きがするので、ぜひ私わたしも出会であってみたい」と話はなしていました。

「新星しんせい」長年ながねん待ち望まちのぞむ人ひとも

およそ80年ねんぶりとなる、かんむり座ざT星ぼしの爆発ばくはつ現象げんしょうを待ち望まちのぞみ、みんなで観測かんそくしようと呼よびかけている人ひともいます。

徳島とくしま県けん阿南あなん市しにある科学かがくセンターの職員しょくいん、今村いまむら和義かずよしさん（38）です。

プラネタリウムの解説かいせつや星ほしの観望かんぼう会かいを行おこなうかたわら、天文てんもん愛好あいこう者しゃとして、この目めで「新星しんせい」を捉とらえようと、毎晩まいばん、かんむり座ざT星ぼしを観測かんそくしています。

今村いまむらさんは、突然とつぜん、夜空よぞらに星ほしが輝かがやく新星しんせい爆発ばくはつの不思議ふしぎさに魅了みりょうされ、大学院だいがくいんで「新星しんせい」を研究けんきゅうしていたとき、80年ねんの周期しゅうきで爆発ばくはつする、かんむり座ざT星ぼしと出会であいました。

9年ねん前まえの2015年ねん、岡山おかやま県内けんないの天文てんもん博物館はくぶつかんに勤務きんむしていた時ときにも、地元じもとの市しの広報こうほう誌しにかんむり座ざT星ぼしに関にかんするコラムを執筆しっぴつするなど、長年ながねん「新星しんせい」が起おきるのを待まちわびてきました。

ことし5月つきからはインターネット上じょうで、全国ぜんこくの愛好あいこう者しゃらに「爆発ばくはつを監視かんししよう」と呼よびかけ、日々ひび、観測かんそくされる画像がぞうや星ほしの明あかるさを報告ほうこくしてもらうキャンペーンを展開てんかいしたところ、すでに200件けんを超こえるデータが集あつまっているということです。

今村いまむらさんは、観望かんぼう会かいに参加さんかした夏休なつやすみを迎むかえた子こどもたちなどに、かんむり座ざT星ぼしについて紹介しょうかいしていて、多おおくの人ひとに楽たのしんでほしいと考かんがえています。

参加さんかした児童じどうは「きょうはまだ星ほしは暗くらかったけど、爆発ばくはつが見みてみたいので、毎晩まいばん、観察かんさつしたい」と話はなしていました。

今村いまむらさんは「かんむり座ざT星ぼしをはじめて知しった時ときには、まだ先さきだと思おもっていたが、いよいよ80年ねんの周期しゅうきが迫せまってきました。徳島とくしま県けん阿南あなん市しでは、たくさんの星ほしや星座せいざが観測かんそくできるので、ぜひ注目ちゅうもくしてほしい」と話はなしていました。