京王けいおう線せん無む差別さべつ襲撃しゅうげき事件じけん 被告ひこくに懲役ちょうえき23年ねんの判決はんけつ 東京とうきょう地裁ちさい立川たつかわ支部しぶ

無職むしょくの服部はっとり恭きょう太ふとし被告ひこく（26）はおととし10月つき、東京とうきょう・調布ちょうふ市しを走行そうこうしていた京王けいおう線せんの車内しゃないで、当時とうじ72歳さいの男性だんせいをナイフで刺さして大だいけがをさせたほか、まき散まきちらしたライターオイルに火ひをつけ、乗客じょうきゃく12人にんを殺害さつがいしようとしたとして、殺人さつじん未遂みすいや放火ほうかなどの罪つみに問とわれました。

31日にちの判決はんけつで東京とうきょう地方ちほう裁判所さいばんしょ立川たつかわ支部しぶの竹下たけした雄つよし裁判さいばん長ちょうは「自分じぶん勝手かってな理由りゆうから偶然ぐうぜん電車でんしゃに乗り合のりあわせた多数たすうの乗客じょうきゃくの命いのちを狙ねらった無む差別さべつ的てきな犯行はんこうだ」と指摘してきしました。

その上うえで「走行そうこう中ちゅうの電車でんしゃ内ないという逃げ場にげばが限かぎられた状況じょうきょうでパニックに陥おちいっている乗客じょうきゃくたちを焼やき殺ころすために点火てんかしていて、多おおくの死傷ししょう者しゃが出でてもおかしくなかった。社会しゃかい的てき影響えいきょうの大おおきさもあわせて考かんがえると、同種どうしゅの無む差別さべつ的てき事件じけんの中なかでも特とくに重おもい部類ぶるいの事案じあんだ」として、懲役ちょうえき23年ねんを言い渡いいわたしました。

一方いっぽう、放火ほうかに伴ともなう殺人さつじん未遂みすいの被害ひがい者しゃとされた12人にんの乗客じょうきゃくのうち2人にんについては「ライターが点火てんかされた時点じてんで死亡しぼうの危険きけんがある場所ばしょにいたか疑うたがいが残のこる」として、殺人さつじん未遂みすい罪ざいは成立せいりつしないと判断はんだんしました。

最後さいごに裁判さいばん長ちょうは「長ながい服役ふくえき期間きかんになります。この間このかん、事件じけんや被害ひがい者しゃ、自分じぶんの社会しゃかい復帰ふっき後ごについて考かんがえて生活せいかつし、苦くるしくても生いきてきちんと償つぐないをすることを忘わすれないでください」と語かたりかけ、服部はっとり被告ひこくは「はい」と答こたえていました。

裁判さいばん員いんが会見かいけん

判決はんけつのあと、裁判さいばん員いんと補充ほじゅう裁判さいばん員いんを務つとめた2人にんが記者きしゃ会見かいけんに応おうじました。

裁判さいばん員いんを務つとめた70歳さいの男性だんせいは「ニュースで見みていた印象いんしょうとは違ちがいごく普通ふつうの青年せいねんに見みえた。誰だれか一緒いっしょにいてくれたら“死しにたい”という気持きもちにはならなかったのではないか。立ち直たちなおりの支援しえんを受うけながら罪つみにしっかりと向き合むきあってほしいと思おもう」と話はなしていました。

また、補充ほじゅう裁判さいばん員いんを務つとめた40代だいの男性だんせいは法廷ほうていでの被告ひこくの様子ようすについて、「表情ひょうじょうひとつ変かえず座すわっていて何なにを考かんがえているんだろうと思おもっていた。反省はんせいのことばを述のべていたがその場ばしのぎで言いっているという印象いんしょうを受うけた」と述のべました。

その上うえで、事件じけんが起おきた背景はいけいについて、「被告ひこくは頼たよれる人ひとが少すくなかったのかなと感かんじた。今いまの世の中よのなかはつながりが薄うすく、1人にんでいる人ひとも多おおい。気軽きがるに相談そうだんできたりたわいない話はなしができる場ばが社会しゃかいにあればいいのではないかと思おもった」と話はなしていました。

専門せんもん家か「事件じけんの大おおきさ鑑かんがみれば妥当だとうな判決はんけつ」

犯罪はんざい精神せいしん医学いがくが専門せんもんで医師いしの聖マリアンナ医科大学せいまりあんないかだいがく 安藤あんどう久美子くみこ准じゅん教授きょうじゅは、おととし小田急おだきゅう線せんで起おきた無む差別さべつ襲撃しゅうげき事件じけんでは被告ひこくの精神せいしん鑑定かんていを行おこない、京王けいおう線せん事件じけんの裁判さいばんでは20日にちに行おこなわれた被告ひこく人じん質問しつもんなどを法廷ほうていで傍聴ぼうちょうしました。

判決はんけつについて安藤あんどう准じゅん教授きょうじゅは「自殺じさつしたいという自己じこ中心ちゅうしん的てきな動機どうきをもとに安易あんいに他者たしゃを巻き込まきこんで大おおきな被害ひがいを生しょうじさせた。事件じけんの大おおきさから鑑かんがみれば妥当だとうな判決はんけつだと思おもう」と話はなしています。

そして、小田急おだきゅう線せんと京王けいおう線せんの2つの事件じけんの共通きょうつう点てんとして「親したしい人ひとと別わかれたり、経済けいざい的てき困窮こんきゅうや無職むしょくになったりするなど、社会しゃかいとのつながりが断絶だんぜつしている。最後さいごの段階だんかいで事件じけんを起おこそうと決きめるときに相談そうだん相手あいてが身近みぢかにいないことも共通きょうつうしている。事件じけんを肯定こうていする訳わけではないが社会しゃかい全体ぜんたいに対にたいする若者わかものの不安ふあん感かんや不信ふしん感かんが関係かんけいしているのではないか。将来しょうらいへの不安ふあんや生活せいかつの行き詰いきづまりといった困難こんなんやストレスに直面ちょくめんしたときの対処たいしょ方法ほうほうが未熟みじゅくで、安易あんいに社会しゃかいや無む差別さべつ的てきに他者たしゃに向むかったのが今回こんかいの事件じけんであり、同おなじような事件じけんが相次あいつぐ背景はいけいにあると考かんがえられる」と分析ぶんせきします。

また「2人にんとも社会しゃかいで自分じぶんなりに頑張がんばろうとしてきた人ひとであり、普通ふつうの生活せいかつや幸しあわせを求もとめてきた人ひとだと思おもう。見方みかたを変かえれば、誰だれもがこういう事件じけんを起おこす可能かのう性せいがあり、身近みぢかに起おこり得えるということを社会しゃかいが受け止うけとめるべきだろう」と指摘してきします。

社会しゃかいとして「つながり」を作つくる必要ひつよう性せい

恋愛れんあいや仕事しごとなどの悩なやみを抱かかえ、自殺じさつする代かわりに「死刑しけいになりたい」と無む差別さべつ襲撃しゅうげき事件じけんに及およんだ被告ひこく。

若者わかものの悩なやみに向き合むきあうNPOは、対策たいさくの難むずかしさとともに、社会しゃかいとして「つながり」を作つくることの必要ひつよう性せいを指摘してきします。

東京とうきょうのNPO法人ほうじん「あなたのいばしょ」では、さまざまな悩なやみを抱かかえた人ひとの相談そうだんに応おうじようと2020年ねん3月つきから24時間じかん体制たいせいで対応たいおうにあたっています。

相談そうだん件数けんすうは増ふえ続つづけていて、いまでは1日にちに1000件けん以上いじょうが寄よせられ、このうち7割わりほどが10代だいや20代だいの若者わかものだということです。

「家出いえでしたい」、「進路しんろや人間にんげん関係かんけいで悩なやんでいる」といった悩なやみのほか、自殺じさつに関にかんする相談そうだんも多おおく、相談そうだん者しゃの7割わり以上いじょうが「自殺じさつしたい」とか「死しにたい」という気持きもちを抱だいているといいます。

NPO法人ほうじんの大空おおぞら幸みゆき星ぼし理事りじ長ちょうは京王けいおう線せんの事件じけんについて、「被害ひがいの状況じょうきょうや犯行はんこうに至いたった経緯けいいは事件じけんによって違ちがうかもしれないが、『死刑しけいになりたい』とか『どうせ生いきていてもしかたがない』と思おもった人ひとが無む差別さべつに第だい三さん者しゃを巻き込まきこむ事件じけんが近年きんねん、相次あいついでいると感かんじる。悩なやみや孤独こどくを抱かかえている人ひとが誰だれしもそうした状況じょうきょうに陥おちいるわけではないが、人間にんげん関係かんけいのささいなトラブルや日常にちじょう生活せいかつでの小ちいさな悩なやみを感かんじているのは共通きょうつうしていると思おもう」と話はなします。

その上うえで、「多おおくの相談そうだんが寄よせられている一方いっぽう、『相談そうだんすることは恥はずかしい』とか、『頼たよることは負まけだ』と支援しえんを受うけることをためらう人ひとがいるのも事実じじつで、現場げんばとしてはもどかしい。人ひとは皆みな、誰だれかの力ちからを借かりて生いきていて、頼たよることは悪わるいことではないという前提ぜんていを社会しゃかい全体ぜんたいで共有きょうゆうしていく必要ひつようがあるのではないか」としています。

また、社会しゃかいの中なかでつながりを作つくることも重要じゅうようだとして、「つながりというのは保険ほけんみたいなもので、何なんらかの事件じけんを犯おかそうと思おもっても、つながりを保たもった状況じょうきょうだと起おこしにくいと思おもう。社会しゃかいの中なかにたくさんのつながりや支援しえんの糸いとを垂たらしていき、必要ひつようとする人ひとにどれか1つでも選えらび取とってもらえるようにしていきたい」と話はなしていました。