いわき市中央卸売市場では、31日朝6時ごろから取り引きが始まり、競り場には福島沖で水揚げされたタイやスズキ、それにヒラメなどの魚が並びました。
威勢のよい掛け声が響き渡り、「常磐もの」を代表するヒラメの中にはふだんより1割ほど高値で落札されるものもありました。
処理水の放出をめぐっては水揚げされた魚への風評被害が懸念されていますが、この市場によりますと、これまでのところ取り引き価格に大きな変化はないということです。
いわき市で水産仲卸会社を経営する鈴木孝治さん(62)は、「最初は不安でしたが、全国の人が買って応援してくれているので、売値に影響はありません。あすから底引き網漁が解禁され、市場に出回る魚も増えるので、さらに活気づいていくといいと思う」と話していました。
高知 嫌がらせ電話や予約キャンセル相次ぐ
高知市のレストランでは、中国からと見られる嫌がらせの電話や中国人の団体客からの予約のキャンセルが相次いでいます。
福島第一原発で今月24日に処理水の放出が始まって以降、中国は日本産の水産物の輸入を全面的に停止したほか、全国の飲食店などには中国の国番号から始まる国際電話による嫌がらせが相次いでいます。
こうした中、高知市のレストランでも30日までに中国からとみられる嫌がらせの電話が相次ぎ、その数は、およそ20件に上っているということです。
このほか、高知名物のカツオのたたきなどを予約していた中国人の団体からのキャンセルの連絡も相次ぎ、店では、影響の拡大を懸念しています。
このレストランの常務は「中国からと見られる電話は、いまだにかかってきていますが、何もすることができない状況です。インバウンドが盛り上がっているので、おいしい料理を食べに来てほしいとです」と話していました。
中国の日本料理店“店の継続に不安”
中国にある日本料理店では、客が減るなどの影響が出ていて、店の継続に不安を募らせています。
このうち、上海中心部にある海鮮などが人気の日本料理店では、処理水の海洋放出に反対する中国政府が、日本産の水産物などの検査を厳しくする方針を示した先月上旬以降、日本の鮮魚を全く仕入れられなくなり、水産物は中国国内で水揚げされたものなどに代え、提供する料理も工夫して営業を続けています。
さらに、海洋放出が始まった今月24日以降は、中国人の客が8割ほど減り、売り上げにも大きな影響が出ているということです。
また、店のオーナーシェフ、谷口義忠さんによりますと、この1週間、知り合いの料理店の中には嫌がらせの電話を受けたり、日本の水産物を仕入れていないか当局による抜き打ちの検査が行われたりしたところがあったということです。
上海で料理人として20年近く働いてきた谷口さんは「この1週間、店が今後どうなるのか不安で眠れない日もありました。厳しい状況ですが、季節が感じられる日本料理をなんとか伝えていけるよう前向きに頑張ります」と話していました。
日本人の客は「中国の人たちも日本料理を好きになっていたので、残念です。日本の立場が伝わるような情報発信をしてほしいです」と話していました。
埼玉 激励や謝罪の声を寄せる中国人も
東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の放出をめぐって中国からとみられる国際電話による嫌がらせが各地で相次いでいる問題で、埼玉県春日部市の飲食店では、嫌がらせの一方で日本への好意を伝える声も寄せられています。
埼玉県春日部市のラーメン店「会津ラーメン和」では処理水の放出に関する報道があった今月19日ごろから中国の国番号「86」から始まる国際電話がかかりだし、これまでにおよそ150件の着信があったということです。
電話はいきなり罵声を浴びせるなどの内容で、昼夜問わずかかってきたことから店主の西條剛さんは「当店『会津ラーメン』だからなのでしょうか…当店にも時間を問わずイタ電が続いています」と店のSNSなどで状況を訴えました。
すると、激励のメッセージが相次ぎなかには中国から「すべての中国人がそうではない」とか、「日本が大好きだ」などのメッセージが電話やダイレクトメールで数件寄せられたということです。
また29日は、中国人だという若い男性が来店し、食事をしたあと、「中国人がご迷惑をおかけし、申し訳ない」と西條さんに声をかけてきたということです。
これについて、西條さんはSNSに「お心ある振る舞いに心が潤います。日中友好です」と感謝の気持ちを記しました。
店主の西條さんは、「嫌がらせの電話には困惑したが回数は減ってきていてこうやって激励や謝罪の声を寄せてくれる中国の方もいます。今回のことで日本人も中国人に対する偏見を抱くべきではないと感じました」と話しています。
福島 郡山 意見交換会で放出中止求める声相次ぐ
東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出について、30日夜、福島県郡山市で地元の住民グループが国と東京電力との意見交換会を開き、住民からは「理解が十分得られていない」として放出を中止すべきだという意見が相次ぎました。
意見交換会は、住民グループの求めに応じて30日夜、郡山市の施設で開かれ、およそ150人が参加しました。
はじめに、国と東京電力の担当者が、処理水は放射性物質の濃度が基準を下回るように薄めてから放出していることや、原発周辺の海水のモニタリングを継続して行っていることなどを説明しました。
参加した住民からは、「環境中に放射性物質を出すこと自体が間違いで、市民に寄り添った結論の出し方がなされていない」などと、放出計画についての理解を醸成する取り組みが不十分だとする意見が出ました。
これに対し、国の担当者は、漁業関係者などさまざまな団体に説明を繰り返してきたとして、「処分の必要性や安全性には一定の理解を得られたと考えている」と答えました。
しかし、住民からは「一定の理解では納得できない」などとして、放出を中止すべきだという意見が相次ぎました。
主催した住民グループによりますと、意見交換会はことし6月から求めていましたが処理水を放出したあとの開催になったということです。
福島県漁連会長「放出状況を冷静かつ真剣に見守りたい」
東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出が始まってから1週間となる31日、放出後としては初めてとなる福島県内の漁協の組合長が集まる会議が開かれ、県漁連の野崎哲会長はこれまで魚の取り引きに問題は出ていないとした上で「放出の状況を冷静かつ真剣に見守りたい」と述べました。
福島第一原発にたまる処理水を薄めた上で海に放出し始めてから1週間となる31日、福島県いわき市で開かれた会議には県内の漁協の組合長のほか政府や東京電力などの担当者が出席しました。
はじめに、県漁連の野崎会長が「放出されたことは苦しいが、漁業を存続させるために冷静かつ真剣に放出の状況を見守りたい。漁業者には苦労をかけるがなんとか頑張っていきたい」とあいさつしました。
その後、政府の担当者が、海水や魚の検査の結果、トリチウム濃度は検出できる下限の値を下回っていることや、中国の全面禁輸で影響を受けている事業者に支援をすることなどを説明していました。
これまでのところ県内で水揚げした水産物の取り引きは放出前と同様に行われているということで、野崎会長は「この1週間は大きな問題はなく進んでいるので少し安心した。漁業者には引き続き頑張って魚をとりましょうと呼びかけたい」と話していました。