日本新聞: 「最後まで頑張った息子が本当に誇り」【被災地の声 27日】

9歳さいの息子むすこの顔かおには、あざが出来できていました。

「痛いたかったんだろうなと思おもいます。でも」と父親ちちおやは言いいます。

そんな状況じょうきょうの中なかでも、机つくえをたたいて自分じぶんの居場所いばしょを懸命けんめいに教おしえてくれたこと。

最後さいごまで、自分じぶんよりも母親ははおやを気きにしていた様子ようすだったこと。

「父親ちちおやとしては、誇ほこりに思おもえる立派りっぱな息子むすこだなあと。残念ざんねんですけど、こういう結果けっかは残念ざんねんなんですけど、本当ほんとうに立派りっぱだったなって思おもいます」

珠洲すず市し大谷おおや町まち帰省きせい先さきから帰かえろうとした時ときに

今月こんげつ1日にち、金沢かなざわ市しの角田つのだ貴仁たかひとさん（47）は珠洲すず市し大谷おおや町まちの両親りょうしんが住すむ実家じっかにいました。

角田つのださん

初詣はつもうでから帰かえってきてひと休ひとやすみして。元旦がんたんのうちに金沢かなざわに戻もどる予定よていでしたので、帰かえる準備じゅんびをしていました。その最中さいちゅうに一いち度目どめの揺ゆれが来きまして。

角田つのださんと両親りょうしん、妻つまの裕美ひろみさん（43）と長男ちょうなんで小学しょうがく3年生ねんせいの啓けい徳とく（あきのり）君くん（9）の5人にんは、家いえの外そとに出でました。

屋根やねの様子ようすを確認かくにんしたあと、いったん家いえの中なかに入はいりましたが、帰かえる準備じゅんびをしなきゃいけないねという話はなしになり、角田つのださんはまた外そとに出でて準備じゅんびを再開さいかいしました。

そうしているうちに、2度目どめの揺ゆれが来きました。

上うえから横よこからいろんなものが落おちてきて、角田つのださんはその場ばにしゃがむことしか出来できなかったと言いいます。

妻つまと長男ちょうなんの2人にんが

揺ゆれが収おさまったとき、角田つのださんの両親りょうしんはすぐに姿すがたが見みえて、無事ぶじを確認かくにんできました。

しかし、妻つまの裕美ひろみさんと啓けい徳いさお君くんの2人にんは声こえが聞きこえず、名前なまえを呼よんでも返かえってきません。

気付きづいて、まずいと思おもって外そとに出でたところ、2人にんのいたところが屋根やねが崩くずれて落おちていました。

居間いまにいた2人にんは、崩れ落くずれおちてきた屋根やねの下敷したじきになっていました。

助たすけるためには、倒たおれた屋根やねのはりをどかさなければいけません。

角田つのださんは屋根やねが落おちた建物たてものの中なかで、ライトをつけたスマートフォンを口くちにくわえて周囲しゅういを照てらしながら、両手りょうてを使つかってのこぎりではりを切きろうとしました。

その間そのかん、啓けい徳いさお君くんは、机つくえを手てでたたいたり声こえをあげたりして、自分じぶんたちが居いる場所ばしょを角田つのださんに懸命けんめいに伝つたえようとしたということです。

現場げんばを見みた瞬間しゅんかんにわかったことが、ちゃんとこたつの下したに隠かくれてたんです。頭あたまを守まもろうと、生いきようとして、ちゃんとそういった行動こうどうを取とってたんだということがわかりました。たたいていたのは、壊こわれた机つくえでした。ものすごく、力強ちからづよくたたいていました。大好だいすきな母親ははおやを「助たすけたい」という気持きもちでいたんだと思おもいます。

ただ、はりはのこぎりではなかなか切きれず、近所きんじょの人ひとにチェーンソーを借かりて、火花ひばなを散ちらしながら切り落きりおとしました。

地震じしん発生はっせいから約やく1時間じかん半はん後ご、角田つのださんはみずからの手てで2人にんを助け出たすけだしましたが、すでに2人にんは冷つめたくなっていました。

はりがやっとはずれて、でももう冷つめたいんですよ。ごめん、間に合まにあわなかった。申し訳もうしわけない気持きもちしかないですよ、助たすけられなかったというのは。もうそれしかないですね、本当ほんとうに。

「最後さいごまで自分じぶんより母ははのことを」

今月こんげつ22日にち、角田つのださんはようやく金沢かなざわ市しで2人にんの葬儀そうぎを行おこなうことができました。

角田つのださんは、最後さいごまで頑張がんばった啓あきら徳いさお君くんのことを、誇ほこりに思おもっています。

挟はさまれたときにあざが出来できていました。痛いたかったんだろうなと思おもいます。でも、そんな中なかでも、ちゃんと学校がっこうに教おそわったとおりに行動こうどうし、そのあとも、居場所いばしょをちゃんと教おしえてくれた。最後さいごまで自分じぶんより、母親ははおやを気きにしていた。父親ちちおやとしては、誇ほこりに思おもえる立派りっぱな息子むすこだなあと。

残念ざんねんですけど、こういう結果けっかは残念ざんねんなんですけど、本当ほんとうに立派りっぱだったなって思おもいまして。あざは、まあ男の子おとこのこですから、それも一ひとつの勲章くんしょうなのかなと思おもいまして。残のこす方向ほうこうで、葬儀そうぎ屋やさんにはお願おねがいしました。

去年きょねん11月つき、授業じゅぎょう参観さんかんに行いった時ときの様子ようすが印象いんしょうに残のこっていると言いいます。

初はじめて彼かれの授業じゅぎょうを受うけている姿すがたを見みたんですけど、やっぱり家いえじゃ見みせないような顔かおをしていまして。目めがすごい真剣しんけんなんですよね。一生懸命いっしょうけんめい、先生せんせいの話はなしを聞きいて、一生懸命いっしょうけんめいノートを書かいてた。家いえで見みない顔かおだなあと思おもいまして、何なにかそれも誇ほこらしかったですね。外そとで我々われわれに見みせない顔かおがあるっていうのは頼たのもしくもあったし、嬉うれしくもあったし。これからも機会きかいあれば見みようと思おもっていましたけど、11月つきに見みた彼かれの姿すがたが、私わたしが見みた最後さいごの学校がっこうでの息子むすこでした。

そして、妻つまの裕美ひろみさんについては、自分じぶんの一番いちばんの理解りかい者しゃだったと話はなしています。

あうんの呼吸こきゅうの夫婦ふうふでした。2人にんで過すごしてきた時間じかんは心地ここちよいものでした。母親ははおやとしては厳きびしい面めんもありましたが、一生懸命いっしょうけんめい子こどもを育そだててくれました。私わたしのことも支ささえてくれましたし。時ときに背中せなかを押おしてくれることもありました。とてもいい妻つまでした。

まだ「ごめん」しか言いえない

金沢かなざわ市しの自宅じたくに戻もどって来きた時とき、角田つのださんは、中なかに入はいる勇気ゆうきがありませんでした。

家いえの中なかは、3人にんで珠洲すずに出発しゅっぱつした時ときのままだということがわかっていたからです。

思い出おもいでが詰つまった空間くうかんの中なか、こらえきれなくなって1人にん、涙なみだを流ながしたということです。

1人にんになったなって。何なんでなんだろうなって。今いますぐ戻もどってきて生活せいかつ出来できる状態じょうたいなのになんでいないんだという。

2人にんの物ものには1個こ1個こに思おもいがありますし。単たんなるレシートなんですけれど、やっぱりそれにも、ああこの日ひにこれを買かったんだなっていうのがあるじゃないですか。生いきていればたぶん捨すてるものです。でもそういったものでも2人にんのことを思い出おもいだします。

ひとつひとつ、というのが正直しょうじきなところです。こうしたいああしたいっていうのはなかなか、簡単かんたんにはまだ出でてこないですよ。もう、元もとには戻もどらないんですけれど、このままの自分じぶんではいけないってのも思おもってますので、どこかで、少すこし戻もどらなきゃいけないなっていうのは思おもってます。