これに伴ってオーストラリアがフランスと共同で進めてきた潜水艦の開発計画は破棄されることになりました。
フランスはこれに強く反発。ルドリアン外相は17日、マクロン大統領の要求を受けてアメリカとオーストラリアに駐在する両フランス大使の召還を決めたと発表しました。
フランス政府が強く反発する背景には、アメリカのバイデン政権が同盟関係を軽視しているのではないかという不信感があります。 フランスは、自国第一主義を掲げたトランプ前政権との間で貿易や気候変動などをめぐりぎくしゃくした関係が続いたことから、バイデン大統領の就任でアメリカとの関係回復に強く期待してきました。 ところが先月アフガニスタンでタリバンが政権を掌握した際には自国民などを確実に退避させるためフランスからはアメリカ軍の撤退期限を延期するよう求める声があがりましたが、バイデン政権は予定どおり先月末に軍の撤退を完了させました。
インド太平洋地域に海外領土を持つフランスにとって、この地域の安全保障はとりわけ重要で、ヨーロッパ各国の中でもひとあし早く、2018年に独自の戦略を打ち出しています。 この中でオーストラリアは、日本やインドと並んでインド太平洋地域の重要なパートナーと位置づけていて、その核となってきたのが、5年前に日本やドイツと競った末にオーストラリア政府から受注した12隻の潜水艦の共同開発計画です。 契約の総額は、追加の費用も含めて560億ユーロ、日本円で7兆円余りにのぼると見込まれ、フランスでは「世紀の契約」とも言われてきました。
背景にはまず、中国の軍事増強への危機感があります。 西太平洋地域では、中国軍に対するアメリカ軍の優位性が失われつつある一方で、みずからの軍事費は大幅には増やせない事情があり、インド太平洋地域の同盟国との連携強化が不可欠でした。 また、原子力潜水艦は作戦海域が広く、南シナ海だけでなく、東シナ海やインド洋にも展開でき、アメリカの技術を使えば、アメリカ軍などと「統合運用」をしやすいメリットもあります。 一方で、バイデン政権の外交・軍事戦略に対して向けられた懐疑的な見方を払拭したいという思惑もあったと見られます。 バイデン大統領は、アフガニスタンからの軍の撤退に伴う混乱で、国内での支持率が就任後、最も低い水準に落ち込んでいます。 さらに、アジアの国々からは、中国に対抗する上での明確な戦略が示されていないとの声があがっていたこともあり、具体的な行動で示す必要に迫られていました。
そして5年前の2016年、共同開発のパートナーとして、フランスとドイツ、それに日本の3か国の中からフランスを選びました。 しかし現地の報道によりますと▼共同開発にかかる費用が、日本円にして7兆円余りと、当初から2倍近くに増えた上、▼計画の進捗に遅れも出ていたことから、政府内で不満の声が上がっていたということです。 またフランスとは、通常のディーゼル型の潜水艦を開発する予定でしたが、今回、原子力潜水艦の導入を決めた理由について、モリソン首相は「当初予定していたフランスの潜水艦は、オーストラリアにとってもはや最善の選択ではなくなった」と述べ、インド太平洋地域の情勢が変化しより高性能の原子力潜水艦が必要になったと説明しています。 オーストラリアは、貿易や安全保障の分野で中国との関係が冷え込んでいることから、民主主義の価値観を共有するアメリカ、イギリスと連携し、防衛能力を強化することで、中国をけん制したいねらいがあるとみられます。
そのうえで「フランスとしては、アフガニスタンの撤退についてバイデン政権に対して不信を募らせていた時で、今回の件についても大使を召還するなど、非常に強く反発している。しかし、それぞれの国にとってインド太平洋地域の重要性は変わらず、中国とのバランスをとらなければならないという点でも一致しているので、短期的に関係の修復が難しくても、中長期的には関係を再び強化する必要性に迫られるのではないか」と分析しました。
そして「今後アメリカは、この地域における枠組みをより柔軟な形でいろいろと作り上げ、それぞれの問題に最適な形で活用していくのではないか。日本も柔軟な発想を持ってこの地域の枠組みを考え、アメリカやそのほかの国と調整していく必要がある」と指摘しました。
記事では「離れた海域まで航行できる原子力潜水艦は、南シナ海や台湾の問題に足を突っ込みたいアメリカに追随するオーストラリアにとって魅力が大きいのだろう」と分析しています。 その上で「今回の局面で、唯一の勝者はアメリカだ。アジア太平洋に近接した地区で初めて原子力潜水艦を維持・補修する能力を持つことができるからだ」として、アメリカが同盟国を利用し、中国包囲網を強化しているとけん制しています。 また、今回の事態について「アメリカのような、他人の利益を損ねて自分を利するふるまいがフランスを苦しめている」と表現し、NATO=北大西洋条約機構の加盟国どうしの内紛にもつながりかねないと指摘しています。
フランスはアメリカに対する不信感が背景に
契約総額は7兆円余り「世紀の契約」とも
バイデン政権 中国の軍事増強への危機感
オーストラリア 地域情勢の変化で高性能の潜水艦必要に
専門家「インド太平洋地域の重要性は変わらない」
「AUKUS」と「QUAD」どう位置づける?
中国「唯一の勝者はアメリカだ」