旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほう訴訟そしょう 1審しん判決はんけつと逆ぎゃくに 国くにに賠償ばいしょう命めいじる判決はんけつ 大阪おおさか高裁こうさい

原告げんこくの1人にんで聴覚ちょうかくに障害しょうがいのある小林こばやし寳たから二にさん（91）は、手話しゅわ通訳つうやくを介かいして「この日ひを待まっていた。正ただしい判決はんけつを出だしていただいて本当ほんとうにうれしい。これで気持きもちが落ち着おちついた」と話はなしました。

そのうえで、ともに裁判さいばんを起おこし、去年きょねん6月つきに亡なくなった妻つまの喜美子きみこさんに結果けっかを伝つたえ、一緒いっしょに喜よろこび合あいたいと話はなしていました。

また、同おなじく原告げんこくの1人にんで、先天せんてん性せいの脳性のうせいまひによる障害しょうがいがある神戸こうべ市しの鈴木すずき由美ゆみさん（67）は、「いい判決はんけつで本当ほんとうにうれしかった。私わたしは普通ふつうに暮くらしたいだけだったのに、障害しょうがいがあるから子こどもが産うめないようになった。体からだの傷きずは消きえても、心こころの傷きずは消きえない。国くには早はやく謝罪しゃざいして、悪わるかったと言いってほしい」と話はなしていました。

原告げんこく弁護べんご団だんの団長だんちょうを務つとめる藤原ふじわら精きよし吾われ弁護士べんごしは「国くには争あらそいをやめ、被害ひがい者しゃとちゃんと面会めんかいして謝あやまることが出発しゅっぱつ点てんだ。被害ひがいは手術しゅじゅつを受うけた人ひとだけではない。国くには障害しょうがいを持もった人ひとが負い目おいめを持もって生いきる社会しゃかいをつくってきた。優生ゆうせい保護ほごの問題もんだいは終おわっていない」と訴うったえていました。

訴うったえを起おこしている兵庫ひょうご県けん明石あかし市しの小林こばやし寳たから二にさん（91）と、去年きょねん89歳さいで亡なくなった妻つまの喜美子きみこさんは、たくさんの子こどもをもうけ、にぎやかで楽たのしい家庭かていを築きずくことが夢ゆめだったといいます。

1960年ねん、ともに聴覚ちょうかく障害しょうがいがあった2人にんはお見合みあいで出会であい、まもなくして結婚けっこん。

およそ3か月かげつがたったころ、喜美子きみこさんの妊娠にんしんが分わかりました。

【“中絶ちゅうぜつ手術しゅじゅつを突然とつぜん受うけさせられた”詳くわしい説明せつめいなく】

しかし、直後ちょくごに喜美子きみこさんは病院びょういんに連つれて行いかれ、母親ははおやから「赤あかちゃんが腐くさっている」と言いわれました。

そして詳くわしい説明せつめいが無ないまま、突然とつぜん中絶ちゅうぜつ手術しゅじゅつを受うけさせられたと言いいます。

妊娠にんしんを知しった寳たから二にさんの母親ははおやが、喜美子きみこさんの母親ははおやと相談そうだんして手術しゅじゅつを受うけさせていたのです。

小林こばやし寳たから二にさんは「喜美子きみこが家いえに帰かえってきて、『どうしたんだ』と聞きくと、『よくわからない』。おなかを見みてみると、15センチほどの傷きずがあった。『これは何なにだ？』と言いっても、よく分わからなかったんです。その後そのご、母ははと会あうと『子こどもを産うんではいけない』と言いわれてとても腹立はらだたしく思おもいました。『何なんで産うんではいけないんだ』と言いっても、母ははは何なにも答こたえてくれませんでした。喜美子きみこはただただ泣ないていました」

【“強制きょうせい的てきな不妊ふにん手術しゅじゅつ 発覚はっかくのきっかけは58年ねん後ご”】

なぜ、喜美子きみこさんは、手術しゅじゅつを受うけさせられたのか。

詳くわしい理由りゆうが分わかったきっかけは、2018年ねんに宮城みやぎ県けんの60代だいの女性じょせいが旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうのもとで不妊ふにん手術しゅじゅつを受うけさせられ、子こどもを産うみ育そだてる権利けんりを奪うばわれたとして、国くにに損害そんがい賠償ばいしょうを求もとめる全国ぜんこくで初はじめての訴うったえを仙台せんだい地方ちほう裁判所さいばんしょに起おこしたことでした。

喜美子きみこさんは、自分じぶんも被害ひがいを受うけたのではないかと思おもい、専門せんもんの医師いしに調しらべてもらったところ、不妊ふにん手術しゅじゅつを受うけさせられたとみられることが分わかりました。

そしてその年とし、国くにに損害そんがい賠償ばいしょうを求もとめる訴うったえを神戸こうべ地方ちほう裁判所さいばんしょに起おこしました。

当時とうじ、喜美子きみこさんは、決意けついを述のべていました。

「裁判さいばんを通をつうじて、社会しゃかいが変かわっていくことが大切たいせつです。訴うったえを起おこした私わたしたちだけの問題もんだいではない。障害しょうがい者しゃ全体ぜんたいの問題もんだいだとして、考かんがえてもらえるように活動かつどうしていきたい」

始はじまった裁判さいばんの意見いけん陳述ちんじゅつで、寳たから二にさんは「手術しゅじゅつからおよそ60年ねんがたちましたが、悲かなしみは今いまも続つづいています。友人ゆうじんや知人ちじんに子こどもがいるのを見みると、悲かなしくて、寂さびしくて、歯はがゆい思おもいをします。こんな苦くるしみを与あたえる差別さべつは許ゆるせません」と訴うったえました。

【時間じかんの壁かべが 神戸こうべ地裁ちさい 除じょ斥期間きかんの経過けいかで訴うったえを棄却ききゃく】

しかし、おととし、1審しんの神戸こうべ地裁ちさいは旧きゅう優生ゆうせい保護ほご法ほうを憲法けんぽう違反いはんとしたうえで、不妊ふにん手術しゅじゅつから20年ねん以上いじょうがたっていて、賠償ばいしょうを求もとめる権利けんりのある期間きかんの「除じょ斥期間きかん」が過すぎているとして訴うったえを退しりぞけました。

小林こばやしさん夫婦ふうふは控訴こうそし、2審しんで改あらためて国くにの賠償ばいしょう責任せきにんを認みとめてほしいと求もとめていましたが、去年きょねん6月つき、喜美子きみこさんは病気びょうきのため亡なくなりました。

【“私わたしの声こえは聞きこえていますか”】

その5か月かげつ後ご、2審しんの大阪おおさか高等こうとう裁判所さいばんしょで行おこなわれた意見いけん陳述ちんじゅつで、寳たから二にさんが訴うったえたことばです。

「妻つまとともに60年間ねんかん、子こどもを持もてない悲かなしみと寂さびしさを抱かかえて過すごしてきたが、その妻つまも病気びょうきで亡なくなり、深ふかい悲かなしみに暮くれている。裁判官さいばんかんの方ほう、私わたしの声こえは聞きこえていますか。私わたしの気持きもちを理解りかいして正ただしい判決はんけつをお願おねがいします」

提訴ていそからおよそ4年ねん半はんがたち、原告げんこく5人にんのうち、喜美子きみこさんを含ふくめ2人にんが亡なくなっています。

寳たから二にさんも最近さいきん、体調たいちょうを崩くずすことが増ふえているということで、国くには一刻いっこくも早はやく賠償ばいしょう責任せきにんを認みとめてほしいと願ねがっています。