熱海あたみ 土石流どせきりゅう 妻つまの叫び声さけびごえで垂直すいちょく避難ひなんの男性だんせい「紙一重かみひとえだった」

午前ごぜん10時半じはんごろ土石流どせきりゅうの第だい1波はで流ながれ下くだった土砂どしゃが自宅じたくの前まえを通とおる国道こくどう135号線ごうせん上じょうに押し寄おしよせ、自宅じたくの1メートルほど手前てまえで止とまったということです。しかし上流じょうりゅう部ぶの被害ひがいの状況じょうきょうは新幹線しんかんせんの高架こうかや周辺しゅうへんの生い茂おいしげった木々きぎなどで隠かくれていて見みることができず、夫おっとの榮司えいじさんは「土砂どしゃが止とまってよかった」と安心あんしんした気持きもちで近所きんじょの人ひとたちと立ち話たちばなしをしていたといいます。

ところがそのおよそ20分ふん後ご、自宅じたくの3階かいにいた妻つまの珍ちん江こうさんが窓まど越ごしに自宅じたくに迫せまってくる第だい2波はとみられる土石流どせきりゅうに気付きづき、「危あぶない、早はやく上あがってきて」と叫さけんだということです。

妻つまの叫び声さけびごえを聞きいた榮治えいじさんはとっさに自宅じたくの外そと付づけの階段かいだんを駆かけ上あがりました。その直後ちょくご、土石流どせきりゅうはあっという間あっというまに自宅じたくの1階かい部分ぶぶんを飲み込のみこみ、榮司えいじさんが駆かけ上あがった階段かいだんのわずか3段だん下かまで土砂どしゃが押し寄おしよせましたが、間一髪かんいっぱつのところで巻き込まきこまれずにすんだということです。

珍ちん江こうさんは当時とうじの状況じょうきょうについて「第だい2波はは、第だい1波はで到達とうたつした土砂どしゃを乗り越のりこえてきたのでかなりの高たかさがありましたが、そのわりに音おとは静しずかで、直前ちょくぜんまで気きがつきませんでした。階段かいだんを上のぼり始はじめた夫おっとに後うしろから覆おおいかぶさるように見みえました」と語かたりました。

榮司えいじさんは「逃にげるので精せいいっぱいで後うしろは一切いっさい振り返ふりかえりませんでしたが、わずか3段だんの差さで助たすかったことがわかりました。階段かいだんを上のぼるしかないと決きめて一気いっきに上あがったことがよかったのではないかと思おもいます。あと2、3秒びょう逃にげるのが遅おそければ死しんでいたかもしれず紙一重かみひとえでした」と振り返ふりかえりました。

湯原ゆはらさん夫妻ふさいは自宅じたくに押し寄おしよせた土砂どしゃの影響えいきょうで外そとに避難ひなんすることができず、翌日よくじつになって2階かいの窓まどから警察けいさつに救助きゅうじょされたということです。2人にんはいまも避難ひなん所しょとなっているホテルでの生活せいかつを続つづけています。

自宅じたくのある地域ちいきには警戒けいかいレベルで最もっとも高たかいレベル5の「緊急きんきゅう安全あんぜん確保かくほ」が出だされていて、元もとの自宅じたくで暮くらしていくことができるのか不安ふあんを感かんじています。

珍ちん江こうさんは「家いえに帰かえりたいですが、しばらくは我慢がまんするしかありません。今いまは体からだに気きをつけて、元もとの生活せいかつに戻もどれるように頑張がんばって生いきていかなければならないと思おもっています」と話はなしていました。

榮司えいじさんは「一いち日にちも早はやく自宅じたくに帰かえりたいです。友人ゆうじんからは電話でんわやメールで励はげまされ、優やさしさを強つよく感かんじます。あまりにも優やさしくされると、涙なみだが出でて話はなせなくなってしまいます」と突然とつぜん、日常にちじょうが失うしなわれたつらさを目めに涙なみだを浮うかべながら話はなしていました。

熱海あたみ市しの伊豆山いずやま地区ちくに住すむ大学生だいがくせいの太田おおた樹いつきさん（23）は今月こんげつ3日にち、土石流どせきりゅうが流れ込ながれこんだ逢初川はつかわのすぐそばにある自宅じたくで、両親りょうしんと弟おとうとの家族かぞく4人にんで過すごしていました。

午前ごぜん10時半じはんごろ、太田おおたさんは防災ぼうさい無線むせんの呼よびかけを聞きき、伊豆山いずやま地区ちくで土砂どしゃ災害さいがいが起おきたことを知しりましたが、その時ときは逢初川はつかわの上流じょうりゅうで起おきたことだとは思おもわなかったといいます。

その太田おおたさんが異変いへんを感かんじるきっかけとなったのが聞きき慣なれない音おとでした。川かわから水みずの流ながれる音おとではなく、「ゴロゴロ」という石いしが転ころがるような音おとが聞きこえてきたといいます。さらに川かわの様子ようすを確認かくにんすると大雨おおあめの影響えいきょうで水量すいりょうが増ふえているはずが、逆ぎゃくに川底かわぞこが見みえるまで水位すいいが下さがっていたほか、自宅じたく近ちかくの電柱でんちゅうが折おれて川かわに横倒よこだおしになっていたということです。

異変いへんを察知さっちした父親ちちおやは家いえにいた太田おおたさんや家族かぞくに「水みずの流ながれが止とまっているのは大だいごとだから、今いますぐ避難ひなんする」と伝つたえ、太田おおたさんは貴重きちょう品ひんや着替きがえなどを急いそいでカバンに詰つめ始はじめました。

この直後ちょくごに地鳴じなりのような音おとがしたあと、家いえの外そとに目めを向むけると80メートルほど上流じょうりゅう部ぶにある知人ちじんの住宅じゅうたくが土石流どせきりゅうの勢いきおいで飛とぶように流ながされるのを見みたといいます。

太田おおたさんは住宅じゅうたくが流ながされてくる様子ようすについて「上うえから飛とんできた」と話はなしたうえで「住宅じゅうたくの基礎きそより上うえの木造もくぞうの部分ぶぶんがまるごと宙ちゅうを舞まうように落おちてきて、『バキバキ』という音おととともにきしんで折おれていきました。ここにいたら危あぶない、今いますぐ逃にげるぞという感かんじでした」としています。

太田おおたさんは家族かぞくとともに午前ごぜん10時じ40分ふんごろに避難ひなんを始はじめましたが、過去かこの土砂どしゃ災害さいがいのニュースで、土砂どしゃの流ながれに対にたいして横よこの方向ほうこうに逃にげることが重要じゅうようだと知しっていたため、自宅じたくから数すう百ひゃくメートル東ひがしにある公民館こうみんかんに向むかいました。後うしろを振り向ふりむかずに必死ひっしに走はしり続つづけ、公民館こうみんかんにたどりついて同おなじように避難ひなんしてきた人ひとたちの顔かおを見みた時ときにようやく安心あんしんできたといいます。

一方いっぽうで太田おおたさんの自宅じたくは押し寄おしよせた土石流どせきりゅうで屋根やねより下したの大だい部分ぶぶんが土砂どしゃで埋うまる大おおきな被害ひがいを受うけました。

九死きゅうしに一生いっしょうを得える経験けいけんをした太田おおたさんは「川かわの異変いへんに気きづくことができ、『空振からぶりになったとしても避難ひなんしよう』という判断はんだんが早はやかったことが、生死せいしの分かれ目わかれめだったと思おもいます」と話はなしていました。