JLPT N1 – Reading Exercise 101

#328
Furigana

わがくに文章ぶんしょうとして、想像そうぞう想像そうぞうするという言葉ことばをもっともよく使つかったのは、おそらく柳田国男やなぎたくにおであろう。民衆みんしゅうつたえられる生活せいかつ慣習かんしゅう用具ようぐなどにのこがかりをつうじて、なつかしい古層こそうへとたどる民俗学みんぞくがくの、わがくにでの開拓者かいたくしゃとして、柳田やなぎたにはこの言葉ことばがきわめてたいせつなものであった。

柳田やなぎたは、それと空想くうそう空想くうそうするという言葉ことばとを区別くべつしようとした。その文章ぶんしょう執筆しっぴつ時期じきや、あつかう対象たいしょう、またかたりかける相手あいてのちがいにつれて、柳田やなぎたおこななった空想くうそう.空想くうそうすると、想像そうぞう.想像そうぞうするの区別くべつには、いかにもはっきりしているさいと、そうでない場合ばあい

ある。しかしのち場合ばあいも、空想くうそう空想くうそうすることをしだいに正確せいかくにしてゆけば、想像そうぞう想像そうぞうするにいたるという、段階的だんかいてきなつながりにおいて——あいせっし、境界きょうかいがぼやけていることはあるにしても、その上辺うわべん下辺かべんでは、ちがいがはっきりしている、という仕方しかたで——使つか

われている。

具体的ぐたいてき根拠こんきょのない、あるいはあってもあいまいなものにたっておこななう古層こそうへのこころうごきを、空想くうそう空想くうそうするとし、よりはっきりした根拠こんきょにたつ、しっかりしたこころはたらきを、想像そうぞう想像そうぞうするとして、柳田やなぎた使つかいわけているのである。そこでときには、ややとか、あきも

かにとかいう限定辞げんていじをかぶせねばならぬのではあるが、空想くうそう空想くうそうするには、人間にんげんこころはたらきとして、マイナス.消極的しょうきょくてき評価ひょうかのしるしがついており、想像そうぞう想像そうぞうするは、プラス.積極的せっきょくてき評価ひょうかのしるしがついている。

大江健三郎おおえけんざぶろうあたらしい文学ぶんがくのために』による)

Vocabulary (31)
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1
柳田が使う「空想丨空想する」と「想像.想像する」にはどのような関係があると筆者は考えているか。
1. 互いに似ている部分があるが、「空想.空想する」から「想像.想像する」に変わることはない。
2. 全く異なるものであり、「空想.空想する」と「想像.想像する」との境界ははっきりしている。
3. 両極も境もぼやけていて、「空想.空想する」と「想像、想像する」との境界ははっきりしない。
4. 両極は明確だが境はぼやけていて、「空想.空想する」から「想像.想像する」に変わることがある。
2
柳田が「空想.空想する」という言葉を使うのはどのようなときだと筆者は考えているか。
1. はっきりしないものをもとに古い時代を考えるとき
2. はっきりしたものを根拠に古い時代をたどるとき
3. 現代に残されている手がかりから過去をたどるとき
4. 過去の出来事を手がかりに現代を考えるとき
3
柳田が「想像.想像する」という言葉を使うのはどのようなときだと筆者は考えているか。
1. 古い時代の民衆の心を伝えるとき
2. 人間の心の働きを積極的に評価するとき
3. あいまいなイメージをはっきりさせるとき
4. 明確な根拠にもとづく心の働きを表すとき