JLPT N1 – Reading Exercise 113

#340

Furigana

昼下ひるさがりのカフェでのこと。男女だんじょの争あらそう声こえに振ふり向むくと、ひとりの女おんなが立たち上あがり、持もっていたグラスを逆さかさにして飲のみ物ものをこぼし始はじめた。

客達きゃくたちの視線しせんが集あつまる。連つれの男おとこは顔かおを上あげようとはせず、女おんなの腕うでを掴つかんで座すわらせようとするが、女おんなはその手てを振ふり払はらうと、叫さけんだ。

「あんたなんか最低さいていよ！」

ほかの客きゃくが言いっている声こえが聞きこえる。

「ドラマみたいね」

いささか陳腐ちんぷだったが、「１」女おんなは「演えんじること」ですっきりしたのかもしれない。

現実的げんじつてきではないことを、「ドラマみたい」とよく言いう。

13年前じゅうさんねんまえの朝あさのことだった。洗面台せんめんだいと洗濯機せんたくきとのわずかな隙間すきまに頭あたまを突つっこんで、母ははが全裸ぜんらで倒たおれていた。意識いしきはなかった。

救急隊員きゅうきゅうたいいんの緊迫きんぱくした医療用語いりょうようごが飛とび交かい、心臓しんぞうマヅサージが始はじまる。オレンジ色いろの毛布もうふを掛かけられた母ははは、ピクリとも動うごかない。その隙すきに、開あけ放はなたれた玄関げんかんから飼かい猫ねこが外そとへ出でてしまった。

当時とうじ、大学生だいがくせいだった弟おとうとが、とっさに猫ねこを捕つかまえたその時とき、「猫ねこなん構かまっている場合ばあいですか！」と隊員たいいんの怒鳴どなり声ごえが飛とんだ。

弟おとうとは、「２」猫ねこを抱だいたまま立たち尽つくしていた。

後あとは、「かかりつけの病院びょういんは？」、と、はじかれるように聞きかれたことだけしか思おもい出だせない。

これがドラマなら、大概たいがいは「姉弟きょうだいでお母かあさん！」と駆かけ寄よって下ください」と指示しじされる。

人間にんげんは、とっさにとんでもないことをする。長年ながねん、人間にんげんを見みつめる仕事しごとをしてきたはずが、人ひとの本当ほんとうとはなにか、いまだに捉とらえきれないでいる。

（岸本加世子きしもとかよこ「岸本加世子きしもとかよこの台本だいほんにないセリフ」2003年にせんさんねん1月いちがつ11日じゅういちにち付づ朝日新聞あさひしんぶんによる）

いささか陳膓ちんぷだ：よくある情景じょうけいだ

かかりつけの病院びょういん：いつも診みてもらっている病院びょういん

Từ vựng (77)

Romaji

昼下がり

hiruzakari

カフェ

kafe

男女

danjo

争う

arasou

振り向く

furimuku

立ち上がる

tachiagaru

持つ

motsu

逆さ

sakasa

飲み物

nomimono

こぼす

kobosu

集まる

atsumaru

連れ

tsure

顔

kao

上げる

ageru

掴む

tsukamu

座らせる

suwaraseru

振り払う

furiharau

叫ぶ

sakebu

最低

saitei

客

kyaku

聞こえる

kikoeru

ドラマ

dorama

現実的

genjitsuteki

よく

yoku

言う

洗面台

senmendai

洗濯機

sentakuki

隙間

sukima

頭

atama

突っ込む

tsukkomu

全裸

zenra

倒れる

taoreru

意識

ishiki

救急隊員

kyuukyuutaiin

緊迫

kinpaku

医療用語

iryoyougo

飛び交う

tobikau

心臓

shinzou

マッサージ

massaji

始まる

hajimaru

オレンジ色

orenji iro

毛布

moufu

掛ける

kakeru

動かない

ugokanai

隙

suki

開け放たれる

akehanatareru

玄関

genkan

飼い猫

kaineko

外

soto

出る

deru

当時

touji

大学生

daigakusei

弟

otouto

とっさに

tossani

捕まえる

tsukamaeru

その時

sono toki

構う

kamau

場合

baai

怒鳴り声

donarigoe

飛ぶ

tobu

抱く

daku

立ち尽くす

tachitsukusu

後

ato

かかりつけ

kakaritsuke

病院

byouin

はじかれる

hajikareru

思い出す

omoidasu

駆け寄る

kakeyoru

指示

shiji

とんでもない

tondemonai

長年

naganen

見つめる

mitsumeru

仕事

shigoto

人

hito

本当

hontou

捉える

toraeru

いまだに

imadani

Thực hành

Romaji

「１」女は「演じること」ですっきりしたとあるが、なぜすっきりしたのか。考えられる理由として、最も適当なものはとれか。

1. 女は人前で男への怒りを十分に表すことができて満足したから。

2. 女は女優として人前で上手に演じることができ、充実感を得たから。

3. 女は人前で男を非難することで、他入から同情を得ることができたかち。

4. 女は人前で男の手を払い、叫んだことを「ドラマみたい」とほめられたから。

「２」猫を抱いたまま立ち尽くしていたとあるが、弟はなぜそうしたのか。考えられる理由として、最も適当なものはとれか。

1. 隊員の救急処置に驚いたから

2. 隊員の質問がわからなかったから

3. 猫が外へ出て行きそうだったから

4. どうすればいいか、わからなかったから

筆者は女優である。その立場から、この文章で言いたい二とは何か。

1. 長年、女優の経験を積んできたので、とっさの時にも冷静に行動することができる。

2. 長年、女優の経験を積んできたが、人間の心と行動を把握することは難しい。

3. 長年、女優の経験を積んできたが、とっさの時にはまだうまく演じることができない。

4. 長年、女優の経験を積んできたので、様々な人間の心と行動を捉えて十分表現することができる。

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