福井県といえば、越前がになどの伝統的な観光資源や東尋坊、永平寺、日本遺産である笏谷石などが広く知られているものの、近年においては「恐竜」が県を象徴するキーワードとして定着しつつある。
その中心的存在である福井県立恐竜博物館は、2024年度に126万人もの来場者を記録し、地方自治体が運営する文化施設としては極めて異例の成果を挙げている。なぜ、福井県はこれほどまでに恐竜を強力なブランドへと育て上げることができたのだろうか。
この成功の端緒となったのは、1980年代初頭に相次いで発見された恐竜時代のワニの化石であった。当時、日本国内では「恐竜化石は出ない」と考えられていたにもかかわらず、1989年に本格的な発掘調査が開始され、研究が継続的に積み重ねられることとなった。1995年には日本で初めて全身骨格(後にフクイサウルスと命名)の復元に成功し、福井県の恐竜研究は大きな転機を迎えた。
その後、手狭になっていた従来の県立博物館をリニューアルするか新設するかが検討されたが、「恐竜研究の拠点を創設する」という決断が下された。2000年に開館した現在の福井県立恐竜博物館は、当初から学術研究を主軸に据えた施設であり、世界と連携する研究拠点を志向していたことが、結果的に福井の恐竜ブランドを「本物」たらしめる基盤となったのである。これまでに日本国内で発見された新種恐竜13種のうち6種が福井県産であり、いずれも勝山市で発見されていることは、長年にわたる継続的な調査と専門人材の存在によるものである。
博物館には恐竜専門家を含む16名の研究員が在籍し、福井県立大学とも連携しながら、専門性の高い特別展を毎年企画・開催している。2024年には北アメリカ大陸の恐竜をテーマとした「バッドランドの恐竜たち〜北アメリカの1億年〜」展、2025年には世界初公開となるティラノミムス・フクイエンシスの全身骨格や日本初公開のスピノサウルス全身骨格などを展示する「獣脚類2025~「フクイ」から探る恐竜の進化~」が予定されている。
来場者数が100万人を超えるに至った背景には、二つの大きな転機が存在する。第一に、2024年の北陸新幹線開業によって福井県へのアクセスが飛躍的に向上し、関東・甲信越地方からの来訪者が大幅に増加したことが挙げられる。第二に、2023年7月に実施された大規模リニューアルにより、全身骨格の展示数が50体に拡充されるとともに、「化石研究体験」など来館者が主体的に参加できるコンテンツが導入された点である。これにより、恐竜を「見る」対象から「理解し、関わる」存在へと昇華させたことが、幅広い層の来館者を惹きつける要因となった。
さらに、福井県は恐竜を県の専有物とせず、民間企業や県民にも開放することで、恐竜ブランドの認知拡大を図った。
デザイン素材の無償提供や恐竜ホテルへの補助金、駅前空間での恐竜演出など、レギュレーションを整備した上で誰もが恐竜を活用できる環境を整えた結果、商業施設やサービス業など県内全域に恐竜が浸透した。2024年3月には芝政ワールドに恐竜をテーマとした大型アトラクション「恐竜の森」がオープンし、スーパーやホテル、ディーラーなどでも恐竜モニュメントの展示やグッズ販売が展開されるなど、恐竜は「福井の風景」として定着している。
また、県は2025年に地域活性化や観光、教育、商品開発などをテーマとした「ディノ・アクション・アワード」を初開催し、80件の斬新なアイデアが寄せられ、現在県民投票が行われている。加えて、福井県立大学では今年度、日本初となる恐竜学部が新設され、一般入試の倍率が10倍に達するなど、教育と研究の両面から恐竜を基盤とした特色ある地域づくりが進められている。
このように、福井県の事例は「何を有しているか」以上に、中長期的な視点で「何に集中するか」の重要性を示している。唯一無二の研究成果を観光ブランディングへと発展させ、「恐竜」という明確なテーマに特化した福井県の戦略は、まさに分かりやすく、かつ持続的な成功例と言えるだろう。