JLPT N1 – Reading Exercise 30
日本語の敬語体系は、他の言語と比べてきわめて複雑である。敬語には、相手や話題の人物に対して敬意を示すためのさまざまな表現が存在し、状況や相手との関係によって使い分けなければならない。たとえば、同じ「行く」という動作でも、「参ります」「いらっしゃいます」「お越しになる」など、話し手と聞き手、第三者の立場によって表現が変化する。「1」この複雑さが、日本語学習者にとって大きな壁となっている。
(中略)
試しに、友人と上司の両方に同じ内容を伝える場面を想像してみよう。友人には「明日行くよ」と言えば済むが、上司には「明日伺わせていただきます」といった丁寧な表現が求められる。日本語の敬語は、単に語尾を丁寧にするだけでなく、動詞そのものが変化する点が特徴的だ。英語やフランス語でも丁寧な表現は存在するが、「行く」という動詞自体が変わることはない。日本語の敬語は、言葉そのものに「立場」を刻み込む仕組みなのである。
中国語にも敬語表現はあるが、語彙や文法の変化は日本語ほど多様ではない。韓国語にも複雑な敬語体系があるが、動詞の変化の仕方や使用場面は日本語と異なる。日本語の敬語は、社会的な距離や上下関係を細やかに反映するため、学習者は「どの場面でどの表現を使うべきか」を常に意識しなければならない。逆に言えば、日本語の敬語体系が発達したからこそ、日本社会の人間関係の微妙な距離感が保たれてきたのかもしれない。日本語はつまり「2」敬語社会の言語なのである。