JLPT N1 – Reading Exercise 128
たとえば、あなたが研究開発部門に所属し、「1」新製品のコンセプトを決定する任務を与えられたとしよう。この場合、将来的な市場の動向や技術革新のスピードを考慮せずに、現状の延長線上で計画を立てても意味がないとされるため、外部のトレンドや社内の技術力、競合他社の動きなど、多様な要素を総合的に分析することになる。そのうえで、現時点で実現可能かつ最大限に革新的なコンセプトを模索することになる。
このとき、あなたが今後の技術進歩や市場の変化を完全に予測し、社内のリソースや人材の能力を全て把握しているのであれば、コンセプト決定の仕事は極めて容易である。全社員がその方針に従って動けば、問題は生じないだろう。
しかし、現実にはそのようなことは起こりえない。市場は予想外の方向に進化し、社内には表面化していない潜在的なアイデアや技術が眠っている。固定化したコンセプトは、こうした不確実性に柔軟に対応できず、むしろ機会を逃してしまう。しかも、こうした予測不可能な要素こそが、イノベーションの起点となることが多い。
したがって、コンセプトを決定する際には、変化に柔軟に対応しつつ、各人の独自性や発想力が最大限に発揮されるような設計が求められる。しかし、事前に全てを織り込むことは不可能であり、結局は納得できる妥協点を探ることになる。大人はこの妥協点という言葉を好むが、そこに本質的な意味はない。これでは潜在的な可能性を十分に引き出すことはできないのである。
これは個人のキャリア形成にも当てはまる。
たとえば、プロのチェスプレイヤーに試合直後インタビューすれば、「次の対局に集中するだけ」と答えるだろう。マラソンのトップランナーも、翌日の記録目標については語らない。そうしたことを意識し始めると、かえってパフォーマンスが低下することを知っているからだ。それにもかかわらず、なぜか企業の現場では、誰もが長期的なゴールを設定しようとする。スポーツ以上に変数が多く予測困難であるにもかかわらず、目標によって自らを縛る傾向が強い。ここに強い「2」違和感を抱く。
どんな分野でも、環境は絶えず変化し続ける。それなのに、自分だけが変わらないというのは不自然である。過去に決めたコンセプトや目標に自分を縛りつけてはいけない。どうしても目標を設定したいのであれば、実現がほぼ不可能なほど高い理想を掲げるべきだろう。しかし、それ自体は具体的な行動指針にはなり得ない。自分の潜在能力を最大限に活かしたいのであれば、今この瞬間に全力を注ぎ、変化を感じ取るたびに最適な選択肢を模索し続ける姿勢が重要である。