JLPT N2 – Reading Exercise 39
過去に書いた自分の作品について、満足のいく出来だったか、あるいは失敗だったかと振り返ることは……実はあまりない。傑作を生み出したという興奮も、思い通りに書けなかったという挫折感も、書き終えればすぐに自分の中から消えてしまう。もちろん、読者から特定の作品について聞かれれば、記憶をたどってその時の構想や執筆の過程を思い出すことはできる。しかし、自分から進んで過去の原稿を読み返すようなことはしない。過去を振り返ったところで、次に書くべき新しい物語が生まれるわけではないからだ。大切なのは、真っ白な原稿用紙に向かって、今の自分が次の言葉を紡ぎ出すことだ。
長い物語を完成させるために必要なのは、天才的なひらめきというよりも、むしろレンガ職人のような姿勢である。一晩で立派な家を建てることはできない。感情の赴くままに一気に書き上げるのではなく、毎日決められた枚数を淡々と書き続けることだ。1日に原稿用紙3枚を書くと決めたなら、次の日も、その次の日も……と同じペースで言葉を積み重ねていく。それを無意識の習慣にしていくのだ。
そのためには、「何百ページもある長編小説を完成させなければならない」とプレッシャーを感じるのではなく、今日書くべき3枚、あるいは次の1行を目標に、そこまではとりあえず書いてみようと、小さな目標に集中するのがいいと思う。
これから1000枚の原稿を書けと言われたら、たいていの作家は気が遠くなる。ペンを置きたくなるだろう。しかし、あと1枚だけ、今日1枚だけ書けばいい……と思えば続けられる。その「今日1枚」を繰り返すうちに、気がついたら分厚い本が完成していることもあるだろう。それが私の目指す執筆スタイルだ。短い文章が書けない人に長編は書けない、という話を聞いたことがある。なるほど、たしかにそうだと思った。短い文章を書けるかどうかは、物語の構成力や表現力の前にベースとなる最低限の保証だ。まずはその分量を書いてみる。そこで息切れするなら、長編など到底無理な話だ。他の作家がものすごいスピードで月に何冊も本を出しているからといって、自分には無理なことなのだ。だから、まずは自分のペースを知る。そして、無理のない範囲で書き続ける。一気に頂上を目指す必要はない。自分のリズムを守りながら、自然にできることを続けるという健全さが大切なのだ。