犯罪はんざい被害ひがい者しゃ遺族いぞく「新しんあすの会かい」設立せつりつ 国くにに補償ほしょう充実じゅうじつ求もとめる

平成へいせい20年ねんに導入どうにゅうされた「損害そんがい賠償ばいしょう命令めいれい制度せいど」により、殺人さつじんや傷害しょうがいなどの事件じけんの被害ひがい者しゃや遺族いぞくは、民事みんじ裁判さいばんを起おこさなくても刑事けいじ裁判さいばんの証拠しょうこをもとに被告ひこくに損害そんがい賠償ばいしょうを請求せいきゅうすることができます。しかし、裁判所さいばんしょが賠償ばいしょうを命めいじても加害かがい者しゃ側がわに賠償ばいしょう金きんを支払しはらう力ちからがないというケースも少すくなくありません。

日弁連にちべんれん＝日本にっぽん弁護士べんごし連合れんごう会かいが平成へいせい30年ねんに行いった調査ちょうさでは、この制度せいどなどによって加害かがい者しゃに賠償ばいしょうを求もとめたケースで実際じっさいに賠償ばいしょう金きんが支払しはらわれたのは、殺人さつじん事件じけんで13.3％、強盗ごうとう殺人さつじんで1.2％、傷害しょうがい致死ちしで16％にとどまっています。

加害かがい者しゃが自殺じさつしている場合ばあいや不明ふめいのままのケースなど、賠償ばいしょうを求もとめることさえできないこともあり、被害ひがいの回復かいふくは難むずかしいということです。

けがをしたり障害しょうがいが残のこったりした場合ばあいには、リハビリや介護かいごの費用ひようのほか、体からだの状態じょうたいによっては住宅じゅうたくを改修かいしゅうする必要ひつようなども生しょうじ、将来しょうらいにわたって大おおきな費用ひようを負担ふたんすることになります。家族かぞくを失うしなった悲かなしみや事件じけんによる精神せいしん的てきな被害ひがいで仕事しごとが難むずかしくなる人ひとも少すくなくありません。

「新しんあすの会かい」によりますと、継続けいぞく的てきに補償ほしょうをする国くにの制度せいどはなく、遺族いぞくや被害ひがい者しゃからは元もとの生活せいかつに戻もどれるよう経済けいざい的てきな支援しえんを望のぞむ声こえがあがっているということです。

長野ながの県けんに住すむ市川いちかわ武範たけのりさんは、おととし、坂城さかき町まちの自宅じたくで長女ちょうじょの杏菜あんなさん（当時とうじ22）と次男じなんの直人なおとさん（当時とうじ16）を面識めんしきのない暴力団ぼうりょくだん員いんに殺害さつがいされました。暴力団ぼうりょくだん員いんはその場ばで自殺じさつしました。

事件じけんのあと、市川いちかわさんは精神せいしん的てきに調子ちょうしを崩くずして仕事しごとを続つづけられなくなり、収入しゅうにゅうは途絶とだえました。現在げんざいは、国くにや自治体じちたいから支給しきゅうされた犯罪はんざい被害ひがい者しゃやその遺族いぞくに対にたいする給付きゅうふ金きんを取り崩とりくずし、周囲しゅういの支援しえんを得えながらなんとか日々ひびの生活せいかつを送おくっています。

凄惨せいさん（せいさん）な事件じけんの現場げんばとなった自宅じたくには住すめなくなりましたが、ローンは残のこっていて、重おもい負担ふたんとしてのしかかっています。

市川いちかわさんは「事件じけん後ご、いきなり生活せいかつ困窮こんきゅう者しゃになってしまった。被害ひがい者しゃの遺族いぞくが苦くるしい思おもいをしなければ生いきていけないのが悲かなしい現実げんじつです」と話はなしていました。

また、暴力団ぼうりょくだん員いんの家族かぞくなどを相手取あいてどって慰謝いしゃ料りょうや損害そんがい賠償ばいしょうを求もとめる民事みんじ裁判さいばんを起おこしたいと考かんがえる家族かぞくもいましたが、市川いちかわさんは止とめたといいます。

理由りゆうについて市川いちかわさんは「民事みんじ裁判さいばんで勝かったとしても、支払しはらい能力のうりょくがなかったりして慰謝いしゃ料りょうや賠償ばいしょう金きんが支払しはらわれないことが多おおい。それに、裁判さいばんで暴力団ぼうりょくだん員いん側がわと関かかわり続つづけることは得策とくさくではないと思おもった」としています。

市川いちかわさんはみずからの苦くるしい状況じょうきょうを踏ふまえ、「国くにの犯罪はんざい被害ひがい者しゃ給付きゅうふ金きんは非常ひじょうに少すくなく、一時いちじ金きんとしてもらってもすぐになくなってしまう。継続けいぞくした支援しえんをしてもらえるような施策しさくができれば、被害ひがい者しゃが救すくわれる社会しゃかいになるのではないか。国くには犯罪はんざい被害ひがい者しゃの現状げんじょうに目めを向むけて、手厚てあつい経済けいざい支援しえんをしてほしい」と話はなしていました。

弁護士べんごしの岡村おかむら勲いさおさんが中心ちゅうしんとなって被害ひがい者しゃが泣き寝入なきねいりを強しいられる状況じょうきょうを変かえようと声こえを上あげてきました。

岡村おかむらさんは、平成へいせい9年ねん、顧問こもんを務つとめていた証券しょうけん会社かいしゃを一方いっぽう的てきに恨うらんだ男おとこに妻つまの真苗まなえさん（当時とうじ63）を殺害さつがいされました。当時とうじは刑事けいじ裁判さいばんに遺族いぞくが参加さんかすることはできず、被告ひこくが妻つまを傷きずつけるような発言はつげんをしても傍聴ぼうちょう席せきで黙だまっているしかありませんでした。

さらに、ほかの事件じけんの被害ひがい者しゃたちと交流こうりゅうする中なかで、重おもい傷きずを負おって後遺症こういしょうに苦くるしんでいても十分じゅうぶんな補償ほしょうを得えられないという問題もんだいを目の当まのあたりにしました。

被害ひがい者しゃがかやの外そとに置おかれていると疑問ぎもんを強つよく感かんじた岡村おかむらさんたちは、被害ひがい者しゃみずからが具体ぐたい的てきな施策しさくを提案ていあんし、権利けんりを確立かくりつする必要ひつようがあると考かんがえ先進せんしん的てきな制度せいどを持もつドイツやフランスで調査ちょうさを行おこないました。そして、日本にっぽんでも同おなじような制度せいどを導入どうにゅうすべきだとして、全国ぜんこくで署名しょめい活動かつどうなどに取り組とりくみました。

思おもいは国くにを動うごかし、平成へいせい16年ねんに被害ひがい者しゃの権利けんりを初はじめて明記めいきした犯罪はんざい被害ひがい者しゃ基本きほん法ほうが成立せいりつ。

平成へいせい20年ねんには刑事けいじ裁判さいばんへの被害ひがい者しゃ参加さんか制度せいども実現じつげんさせるなど、「あすの会かい」の活動かつどうによって犯罪はんざい被害ひがい者しゃの権利けんりは大おおきく前進ぜんしんしました。

そして、4年ねん前まえ、一定いっていの成果せいかをあげたとして解散かいさんしましたが、補償ほしょうを中心ちゅうしんに課題かだいも残のこされているとしていました。