ダビンチのDNA発見なるか
500年以上前に亡くなったレオナルド・ダビンチのDNAを特定し、その卓越した才能の秘密を解明しようとする研究が進行中である。
しかしながら、ダビンチには子どもがなく、また墓所も革命の混乱で破壊されてしまったため、直接DNAを入手するのはきわめて困難だ。発掘された遺骨にしても本物かは分からないとなれば自然、研究者らは作品や手紙など、ダビンチ自身が触れたものを調査せざるを得なくなった。
それでも、500年を経たサンプルから有意な遺伝子情報を抽出するには、高度な鑑定技術と緻密な検討を要するのは当然だ。
今回の実験で注目すべきは、DNAを抽出する対象そのものだろう。生物の体から直接検体を取るのとは違い、たとえばダビンチの遠縁の手紙や彼の素描から綿棒で「細胞片」を収集しようとしたのである。ごく限られた量のDNAしか含まれないのに加え、500年にわたって様々な環境に晒されたことは言うまでもない。それでも近年、法医学の進歩は目覚ましく、乾式や湿式の綿棒を始め、サンプルの採取方法も多様化してきた。乾いた綿棒で撫でるだけでも十分な試料が採取できると分かった時、研究者らは強い希望を感じたに違いない。
採取したサンプルから得られたのは、細菌や菌類のみならず、動植物や動物に由来するさまざまなDNAだった。注目すべきは、同一男性のY染色体配列が一致したことにある。ダビンチ自身かどうかはまだ断定できないが、同じY染色体配列が他の物品からも一貫して検出されれば、その人物こそはと特定しうるだろう。
そもそも、DNAに記録された遺伝的特徴からは、生物の種や朽ちた木の種類まで分かるのだ。研究チームはサンプルの混入しうる可能性を排除しつつも、そこに含まれていたオレンジの木のDNAやイノシシのDNAに注目した。前者は、ダビンチがルネサンス期のイタリアで仕えていたメディチ家の庭園に由来するものらしく、後者はイノシシの毛を使用した絵筆に紐づけられる可能性が高い。
作品の表面から採取したDNAにしても、要するに作家が手を触れた痕跡に過ぎない。
ダビンチと同様のY染色体を持つ男子の系統を調べる中で注目されたのは「E1b1」という集団、すなわちハプログループである。これは、全体の2から14パーセントに当たるものの、遺伝学的には1パーセントを超える頻度を高いとみなす。
本稿では割愛したが、同じハプログループに属するかどうかは、その人物が直系の血縁にいるか否かに一致するとは限らない。
それでも、ダビンチの父親の子孫から採取したサンプルに同じDNAが含まれていたとなれば、この研究が一歩また一歩と前進しているのである。