前週との感染者数の比較 増加が顕著
1日の感染者数は、第3波のあとでは3月上旬に1週間の平均で250人まで下がりましたが、第4波のあとでは6月15日に、1週間の平均で375人までしか下がらない状態から増加に転じており、起点が高く、その分、感染拡大の波が大きくなることが懸念されています。
今月7日に厚生労働省の専門家会合で京都大学の古瀬祐気特定准教授が示したシミュレーションでは、強い対策が打たれなかった場合、東京都では今月下旬には1日の感染者数が2000人を超え、来月初旬には、入院者数が都が確保しているおよそ6000の病床を超えるとしています。 政府の分科会の尾身茂会長は、4回目の緊急事態宣言を出すことが決まった今月8日の会見で、 ▽感染力の強いインドで確認された変異ウイルス「デルタ株」が首都圏で3割以上を占めると推定され、急速に置き換わりが進んでいること、 ▽東京都ではワクチン接種が進む高齢者で重症者数の増加が抑えられている一方で、ワクチン接種が進んでいない40代、50代の重症者数がことし春の感染拡大の「第4波」のピーク時を上回って増加していること、 ▽そして、これから4連休や夏休み、東京オリンピックなど地域を越える人の移動が急増するタイミングが集中していることなど、懸念材料を示しました。 そのうえで「ワクチン接種の効果があらわれるのはまだ先で、このまま感染が広がれば、医療がひっ迫する蓋然性が高い」と述べて危機感を示しました。
大阪・東大阪市にある市立東大阪医療センターは、新型コロナウイルスの中等症の患者を中心にこれまで700人以上、受け入れてきました。 病院によりますと第4波では呼吸状態が悪化した患者が次々と運び込まれ、一時、60床あるコロナ病床の3分の1にあたる数の患者が人工呼吸器が必要な状態になったということです。 しかし、重症患者に対応するICU=集中治療室は4床しかなく、ほかの病院に転院させることも困難で、病院は対象の患者を絞り込まざるをえないとして人工呼吸器を使う基準を引き上げて対応しました。 具体的には、酸素マスクで従来の倍の量の酸素を入れても血中の酸素の値が93%以下の場合で、より呼吸の状態が悪い患者に人工呼吸器を使うことにしました。 その上で、病院の医師らが議論してより治療効果を期待できる人が対象となるよう、▽75歳未満の人や▽肺の機能に大きな問題がないかなど、5つの指標を設けたということです。 こうした指標を目安に、患者や家族と話し合ったうえで、人工呼吸器をつけるかどうか判断したということです。 大阪では第4波の際、重症病床の運用率が100%を超えるなど医療が破綻の危機に直面しました。 こうした中で、限られた人工呼吸器などをどの患者に優先して使うのか、それぞれの医療機関に委ねられているのが実情です。 市立東大阪医療センターの辻井正彦院長は重症化しても人工呼吸器を希望しない患者もいて結果的に、装着を希望したのにできなかった患者はいなかったとしたうえで「患者側が希望したとはいえ、ふだんであれば人工呼吸器をつける状態の人がつけないまま亡くなっていく状況に、携わったスタッフは非常につらい思いをした。さらに患者が増えていれば優先すべき人にもつけられず死亡するケースが出ていたかもしれない」と話しています。
病院では、従来は、酸素を5リットル投与しても血中の酸素の値が93%以下の場合に人工呼吸器を装着する対応をとってきました。 しかし、第4波では運び込まれた時点で酸素の投与量が5リットルを超えている患者が多く、従来の基準で運用すると、入院患者の3分の1にあたるおよそ20人に人工呼吸器が必要となります。 人工呼吸器を装着した患者は、薬の投与や状態の観察など24時間体制の高度な管理が欠かせず、ICU=集中治療室での治療が必要ですが、中等症の患者を受け入れてきたこの病院では、コロナの重症患者用に確保できたICUは4床で、さらに、機材やスタッフも足りずに対応できない状況に直面しました。 大阪府内のほかの病院でも、重症病床が不足し、転院させることも難しい中、病院は人工呼吸器を使う患者を絞り込まざるをえないとして、従来の基準の倍の、10リットルの酸素を投与しても血中の酸素の値が93%以下の患者を対象とするよう、基準を引き上げました。 さらに病院は、より治療効果を期待できる人が対象となるよう、▽75歳未満の人や、▽肺の機能に大きな問題がないか、それに▽日常生活の動作に支障がないか、など人工呼吸器を装着するかどうかの判断に5つの指標を設けました。 病院のこれまでの治療の経験ではこの指標に当てはまる患者は人工呼吸器を装着しても、抜管ができずに寝たきりになるなど、治療後の経過が良くない可能性が高いということです。 病院では、患者や家族に説明して希望を聞き取り、十分に話し合ったうえで、人工呼吸器をつけるかどうか判断したということです。 病院によりますと、人工呼吸器の装着を希望しなかった患者には、代わりに、患者の鼻に装着して大量の酸素を送る「ネーザルハイフロー」と呼ばれる特殊な装置を使った治療を行ったということです。 人工呼吸器よりも救命率は下がりますが、気管挿管をしないため装着していても会話ができるほか、ICUではない通常の病床で治療を受けられるということです。
中には、治療が功を奏する可能性が高い患者や若い患者に医療資源を優先的に配分するべきだという考え方を示しているところもあります。 その1つがスウェーデンで、厚生労働省出身で2013年までスウェーデン大使を務めた渡邉芳樹さんによりますと、首都ストックホルムで最大の病院「カロリンスカ大学病院」では新型コロナウイルスの感染が広がる中で、ICU=集中治療室で受け入れる患者は▽80歳未満が原則で、▽70代では機能不全の臓器が1つ以下、▽60代では2つ以下の患者に限られ、基準を満たさない場合は積極的な治療は行わず、痛みや苦しさを取るケアを行っていたということです。 また、イギリスでは去年、各国で感染拡大が起きた当初、NICE=国立保健医療研究所がガイドラインを策定し、持病の有無や介助の必要度などに応じて患者の状態を9段階で評価する指標を使って、集中治療を受ける優先順位を決めることを推奨しました。 この中では、行動への支援やさらに介助が必要な患者では、救命救急医療を行うメリットがあるかは不確実だとしました。 しかし、入院の優先度などの基準に詳しい名古屋大学医学部の葛谷雅文教授はこの指標は、患者を救命できる可能性とは関係せず、この指標のみを使った判断には慎重になるべきという批判もあったということです。 現在のガイドラインではこうした内容が取り除かれています。
日本救急医学会などは6月考え方を示し、急速に重症化する緊急性の高い患者がいち早く入院できるよう患者の状態を緊急性に応じて4つに分けて血液検査や医学的な診断の結果をもとに判定するとしています。 また、日本老年医学会が去年8月に示した提言では高齢者が人生の最終段階まで望む医療を受けられるようにすべきで、年齢だけを基準に人工呼吸器の装着など治療を行うかどうか決めることは避けるべきだとしています。 この提言をとりまとめた名古屋大学医学部の老年内科の葛谷雅文教授は「学会としては年齢によって優先順位を決めることには明確に反対の立場だ」と話しています。 提言の中では、医学的に治療の効果が見込まれない場合は、人工呼吸器の治療自体が大きな負担になることもあるため、行わないこともあるとしていますが、それ以外の場合は、本人が希望しない限り、人工呼吸器の装着などの治療を開始して効果があるかどうか確認し、効果が見込まれない場合に限って治療を差し控えることが原則だとしています。 ただ、日本の医療現場ではいったん始めた治療を中断することは難しいため、葛谷教授は呼吸器の装着が必要になる際や治療の効果が見込めない場合にどのような医療やケアを望むか事前に家族や医師と話し合っておく「アドバンス・ケア・プランニング」を行うべきだと指摘しています。 葛谷教授は「新型コロナでは家族からも隔離されて急激に症状が悪化し、あっという間に意思疎通できなくなる場合がある。40代や50代の比較的若い世代でも最悪の場合は死に至る感染症だという認識を持って話し合っておくと、治療方針や入院の判断をする際にスムーズな意思決定につながる。ぜひ家族やかかりつけ医と話し合ってもらいたい」と話しています。
病床は3週間余りでひっ迫のおそれ
第4波 人工呼吸器足りなくなった病院
病院の対応 詳細
欧州では “年齢優先も”
専門家「年齢によって優先順位 反対」