日本新闻: なぜ日本は“安く”なった？アメリカで講演専門家一問一答も

日本にっぽんの物価ぶっかが欧米おうべいに比くらべて安やすい理由りゆうをテーマとした講演こうえん会かいがアメリカ・ニューヨークで開ひらかれました。

「なぜ日本にっぽんはこんなに“安やすく”なったのか？」

「“安やすい”国こくから抜け出ぬけだすには？」

登壇とうだんした専門せんもん家か2人にんの一いち問もん一いち答とうも交まじえて詳くわしくお伝おつたえします。

5日にち、ニューヨークではコロンビア大学ころんびあだいがく国際こくさい関係かんけい公共こうきょう政策せいさく大学院だいがくいんの伊藤いとう隆敏たかとし教授きょうじゅが「なぜ日本にっぽんはこんなに安やすくなったのか」をテーマに講演こうえんしました。

この中なかで伊藤いとう教授きょうじゅは東京とうきょうのラーメンの価格かかくはニューヨークの4分ぶんの1と紹介しょうかいし、日にち米べいの金利きんり差さの拡大かくだいを背景はいけいに円えん安やすが進すすんだことに加くわえて、過去かこの長ながい期間きかん、日本にっぽんでデフレが続つづいたのに対にたいし、欧米おうべいではインフレが続つづき、物価ぶっかの差さが広ひろがったと分析ぶんせきしました。

そのうえで日本にっぽんが“安やすい国くに”から抜け出ぬけだすには生産せいさん性せいと賃金ちんぎんを上あげる必要ひつようがあると指摘してきしました。

また、参加さんか者しゃが「海外かいがいからの投資とうしの増加ぞうかにつながるのか」と質問しつもんしたのに対にたいし、伊藤いとう教授きょうじゅは「今後こんごは増ふえていくだろう」と答こたえていました。

伊藤いとう教授きょうじゅは「日本にっぽんが安やすくなったのは長ながい期間きかんじわじわと進行しんこうしてきたことだ。体力たいりょくそのものを上あげていかないと安やすい日本にっぽんは変かわらない」と話はなしていました。

主催しゅさいしたコロンビア大学ころんびあだいがくビジネススクール日本にっぽん経済けいざい経営けいえい研究所けんきゅうじょのデイビッド・ワインスタイン所長しょちょうは「多おおくの人ひとが日本にっぽんから物ものを買かっているので、なぜ日本にっぽんが安やすくなったのかという問題もんだいはアメリカ人じんにも関心かんしんがある」と話はなしていました。

【伊藤いとう隆敏たかとし教授きょうじゅ一いち問もん一いち答とう】

講演こうえん会かいに先立さきだち、NHKは登壇とうだんした2人にんの専門せんもん家かにインタビューをしました。まずは、コロンビア大学ころんびあだいがく国際こくさい関係かんけい公共こうきょう政策せいさく大学院だいがくいんの伊藤いとう隆敏たかとし教授きょうじゅの一いち問もん一いち答とうです。

Q.「なぜ日本にっぽんはこんなに安やすくなった」をテーマに選えらんだ理由りゆうは？

A.「日本にっぽんが安やすくなった」のは為替かわせレートが円えん安やすに振ふれたということと、欧米おうべい諸国しょこくの物価ぶっか上昇じょうしょう率りつが日本にっぽんよりも高たかいことがある。同おなじ物ものをアメリカと日本にっぽんで比くらべると日本にっぽんのほうがずっと安やすい。

日本にっぽんでもようやくそれに気きがついて日本にっぽんが「安やすくて」買かわれてしまうのではないかと心配しんぱいする人ひともいて、海外かいがいに旅行りょこうに行いった時ときに物ものが買かえなくて大変たいへんだとなっている。

しかし、よくよく見みると日本にっぽんが「安やすく」なったのは、かなり長ながい期間きかんじわじわと進行しんこうしてきたことだ。

日本にっぽんが高たかかったのは1990年代ねんだい半なかばで、長期ちょうき的てきに下さがってきている。直近ちょっきんの円えん安やすだけでは説明せつめいできないことだと訴うったえたくて講演こうえんに至いたった。

Q.ことし円えん安やすが急速きゅうそくに進すすんだ理由りゆうは？

A.ことしに入はいってから円えん相場そうばはドルに対にたいして20％ぐらい円えん安やすになっていて、かなり急激きゅうげきな円えん安やすだ。

これの直接ちょくせつ的てきな説明せつめいは日にち米べいの金利きんり差さの拡大かくだいということで、日本にっぽんではまだ物価ぶっか上昇じょうしょう率りつが低ひくいということと、景気けいきが完全かんぜんには戻もどっていないということで、日銀にちぎんが金融きんゆう緩和かんわを継続けいぞくしていて金利きんりが一定いっていで変かわっていない。

それに対にたいしてアメリカは物価ぶっか上昇じょうしょう率りつが8％を超こえていて、これは大変たいへんだということで、インフレを抑おさえるために中央ちゅうおう銀行ぎんこうにあたるFRB＝連邦れんぽう準備じゅんび制度せいど理事りじ会かいが金利きんりを上あげてきた。

そこで金利きんり差さがどんどん開ひらいていって、この金利きんり差さにひかれて日本にっぽんから資本しほんが動うごいている、ドルを買かって円えんを売うって円えん安やすが起おきているということがいちばん重要じゅうようなポイントだと思おもう。

Q.日本にっぽんで「安やすくなった」のがじわじわ進すすんできたのはなぜ？

A.円えん相場そうばはかなり長ながい間ま、110円えんから120円えんの間まに収おさまっていた時期じきがある。ただ、その間そのかんも日本にっぽんはデフレで物価ぶっかが全然ぜんぜん上あがらない、むしろ下さがっている状況じょうきょうで、アメリカは常つねに2％ぐらいでインフレが継続けいぞくしていたと。

物価ぶっか上昇じょうしょう率りつの格差かくさによって日本にっぽんが「安やすく」なっていくということが起おきていた。日本にっぽんに住すんでいたらほとんど実感じっかんしないわけですね。

しかし、アメリカと日本にっぽんの同おなじ物ものの物価ぶっかを比くらべると日本にっぽんがどんどん「安やすくなっていた」ということがかなり長ながい期間きかん続つづいた。長期ちょうき的てきには物価ぶっか上昇じょうしょう率りつの格差かくさが、ボディブローのように効きいたということ。

Q.日本にっぽんの物価ぶっか上昇じょうしょう率りつが低ひくかった理由りゆうは？

A.1つは景気けいきがよくなかった時期じきが長ながく続つづいた。それによって所得しょとくが増ふえない、消費しょうひ意欲いよくが出でないということで、企業きぎょうが価格かかくを上あげることができないという状況じょうきょうがかなり長ながく続つづいた。

むしろ値下ねさげ競争きょうそうも起おきてコストを削けずって値段ねだんを下さげて顧客こきゃくを獲得かくとくしようとする企業きぎょうや業種ぎょうしゅがかなり多おおくあった。

もう1つは、デフレの期間きかんがあまりにも長ながく続つづいたために価格かかくは上あがらないものだと思い込おもいこんでしまった消費しょうひ者しゃがどんどん増ふえてきて、少すこしでも値上ねあげすることに対にたいして拒否きょひ反応はんのうを示しめすようになっていって、ますます企業きぎょうは価格かかくを上あげられないという状況じょうきょうが発生はっせいした。

今いまはいろんなコストが上あがりすぎて一斉いっせいに値上ねあげするような新あたらしい局面きょくめんに入はいっていると思おもう。

Q.「安やすい」国こくから抜け出ぬけだすにはどんなことが必要ひつよう？

A.アメリカの場合ばあいは物価ぶっかが上あがるけれども賃金ちんぎんも上あがるということが長ながく続つづいてきた。物価ぶっか上昇じょうしょう率りつも長期ちょうき的てきに見みると2％の目標もくひょうを達成たっせいしてきた。

一方いっぽう、賃金ちんぎんも、交渉こうしょうする時ときに物価ぶっかが2％上あがっているんだから賃金ちんぎんも最低さいてい2％上あがらないと暮くらしていけませんよねということで、2％プラスマイナスで賃金ちんぎんが決きまっていた。

日本にっぽんの場合ばあいは人手ひとで不足ふそくであっても、物価ぶっか上昇じょうしょう率りつがゼロであれば賃金ちんぎんの上昇じょうしょう率りつもゼロでいいではないかというような形かたちで、労働ろうどう者しゃ側がわもあまり文句もんくを言いわず賃金ちんぎんが上あがらない状況じょうきょうが長ながく続つづいてきた。

それを打破だはするために企業きぎょうが賃金ちんぎんを上あげてもよしとする、つまり労働ろうどう生産せいさん性せいが上あがるということが重要じゅうようだ。

Q.円えん安やすに歯止はどめをかけるためには、日本にっぽんはどんな対応たいおうが必要ひつよう？

A.やはり日本にっぽんの経済けいざいが強つよく成長せいちょうして労働ろうどう生産せいさん性せいも上あがって賃金ちんぎんも上あがって、それによって購買こうばい意欲いよくが出でて需要じゅようが強つよいことによる物価ぶっか上昇じょうしょうが起おきるということが、日本にっぽんが「安やすい」、あるいは円えんが安やすいということの歯止はどめになると思おもう。

労働ろうどう生産せいさん性せいと賃金ちんぎんを上あげることがいちばん重要じゅうようだと思おもう。年功ねんこう序列じょれつで上あがっていく賃金ちんぎんも改あらためていくことが必要ひつようだ。

Q.円えん安やすの今後こんごの見通みとおしは？

A.円えん安やすはどこかで反転はんてんする。アメリカの金利きんり上昇じょうしょうはどこかで頭打あたまうちになるので、アメリカの物価ぶっか上昇じょうしょう率りつにこれ以上いじょうのサプライズがなければ日にち米べいの金利きんり差さによる円えん安やすの進行しんこうはこれ以上いじょうは続つづかず、どこかで頭打あたまうちになることが見みえてきたのではないかと思おもう。

急激きゅうげきな変化へんかは悪影響あくえいきょうがあるのでチェックする必要ひつようがあり、政府せいふ・日銀にちぎんの市場しじょう介入かいにゅうは急激きゅうげきな変化へんかを抑おさえるという意味いみでは成功せいこうだったと思おもう。

ただ、目先めさきの金利きんり差さとかいうことではなくて体力たいりょくそのものを上あげていかないと「安やすい日本にっぽん」は変かわらない。

【デイビッド・ワインスタイン所長しょちょう一いち問もん一いち答とう】

続つづいて、主催しゅさいしたコロンビア大学ころんびあだいがくビジネススクール日本にっぽん経済けいざい経営けいえい研究所けんきゅうじょデイビッド・ワインスタイン所長しょちょうにも話はなしを聞ききました。

Q.このテーマで講演こうえん会かいを開ひらいた理由りゆうは？

A.なぜ日本にっぽんがこれほど「安やすく」なったという問題もんだいは、日本人にっぽんじんだけでなく多おおくのアメリカ人じんにとっても非常ひじょうに関心かんしんのある問題もんだいだ。ここ数すうか月かげつ、私わたしたちは急激きゅうげきなドル高だかと円えん安やすを目の当まのあたりにしてきた。

私わたしたちはグローバルな経済けいざいの中なかで生活せいかつし多おおくの人々ひとびとが日本にっぽんから物ものを買かっていて、その物ものがより安やすくなるのを見みているので、外国がいこく為替かわせ市場しじょうがなぜこうした動うごきをしているのかへのアメリカ人じんの関心かんしんは高たかい。

Q.円えん安やすが進すすんだ理由りゆうをどのように考かんがえる？

A.2つの大おおきな要因よういんがあると思おもう。

1つは日本にっぽんの生産せいさん性せいだ。日本にっぽんの生産せいさん性せいは長ながいあいだほかの国々くにぐにほどの速度そくどでは上昇じょうしょうしていない。これは長期ちょうき的てきな要因よういんだと思おもう。

もう1つの重要じゅうような要因よういんはロシアによるウクライナへの軍事ぐんじ侵攻しんこうで、これによって原油げんゆ価格かかくが急激きゅうげきに上昇じょうしょうし世界せかいがより不安定ふあんていになったことだ。結果けっかとして多おおくの資金しきんが安全あんぜんな国くにとしてアメリカに流れ込ながれこんだ。