「彼かれが守まもってくれたから」珠洲すずで400年ねん 塩田えんでんの風景ふうけい、絶たやさない

その塩しおにほれ込ほれこみました。

「よそ者よそもの」だった私わたしに塩しおづくりを教おしえてくれました。

師しであり、兄あにのよう。彼かれの遺志いしを継つぎ、この能登のとの景観けいかんを、伝統でんとうを、残のこしていきたいと思おもいますー

女性じょせいはそう語かたりました。

「親おやを失うしなったみたいな」

珠洲すず市し大谷おおや町まちの中前ちゅうぜん賢一けんいちさん（77）は、能登のと半島はんとう地震じしんで倒壊とうかいした自宅じたくの下敷したじきになり、亡なくなりました。

中前ちゅうぜんさんは、砂すなを敷き詰しきつめた塩田えんでんに海水かいすいをまいて天日てんじつで乾燥かんそうさせる「揚あげ浜はま式しき製塩せいえん」を引き継ひきつぐ職人しょくにんでした。

揚あげ浜はま式しき塩田えんでんによる天然てんねんの塩しおづくりは国内こくないで珠洲すず市しだけに残のこっていて、中前ちゅうぜんさんは50代だいで地元じもとに塩田えんでんを開ひらき、400年ねん以上いじょう続つづく地元じもとの伝統でんとうを守まもっていたということです。

「中前ちゅうぜんさんはおいしい塩しおにこだわっておられました。今度こんどの震災しんさいで、うちの師匠ししょうの中前ちゅうぜんさんがこんなふうになられて、親おやを失うしなったみたいな気持きもちです」

石川いしかわ県けん産さんの素材そざいで加工かこう品ひんの製造せいぞう・販売はんばいを行おこなう中なか巳み出で理りさん（76）は、取り扱とりあつかう機会きかいのあった中前ちゅうぜんさんの塩しおにほれ込ほれこんだ1人にんでした。

「こういう塩田えんでんの風景ふうけいというのは、能登のと独特どくとくの風景ふうけいですよね。能登のとにしかない風景ふうけい。日本にっぽん中ちゅう探さがしても、能登のとにしかない風景ふうけいなので、これを絶対ぜったい残のこしていきたいと」

師しであり、兄あにのよう

経営けいえいする会社かいしゃでも伝統でんとうの塩しおづくりに挑戦ちょうせんしたいと、中ちゅう巳み出でさんは中前ちゅうぜんさんに協力きょうりょくを仰あおぎました。

中前ちゅうぜんさんは中ちゅう巳み出でさんの気持きもちを受け止うけとめてくれたといいます。

「中前ちゅうぜんさんはね、とってもフレンドリーな方ほうで、どなたでも割わりとウェルカムで。人気にんきだったので、いろんな方ほうが出入でいりなさってたんですね。でもはじめは私わたしは『よそ者よそもの』なので。ただ彼かれは、あまりそのことに違和感いわかんは無なかったようで」

「中前ちゅうぜんさんと本音ほんねで話はなしをできるようになって、なんとか、この揚あげ浜はま式しき製塩せいえん法ほうを後世こうせいに伝つたえていくためにも、若わかい人ひとたちに引き継ひきついでいきたい、景観けいかんを守まもっていきたいと言いいました。いろんなところから『揚あげ浜はま式しき製塩せいえん法ほうは時代じだいと逆行ぎゃっこうしていて大変たいへんだ』などと言いわれました」

中ちゅう巳み出でさんは1年ねん近ちかく中前ちゅうぜんさんの元もとに通かよい、頼み込たのみこんだ末すえに塩しおづくりを了承りょうしょうしてくれたといいます。

7年ねん前まえの2017年ねん、珠洲すず市内しないに塩田えんでんを開ひらきました。

中前ちゅうぜんさんは手書てがきで図面ずめんをひいたり、みずから工事こうじの作業さぎょうにあたったりすることも多おおく、また社員しゃいんを預あずかって育成いくせいにあたってくれたほか、施設しせつの設計せっけいも担になってくれたということです。

年齢ねんれいが近ちかいこともあり、中ちゅう巳み出でさんは中前ちゅうぜんさんを師しと仰あおぐとともに、兄あにのように慕したっていたということです。

「社員しゃいんも交まじえて食事しょくじをするなど仲なかよくしてもらっていました。とても優やさしくすてきな人ひとで、『よそ者よそもの』の私わたしが伝統でんとうの塩しおづくりに取り組とりくめているのも中前ちゅうぜんさんがいたからこそと感謝かんしゃしています」

“中前ちゅうぜんさんが守まもってくれたから”

能登のと半島はんとう地震じしんでは中ちゅう巳み出でさんの塩田えんでんも何なんか所かしょもひびが入はいるなど大おおきな被害ひがいを受うけ、海底かいていが隆起りゅうきした影響えいきょうで海水かいすいをくみ上くみあげることが出来できなくなりました。

「途方とほうに暮くれます。だからわれわれの力ちからだけではどうにもならない。やっぱり、皆みなさんのお力おちからを借かりなければどうにもならない。今いま、業者ぎょうしゃさんもみんな被災ひさいしながらも能登のとの復興ふっこうのために頑張がんばっていらして、ライフラインの立て直たてなおしを一生いっしょう懸命けんめいやっている中なかで、われわれのところまで回まわしてもらうのは難むずかしいと思おもいます。でも、われわれもことし作つくらなかったら、来年らいねんは無なくなってしまうので、何なんとかことしの夏なつまでに復興ふっこうしたいと」

「塩しおづくりは天気てんきがよくなって、塩しおが乾かわくようになる4月つきの終おわり頃ころから9月末げつまつ、10月つきの中頃なかごろまでです。過酷かこくな自然しぜんと対たいじしてやるので。自然しぜんの太陽たいようと風かぜの力ちからと、そして人力じんりきと、海うみと山やまと。気きが遠とおくなりますね、すごく」

一方いっぽうで、建屋たきのやや釜かまには被害ひがいがなく、中ちゅう巳み出でさんは中前ちゅうぜんさんが守まもってくれたと考かんがえています。

「被害ひがいの状況じょうきょうを見みると、現実げんじつはとても厳きびしいです。どれだけ時間じかんがかかるかは分わかりませんが、中前ちゅうぜんさんの遺志いしを継つぎ、中前ちゅうぜんさんが後世こうせいに残のこそうとした伝統でんとうの塩しおづくりを絶対ぜったいに絶たやさないよう、なんとしてでも塩田えんでんを再開さいかいさせたいです」

（金沢かなざわ放送ほうそう局きょく 記者きしゃ 山崎やまざき里菜りな）