日本新闻: 「永世中立国」スイスで武器再輸出めぐり国を二分する議論

ウクライナ侵攻しんこうの長期ちょうき化かを受うけてスイスでは、第三国だいさんごくを通をとおしてウクライナなどの紛争ふんそう当事とうじ国こくにも一定いっていの条件じょうけんのもとで武器ぶきを再さい輸出ゆしゅつできるよう、法律ほうりつを修正しゅうせいする動うごきが出でています。

ただ、「武器ぶきの再さい輸出ゆしゅつ」は、長年ながねん掲かかげてきた「永世えいせい中立ちゅうりつ国こく」の立場たちばを根底こんていから覆くつがえすものだとして反対はんたいする声こえも根強ねづよく、国くにを二分にぶんする議論ぎろんとなっています。

長年ながねん「中立ちゅうりつ」を外交がいこう政策せいさくの基盤きばんとしてきたスイスは、紛争ふんそう当事とうじ国こくへの武器ぶきの輸出ゆしゅつを禁止きんししているほか、「戦争せんそう物資ぶっし法ほう」によってスイスから輸出ゆしゅつされた武器ぶきがその国くにを通をとおして紛争ふんそう当事とうじ国こくに再さい輸出ゆしゅつされることも認みとめていません。

しかし、ウクライナ侵攻しんこうの長期ちょうき化かを受うけてドイツやデンマークなどからは、自国じこくにあるスイス製せいの武器ぶきをウクライナに供与きょうよしたいと要求ようきゅうする声こえが相次あいついでいます。

こうした動うごきも受うけてスイスでは、複数ふくすうの政党せいとうが武器ぶきの再さい輸出ゆしゅつを可能かのうにするため、法律ほうりつの修正しゅうせい案あんを検討けんとうしていて、今月こんげつ11日にち、連邦れんぽう議会ぎかいの委員いいん会かいが専門せんもん家かを招まねいて公聴こうちょう会かいを開ひらきました。

公聴こうちょう会かいでは、▽武器ぶきの再さい輸出ゆしゅつを受うける国くにが国連こくれん憲章けんしょうに基もとづく自衛じえい権けんを行使こうししていることや、▽武器ぶきが市民しみんに対にたいして使用しようされるおそれがないことなどを再さい輸出ゆしゅつの条件じょうけんとする、複数ふくすうの修正しゅうせい案あんを巡めぐって意見いけんが交かわされました。

今後こんごも検討けんとうを重かさね、議会ぎかいで本格ほんかく的てきに議論ぎろんされる見通みとおしです。

修正しゅうせい案あんを提案ていあんしている自由じゆう民主みんしゅ党とうのマヤ・リニカー議員ぎいんは「目めの前まえで人々ひとびとが殺ころされ、人権じんけんが侵害しんがいされているのに、今いまの法律ほうりつによって武器ぶきはとどまったままで、ウクライナにわたっていない。いまこそスイスが動うごくべき時ときだ」と述のべ、再さい輸出ゆしゅつに踏み切ふみきるべきだと訴うったえました。

スイスでは、2月つきに行おこなわれた世論せろん調査ちょうさで再さい輸出ゆしゅつに対にたいする「賛成さんせい」が50％、「反対はんたい」が46％と、賛成さんせいがわずかに上回うわまわった一方いっぽうで、武器ぶきの再さい輸出ゆしゅつは、長年ながねん掲かかげてきた「永世えいせい中立ちゅうりつ国こく」の立場たちばを根底こんていから覆くつがえすものだとして反対はんたいする声こえも根強ねづよく、国くにを二分にぶんする議論ぎろんとなっています。

「中立ちゅうりつ」めぐる議論ぎろん大学だいがくでも

「武器ぶきの再さい輸出ゆしゅつ」をめぐっては、スイスの若者わかものの間までも意見いけんが割われています。

スイス北部ほくぶにあるバーゼル大学だいがくで4月つき下旬げじゅんに行おこなわれた政治せいじ学がくの授業じゅぎょうでは、30人にんほどの学生がくせいが「武器ぶきの再さい輸出ゆしゅつを認みとめるべきか」や「スイスは中立ちゅうりつであるべきか」というテーマで意見いけんを交かわしました。

学生がくせいからは「再さい輸出ゆしゅつは中立ちゅうりつの立場たちばに反はんする。中立ちゅうりつの歴史れきしを守まもるべきだ」とか「中立ちゅうりつでなくなってしまうと、和平わへい交渉こうしょうなどの役割やくわりを担になえなくなってしまう」などと再さい輸出ゆしゅつに反対はんたいする声こえが多おおく上あがっていました。

これに対にたいして「ロシアによる軍事ぐんじ侵攻しんこうは、国際こくさい法ほうに違反いはんしているので、ウクライナに限かぎっては再さい輸出ゆしゅつを可能かのうにすべきだ」と述のべる学生がくせいもいました。

さらに「これまでもさまざまな国くにに武器ぶきの輸出ゆしゅつを行おこなってきたのだから、再さい輸出ゆしゅつを認みとめても大おおきく変かわらない」などとスイスはすでに中立ちゅうりつの立場たちばではないとして再さい輸出ゆしゅつを認みとめるべきだという意見いけんも聞きかれました。

NHKの取材しゅざいに対にたいして男子だんし学生がくせいは「武器ぶきを再さい輸出ゆしゅつすべきか判断はんだんは難むずかしいが、スイスが認みとめたとしても他たの国くにはウクライナの自衛じえいのために決きめたと考かんがえるのでないか」と述のべ、再さい輸出ゆしゅつに踏み切ふみきったとしてもほかの国くにからの理解りかいは得えられるのではないかという見方みかたを示しめしました。

また、女子じょし学生がくせいは「スイスが中立ちゅうりつであり続つづけることで紛争ふんそう当事とうじ国こくが集あつまって、和平わへいを交渉こうしょうすることもできる。そういった国くにとして見みられ続つづけるべきだ」と述のべ、スイスは、あくまでも中立ちゅうりつの立場たちばを堅持けんじするべきだという考かんがえを強調きょうちょうしていました。

授業じゅぎょうを行おこなった、スイスの外交がいこう政策せいさくに詳くわしいローラン・ゴッチェル教授きょうじゅは「スイスの中立ちゅうりつは近年きんねんあまり議論ぎろんされることもなく、多おおくの人ひとは中立ちゅうりつについての詳くわしい知識ちしきも持もたなかった。しかし、ウクライナ戦争せんそうとそれに伴ともなう他国たこくからの圧力あつりょくによって中立ちゅうりつ性せいについての議論ぎろんが再燃さいねんした。中立ちゅうりつの立場たちばというものは、常つねに世界せかいから批判ひはんを受うけるのが宿命しゅくめいで、簡単かんたんに解決かいけつできる問題もんだいではないだろう」と話はなしていました。

「中立ちゅうりつ」スイスのこれまでの歩あゆみとウクライナ支援しえん

スイスは、フランス革命かくめいやナポレオン戦争せんそう後ごのヨーロッパの秩序ちつじょを取り戻とりもどす目的もくてきで開ひらかれた1815年ねんのウィーン会議かいぎで中立ちゅうりつの立場たちばを承認しょうにんされて以来いらい、これを外交がいこう政策せいさくの基盤きばんとし、紛争ふんそうへの参加さんかや軍事ぐんじ協定きょうていの締結ていけつなどを禁きんじています。

NATO＝北大ほくだい西洋せいよう条約じょうやく機構きこうにも加盟かめいせず、冷戦れいせん時代じだいに東西とうざい両りょう陣営じんえいのどちらにもつかなかったことから、数多かずおおくの国際こくさい交渉こうしょうの舞台ぶたいとなってきました。

1985年ねんには、当時とうじのソビエトのゴルバチョフ書記しょき長ちょうとアメリカのレーガン大統領だいとうりょうが会談かいだんしたほか、シリア内戦ないせんを終結しゅうけつさせるための和平わへい協議きょうぎなどもたびたび行おこなわれました。

ウクライナ侵攻しんこう前まえの2021年ねん、ロシアのプーチン大統領だいとうりょうとアメリカのバイデン大統領だいとうりょうが、初はじめて対面たいめんでの首脳しゅのう会談かいだんを行おこなったのもジュネーブでした。

スイスが中立ちゅうりつの立場たちばであるため、WTO＝世界せかい貿易ぼうえき機関きかんやIOC＝国際こくさいオリンピック委員いいん会かいなど、多おおくの国際こくさい機関きかんやスポーツ関連かんれん団体だんたいもスイスに拠点きょてんを設もうけています。

ただ、ウクライナ侵攻しんこうを受うけてスイスは、EU＝ヨーロッパ連合れんごうに歩調ほちょうを合あわせてロシアへの経済けいざい制裁せいさいに踏み切ふみきりました。

金融きんゆう業ぎょうが盛さかんな上うえに紛争ふんそうに巻き込まきこまれるおそれも少すくないとしてスイスには、各国かっこくの富裕ふゆう層そうが多おおくの資産しさんを保有ほゆうしていますが、スイス当局とうきょくは、2022年ねん11月つき、75億おくスイスフラン、日本にっぽん円えんにして1兆ちょう円えん余あまりのロシア関連かんれんの資産しさんを凍結とうけつしたと発表はっぴょう。

こうした対応たいおうは、スイスの従来じゅうらいの姿勢しせいを変更へんこうしたとして大おおきな注目ちゅうもくを集あつめ、ロシアは「スイスは中立ちゅうりつの地位ちいを失うしなった」と批判ひはんしました。

一方いっぽうでスイスは、国内こくないに大おおきな軍事ぐんじ産業さんぎょうを持もつ武器ぶきの輸出ゆしゅつ国こくでもありますが、ウクライナへの武器ぶきの再さい輸出ゆしゅつを認みとめない立場たちばは堅持けんじしてきました。

ドイツは、自国じこくが保有ほゆうする1万まん発はつ以上いじょうのスイス製せいの自じ走はし式しきりゅう弾だん砲ほうの弾薬だんやくについてこれまでたびたびウクライナに供与きょうよしたいとスイス政府せいふに申し出もうしでましたが認みとめませんでした。

デンマークやスペインなども、保有ほゆうしているスイス製せいの兵器へいきをウクライナに供与きょうよすることを認みとめるよう求もとめています。

4月つきに行おこなわれたドイツとスイスの首脳しゅのう会談かいだん後ごの記者きしゃ会見かいけんでは、ショルツ首相しゅしょうが「スイスでの活発かっぱつな議論ぎろんを注視ちゅうししており、何なにかが起おきることを願ねがっている」と発言はつげんし、再さい輸出ゆしゅつを認みとめることに期待きたいを示しめしています。