ヴァセリンがSNS上の「ライフハック」をジャッジ。売上43%アップの施策
現代社会においてSNSが果たす役割は極めて大きく、商品やサービスに関する情報が瞬時に拡散される一方で、誤った使用法や根拠の乏しい「ライフハック」も氾濫し、企業や消費者にとって深刻なリスクとなり得る。
とりわけ、企業側がこうした情報に対して公式な見解や対応を示すことは、SNSの性質上、容易ではないのが現状である。
そうした状況の中、ユニリーバー社が展開する「ヴァセリン」は、SNS上での誤情報拡散に対抗する独自の取り組みとして「ヴァセリン・ヴェリファイド」を実施し、2025年のカンヌライオンズにおいてソーシャル&クリエイター部門グランプリをはじめとする複数の賞を受賞した。
「ヴァセリン」は150年以上の歴史を持ち、長年にわたり高い信頼と知名度を築いてきたスキンケアブランドである。
しかし近年、SNS上ではユーザーによる様々な“ハック動画”が拡散され、その中には歯のホワイトニングや目に塗布する、あるいは摂取するなど、人体に悪影響を及ぼしかねない危険な使用法も少なくなかった。こうした状況は、ブランドの信頼性を損なう恐れがあったものの、企業が直接介入することは難しいという課題があった。
そこでヴァセリンは、TikTokやInstagramなどのSNSに積極的に参入し、クリエイターと呼ばれるユーザーによる独自の使用法に対し、同社の研究員が科学的検証を行い、その安全性を評価する「ヴァセリン・ヴェリファイド」を開始したのである。認証の可否は、「VERIFIED(認証済み)」または「UNVERIFIED(未認証)」として明確に示され、SNS上で広く共有された。
さらに、SNSでよく見られる認証マークを参考に、商品パッケージを想起させるオリジナルの認証済みマークを開発し、安全性が確認された450以上の使用法に付与した上で、その証として「トロフィー」と呼ばれるパッケージをクリエイターに贈呈した。クリエイターたちは、自身の使用法が公式に認められたことを誇りに思い、その様子をSNS上で積極的に発信した。
その結果、これらの“ハック動画”は、ヴァセリンの広告として機能するようになったのである。
この施策により、売上は43%増加し、キャンペーンに対する好意的評価は87%に達し、SNS上での反応も6,330万回を超えるなど、顕著な成果が得られた。
なお、当該キャンペーンがグランプリを受賞したカンヌライオンズの「ソーシャル&クリエイター部門」は、2024年までは「ソーシャル&インフルエンサー部門」と呼ばれていたが、2025年より名称が変更された。
従来、欧米の広告業界では「クリエイティブ(Creative)」が人を指す名詞として用いられてきたが、近年では作品を通じて情報発信を行うインフルエンサーを「クリエイター(Creator)」と呼ぶことが一般化し、「クリエイターエコノミー」という概念も定着しつつある。このような社会的背景が、部門名変更の一因となったものと考えられる。
SNSは本来的に企業の所有物ではなく、クリエイターや一般ユーザーのものである。
そのため、企業にとって必ずしも都合の良い形で話題が展開されるとは限らない。しかし、プラットフォームの特性を理解し、適切な形で企業が関与することができれば、極めて大きな成果を生み出す可能性があることを、この事例は如実に示している。