日本新聞: 謎に包まれたジブリの新作鈴木敏夫Pに聞いた！

スタジオジブリの宮崎みやざき駿しゅん監督かんとく10年ねんぶりの新作しんさく、「君きみたちはどう生いきるか」

7月つき14日にちの公開こうかい前まえに明あかされている情報じょうほうは、映画えいがのタイトルとポスター1枚まいだけです。

予告よこく編へんの公開こうかいも声優せいゆうの発表はっぴょうもしないという“異例いれいの宣伝せんでん方針ほうしん”の理由りゆうとは？

映画えいがのプロデューサーを務つとめる鈴木すずき敏夫としおさんに、そのねらいと公開こうかいまでの道みちのりを単独たんどくインタビューで聞ききました。

（科学かがく文化ぶんか部ぶ記者きしゃ加川かがわ直ただし央ひさし）

“「ナウシカ2」じゃない？”って（笑えみ）

世界中せかいじゅうで愛あいされ続つづけるキャラクターを生うんだ「となりのトトロ」

そして、ドイツのベルリン国際こくさい映画えいが祭さいで最高さいこう賞しょうの金きん熊くま賞しょうを受賞じゅしょうした「千せんと千尋ちひろの神隠かみがくし」など、数々かずかずの長編ちょうへんアニメーション映画えいがのヒット作さくを生み出うみだしてきた「スタジオジブリ」

世界せかいが待ち望まちのぞむとも言いわれる新作しんさく「君きみたちはどう生いきるか」は、現在げんざい82歳さいの宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくが手てがけ、関心かんしんを集あつめているにもかかわらず「映画えいがの内容ないようを事前じぜんに一切いっさい明あかさない」という、これまでにない方針ほうしんが掲かかげられています。

プロデューサーを務つとめる鈴木すずき敏夫としおさんの隠れ家かくれが、通称つうしょう「れんが屋や」で、映画えいがの公開こうかい前まえに話はなしを聞きくことができました。鈴木すずきさん、正直しょうじき、どういう作品さくひんなのか気きになります！

「いろんなうわさが流ながれていますよね。けさも宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくに言いったんです。ミヤさん（宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくのこと）、内容ないようを全然ぜんぜん伝つたえてないから、ある人ひとが『“ナウシカ2”じゃないか』って言いうんだよって。そうしたら、ミヤさんが『えっ』て言いうんだよね（笑えみ）」

”ヒットメーカー“の反省はんせい

鈴木すずきさんは、テレビ局てれびきょくや広告こうこく代理だいり店てん、出版しゅっぱん社しゃなどを巻き込まきこんで映画えいがを作つくり、あらゆるチャンネルを通をつうじて大々的だいだいてきな宣伝せんでんを打ち出うちだす、いわゆる「製作せいさく委員いいん会かい方式ほうしき」を始はじめた第だい一いち人にん者しゃ。スタジオジブリの作品さくひんをヒットに導みちびいてきた張ちょう本人ほんにんです。

いまや映画えいが界かいでは定石じょうせきとなっている手法しゅほうの封印ふういんには、どんな思おもいがあったのでしょうか。

「事前じぜんに内容ないようを伝つたえないという方針ほうしんは最初さいしょから決きめていました。これまでと同おなじことはやりたくなかったんですよ。製作せいさく委員いいん会かいという仕組しくみを作つくったのも、どうやら僕ぼくらしい。映画えいがの大だい宣伝せんでんを繰り広くりひろげたのも僕ぼくでしょう。その反省はんせいにのっとってやるというのが、僕ぼくにとっては今回こんかいの大おおきなテーマ。自分じぶんで始はじめておきながら、今いまの映画えいがの宣伝せんでん状況じょうきょうはどこかで1回かいストップさせなきゃいけないと思おもったことは確たしかです」

「映画えいがを作つくったら、ちゃんと宣伝せんでんして、ちゃんと興行こうぎょうもやるべき。それは当たり前あたりまえなんですが、ものには限度げんどがある。やりすぎは絶対ぜったいよくないと思おもっています。だって内容ないようを知しった上うえで、それを確認かくにんするために映画えいがを見みられたんじゃたまらないですよね。やっぱり面白おもしろいかどうかですよ。厳きびしい目めで見みていただきたい」

「生うまれて初はじめて博打ばくちをやってみようかなと」

一方いっぽうで、今回こんかいの作品さくひん、企画きかく書しょの提案ていあんから公開こうかいまでの期間きかんは、宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくとしては最長さいちょうの7年ねん。その分ぶん、製作せいさく費ひは巨額きょがくになっているはずです。それでも、映画えいが界かい随一ずいいちの”ヒットメーカー“の鈴木すずきさんは成算せいさんがあるといいます。

「僕ぼくは映画えいがを当あてる人ひとだと思おもわれているようですが、これまで博打ばくちをやったことがないんです。ものすごく手堅てがたい。映画えいが館かんごとにどれくらいお客おきゃくさんが来くるとかをものすごく考かんがえる。それだと、決きまりきった興行こうぎょう収入しゅうにゅうしか見みえてこないんです。これを突破とっぱしたいと思おもった。今回こんかい、僕ぼくは生うまれて初はじめて博打ばくちをやってみようかなと」

「普通ふつうにやったら絶対ぜったい（製作せいさく費ひを）回収かいしゅうできないから、みんなが思おもっている数字すうじの上うえを行いくためにはこれしか方法ほうほうがないんです。いろんな映画えいがを手堅てがたくやってきて、それで自分じぶんが終おわっちゃうのが寂さびしかったですよね。ミヤさんも、最初さいしょのうちは、『大丈夫だいじょうぶ？』って言いっていたけれども、だんだんその気きになってきて、『鈴木すずきさんの丁半ちょうはん博打ばくちに俺おれも乗のる！』って」

唯一ゆいいつの手てがかりポスターに込こめた思おもい

こうした中なか、映画えいがのタイトル以外いがいで唯一ゆいいつ情報じょうほうを出だしたのは、ポスターでした。

宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくは『怖こわいけど、この映画えいがの本質ほんしつを突ついている』と絶賛ぜっさんしたといいます。この鳥とりの顔かおのように見みえる1枚まいの絵えだけのポスターには、“少すくない手てがかりから映画えいがの内容ないようを想像そうぞうしてほしい”という思おもいが込こめられています。

「宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくが描えがいたこの絵えは、本当ほんとうはもっと全身ぜんしんがある。それをどのサイズにするか、ものすごく悩なやみました。もっと寄よったやつ、離はなれたやつを10種類しゅるいぐらい作つくりました」

「お客おきゃくさんの気持きもちになって、どのサイズだったらドキドキしてくれるかな、楽たのしみに思おもってくれるかなと考かんがえて作つくったのがこれです。ある新聞しんぶんがこのポスターを見みて“2羽わの鳥とり”と書かいてくれたんですが、そうやって皆みなさんがポスターから想像そうぞう力りょくをたくましくすることがうれしかった。僕ぼくらが子こどもの時ときは、タイトルと1枚まいの絵えだけで映画えいがの内容ないようを想像そうぞうするのが楽たのしかったんですよ。そこに戻もどしたかった」

今回こんかいのポスターには、ジブリ映画えいがには欠かかせない秀逸しゅういつなキャッチコピーもありません。

「ないですね。ないのがコピーです。今回こんかいは、皆みなさんに作つくってもらいたい」

“長編ちょうへん引退いんたい”撤回てっかいからの経緯けいいは

宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくは10年ねん前まえ、前作ぜんさくの「風かぜ立たちぬ」の公開こうかい後ごに会見かいけんを開ひらき、長編ちょうへんアニメーションからの引退いんたいを宣言せんげんしました。

「何なん度どもこれまでやめると言いって騒さわぎを起おこしてきた人間にんげんですが、今回こんかいは本気ほんきです」として、引退いんたいを決きめた理由りゆうに自身じしんの年齢ねんれいをあげています。

にもかかわらず、7年ねん前まえ、鈴木すずきさんに今いま作さくの企画きかく書しょを持もってきて、「20分ぶんの絵えコンテを描えがくから、良よいかどうかを判断はんだんしてほしい」と告つげたといいます。

そして約やく5か月かげつ後ご、絵えコンテを描えがき上あげました。

「宮崎みやざき駿しゅんは大事だいじなものを僕ぼくに渡わたす時ときに決きまったルールがあるんです。毎回まいかい金曜日きんようび。つまり僕ぼくに、週末しゅうまつに考かんがえるいとまを与あたえるんですよ。でも絵えコンテ、読よみたくないですよね（笑えみ）僕ぼくだって、宮崎みやざき駿しゅんに捧ささげた青春せいしゅんというのがある。彼かれが引退いんたいしたら取り戻とりもどそうと思おもっていたのに、また奪うばおうっていうことでしょう」

鈴木すずきさんは悩なやみながらも、その内容ないようと監督かんとくの熱意ねついに突つき動うごかされていったと振り返ふりかえりました。

「日曜日にちようびの夜よるにようやく読よんだら、結構けっこう面白おもしろいんですよ。夜よる12時じを回まわってからもう一いち回かい読よんでみたら、やっぱり面白おもしろい。でも悩なやんだ結果けっか、心こころを鬼おににして、“つまんない”って言いおうと決きめました。大体だいたい、企画きかく書しょを出だされたときに、僕ぼくは『名作めいさくを生み出うみだした多おおくの映画えいが監督かんとくが、最後さいごにもう一度もういちどと作つくった映画えいがに成功せいこうは1本ほんもないですよ』と言いっているんです」

「そんなことを思い出おもいだしながら会社かいしゃに向むかう車くるまで一生懸命いっしょうけんめい“つまんないです”の言い方いいかたの練習れんしゅうをして、心こころを強つよくして彼かれのアトリエに向むかう。今日きょうはだまされちゃだめだ。俺おれの青春せいしゅんを取り戻とりもどさなきゃいけないんだ！って。そして彼かれのアトリエのドアを開あけようとしたら、向むこうから開ひらいたんですよ」

「待まってたんですよ！そしてひと言ひとこと、『コーヒー飲のむ？』って。ミヤさんがコーヒーをいれている間ま、『コーヒー飲のむ？』って言葉ことばを翻訳ほんやくしちゃったんです。『どうしても作つくりたい。失敗しっぱいするかもしれないけれど、機会きかいを与あたえてほしい。そして手伝てつだってほしい』ってね。そしてミヤさんがコーヒーを持もって現あらわれて、僕ぼくの前まえに置おいた瞬間しゅんかん。僕ぼくは『やりますか』って言いったんです」

「若わかい宮崎みやざきアニメが見みたかった」

こうして始はじまった「君きみたちはどう生いきるか」の制作せいさく。宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくは制作せいさくが決きまった時点じてんで75歳さいになっていました。鈴木すずきさんがまず考かんがえたのは、アニメを作つくるスタッフのことでした。

「やると決きめたら僕ぼくは現実げんじつ主義しゅぎ。最初さいしょに、絵えを書かく中心ちゅうしん人物じんぶつに宮崎みやざき駿しゅんより絵えが上手じょうずな人ひとを探さがしました。そこで、ある人ひとに作画さくが監督かんとくをやってもらおうとミヤさんに提案ていあんしたら、『違ちがうんじゃないかな』と。自分じぶんがやるってことですよね。それから僕ぼくは知らん顔しらんかおで、絵えコンテの制作せいさくで1年ねんがたちました」

「そうしたら、ミヤさんが『鈴木すずきさん、作画さくが監督かんとくなんだけど、彼かれがいいんじゃない？』って、僕ぼくが挙あげた名前なまえを言いうんですよ！それで、自分じぶんが言いったことにするんです。面白おもしろい人ひとでしょう。作画さくが監督かんとくとは、要ようするに実写じっしゃ映画えいがで言いったら主役しゅやくですよ。それはやっぱりミヤさんが、自分じぶんで選えらびたかったということだと思おもいます」

アニメの制作せいさくでは、作画さくが監督かんとくが原画げんがをチェックして絵えの統一とういつ性せいやクオリティーを保たもつ役割やくわりを担にないます。

一方いっぽうで、宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくの作品さくひんでは、すべてのカットに監督かんとくみずからが手てを入いれるという異例いれいの体制たいせいで制作せいさくが進すすめられ、それが「宮崎みやざきアニメ」の圧倒的あっとうてきなクオリティーを維持いじしてきた秘密ひみつとも言いわれます。

しかし今回こんかい、宮崎みやざき監督かんとくは映画えいがの設計せっけい図ずとなる絵えコンテの制作せいさくに専念せんねんし、作画さくが監督かんとくが具体ぐたい化かするという体制たいせいで進すすめられました。

「僕ぼくは今回こんかい勝手かってにテーマを持もっていて、“若わかい宮崎みやざきアニメ”が見みたかった。それは絵えによって決きまりますが、今回こんかいの絵えは全然ぜんぜん違ちがいますよ。だって、ミヤさんは「作画さくが監督かんとく」という自分じぶんの大事だいじな役割やくわりを若者わかものに取とられたわけでしょう。じゃあ絵えコンテを描えがく時ときどうするか」

「作画さくが監督かんとくは絵えコンテを具体ぐたい化かしなきゃいけないから、ミヤさんの絵えコンテは”こんなの描えがけるか！“みたいな芝居しばいにあふれたんです。つまり自分じぶんじゃ描えがけないくせに、すごいのを押おしつけた。でも、作画さくが監督かんとくの彼かれは負まけなかった。それによって、がぜん面白おもしろくなりました。こうした切磋せっさ琢磨たくまが何なにかを生み出うみだすと信しんじています」

若わかい作画さくが監督かんとくが加くわわった相乗そうじょう効果こうかも、新作しんさくのもう一ひとつの注目ちゅうもく点てんとなりそうです。

いま問とわれる「君きみたちはどう生いきるか」

「君きみたちはどう生いきるか」というタイトルは、宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくが子こどもの頃ころに読よんで衝撃しょうげきを受うけた、吉野よしの源三郎げんざぶろうの同名どうめい小説しょうせつからとっています。鈴木すずきさんはこの7年間ねんかん、めまぐるしく変化へんかする世界せかいを目の当まのあたりにして、このタイトルの受け止うけとめ方かたが変かわってきたといいます。

「小説しょうせつは原作げんさくではありませんが、ミヤさんが子こどものころに読よんで受うけた衝撃しょうげきを、お客おきゃくさんにも提供ていきょうしたいと思おもったんでしょう。タイトルを聞きいたときは正直しょうじき、これをお客おきゃくさんに問とうのはどうだろうと思おもいました。ある種たねの、押おしつけがましさのようなものを感かんじたんです。ところが、だんだん映画えいがを作つくっているうちに、気きがついたら世の中よのなか全体ぜんたいが『君きみたちはどう生いきるか』という時代じだいになってきた」

見みる者ものに重おもく突つきつけられるタイトル。果はたして、何なにが描えがかれるのか。

「『君きみたちはどう生いきるか』って言いわれたら、多おおくの人ひとが、“うーう-ん”とうなるでしょう。それがエンターテインメントのはじめだと僕ぼくは思おもいます」

宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくは、10年ねん前まえの引退いんたい会見かいけんで、「子こどもたちに“この世このよは生いきるに値あたいするんだ”ということを伝つたえるのが自分じぶんたちの仕事しごとの根幹こんかんになければならない」と語かたっていました。

今回こんかいの映画えいがも、やはりそうなっているのでしょうか。

「今いまの日本にっぽんで子こどもたちが何なにを支ささえに生いきていけばいいのか。それに対にたいする宮崎みやざき駿しゅん監督かんとくの考かんがえは、提供ていきょうするものがあるのだと思おもいます。僕ぼくは、それは娯楽ごらくだろうと言いいたい。そういう中なかで僕ぼくらは学まなんできたんです。とにかく面白おもしろいものを作つくろうとして、思おもっていたことは達成たっせいしたつもりです。面白おもしろいことを僕ぼくは請け負うけおいますよ」