日本新聞: “誰にも頼れなかった” 父親の遺体を６年放置元被告の男性は

“誰だれにも頼たよれなかった” 父親ちちおやの遺体いたいを６ろく年ねん放置ほうち元もと被告ひこくの男性だんせいは

Jun 18, 2021 17:06

Furigana

病死びょうしした父親ちちおやの遺体いたいを6年間ねんかんにわたって自宅じたくに放置ほうちしたとして執行しっこう猶予ゆうよ付つきの判決はんけつを受うけた金沢かなざわ市しの55歳さいの男性だんせいがNHKの取材しゅざいに応おうじました。

男性だんせいが語かたったのは、軽度けいどの知的ちてき障害しょうがいを抱かかえながら、死亡しぼう後ごの手続てつづきなど、周囲しゅういの誰だれにも頼たよることができなかった“孤立こりつ”の状況じょうきょうでした。

金沢かなざわ市しの55歳さいの男性だんせいは、去年きょねん12月つき、病死びょうしした父親ちちおやの遺体いたいを死後しご6年間ねんかんにわたって自宅じたくに放置ほうちしていたことが発覚はっかくし、死体したい遺棄いきと、父親ちちおやの年金ねんきんをだましとった詐欺さぎの罪つみで起訴きそされました。

男性だんせいには軽度けいどの知的ちてき障害しょうがいがあり、ことし4月つき、金沢かなざわ地方ちほう裁判所さいばんしょは「男性だんせいには分わからないことを誰だれかに尋たずねる技能ぎのうがとぼしく、障害しょうがいが犯行はんこうに影響えいきょうを与あたえたことは否定ひていしがたい」などとして執行しっこう猶予ゆうよの付ついた判決はんけつを言い渡いいわたしました。

男性だんせいは判決はんけつのあと自宅じたくに戻もどり1人にんで生活せいかつしていて、先月せんげつ末まつ、NHKのインタビューに応おうじました。

父親ちちおやの遺体いたいが見みつかったのは6畳じょうほどの広ひろさの1階かいの和室わしつで、かつて、遺体いたいが置おかれていた場所ばしょは畳たたみが黒くろずんでいました。

父親ちちおやの遺体いたいを放置ほうちした理由りゆうについて聞きくと、男性だんせいは「お父おとうさんが亡なくなって、葬儀そうぎ屋やの人ひとが来きて病院びょういんから一緒いっしょに遺体いたいを運はこんで『帰かえります』と言いわれた。インターネットで葬儀そうぎにどれくらいお金おかねがかかるか調しらべたが、ちょっと高たかいなあと思おもった」などと話はなしました。

また、遺体いたいのそばで生活せいかつしていた当時とうじの心境しんきょうについては「お父おとうさんが亡なくなり放置ほうちしてしまったんだけれども反省はんせいをしている。寂さびしい気持きもちだったし、怖こわかったのもある」などと、淡々たんたんとした様子ようすで振り返ふりかえりました。

遺体いたいを置おいた部屋へやのふすまを閉とじたままにし、消しょう臭におい剤ざいを置おいて匂においが外そとに漏もれるのを防ふせいでいたということです。

男性だんせいは、工場こうじょうで軽けい作業さぎょうをするなどして働はたらいていましたが、職場しょくばや近所きんじょに住すむ人ひと、親族しんぞくとの関係かんけいも非常ひじょうに疎遠そえんだったということです。

男性だんせいは「近所きんじょにはこれといって仲なかのよい人ひとはいなかったし、会社かいしゃでもしゃべらなかった。お父おとうさんは親戚しんせきと仲なかが悪わるく、親戚しんせきはお父おとうさんが病院びょういんで亡なくなったことも知しらなかったと思おもう」などと、父親ちちおやの死亡しぼう後ごの手続てつづきなどについて、誰だれにも頼たよることができなかった状況じょうきょうを語かたりました。

障害しょうがい児じの施設しせつで育そだった元もと被告ひこく幼少ようしょう期きを知しる人ひとは

裁判さいばん記録きろくによると、元もと被告ひこくの男性だんせいは出産しゅっさん時じ、仮死かし状態じょうたいで生うまれ、2歳さいで知的ちてき障害しょうがいと診断しんだんされました。

5歳さいのときに、金沢かなざわ市内しないの障害しょうがい児じの施設しせつに預あづけられ、成人せいじんの前まえまで過すごしたということです。

入所にゅうしょしていた当時とうじの男性だんせいの印象いんしょうについて、施設しせつの元もと職員しょくいんの田村たむら和義かずよしさんは「非常ひじょうにおとなしく素直すなおな子こでした。学力がくりょくでいえば小学校しょうがっこうの低てい学年がくねんくらいでしたが字じはしっかり読よめたので、活字かつじを拾ひろう作業さぎょうをしていたことを覚おぼえています。事件じけんを起おこしたことを新聞しんぶんで知しったときは、まさかと思おもいました」と話はなしました。

田村たむらさんは「お葬式そうしきをするのは、ふつうの人ひとでも大変たいへんで、知的ちてき障害しょうがいがある人ひとが1人にんですべてやろうとするのはかなり難むずかしいと思おもいます。誰だれかがちょっとサポートしてあげれば、こんな事件じけんは起おこらなかったのではないか。行政ぎょうせいなどが、地域ちいきでうまく暮くらせるように支ささえていくことが、必要ひつようだったと思おもいます」と話はなしています。

専門せんもん家か「障害しょうがいが軽度けいどの場合ばあい支援しえんが届とどかないケースも」

障害しょうがい者しゃ福祉ふくしをめぐる問題もんだいに詳くわしい大阪おおさか健康けんこう福祉ふくし短期たんき大学だいがくの小田おだ史ふみ教授きょうじゅは、障害しょうがいが軽度けいどの人ひとの場合ばあい、自治体じちたいの支援しえんや地域ちいきの目めがかえって届とどかないケースがあると指摘してきし「周囲しゅういが支ささえようとしても、自分じぶんが難むずかしいことをできないと思おもわれたくないがために、無む意識いしきでうそをついてしまう場合ばあいもある。たとえ、働はたらいている人ひとであっても、“働はたらけているからよい”ではなく、誰だれにも相談そうだんできない状況じょうきょうになっている可能かのう性せいがあり、“大丈夫だいじょうぶ？”と継続けいぞく的てきに声こえをかけることが重要じゅうようだ」と話はなしています。

そのうえで小田おだ教授きょうじゅは「水面すいめん下かにどれくらい大変たいへんな家庭かていがあるか、行政ぎょうせいが調査ちょうさを行おこなって把握はあくに努つとめる必要ひつようがある」としています。