アルサ・リュウ選手の金メダルの陰に潜む中国当局との闘い
2022年北京冬季五輪で初めて世界の舞台に立ったアルサ・リュウ。彼女が一躍脚光を浴びたミラノ・コルティナ冬季五輪での金メダル獲得の裏には、単なるアスリートの栄光だけでなく、彼女とその家族が直面した複雑かつ危険な物語が潜んでいた。アルサの父であるアーサー・リュウは、天安門事件以降の中国政府の弾圧に抗議し、政治亡命者として米国に移住した経歴を持つ。その背景が、家族全体を中国当局のスパイ活動の標的とするに至ったのだ。
アーサーは米AP通信に対し、自身と娘が中国のスパイ行為の標的にされた経緯を明らかにし、五輪組織の職員を装った者からパスポート情報を要求されたが、開示を拒否したことを語った。この事件は、個人の国際的な活躍が必ずしも喜びだけをもたらすものではないことを端的に示している。中国政府による人権侵害やその隠蔽工作は、単なる国内問題に留まらず、海外に住む亡命者やその家族にまで波及している。アーサーは、娘のアルサが「中国の当局に監視されているに違いない」と感じたことについて、「これは中国政府がわれわれを威嚇し、弾圧の口実を探していることに他ならない」とコメントした。このような状況にもかかわらず、アルサはインスタグラムに中国によるウイグル族への人権侵害を告発する投稿を掲載し、言論の自由を行使する勇気を示した。
その結果、彼女は中国当局の監視下に置かれることとなり、五輪出場中には不審な男性に付け回されるという恐怖体験をした。しかし、彼女の父は「これは娘にとって一生に一度の機会だ」とし、娘の五輪出場を止めなかったのである。アーサーの人生は、天安門事件への抗議活動に携わったことで一変した。彼は政府の最重要指名手配リストに掲載され、逮捕を免れるために逃亡を余儀なくされた。もし捕まっていれば、刑務所か労働収容所送りりは避けられなかっただろう。彼が香港を経てアメリカに渡り、弁護士となったのは運命の皮肉と言える。アルサが冬季五輪で金メダルを獲得した際、中国のメディアはこの事実をほとんど報じなかった。その理由は明らかである。
彼女が中国出身の家族を持つこと、そして彼女の父が中国政府に逆らった過去を持つことが、中国国内で報じるには都合が悪いからに他ならない。アルサは一時、燃え尽き症候群に陥り、引退を余儀なくされたが、他の活動を通じてスケートへの情熱を再燃させた。彼女は自らの意志で現役復帰を果たし、父の関与を控えさせることで、より独立したアスリートとしての自覚を深めた。
ミラノ五輪でのアルサの演技は、自らの自由と家族の歴史、そして中国政府との複雑な関係を乗り越えた結果の産物であった。彼女の勝利は、すべての逆境を乗り越えた者にとっての希望であり、また国家の抑圧に屈しない自由の象徴であったと言えるだろう。