公共空間における女性のプライバシー侵害
米国ワシントンの空港ラウンジにて、トルワ氏は見知らぬ男性から声をかけられ、しばらく会話を交わした後に電話番号を交換することに同意した。
しかし、帰宅後に男性のSNSアカウントを調べた所、空港で女性に声をかける様子を記録した動画が多数投稿されていることが判明した。これらの動画は、男性が装着していたスマートグラスに内蔵されたカメラによって撮影されたものであり、スマートグラスは一見通常の眼鏡と変わらないが、近年その利用が拡大しつつある。
トルワ氏は「かれのTikTokアカウントを発見し、いわゆる『リズ』動画を投稿していることが分かった時、非常に不快に感じた」と述べている。「リズ」とは、公共の場で女性に声をかける男性のSNS動画に関連するスラングである。男性は、トルワ氏の同意を得ることなく、かのじょを密かに撮影した映像をテキストメッセージで送りつけ、その後SNSに投稿した。
結果として動画は拡散され、見知らぬ人から「この動画に映っているのはあなたか」と尋ねられる事態にまで発展した。
近年、SNS上では公共の場で女性に近づき、電話番号を聞き出そうとする男性の自撮り動画が氾濫しているが、これらは多くの場合、被写体の許可を得ずに投稿されている。こうした動画の多くは男性の視点から撮影され、数千回から数百万回に及ぶ再生回数を記録し、ときには女性蔑視的なコメントが寄せられることもある。
専門家は、女性を無断で撮影し、女性蔑視的なコンテンツを拡散する「マンフルエンサー」の台頭にたいし強い懸念を示している。「マンフルエンサー」とは、男性向けの影響力を持つSNS投稿者全般を指し、ジムでのトレーニングや自己啓発に関する無害な内容から、悪意ある投稿まで多岐にわたる。
オーストラリア・モナシュ大学のウェスコット講師は、「ネット空間において、女性はしばしば『征服すべき対象』『報酬』として扱われており、スマートグラスは男性が女性のイメージを監視・記録・コントロールするための格好の道具となり得る」と指摘する。
スマートグラスには録画中であることを示すLEDライトが搭載されているが、オンラインで購入可能なステッカーにより、このライトを隠すことが可能である。米メタ社のスマートグラスは市場で高いシェアを占めており、同社は「録画時にはLEDが点灯し、他者にも分かる仕組みとなっている」と説明する一方で、「一部の利用者が不正に製品を使用していることを認識している」とも述べている。
ウェスコット氏は、「マンフルエンサー」も他のコンテンツ制作者同様、自身の投稿から利益を得ることを目的としており、これらの動画がコーチングやサプリメント販売など他事業への誘導ツールとして機能している点を指摘する。
フェミニスト活動家や専門家らは、この現象が女性のプライバシーを侵害し、公の場で女性を辱める新たな手段となっていると非難している。英国のEVAW連合は、政府にたいし新たな脅威に対応するための法整備を求めている。EVAWのヒッチェン氏は「同意なく撮影する行為自体が、女性のプライバシー権および公共空間における自由を著しく侵害するものであり、スマートグラスは女性にとって革新てきな技術というより、日常生活にたいする新たな脅威である」と強調している。