名古屋市の2月定例議会が20日開会し、本会議で、河村市長は、市の教育委員会の金品授受の問題に触れ、「『1人の子どもも死なせないマチ ナゴヤ』の実現に向けて心血を注ぐ中、このような疑惑を招いていることは誠に遺憾で、徹底的に真相を究明すべきだ」と述べました。
そのうえで「調査検証チームが実態解明に向けて調査を行っていくことになるが、子どもたちや保護者の中には名古屋市の教育行政に不信感を抱いている人もいると思う。皆様の疑念にこたえられるよう、私もしっかり調査検証に目を光らせる」と述べ、みずからも実態解明に積極的に取り組む姿勢を強調しました。
元校長「推薦リストと金品の両方を渡すのは慣例だった」
名古屋市立の学校に勤務し、教員でつくる団体の代表として教育委員会に人事の推薦名簿や金品を渡したことがあるという元校長が、NHKの取材に応じ「推薦リストと金品の両方を渡すのは慣例だった」と話しました。
そのうえで、元校長は「団体の先輩方から、この時期には名簿と金品を渡すと聞いて、名簿を作る担当や、会費からこれだけ出すという金額も、もともと決まっていて、ルーティンのようだった。団体のトップをするのは1年きりなので、渡したのも1回だけで、それが順繰りに動いている団体だったので、それについて何とも思わなかった」と話しました。
推薦名簿を渡した目的について「『この人を絶対お願いします』とかではなくて、校長先生になる資格のある方の年齢や、教頭経験の年数が書いてあるリストで、該当する人はずらっと記載されていた。名古屋市は、とても大きな組織なので、いろいろな情報は人事をやるうえで知りたいだろうなと思う」と話しました。
また、なぜ金品を渡したかについては「いちばんは激励だ。人事の検討は大変だろうからという陣中見舞い的な意味のほか、今までも渡していたからということで渡した。使いみちも、夜遅くまでの仕事なので、食べ物や深夜の車代に使っているんだろうな、ぐらいに思っていた。『自分の懐に入れてください』などということはもちろん思っていない」と話しました。
そのうえで、人事への影響については「自分の中では全く結び付かない。名簿と金品を渡したから、たくさんの人が昇任してありがとうございました、などと思ったこともないし人数を数えたわけでもない。リストに載っていても校長になっていない人もいる」と述べ、否定しました。
そして、金品の授受が問題になっていることについて「私たちの中では、当たり前のようにやっていたが、ほかから見れば『何をやっているのか』と思われる人もいると思うので見直すことが必要だ」と話しました。
専門家「公務員の倫理規程に抵触」
教育行政に詳しい日本大学文理学部の末冨芳教授は「率直に言って驚いた。任意団体からの推薦リストを教育委員会の担当者が受け取ってしまうこと自体があってはならない」と話しています。
そのうえで「実際に校長人事に影響したかどうかとは別に、推薦リストと一緒に金品が渡っていること自体が地方公務員として禁止されている事項にあたる」と述べ、公務員の倫理規程に抵触する行為だと指摘しました。
また、平成20年に発覚した、大分県の教員採用をめぐる汚職事件に触れたうえで「当時、文部科学省は、名古屋市を含む全国の政令市や都道府県に人事行政の点検を指導している。そのときに、しっかりと見直して、金品の授受はやめると決まっていれば、起きなかったはずの問題だ」と述べ、経緯を徹底的に解明する必要があるとしています。
そして、教育委員会に求められる対応については「率直に説明をし、事態を解明することが、市民や子どもたちからの信頼を取り戻す唯一の道だ。河村市長と、市長によって立ち上げられる調査チームには市民や保護者、子どもたちの不安に向き合えるよう、しっかりとした調査を行っていただきたい」と求めました。
調査チーム 来月中に中間報告とりまとめへ
名古屋市教育委員会がこれまでに行った内部調査によりますと、今年度、市教育委員会は推薦名簿を提出した86の団体のうち60程度の団体から現金や商品券合わせて200万円以上を受け取っていて、このうち、複数の団体からは、現金3万円を2回、受け取っていたことが確認されたとしています。
現金は、教職員課の課長と人事担当の首席管理主事が直接、手渡しで受け取り、パソコン上に「出納簿」を作成して、管理していたということです。
教育委員会は「早朝から夜遅くまで続く人事の検討業務の陣中見舞いとして受け取り、菓子や栄養ドリンクの購入費や内部の飲食費などに使っていた」と説明していて「現時点で人事に影響はなかったと考えている」としています。
また、受け取った現金の中から、教育委員会ナンバー3で局長級の「学校づくり推進監」に「活動費」として現金が支出されていたことも明らかになっています。学校づくり推進監へは現金が手渡しされ、支出された額は今年度だけで40万円を超えるほか、記録が残っている7年前からは、毎年数十万円、多い時で70万円を超える額が支出され、合わせて200万円程度になるということです。
推進監は、教育委員会の聞き取りに対して「懐に入れたわけではなく、その時々の立場としていろいろな会合に出るときに使っていた」と話しているということです。
名古屋市の河村市長は、NHKの取材に対し「みんなが会合などを自粛していたコロナ禍でも活動費を支出していたというのはどうしようもない話だ。今後の調査で何に使ったのか徹底的に調べないといけない」と述べました。
名古屋市は、21日、外部の有識者らによる調査チームの初めての会議を開き、金品の受け渡しや人事の記録の確認のほか、受け取った側の教育委員会や渡した側の教員などに聞き取りを始めることにしています。
調査チームは、来月中に中間報告をとりまとめることを目指し、人事に影響がなかったのかや、金品の授受が始まった経緯、継続されてきた理由などについて詳しく調べることにしています。